圧倒される
その眼に映るものに
木々に囲まれた通りを進んだ先。
フードの女とすれ違って以降、まともな者どころか敵も死体も見当たらない。どこか異様な林道を怪訝に思いながらも歩いていると、遠景に微かながら建造物が垣間見えた。
募った痛みと焦燥感を抑え
凄まじい数の……それもまともそうな人間が遠眼鏡越しに蠢いている。20……いや30か?
(多すぎる……)
異次元ともいえる景色に改めて時代の隔たりを認識させられる。
関所だろうか?
ユニークな形状の門の付近、開かれた扉辺りに大人数の人間が群がっている。
何かしら作業をしている様子であり、数人の人間が金槌に近しい得物を手にしている事から門の建築、または修繕でも行なっているのだろう。
知識不足から正確には判別できないが、働き手、そして少数ではあるが番兵らしき者も確認できる。他にも人がいるようだが……やはりよくわからない。
視界が小刻みにぶれる。
微細な震えが止まらない。
不安定な足場や段差の上にいる訳でもないだろうに、おかしな事だ。
"夢"でしか見た事のないような景色を前に、身体が石化したかの如く動かない。
話し、かけられるのか? これで……
まさか尻込んでいるとでもいうのか? 未曾有の事態とはいえ、いや、しかし───
「もし、そこの方」
「随分と熱心な様子でしたが、人里に何か御用かしら?」
女の声。
外部からの刺激に反応したのか、ようやく身体が自由を取り戻す。
そこからは早かった。
さっと遠眼鏡を仕舞い、反射的に回避まで行おうとする身体を抑える。下手に跳びのいてしまえば会話も続かないものだ。
全身を駆動させんとする衝動を殺し、素知らぬ風体で声のする方を向く。
林道の脇、茂みを隔てた先に声の主はいた。
緑色にも見える、青味がかったドレスの女。
濃い青に彩られた髪、後頭部に二つの輪を浮かべたかのような妙な髪型をしており、不思議と目を惹かれる。
女はどこか貼り付けたようにも見える笑みを浮かべ、こちらの応答を待っているようだった。
「……珍しい光景だから眺めていた」
「なるほど。確かに私も門の修繕をじっくりと目にした覚えなどありませんからね……眺めたい気持ちも理解できます」
女から感じるのは警戒、ただ一色のみ。隠すのが上手いようで他の感情、思惑は一切見えてこない。
意図して繕っているのだろうその笑みは、仮面と表現しても差し支えない。
女の笑みからは、取り繕いが下手くそであった気の抜けた
「人里といったか。興味深いが、今はまだ用はない。足を運ぶつもりもない……闘技場でもあれば話は変わるが」
闘技場。
殺し殺される中、技を磨き武を競い己を高めるための場だ。そういった試練や死合の場で最初の死を遂げるなど、中々得難い経験であろう。見た事のない初見殺しに鉢合わせて完封されるというのもきっと悪くないはずだ。
街への立ち入りへはまだ躊躇があるが、闘技場での死を望めるのであれば踏み越えられないものでもない。
「ふふっ、物騒な方……闘技場ですか。残念ながら、この辺りには無いと思いますよ」
「そうか」
『
返答の直後、間の抜けた低い声が辺りに響く。
気が付けば、無意識に人面「ありがとう」を投げ落としていた。
先程まで気が動転していた事もあり、つい手が動いていた。……何ともまあ、余計な真似をするものだ。
「あらあら、面白い道具ですね……。礼には及びませんわ。お気になさらず」
「……!」
驚愕する
思いもよらぬ女の応答に
人面に、反応があるだと?
驚きのあまり言葉が出ない。
まさか生身の者が人面に応じてくれるとは……
「どうかされましたか?」
「……いや、珍しい反応だと……そう感じただけだ」
……過剰に驚いてばかりいるように思う。
考えてみれば、ジェスチャーなどロスリックの地に至るまで、他世界の不死以外は誰も大した反応を示さなかったではないか。
巡り続けた先、ようやく人面文化に時代が追いついただけのこと。
そう考えれば順当とも言えよう。
だが、今回は特にこれまでと異なる点が多いように感じる。
目の前の女にしてもそうだ。
後髪が輪のように結われた髪型、濃い青に染まった髪色。どちらも実に興味深い。
青い髪、それ自体に驚きはない。他世界の不死を含めれば見かけない事もなかったからだ。しかし、世界の重なりにより直接関わりを持つ事ができ、対話による交流が可能であった者たちの中には今まで1人もいなかった。
面白いものだ。
こうした変化を考えると、全身原色の色彩に富んだ肌を持つ者にも直に会えるかもしれないという期待を抱かざるを得ない。いつか会ってみたいものだ。
改めて、多くの未知がこの先に待ち構えていることを実感する。
間を置いて女はまた口を開く。
いっそ仮面のようにすら感じる笑みをわざとらしく見せつけ、一歩二歩と近づく。
一体何を問おうというのか……
「ところで、どうして里に立ち寄らないのですか?」
単純な質問、疑問はもっともだろう。
もし仮に、人里が此度の旅の拠点とも呼べる場所であるなら愚行にも程がある。
しかし───
「腕に自信があるのでしょうか?けれど、調べもなしに動かれては苦労しますよ?」
「承知している。だが……」
先程の光景……今もなお衝撃が残っている。
言葉にし難く、言い淀む。
「……折角の新天地だ」
……このまま待たせる訳にもいくまい。
仕方なしにもっともらしい理由を立ち上げる。嘘ではないのだから、問題はないはずだ。
実際手探りな旅は不便ではあるが……だからこそか、味わい深く得難いものでもある。未知は新鮮なままに味わいたい。
故に
「あえて情報を得ず探索したい」
「それで人里には行かないと?」
「人里とやらには足を運びたい気持ちはあるが……俺にはまだ早い」
無論、先程見えた人々から聞き回りたい欲求はある。
しかし出入り口付近だけであれだけの人間がいるのだ。杞憂であろうが、聞き取りだけで今後の全てを知りかねないという懸念もある。
情報を得てからでは、知った後では旅路で得られる産物が幾らか味気ない物へと変わってしまう。
未だ己の
「……そうですね。知らないものをあえて知らないままに楽しむ、理解できなくはないです。けれど、後で後悔される事のないように。取り返しが付かなくなってからでは遅い……そうでしょう?」
「後悔か」
「はい」
「……理解していない訳ではない」
「ならよいのですが。では、お気をつけて」
「ああ」
……用が済んだのだろうか。女は立ち去ろうとする。
気遣いを
「……あぁ、それと」
去り際、距離を置いた女は微かな声、変わらぬ笑顔で
「あなたの企みがなんであれ……我が主、太子様の機嫌を損ねるものでなければ私は構いません。それでは」
……疑われていたという訳か。
大方、里への襲撃でも企んでいると見做されたのだろう。
考えてみれば無理もない。
ある程度通じ合えた者同士、至近距離での使用であればともかく、遠距離から遠眼鏡を使っていたのだ。長射程の魔法や投擲、旧式ボウガンによる狙撃など、単体で狙いを定めるには困難を極める類いの攻撃でも目論んでいたと取られても仕方あるまい。
遠間から長時間の視察を行なっている者など、不審が過ぎる。
ならどうするべきか。
決まっている。
「待ってくれ」
まだ対話を続けるべきだ。訂正する必要がある。
対話が可能であるならまだ決定的な決別ではないはずだ。忠告で済まされているうちに最低限誤解は取り除きたい。
「まだ、何か?」
女は立ち止まる。耳を傾け、こちらの言葉を待ってくれている。聞く耳を持ってくれるとは……ありがたいものだ。
「……人里とやらを狙っていた訳ではない。まともな者と敵対するつもりはない」
では何故?
女はそう言いたげに目を細める。それ相応の言い訳を求めているのだろう。
であれば
「……俺は
己の素性を明かすべきだろう。
言葉を飾る必要はない。
「まあ!そうだったのですか」
「だからこそ、人里への出入りは遠慮したい」
「理由を聞いても?」
あらあらと、別段驚きもないといった様子で相槌がうたれた。
続きを促す女の表情、薄らとした笑みは幾らか柔らかなものへと変わっていく。
「……立ち入りたい気持ちはあった。だが、不死の身で真っ当な人間の集団と接するのは危険が伴うのではないかという懸念もあった。問題がなかったとしても手間だろうと考え、尻込みしたのもある。遠眼鏡で眺め続けていたのはこうした迷いがあったからだ」
思案していただけだなどと言い逃れはしない。
出し惜しみすべき場面ではないだろう。
「悪意はなかったが、無礼な振る舞いであったことに変わりはない。不埒な輩と断じられるのも当然の行動だ。非礼を詫びよう」
正体と思惑を明らかにし、謝罪する。
悪い意味でも反応されかねないため、これまでとは違い無駄な人面やジェスチャーは抑えたが、通じるだろうか。
通じると信じたい。
「そうでしたか……いえ、お気になさらず。他意がないのでしたらこれ以上とやかく言う事はないです。奇異な行動はともかく、礼儀のなっていない者ならこの辺りでもよく見かけますし」
「そうか……」
どうやら誤解は解けたようだ。失笑混じりではあったが赦しを得られた。
どことなく女の
嬉しく思う反面、無礼者が多いと聞き、若干の憂いを覚える。
ごく最近まで度々足を運んでいた
「しかし本当に……」
どこか楽しげな失笑をやめた女は目を合わせ近寄り、ぐいと顔を近づける。女が注目しているものは己の目だろうか。目玉など、観入る物でもないだろうに。
僅かな思案の後、距離を空け一礼しだした。
何の真似だというのか。
「失礼。私の知る不死の方々とは
「気にする事はない。此方が悪かったのだから」
「ふふっ、そう言っていただけるとありがたいです」
女は頬を緩ませ、柔らかなスカートを揺れ動かしながら、軽くステップを踏むようにして距離を置く。
鮮やかとも称せるだろう布地の舞い方に、感嘆の声が漏れかかる。ドラングレイグやロスリックのドレスでもこうはなるまい。陰ながら時代と共に変異し続けてきた布揺れ。いつかの板状のマントを筆頭に論外と言う他ないロードランから始まり、遂にここまで来たとは……感慨深い。後で持ち込んだ衣類も同様に
しかし納得がいったようで良かった。
喜色を声にのせ応じる女の姿に、少し、胸がすくような感触を覚える。
傍ら、ほんの少し違和感を覚える。
口から出た言葉は事実だ。問いへの答えとしては差し支えない。
だが本音とは異なるのだろうか。何か納得がいかない。こういった物事を考える力がソウルで練り上げられた理力で養えたなら良かったのだが……
「どうやら、私の思い違いだったようですね。ですが里へ寄る際は注意した方がいいですよ。そのままでは門番どころか退治屋まで出張りかねませんからね」
「そうか……だが何故だ」
「何故、ですか」
「残念ながら、何が不味いのか己では判別できない。教えてくれると助かるのだが」
「……正直に言わせてもらっても?」
「……構わない」
笑みを抑え、どうしたものかと首を
やはり不審が過ぎたか?怪しげな者は通行禁止といったしきたりでもあるのだろうか。
思い当たる節が多すぎる。これは自身で思い悩むより、何が不味かったのか問う方が懸命だろう。
安直な発想を浮かべる中、一歩、後ろへと足を送りながら女は呟いた。
「臭い」
「……」
「普通の人間の臭いじゃないんですよ。あなたのそれは」
一歩、また一歩と遠のいてゆく。
先程と変わらぬ微笑みを浮かべ、女は後ずさる。
「あなた……どれだけ殺したんですか?」
不安定な足場や段差
ゲーム「ダークソウル」では足場によって、または立ち位置によって意図せずガクブル震え出す現象が発生する。
きっと次元の基礎となる
シリーズ通して消えかけた最初の火によって次元の歪みが出ているため、その影響と考える事も可能かもしれない。
守銭奴
聖女を自称する色々と雑な中年の女。
出会う事になるドラングレイグでは主要な奇跡の売り手であり、幾つかの奇跡を売ってくれる。
しかし割高。
話していると勝手にボロを出してあたふたしたり、相手が目を閉じていないと成り立たない雑な手品の真似事を奇跡と称して押し売るなど、呆れの域を通り越して見ていて微笑ましい。
ただ、聖女を騙るだけあって信仰高い者には好感を示す事もあるようだ。信仰心自体は本物なのだろう。
隠し事が下手、宗教家としても少々知識不足であり素だと口も悪いが、本気を出すと非常に強く、ドラングレイグのまともな者の中ではトップクラスの実力を持つ。
きっと故郷では有名人
いつかの貴婦人
ドラングレイグ王城で巡礼者を待ち受ける巨大な婦人。
ドラングレイグの王ヴァンクラッドの王妃であり、"玉座"への異様な執着を見せる。
駒として巡礼者に指図し何やら企んでいた。
アン・ディールの創造したゴーレムの一種であるとある竜を偽りの神と呼ぶなど興味深い一面も見せるが、言葉数が少なすぎるためか不明な点は多い。
本性の他は力を求めた事、ドラングレイグの荒廃の元凶である事、性格が悪い事しかわからない。
野望のため利用した巨人を貶したりする辺り、おそらく口も悪い。
闘技場
比較的お行儀の良い死狂いの戦士たちが武を競い、己と階級を高め名誉を得るために挑む場所。報酬のために挑む場合もある。
制限された時間内、場や形式によって若干異なるルールに則った戦いであれば、どのような武器、戦法であろうと問題ないため、時折地獄と化す。
場所・時代によっては異なるが、1対1でどちらかが死ぬまで殺し合う形式、同じくタイマンでどちらがより相手を殺せるかを競う不死人の特性を活かした形式など、幾つか形式があり、チーム戦や乱戦といった複数人で行う形式の物も用意されている。
複数戦形式はそれぞれ識別が付きやすいよう別種の霊体化を施される場合があり、戦場が無駄にカラフルになりやすい。
一部戦法が用いられた場合を除けば戦いの場としては悪くはないのだが、サインを仲介したホスト・闇霊間の合意決闘や道場と比べ手頃でないためか過疎が目立ちやすい。
最低限の礼節は守るべきであろう。
お互いの名誉のために
人面ありがとう
奇妙な人面の彫られた古木。
使用すれば「
原色マン
おそらくネジの外れた不死人の一種。
濃いブルーベリー色の怪人や明るく映えるオレンジ色の妙な人参の化け物などがいる。
大体半裸の変質者が多い。
幻肢の指輪
闇霊の派閥の1つ、ロザリアの指に与えられる指輪。
遠く離れた者から、装備者の姿を隠す。
他種の指輪と併用すれば、その隠密性は非常に厄介なものとなる。
単純な奇襲や逃亡時に役立つ。
プライドを持たず、
最も狙撃手対策にもなる都合上、同業同士であれば大して驚異とはならない。
悪質な力と忌み疎む者も多いが、遥か昔、ロードランに在った
理力
魔術や呪術といったスペルを使用するために必要な能力値。
魔術の威力も高める他、呪術や闇術、一部の武具や魔法防御にも影響する。
物事を理解する力を養う効果はない
灰と澱みの溜まり場
様々な戦士が入り混じる戦いを好んだ亡者たちが吹き溜まる戦場
世界の主と戦い殺すためにやってくる闇霊
己を試すため世界の主の助け船として戦場に居座り続ける白霊
薪の王である神喰らいと呼ばれた腐肉の汚塊を守護する守り手
それらを狩り殺す悦に魅入られ、使命も果たさず延々と留まり、有利な状況での遊戯を求める狩人気取りとその猟犬
時折現れ、清涼な風のように過ぎ去っていく
今もなお彼らは囚われ続けている
板状のマント
ロードランでの旅路の最中、銀騎士と呼ばれた者たちの鎧を拝借し、装備した不死人の背中に貼り付いた板
本来の持ち主の背では優雅に揺れはためくのだが…何故だろうか、海藻の乾物にも似たそれは、新たな主の背ではろくに動かない
しかし、時代の流れか、火の変質が生んだ差異か、ロスリックの時代において遂に華麗に翻るマントへと生まれ変わったという
当時、銀騎士に魅入られただろう者たちは救われたのだ
代償に
旧式のボウガン
ロードラン時代のボウガン
弓とは異なり狙撃に適した構えができないため、狙い撃つ能力に劣る
単体で精密射撃ができない理由は不明
弓とボウガン、または撃ち出す矢とボルトの作りの違い故か、ソウルが何かしら影響を及ぼしているのか、神がボウガンを愛さなかったとでもいうのだろうか…おそらくは、ずっと昔、また別の世界で下った罰なのだろう
一部のボウガンは近〜中距離において有用ではあったが、射撃兵装にも関わらず遠距離を不得手とする意味不明な武器であったのは事実であり、時折
だが遠眼鏡と併用することで擬似的な狙撃が可能…欠点を克服できるのだ
ボウガン最高の長射程を誇る素晴らしきスナイパークロス、そして全てを見通す遠眼鏡が合わされば──弓など恐るるに足らず
そう信じた者もきっと、いつか何処かにいただろう
スナイパークロスに