祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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1話 悪夢の始まり

忘れもしない、30歳を迎えたアノ日。知らない間に自分は別の世界へ移動していた……主観で言えば異世界転移だろうか。

住んでる場所、物、通帳の中身さえそのままだったが人が、人間関係だけが全然違っていた。

職場へ行けば見知った人が誰もいない。明らかに顔が違うし性別さえ違う人達が知り合いと同じ名前で親しそうに俺に話しかけてくる。

大いに混乱した俺は情けなくもその場でぶっ倒れ病院へ運ばれた。

 

病院で過労と診断され自宅療養を言い渡された後、知り合いに片っ端から電話をかけた所でここが自分が居た世界じゃないと思い始めた。

『家族に電話が繋がらない』

実家にも、親や姉妹が持っている携帯にも、親戚の誰にも電話が繋がらない。

直ぐに電車に飛び乗り実家へ向かうとソコには家があった。だが全く知らない家族が住んでいた。

確かめずには居られず、インターホンを押し尋ねてみる。

 

「ここは中真さんのお宅ですか?」

「いえ、家は〇〇ですが」

「そうですか……ありがとうございます」

 

たったこれだけのやり取りの後、俺は全身から汗が噴出した。

誰も。見知った人間が誰も居ない。

かなり辛かった。頼れる人も、いざと言う時に迎えてくれる場所が無いというのはかなり堪える。

どうにか自分のマンションまで戻りへたり込む。

それから暫くは散々な生活だった。

 

現実から逃げるために酒を飲み、人肌が恋しくなれば風俗へ通い。一時は薬にも手を出した。

ここが異世界だと確信したのはカレンダーを見た時。自宅に掛けられたカレンダーの年号が『2005年』

10年以上タイムスリップしたのだと知って再度気を失った。

そして感じた違和感、『10月なのに茹だる様な熱さ』

調べてみれば簡単だった……この世界が『エヴァンゲリオン』の世界だと……。

それが解ってからはかなりヤケを起こして更に酒を飲むようになった。

 

そんな生活を何年か続けて、どうにか精神が安定した頃に恋人が出来、子供も出来た。

今思えば家族に飢えていたのかもしれない。直ぐに彼女と結婚をしてそれまで浴びるように飲んでいた酒や風俗遊びも止めた。

幸いな事に仕事自体は前の世界と同じだったので問題なくこなせた。ただ、俺の人の変わりように職場の人には大分心配をかけてしまった。

10年も生活をしてればこの世界にも慣れ、後は子供の成長を楽しみながら仕事をこなして、偶には旅行を……そんな考えが過ぎり始めた頃。

 

原作が開始された。

 

使途の襲来、大停電、そんな当の昔に忘れた事象が40を過ぎた俺に襲い掛かってくる。原作の再現……という事は必ず終わりが存在する。

ここがどの世界なのか。アレでなければ、アレでさえなければ良い。そんな事を思いながら日々を過ごしていたが……とうとう終わりが来た。

 

その日は娘の誕生日だった。4歳になった娘がケーキのロウソクを吹き消して、嫁と一緒に拍手をして……電気を付けてケーキを食べようとしたその時。

嫁が『弾けた』

赤い水がその場に零れ落ち、光の柱が目の前に出た。理解した瞬間、娘に駆け寄り抱きしめた。

娘は何が起きたのか分からない様で光の柱を見てはしゃいでいた。

 

怖くて目を瞑り、腕にある小さな温もりに縋り、祈った事も無い神に祈り、臆面も無く涙を流しながらどうかその時よ来ないで下さいと思っていたが、その温もりは呆気なく弾けた。

 

『ぱしゃん』

 

その音は聞いたことの無いギロチンの音の様に感じた。

 

目を開けば光の中に居た。腕に抱いた娘は消え、赤く塗れた自分の両手が、自分を照らす光の柱がコレが現実だと俺に告げてくる。

 

 

 

どれ位の間そうしていたのか覚えてないが、涙も声も出しつくした。

ふらふらと立ち上がり蛇口を捻るが水が出ない。冷蔵庫を開けて温くなったミネラルウォーターを流し込む。

 

暫く寝て、起きて、水を口にして、又寝る。

そんな事を繰り返して居た。

 

このまま死んでしまおうかと思ったが、妻と娘が居た部屋では……自分の生活圏では死にたくないと思い自宅を出る。

何も動いてない街が目の前に広がっていた。

所々で火事が起きているが何も、サイレンの一つも聞こえやしない。

どうでもいいやと道路に出て適当な車に乗り込む。

 

海。海に行きたい。

 

その思いから車を走らせ、2時間程で海に着いた。

赤い海が血を思わせる。まるで地獄だなと呟きながら海へ向かってアクセルを踏む。

少しの浮遊感の後に着水の衝撃、そして隙間から入ってくる赤い水。体の力を抜いて自分の体が水に沈むのを待つ。

首にまで水が到達する頃になって又涙が出た。

『さようなら』と呟いて目を閉じた。

 

水をそのまま受け入れる。呼吸をするように。

嗚咽感と拒否感が駆け上がってくるが知った事か。

硬く目を閉じて息を吐き、水を受け入れる。

苦しみを受け入れ意識が飛ぶ間際、誰かから何かを言われたような気がしたがソレが何かを自覚する前に意識が落ちた。

 

 

 

次に目が覚めたのは青空の下だった。

目の前には四本指の大きな手があり、淡い光を放っていた。手の平から溢れる光が俺の中に入ってくる。

頭がくらくらしながらもどうにか立ち上がり相手を見ると人ではなかった。2メートルを優に超える身体に尻尾が生え、白いローブを着た亜人。

唖然とする俺を見ながらニコリと笑って「気をつけて」と一言喋るとそのまま歩いていった。

呆然としながら辺りを見回すと石造りの家が並び、跳ね橋が遠くに見える……フラフラと川の近くまで来た所で猛烈な吐き気に襲われて蹲り、胃の中身を全て吐き出した。

訳が分からないまま、流れ出る脂汗をそのままに石造りの川縁に背中を預けて空を見上げる。

死んだと思ったら別の場所に居た。似たような経験を10年以上前に経験したのを思い出しココが別の世界という仮説を立てた所で襲ってきたのは『死ねなかった』という後悔。

情けなく膝を抱えて頭を伏せて涙した。

手に入れた幸せが失われ、また身寄りの無い場所へと放り込まれた。年を取り、普通に動くだけで疲労が堪り易くなった今の状態でまた裸一貫というのはかなり辛い。

そしてなにより心が生きる事に疲れてしまった。

 

もう何もしたくない。このまま何もせずに……いや、それだと迷惑が掛かる。どこか別の所で……。

 

どれ位そうしていたのか……高かった日が下りてきて陰が長くなり始めた頃、話しかけてくる奴が居た。

緩慢な動きで顔を上げると、自分を心配していたのは昼間に会った亜人だった。

 

そこからは明確に覚えてないが自暴自棄になっていた私は多分相手に酷い事を言ったと思う。だが彼はそんな自分を無理矢理立たせて食事に連れ出した。

強引に席に座らせられ無理矢理酒を飲まされた。味は……旨いとも不味いとも思わなかった。

だが何も考えたくないという思いで目の前の酒を飲み続けた。

 

翌日、酷い頭痛で目が覚めた。

痛む頭を抱えながら水を貰おうと思いメニューを見たが水は有料、ここで初めて自分が金を持って無い事に気がついた。

顔を青くしながら金を持って無い事を伝えて無銭飲食をしてしまった事に謝っていると、宿の女将さんは笑いながらアンタのツレが払っていったと水と一緒に朝食を出してくれた。

朝食を食べ、腹が膨れた事で少し冷静になれた所で女将さんに昨日自分を連れて来た亜人について聞いてみた。

どうやら彼の種族はガルガと言うらしい。大きな体に尻尾。四本の指で力が強くタフガイが多い。

この場所から南に下った所に居を構えているらしいので早速会いに行くが似たような人ばかりで正直見分けがつかない。

 

仕方が無いのでガルガの人に片っ端から声を掛けていく。半日ほどそうしていると彼の方から声を掛けてきた。

昨日会った時とは装いがガラリと変わり拳闘士の様な格好で何というかかなり似合っていた。

呆気に取られながらも昨日と今朝の礼を言い頭を下げると今度は向こうがポカンとしていた。

自分が頭を下げた事がどうやらとても珍しいのだとか。何が珍しいか分からないが兎も角お礼を伝えてからその場を去ろうとしたが、呼び止められて今後のアテがあるのか聞かれ思わず沈黙してしまう。

そこから彼との付き合いが始まった。言われたのは「ならば一緒に冒険者をやろう」という一言。

仕事も無い、身寄りも無い。無い無い尽くしの自分。今思い返せばある種の自暴自棄だったのだと思う。

二つ返事でOKをしてその足で冒険者登録。流れる様に彼とPTを組んで色々な場所へ行った。

 

彼の……正確には彼の種族の故郷があった砂漠。

耳が長くスラリとした奴等が多いエルヴァーンと呼ばれる種族の国。

かと思えば小さい、本当に小さい子供にしか見えないタルタルが治める国。

猫の様な見た目で身軽なミスラと呼ばれる女性しかいない種族が居たり。

敵対している種族も様々でアンティカ、ゴブリン、クゥダフ、コースにソウルフレア、他にもデュラハン等々……本当に色んな所へ行った。

 

一日中歩き詰めで疲れながら大陸を横断したり、かと思えば彼が行き成り魔法を唱えて別の場所に飛ばされたり。

疲れる事だらけだったがその分、嫌な事を思い出す暇も無かった。

冒険だけじゃない、他にも薬の作り方を教わったり大工や鍛冶等、本当に色々な事をやらされて過去を振り返る暇すら無かった。

それでも夜になると昔の夢を見る事はあった。そういう時は決まって目が覚ると自分が泣いている事に気が付いてほっとした。自分はまだ家族の為に泣けるのだと。

 

この世界に来て随分年が経った。最初こそレベルという概念を教えられた時は卒倒しそうになったがそういうモノと割り切って過ごし、もう50は超えた所でやっと一人前と言われ始めた。

他の若い冒険者と比べると随分時間がかかったがそれでも何とかなったのは彼が共に冒険してくれたからだろう。その日改めて彼に礼を言った。

だが何時でも別れというのはやってくる。翌日彼は一枚の手紙を残して旅立っていった。

手紙には彼の寿命がつきかけている事、そして転生の時期が来た事。今まで黙っていた事を許して欲しい事……何とも短いがそれだけ書かれていた。

唐突な別れに呆然としたが余り気落ちはしなかった。一人になって改めて過去を思う。

もうあれから10年が経った。自分の手の平を見る。しわがれて武器を持ち続けた為にマメだらけ。もし又あの様な事があったとしたら……自分は何が出来るんだろう。

ソコからは何かに取り付かれた様に自分を鍛えていった。

年を取り、ヴァナディールと呼ばれるこの世界でもヒューマンNo2の長寿と言われる様になっても延々とモンスターを狩り、レベルを上げ、珍しい装備を収集し、何時しかお長寿冒険者とか運び屋冒険者と呼ばれ始めた。

何処へ出かけてもひょっこり帰ってくる事から妙な渾名を付けられたりもしたが、それでも自分を鍛える事をやめなかった。

 

どれだけの時が流れたか、彼と別れてどれ位経ったか。年月の感覚も大分薄れても過去の悔しさだけは何故か消えない。

追いかけてくる後悔を振り切るかの様に鍛えて鍛えて……これ以上は無いかもしれないと思い始めた頃にソレは来た。

 

3度目の世界転移。

 

 

 

次に目が覚めたのは病院だった。

医者曰く、街中で泡吹いて倒れていた所を見つかってこの病院へ運ばれたらしい。その説明をTVのニュース並みにぼけっと聞きながら自分の体を見回す。

若返ってる。

年の頃は20代か30代……さっきまで感じていた身体の重さを全く感じない。

医者の説明を聞き終わって疲れたと一言呟いて眠りにつく。

 

夢を見た。

元の……初めの世界の夢を見た。親と姉妹が居て・・・・・・TVを見ていた。

夢を見た。

世界を移動した後に出来た家族との夢を見た。娘が生まれた産声を聞いた。

夢を見た。

彼と駆け抜けた様々な土地を巡る夢を見た。死ぬような目にも何度もあった。

夢を見た。

生まれた娘が成長した姿の夢を見た。そんな未来は来なかったのに。

 

目が覚めて自分が泣いている事に気が付いてほっとした。自分はまだ家族の為に泣けるのだと。

 

暫く病院で過ごした後、自分の所持品から年は24歳という事に気がついた。前の年齢から考えると実に80歳も若返っている。

死んだと思ったら生きていて、挙句若返りという現象まで併発しているこの異常。呪いだろうか。ディスペルで消せるんだろうか……時間が空いたら試してみるのも良いかもしれない。

眩暈を覚えながら持っていた免許の住所を頼りに自宅へ戻る。どうやらこの世界の俺は学校の先生をしているらしい……美術の先生?

今までの仕事と勝手が違う……というか違い過ぎる。何十年ぶりとなるPCの操作に悪戦苦闘しながらも知識だけを詰め込んでこの世界の職場へ向かうとしよう……えぇっと、学校の名前は……。

穂群原(ほむらばら)学園? 何か引っ掛かるが……取り合えずは出勤だ。

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