視界が明滅する。思いっきり吹き飛んで背中から寺の壁へぶつかったからか呼吸もしづらい。
背中、それに顔……というか鼻が痛い。クラクラする頭を落ち着けながら鼻へ手をやるとヌルリとした触感と手に広がる熱い感覚。
目の前に手を広げてみれば真っ赤に染まっていた。鼻血が出るのを無視してどうにか立ち上がるとアーサー王は俺を吹き飛ばした場所から動かず俺を睨みつけていた。
抜けきれないダメージに『ケアル』を掛ける事で傷を塞ぐが軽い脳震盪までは治しきれない。時間が必要だ……。
纏まらない頭で口を動かす。大丈夫、闇の王とやった時と同じだ。いけるいける。
「あんた……さっき何て言った? 頭を打ったからかきちんと聞きそびれた」
「その剣を何処から盗んだのか答えてもらう」
「……何でいきなり俺が盗んだって決めつけてるんだ? この剣の正式な持ち主って考えは無いわけ?」
「ありえんな。聖剣は当代の持ち主が死ねば返還されるのが常だ、盗まれない限りな」
「つまり俺がコイツを盗んだ奴から経緯はどうあれ受け継いだから俺自身も盗人だと?」
「そういう事だ」
「盗人から買う=盗人か……一応分からなくもないけど極端な思考だな」
頭をかきながら右手に持ったエクスカリバーを見る。この剣を手に取り、今の状態まで鍛えなおすのにどれだけの時間を使ったんだろうか。
見つけたのは多分50代の頃でこの形になったのは70歳になる前、実に20年近くの年月をかけてエクスカリバーは今の姿を取り戻し、それからは俺の冒険を支えてくれた愛剣。
それを盗人の一言で済ませられるのはちょっと違うんじゃないか?
「王様よ、あんたの言い分も一部は理解出来る。でもコイツは盗んだ物でもましてや買い取った物じゃない」
「ほう? では譲られたとでも言うのか?」
「いや、コイツは元々朽ちかけていた。それを偶然手にして長い年月をかけて鍛えなおした。その結果としてコイツが俺の手元にあるんだ」
「……ありえんな」
「何故?」
「鍛えなおしたと言ったな。まるで自分がなおしたと言わんばかりに。」
「そうだ」
「では聞くが長い年月とは具体的に何年かけて直したか答えてみせろ」
「約20年だ」
「語るに落ちるな……、貴様は20年と答えたが貴様の年齢は幾つだ。日本人の顔は分かりづらいが……それでも貴様は精々30代、そんな男が20年も剣を鍛えなおした? 馬鹿を言うな」
まさかここで肉体年齢が足枷になるとか……マジか。確かに理屈はそうだけど……えぇ……どう言ったら良いんだ?
「あー、確かに俺は年齢としちゃソレ位だが別にウソはついてないぞ? コイツは間違いなく俺が時間をかけて鍛えなおした剣だ」
「そうか……」
その一言を呟くと同時にアーサー王が剣を両手で持った。それだけで俺も前傾姿勢で盾を構える。
次の瞬間イージスから衝撃が伝わってくる。やばい、コイツの踏み込みが殆ど見えん。ランサーの時はどう動くかが流れで見えてたがこいつ……瞬間速度が馬鹿速過ぎだ、目じゃ追うのが難しい。
しかもコッチはぎりぎりって感じなのに相手は余裕綽々な顔。絶対全力には程遠い。
エクスカリバーも添えて両手で如何にか拮抗させる。そうすると突風と共にアーサー王の見えない剣が剣先から徐々に表れ金色の輝く剣がその刀身を現す。
その美しさに鍔迫り合いの最中というのに目を奪われてしまう。
「貴様の話と年齢が噛み合わない、だが本当の事を話しているのだろう。直観が真実だと告げている。
私の知る彼らの剣と貴様の剣は形が違うし、私の理性的な部分が『そういう事もあるだろう』と貴様がその剣を受け継いだとう可能性を告げてる。
だが……納得がいかない! ソレは私の配下が得た何れかの剣! それを他人が振るう事は納得が出来ない!」
……ただの八つ当たりじゃねぇか!
「えぇ……八つ当たりで俺は斬られようとしてるのか?」
「うるさい!」
剣から伝わる圧が増し押し切られてしまうが、今度は分かっていたのでたたらを踏むだけに留まった。
理由は兎も角、戦闘能力は間違いなく向こうの方が上。下手に気を緩めれば間違いなく斬られる。
浅く呼吸をして集中力を高める。相手の全体を俯瞰で見るように。
アーサー王が右足に体重を乗せたのが見えたと思えば直ぐに体がブレて消え、右から風斬り音。弾かれるようにエクスカリバーで迎え撃つ。
彼女の放つ斬撃を受けきる事が出来ない事は自明の理なので右足を軸に受けた剣を受け流し地面へと抑え込んでイージスで殴る。が、相手の離脱の方が早い。
所謂ヒット&アウェイ戦法で移動の加速度がとても速いタイプ。さらにどういう理屈かは分からないが力の底上げが出来ると……。しかも正面からの攻撃も出来ると来たもんだ。
しかも相手は前傾姿勢というかとても低い位置からの攻撃を多用するので対格差もあってとてもやりにくい。自分が今まで相手にしてきた相手は総じて自分より体が大きい事が多く、下からの攻撃は捌くのに苦労する。
片手剣のエクスカリバーを両手で持ち、少し下がりながら捌き、時には反撃し、間に合わない場合はイージスで受ける。イージスの性能に助けられて動かせなくなる程ではないが徐々に腕が痺れて来た。
キャスターとアサシンに任せてる虫も気になるし早くどうにかしたいがコイツを倒すイメージが全く湧かない。
息を切らせながら剣の応酬を続けるがついにアーサー王の剣を止める事が出来ずに振り下ろした剣を跳ね上げられる。少しでも勢いを弱めようと後ろに向けて自ら飛ぼうとするが俺の思考をあざ笑うかのように相手の剣が俺の胴体を薙いだ。
幸い鎧を貫くような事は無かったが俺は7m程宙を舞い受け身も取る事が出来ないまま地面へと叩きつけられた。顔を上げれば聖剣を上段に構えたアーサー王。
息の吸えない体に鞭を打ち剣と盾でソレを防ぐが止まらない。止められない。
次の瞬間、まるで巨大なハンマーを叩きつけられたような衝撃を全身で感じると自分も含めて辺り一面が地面へめり込んでいた。
溢れる鼻血や血液交じりで口から出てくる泡を一切気にも留めず目の前のアーサー王へ【ホーリー】を放つ。あっさりと避けられるが距離を取ることが出来たので咳き込みながら剣を支えにして起き上がる。
やっと息が出来る。体中が痛い。ベヒーモスのストンプ攻撃を食らった時を思い出す。
あの時も今と同じように息が出来ずに藻掻いたのを覚えている。
【ケアル】でせめて傷を消そうとするがアーサー王はそんな隙を与えてなる物かと言わんばかりに畳みかけてくる。全快時でさえやっとの思いで捌いていた剣劇がダメージを負った体で捌き切れるはずもなく、着実に俺の躰に衝撃を加えてくる。
「どうした、目に見えて剣速が落ちているぞ」
「っぐぅ……っ!」
ここにきてアーサー王の速度と力が増してくる。これからが本番だと言わんばかりに目の前から一瞬で消え背中を斬られる。
「っっっ~~~~!!!!!!!! あぁっ!!!!」
口から血反吐をまき散らしながらどうにか反撃を試みるが掠りすらしない。絶対的に速度に差がある。
回復する暇も無く、反撃の剣は届かず、防御の盾は間に合わず。今倒れてないのは装備の性能に助けられどうにか立てているだけ。
それもアーサー王からの攻撃が途切れれば膝をついてしまう程に消耗している。どうあっても埋められない速度と力の差。
こんなのにどうやったら追い付けるんだよ……。致命傷になる様な攻撃だけは防げていたが剣の攻撃直後にアーサー王の左手が俺の顔面を捉えた。
剣による顔面への集中攻撃で視線がどうしても相手の剣へ集中した所での左ストレート。イージスで受けようとしたが相手の方が早くきれいに鼻っ柱を叩き潰された。
「痛っ~~~~~っ!!!!」
涙目になりながら口で荒く息をする。戦闘による激しい運動量に合わせて体は酸素を欲するが大量の鼻血で鼻は塞がれ、流れる血が口での呼吸を邪魔をする。
それでもアーサー王の攻撃は止まず、尚も剣速は上がり視界の端にぎりぎり姿が見える程度になってしまい攻撃を防ぐ処ではなくなってしまった。
縦横無尽に立ち位置が変わりながら攻撃を仕掛けてくるアーサー王はチーターさながらで俺はまるで案山子にでもなった気分だ。
どれほど攻撃を加えられたのか、半ば飛びかけの意識で視線を彷徨わせれば切り伏せられたライダーの姿が見えた。その更に奥でもぞもぞと動く虫の塊。
虫の一部が崩れ落ちるとその中から間桐桜の顔が見えた様だが一瞬でまた虫に覆われた。
虫に気を奪われた瞬間、アーサー王の剣で腹を攻撃されぎりぎり保っていた所への一撃に喉からせりあがってくるものを留める事は出来なかった。喉が焼けるような暑さと鉄の匂い。
血とゲロを地面にぶちまけながらついに膝をついてしまった。四肢は震え地面の冷たさを感じながら再度虫の居た方を見ると塊は徐々にキャスターとアサシンが抑えているデカブツの方へ向かっている。
アレが間桐桜なら彼女は何処へ居た? キャスターなら患者を安全な場所、信頼できる者へ任せるんじゃないか?
それは誰だ? そんなの決まってる。
「キャスターーーー!!!! 葛木の所へ行けーーーーーーー!!!!」
突然の俺の大声にキャスターは弾かれたようにムカデとの交戦を止めて葛木の元へ文字通り飛んでいく。アーサー王の剣が向かってくる。
今、ここでやるしかない。
「【インビンシブル】」
ヴァナディールにおいて物理攻撃に絶対の防御力を誇るナイトを代表するスキル『インビンシブル』1時間というリキャストを除けばデメリットが無い短時間の無敵効果。
肩口に叩きつけられたアーサー王の剣をまるで無いようにふらつく体を起こし、剣を杖にして立ち上がる。アーサー王は怪訝な顔で尚も剣を振るうが『インビンシブル』が発動している間は物理攻撃は俺へ届かない。
立ち上がり頭の中で自分の中に居る住人へ呼びかけながら『ケアル』を詠唱する。MPの大半を使って怪我を回復させる頃には無敵時間の終わりも近づいてきた。
血を流し過ぎた事でふらつく頭を大きく息をする事で気合を入れ、アーサー王を無視してライダーの元へ走る。アーチャーが矢を撃ち出してくるくるがソレも無視してライダーの元へ駆ける。
『マイバック』からルシドエリクサーIIを取り出しライダーへ飲ませる。背中を斬り付けられるが回復しきるまでは『インビシブル』は効果を発揮するだろう。
だがこのままじゃ結局、さっきの闘いを焼き増しするだけに終わる。打開策が必要だ。
身構えると同時に金属の様な硬質な音が足元に響いた。きっとあの二人が協力してくれるのだろう。
なら戦える。痛みもあるだろう。やった事が無い戦法だから失敗もするだろう。
でも見本なら嫌って程見た。今度はこっちの番だ。
「【ディフェンダー】」
基本自分の小説情報を週一位しかみない作者ですが、観覧数が一気に伸び感想も多く(当社比)で戸惑ってしまいましたが多数の人に本作品を見てもらう事が出来、感想も頂けて大変励みになりました。
現在仕事が忙しい時期だったり体調のせいで更新速度は相変わらずですがお付き合いいただければと思います。
合わせてお願いが1点、ジャンルを問わず面白い作品等があれば紹介いただければ本作品の糧にしたいと思うのでよろしくお願いします。