祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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13話 捕食

二度目の硬質な音が響いた時、アーチャーとセイバーの前から男の姿が消えた。

周囲から次々と金属同士を叩いた様な音が響き渡る。どういう原理か分からないが男が凄まじい速度で二人の周りを飛び回っている。

アーチャーはソレを冷静に見て矢を射かけるが当たらない。当たる直前で前回対峙した時と同様に壁の様なもので止められてしまった。

ならばと目の前で矢を爆破させるもソレも先ほどと同じで壁が邪魔をする。

 

「セイバー、先に行け。我々の目的はこいつと戦う事ではない」

「……了解です」

 

アーチャーは不機嫌を隠すことなく舌打ちをしながらセイバーと二手に分かれ再度弓を構え直した所へあの男が上から剣を構えて降ってきた。直ぐ様武器を弓から夫婦剣「干将・莫耶」へと切り替え剣を防ごうとするが一撃で両方が砕かれる。

砕かれる寸前にバックステップ、合わせて投影し直して夫婦剣を構えるが男は一撃後に即離脱。その際に男の足元にあの壁が見えた。

そして理解した。あの男は自分の足元に壁を生成、壁に乗る形で射出してあの速度と急激な方向転換を得ている……つまりあの男なりのセイバーの戦術の模倣というわけだ。

対峙するとやはり分かる。あの戦法はシンプルが故にやりづらい。

アレ以上の速度を持って追従、または追撃が出来るなら良いがあの男の場合はセイバーの魔力放出と違って恐らく魔力での壁の生成が主軸。しかも前の戦闘で2枚は同時生成出来る事が分かっているのだから恐らくそれ以上も可能と考えるべきだろう。

つまり移動中に攻撃された所で防御も出来るし、そのまま壁を此方へ射出して攻撃も可能。言葉にすると何と厄介な事か。

思考しながら次々と矢を放ち続けるアーチャー。矢が放たれる度に男の居る場所で爆発が起こるが男の移動は止まらない。爆破の寸前で壁の生成が見て取れる。

今までの行動から考えれば壁の生成は男の周り限定、この場を離脱して超長距離からの狙撃が有用だとは思うがセイバーを追わせない為にはここを動くわけにもいかない。

 

「歯がゆいな」

 

二度目の男の接近。それを察知したアーチャーは下がりながら矢を放つ。すると今度は爆破を盾で防いだ。

 

(壁では無く――――――っ!!!!)

 

違和感を持った次の瞬間、衝撃が身を襲う。気が付いた時には男の剣がアーチャーの腹を貫いていた。

男は常に手元に壁を生成していたので体から離れた場所へは生成出来ないと決めつけてしまった。そこを突かれた。

下がるアーチャーの後ろに壁を生成、射出。結果としてアーチャーは弾かれるように男へ向けて進み男の剣がアーチャーの腹を貫いた。

 

「なんだ、私以上にボロボロじゃないか」

 

血反吐を吐きながら男へ皮肉を言う。霊核こそ砕かれなかったが腹への一撃は現界を保つ事が厳しい状態へアーチャーを追いやった――――――が、男の方はもっとボロボロだった。

武具は健在だが両足と左手からは血が流れ、顔も一部火傷を負っている。剣を持つ手の震えが腹を貫いた剣から伝わってくる。

これ以上の深手を負う前に霊体化を行う。暫く休めば大丈夫だが少なくとも今回の戦線には戻れそうにない。自分の腹を貫いた男を忌々しく思いながらアーチャーの体は粒子に変わり宙へと溶けて行った。

 

有香は『マイバック』からルシドエリクサーIとIIを取り出して両方を飲む、すると無茶の代償としてボロボロになっていた手足の傷はみるみるうちに治っていく。もう地面に倒れこんでしまいたい欲求に駆られながら立ち上がる。

アサシンが抑えている虫の方を見るとムカデの様だった体躯は形を変え、男性器の様な姿になっていた。

 

「は?」

 

思わず闘いの疲れを忘れて疑問の声が出る。やっとの思いで一人撃退して戦況を見ようとしたら相手はまるで真・女神転生に出てくるマーラの様なフォルムになっているのだ。思わず声が出るのも当たり前である。

目頭を押さえて目の錯覚かと思い込んでみるが再び目を開けても紛れもなく男性器を模した姿は変わらずソコに在った。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

セイバーとアーチャー、彼等の本来の目的は間桐桜だった。本来なら主人の二人が来るつもりでいたが虫の大群に阻まれ進むことを断念。

せめてもとサーヴァントの二人を向かわせるが間桐桜の確保直前で学校の教師が邪魔に入り、もたついた事でライダーにも邪魔をされ戦闘に入る。更に外へ出てライダーを倒したと思った所へ別の人物から横やりを入れられる。

セイバーは桜が居た部屋へ向かいながらあの男……中真有香が持っていた剣の事を考える。自分の配下が持っていた剣とは姿形こそ変わっていたが自分のエクスカリバーが反応した事を考えればアレが星の聖剣である事は間違いないだろう。

だが自分の直観が何かを告げている、ソレを自分は認められないし認めたくない。それを認めてしまえば自分は――――――。

 

「イヤァアアーーーーーッ!!!!」

 

聞こえてくる女性の声に没頭しかけた思考が現実に引き戻される。目的の部屋から聞こえてくるその声に走る速度を上げて扉を開いてみればソコに居たのはキャスターとキャスターに抱えられた血まみれで下半身の無い男。

 

「駄目! 駄目っ! 嫌よ! 嫌嫌嫌っ! お願いです! 目を開けて! 総一郎様っ!!

 いやあぁああっーーーー!!!!」

 

涙を流し周りが見えていないキャスター、周りにはこの寺の住職だろうか。その大半は体中に穴が開き噎せ返りそうな大量の血と共に多数の死体が転がっている。

一瞬この場でキャスターを下すべきかとも考えたがマスター二人から最優先は桜だと念押しをされていたのでセイバーはこの場に桜が居ない事を確認して直ぐに部屋を出る。

心に残るしこりを頭の片隅に追いやって桜を探す。仏間を、客室を、別宅を。

見当たらない目標に焦りながら寺の中を走り、ふと入り口の方に目を向けると悍ましいモノが見えた。男性の一物を模った様なソレは黒いナニカを至る所から出し対峙しているサーヴァントとあの男へ向けて突き出していた。

セイバーの目は全体を俯瞰して見ながらも思考はどうしても男の剣へ焦点を合わせてしまう。間桐桜を見つけないといけないのに。優先すべき事は彼女なのにあの剣を目で追ってしまう。

黒い帯を弾き、切り落とす度に剣から極彩色の火花が散る。これは何だ? 何故あの剣を見ているとこうも心がザワつく。

良く見ればあの場にライダーとアサシンも居る事に気が付く。あの三人と交戦しているアレが何か分からない、一度戻るべきか……そこで気が付いた、知っていそうな人物が居るじゃないか。セイバーはソチラへ足を向けた。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

目の前の怪物から生えた黒い帯が三人に襲い掛かるのを防ぎ、躱し、時に味方を庇いながら三人は目の前の怪物を凌いでいた。というのも目の前の怪物に間桐桜が取り込まれてしまった為、所謂大技が使えなくなった。

故に三人は相手を弱らせる為に少しづつ削るしかないのだが……ここで有香が足かせになる。怪我は塞がり気力で如何にか立っては居るものの、消耗した体力は戻らない。

一般人と比べれば遥かにある体力だがそれも所詮は人。英霊のある種無限のスタミナと比べれば有限であり消耗すればいずれ底をつく。

先ほどのアーチャーとの闘いで行ったセイバーの真似事は言ってしまえば自分をスーパーボールに見立てた自爆技。凄まじい速度と急激な方向転換を可能にするがATFで自分を攻撃している様なモノで全身のダメージは大きい。

例え道具や魔法で怪我が消せるとしてもその時失われたスタミナまでは戻らない。ただでさえ虫の集合体の後にアーサー王との戦闘で消耗していた所にアーチャーと戦闘、そして休憩を挟む事無く化け物との戦闘でスタミナなど残っているはずもなくギリギリの状態で戦っている。

呼吸は浅く全身から汗を拭きだしながら剣を振るう。そんな状態なのに何とか戦う形になっているのはライダーのおかげだろう。

彼女が以前学校へ仕掛けた結界を即席とはいえ展開し虫の動作を阻害している、これが無ければ早々に戦線から離脱していたのは間違いない。

 

「ライダーのお蔭で戦う形になってるけど……きっついなぁ!」

「最初に拙者に使ったアレでどうにかならんのか?」

「最初って……あ~支援魔法? アレを使うには中身を切り替える必要があるし、使っても体力は戻らんよ」

 

口で軽口をたたきながら攻撃してくる帯を斬るが同時に二方向から別々に同時に襲ってくる帯を一つは盾でもう一つを剣で抑えながら後ろへ下がる。アサシンが襲ってくる帯をすり抜けるように掻い潜りながら切り払い、ライダーは周りを縦横無尽に描けながら本体を削る。

ちまちまと魔法を撃ちながら囮をするが付かず離れずの位置を取る。アドレナリンが出ている所為で何とか立てているものの下手すれば直ぐに膝を折ってしまう状況で前へは出たくない。

その為に息を整えながら体力の回復を図っていたが離脱したはずのセイバーがこの場へ戻ってきた事で悠長に構える事が出来なくなった。怪物とアーサー王の両方に対応出来る位置まで下がって身構える。

だがそんな自分をアーサー王はチラ見しただけで怪物の方へ近寄っていく。

 

「ライダー! 間桐桜は何処だ!」

 

唐突な問い掛けに数舜呆けるが直ぐに気を取り直す。

 

(アーサー王……というかあの二人組の目的が間桐桜? 家庭の事情で間桐家に預けられてるって学校で説明は受けたけど……姉ちゃんが妹を心配して、しろう君もソレに同調したって感じ?)

 

経緯はさっぱり分からんが目的が間桐桜なら協力して貰おう。

 

「おい、王様よ。目的は間桐桜で良いのか?」

「……ッチ、そうだ」

「(舌打ちしたよこの人……)じゃあ間桐桜を取り戻すのに協力してくれない?」

「取り戻すというのはどういう事だ?」

「どうもこうも……アレが間桐桜」

 

そう言って怪物を指さす俺を怪訝な目でアーサー王が見てくる。

 

「ちょっ! 何だよその目は! 本当だぞ!」

「ほう? では何故桜がアレなのか説明を」

「説明って……折角だし1から伝えておくとだな、間桐桜に寄生している虫をキャスターと共同で除去して助けた後に虫の大群が此処に押し寄せて来た。そんでもってそいつ等を駆除してる最中に再度虫の襲撃があって間桐桜を乗っ取るが制御が甘かったから取り返した。

 そしてライダーへ預けて虫に対応している間にあんた等が来てライダーと交戦、俺はあんたと、ライダーはアーチャーと戦って……後の流れはある程度分かるな? でもって俺らが戦ってる間に虫は悠々と間桐桜を取り返して取り込まれた。以上」

「……ッチ、仕方がない。ではアレを引き裂いて桜を取り戻す」

「あのさ……何で俺に対してそんなに当たりが強いの?」

「うるさい、黙れ」

 

不機嫌なアーサー王が怪物に向けて一瞬で加速すると速度を維持したまま側面を切り裂いて反対側まで移動、と思っていたらソコから更に速度が上がり始める。

ライダーが鎖の付いた短刀で点の攻撃をしているのに対して、アーサー王は移動の際に軌道上にある物を斬る線の攻撃。しかも腕力というか攻撃力という意味合いではアーサー王の方が強く攻撃範囲も当然広い。

アサシンも強いがこういった怪物と正面から戦うタイプではないので決め手に欠けていたがアーサー王は怪物を討伐する要素が揃っていた。耐久があり速度があり力がある。ガチガチの戦士タイプ。

三人で苦労していた怪物が見る間にボロボロになっていく。これなら直ぐに動けなくなるだろうと油断をしていた。気が付かない間に帯が一本俺の足元へ接近しており気づいた時には引きずり倒された後だった。

 

「うおぉお?!」

「いかん!」「有香!」「……」

 

アサシンがこちらに駆け寄り帯を斬ろうとするがソレよりも早く帯は俺を捕まえたまま上へと持ち上げられそのままアサシンへ叩きつけられる。

 

「い”づぅっっ~~!」

「ぐっくく……!!」

 

アサシンは咄嗟に柄頭で俺に直撃する事を防いだが俺はそのまま帯に振り回されてしまう。自分の意図しない急激な視界の変化に付いていけず如何にか足元の帯を斬ろうとするが其の度に地面や壁に叩きつけられていく。

頭だけは守っているもののそれでも目の奥がチカチカして仕方がない。気が付けば両手両足に帯が巻き付き完全に拘束されてしまっている。

その間もアサシン、ライダー、アーサー王の攻撃は続いているがこの男根擬きの怪物は斬られる事を気にしないと言わんばかりに大量の帯を体中から出し防御には使わず俺に対して向けてくる。また巻き付いてくるのかと思ったソレ等は俺の体の至る所に突き刺さり浸食してくる。

 

「~~~~っ~~っっ!!」

 

痛みで開いた口にさえ帯を突っ込み開いた目は抉り潰され化け物が俺の中を蹂躙している。自分の死を予感した瞬間、意識が途切れた。

 

 

 

まるで十字架に張り付けにされた男を見せつけるように怪物は男を頭上に掲げた。全身を帯が覆い黒いシルエットの様になってしまったが両手にある盾と剣があの男だと示唆している。

時折男のシルエットの一部が盛り上がっては縮んでいるのがまるで内蔵を貪っているかのように見える。そうしている間もアサシンやライダーが怪物を斬りつけているが何故か怪物はそれを無視し続けている。

見極める為に少し下がって全体を見ていると怪物が居る場所に光の柱が立ち上がった。




長期休み中なのでこの小説にリソースを割いてます。
感想や観覧数、評価といったものがここまでモチベーションに関わる物なんだなとちょっと実感しています。

それはさておき、沢山の方からセイバーの蛮族ムーブに対して意見を頂いておりますが、あれもちゃんと理由がありますのでこの作品におけるセイバーがただの蛮族ではないのでご容赦ください。
個人的には昔の戦争してた人って死体を潰して畑の下に肥料として撒いてたからあながち蛮族では?という感もありますがやはりFate作品のアーサー王として書きたいので理由はその内きちんと作中に記載します。

今後の展開等含め大まかに決まっていますが書いてるうちに予想外の方向へ進む事が多々あり、書いている自分も予想してない展開になる事がありますがその辺も含めて書くことを楽しんでいきたいと思います。
今後ともこの作品を宜しくお願いします。

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