目の前には道路が続いていて左右を見れば疎らな住宅と視界いっぱいに広がる田んぼ。道のど真ん中に自分が立っている。
自分を見下ろしてみればシャツにジーパン、落ち着いて周りを見回せばここは自分の自宅から最寄り駅までの道だ。思わず笑いが出て地面にうずくまる。
「何て妄想してるんだよ、こんな道のど真ん中で……」
抑えた頭を左右に振って周りを見れば変わらない現実がソコにある。そうだ、アレが現実な訳が無い。
転移して仕事して家族作って一人生き残って、そっからまた転移して今度は冒険者やって……また転移して! しかも若返ってアニメの舞台になった都市で暮らす?
「いや~、無い無い。それにしても……えーっと、何してたんだっけ?…… 一回家に帰るか」
あまりにあんまりな自分の妄想に顔を赤くしながら自宅への道を歩く。暫く歩いて交通量がそこそこある交差点に差し掛かった時、違和感を感じた。車が一台も走ってない。
信号の押しボタンを推して考える、昼間でこの交通量はあり得るか? そりゃ田舎だけどこの通りはそれでも車の生頼があってバスも通ってた。
背中にじわりと汗がにじむ。決して暑さだけではない汗が出るのを自覚しながら信号が変わり住宅街を歩く。
見知った光景を見ながら自宅までの細い道を進む。住宅街なのに人の声処か物音や室外機の音すら聞こえない。途中にある物産の会社も普通なら昼間は従業員が居るはずなのに誰も居ない。
歩いていた足は不安から段々と早足になり駆け足は全力疾走へ変わる。5分も走らず実家が見えた。
変わらない自分の実家に思わず足を止めて自宅を見る。不安は安心へと変わり歩いて近づく。車庫を見れば姉妹と母の車が見える。
家族が居る事に安堵しながら自宅へ上がり「ただいま」の一言を掛けるが返事が無い。再度呼びかけるが声が無く、念のためにと靴を見るが家族の靴は有る。
地方の家としては平均程度の家なので部屋数もそこまで多くなく、風呂やトイレも含めて3分もあれば全ての部屋の確認が完了するが家族は居なかった。
「どこ行ったんだよ……」
思わず漏れた言葉に帰ってくる返事は無い。
「そうだ、携帯」
ポケットに入れた携帯電話から家族の電話を呼び出して駆けるが暫く待って繋がったのは留守番電話だった。連絡の取れない家族に苛々を募らせながら落ち着くために水を飲もうと食器棚からコップを取り出した時、玄関口に人が居る事に気が付いた。
だが同時に頭の中は真っ白になってしまった。現実のはずなのに、居るはずが無いのにソコへ立っていたのは碇夫婦だった。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
小僧が貼り付けにされたと思ったら光の柱に飲み込まれる様を距離を取って見ていると女狐が此方へ血相を変えて走ってきた。
「アサシン! あの坊やは何処!! 今すぐあの子が持っている薬が必要なのよ!」
いきなり拙者の胸倉を掴みまくしたてる慌てっぷりに面食らう。余裕がまったく無いのだろう、目の前の光の柱なぞ普段ならいの一番に確認を始めるだろうに。
仕方なく小僧の居た場所を指さししてやると手を離す事すら忘れ呆けた顔で光の柱を見つめる。怪訝に思っているとまわ女狐が喚き始めた。
「何よ……これ……」
光の柱を見てキャスターは呆然とする。目の前の柱は立体的に形成された魔術……否……到達不能とされる魔法の類である事を彼女の目は読み取っていた。
神代に魔女と呼ばれた彼女でもコレを再現するには途方もない時間とリソースを使わないと無理だろう、それでも再現出来るかと言われると怪しい。そんなものが唐突に目の前に展開されているという事実と錯乱から戻ったばかりの脳は目の前で展開されている魔法の詳細な情報を幸運にもシャットアウトした。
もし彼女が目の前のソレを正確に理解しようとしたならば、この世界の法則を無視した術式に脳が焼き切れていたかもしれない。彼女の不幸が彼女を生かすというそんな皮肉を後目にセイバーは光の柱を睨み続ける。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
「お邪魔しているよ」
「ごめんなさいね、突然」
「あ、えっと……はい……折角なんでどうぞ……」
思わずテーブルに着かせたが何だこれ。現実にアニメキャラが居るってどうなってんの? 頭の中は混乱しているが取り合えず茶を出すためにお湯を沸かす。
「それで……碇さんご夫婦はなんで現実に?」
自分で言っておいて違和感しかない台詞だがその言葉を聞いた碇夫婦はキョトンとしている。耐えきれなくなったのかユイさんの方が笑い出した。
「ご、ごめんなさい。余りにもあんまりな質問だったからつい」
「ユイ……」
「そうね、ごめんなさい、あなた」
「妻がすまない」
ゲンドウさんが謝罪で頭を下げる光景に面食らう。アニメではまずあり得ない光景だ。構わないと伝えて二人にお茶を出す。
受け取ったお茶で口を湿らせてからゲンドウさんが口を開く。
「君の疑問の答えだが、君はココを現実と呼んだがそれは違う」
「いや……でもココは俺の実家……」
「ああ、それは知ってる」
「知ってる?」
「君が知りうる事は我々全員が知っている」
「全員?」
首をかしげているとユイさんが補足してくれた。
「私達夫婦と共に貴方の体に入り込んだ人達は貴方の記憶を共有してるわ、そうね……私達風に言えばここはガフの扉の先、つまりガフの部屋なのよ」
「え……待って待って、入り込んだ人達って事はあの世界の人達全員が俺がやった事とかした事……つまりお子様には言えないアレコレを全部知ってるって事?」
「全部では無いわ。流石にプライベートには配慮しているわよ? まぁそれをチェックするのに私達夫婦と他に数名はまるっと見てるけど」
「oh,shit!!」
まじかー……えぇーライダーとかエルヴァーンとかミスラとかタルタルとか……あの辺のも全部知ってるって事? 目の前の夫婦がめっちゃいい顔でニコニコしてるって事はそうなんだろうなぁ……あとゲンドウさん、あんたやっぱ笑顔も怖ぇよ。
「はー、まぁ俺の赤裸々記憶が共有されてた黒歴史ってのはもう終わった事としてだ……、ガフの扉って何? 俺ってその手の知識って大分薄いから正直分からんのだけど」
「じゃあガフの部屋の説明からね、すごく端的に言えばユダヤの伝承にある魂の生産工場で生まれてくる子供が魂を与えられる場所よ」
「それならガフの扉ってのは?」
「文字通り扉って意味もあるけれど、部屋に至る前提条件とも言えるわ」
「前提条件?」
「例えばこの人(ゲンドウ)が行った人類補完計画に関しては知ってる?」
「人を全部溶かして混ぜて1つにまとめるんだっけ?」
かなり乱暴な説明にゲンドウさんの眉が寄るがユイさんは笑って否定する。するとゲンドウさんが口を開いた。
「ガフの扉というのはアンチATFの事だ」
「あなた、それだけじゃ説明になってないでしょう。アンチATFに加えて神の館の話をしないと」
「神の館?」
「さっき私は魂というのはガフの部屋という生産工場から与えられると言ったけれど、肉体に宿るって事は逆に言えば肉体にはガフの部屋へ通じる通路が開いてるって事なのよ。
例えば別の場所からこの場所へ来るためには必ず道を通るわよね? けれど何かしらの理由でその道が通行止めになったら? そしてその道が唯一の道であったなら?」
「目的の場所へ行けなくなる?」
「そう、唯一の道が閉ざされていると通れない。ではどうするか。そこでアンチATF、アレは人と人との境界線を無くすのと同時に物事や概念の境界線も消す力があるわ」
「つまりアンチATFで閉ざされた道を修復、もしくは新しい道を作って神の館へ行く?」
「正解」
「しかしガフの部屋への道をいくら修復したとしても交通量までは増えない、その為の人類補完計画という訳だ」
「ついでに言えばATFは拒絶の力以外にも存在を固定させる側面もあるわ」
何となく全容が見えてきた。人の体は魂を授かる場所『ガフの部屋』に繋がっているがそこへ繋がる道が途絶えた、もしくは成長と共に閉ざされる。
それを再び繋げる鍵がアンチATFであり同時にATFもその補助の役割を持つ。そして道が繋がっても交通規制(?)があって道に対して1名しか通れない……あれ?
「じゃあ何で俺の中には大量の人が居る?」
「そう! そこ!」
俺の一言にユイさんが食いついてきた。びっくりしていると物凄い勢いでユイさんがまくし立ててくる。
「私達は確かに一つになりかけてたけどシンジの望みから途中で一つになる事は中断されたわ。その結果LCLの中へと私達は戻り海で群体の様な形で保管されていた。
本来ならその時点で私達に取れる行動なんて無いのだけど貴方が海へ……人類が溶けて魂の保管された海へ入ってきた事で道が開けた。
貴方の体は最初からガフの扉が開かれていた。それが何故かはまだ分かっていないけれど私達人類は貴方の体へ縋ったわ。本来なら一人分しか無いはずの道幅もほぼ全員が通る事が出来た。
これは貴方だからなのか、それとも私達の考えが間違っていたのかは検証のしようが無いけど結果として私達の魂は貴方のガフの部屋へと受け入れられた。
そこからは人海戦術で貴方のガフの部屋を全員で歩き回って……」
「ユイ、その辺にしておけ。彼が困ってる」
「あ、あら? ごめんなさいね」
笑ってごまかすユイさんに愛想笑いで返す。
「……つまりあの世界の人達の魂が俺っていう工場に入って出荷前状態になったって感じ?」
「ちょっと語弊があるわね、あの世界にあった魂が入ってるってのが正しいわ」
「……何が違う?」
理解力の乏しい俺には違いが今一分からず聞き返すとゲンドウさんが回答を引き継いで分かりやすく教えてくれた。
「簡単だ。君の体にはリリスのガフの部屋の他にアダムのガフの部屋もあったという事だ」
「ごめん、やっぱり何が違うのかが分からん」
「つまり君の中には我々人類の他に使徒の魂も入っている」
「……はい?」
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
キャスターが目の前の光の柱を呆然と見つめるのを横目にセイバーは光の中から這い出てくる怪物を睨む。先ほどまで全身から黒い帯を出していた怪物はそれを引き込めて全身を震わせている。
震えが一層激しくなり剣を改めて構えた所で変化があった。首……と呼んでいいかは微妙だが段差の部分に亀裂が入り多少の血が溢れた後に血は止まり傷は口へと変化した。
全員が唐突な変化に驚いている最中、怪物は出来たばかりの口から血反吐と共に力の限り叫び声を吐き出す。
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あああぁあぁぁあぁあああ!!!! サクラ!! サクラ!! 何処へ行った!!!! 儂から逃げるつもりかぁ!!」
そんな怪物の独白にセイバーの頭の奥が冷えてくる。あの男が居ないからか、それとも目的の手がかりが目の前に転がってきたからなのかは分からないがセイバーは構えていた聖剣を解いて目の前の怪物へ話しかける。
「貴方は……間桐桜の祖父、間桐臓硯で間違いないか?」
「……おぉ、そう言うお主はセイバーのサーヴァントじゃな……。確か衛宮の小倅が召喚したんじゃったか」
「先ほど口にしていた『サクラ』とは間桐桜で相違無いな」
「――――――それがお主に何か関係があるか?」
「一度しか問わん、間桐桜は何処だ」
「ふむ……そうさな……」
思案しているのを現すかのように胴体(?)をグネグネとさせながら頭(?)をセイバーへ近づけた臓硯は口を歪に曲げながら歯をむき出しにして囁く。
「アレは食った。元々そういう予定だったのでな、旨かったぞぉ? 儂は案外牧畜家の才能があるのかもしれんわ」
「白々しい嘘を吐くものだな、本当の事を言うつもりは無いと受け取るぞ?」
「カカカッ! 嘘ではない、アレは儂の腹の中。しかしのぅ、どういう訳か腹の中から逃げおったわ」
「ほう……」
「そのせいかのぅ……腹が減ってしかたがない。こんなに空きっ腹では動くに動けんからの……腹を満たす必要がある訳よ」
怪物が言葉を紡ぎ終わる前に素早く触手を伸ばしてくる。常人であれば体に巻き付く寸前か若しくは巻き付いてから気づくような素早さの触手をセイバーは一息で全てを切り伏せて見せた。
「そうですか、疑問は幾つか残りますが一番重要な事が聞けたので良しとしましょう。
聖剣を構えなおしてそう口にした瞬間、既にセイバーは最高速度で宙を舞っていた。縦横無尽に空中で方向転換を繰り返しながら怪物を撫で斬りにし続ける。
堪らず全身から触手を生やしてセイバーを捉えようとするがソレ等を全く意に介さずに悉くを切り捨て、怪物……間桐臓硯が自覚する間も無く怪物の首を跳ねて上げていた。
小僧とやりあっていた時とはまるで違う一方的な蹂躙と詰将棋を見るかのような冷静な対応にアサシンは本当に小僧相手にまごついていたのかと思わずには居られない。
「――――――カッ?! カカッカカカッガガガゲッ!??!」
「虫、長々と喋っていたのは本体を逃がす為ですね。
「ギギギッ!!!!??」
首を斬り落とした勢いをそのままにセイバーは空中を蹴る。急転換からの最高速に一瞬で到達した彼女は手のひらよりも小さい間桐臓硯の本体を聖剣の切っ先で貫き地面へと縫い付ける。
何かを喚こうとした本体を興味が無いと言わんばかりにセイバーは聖剣を覆う風の鞘の一部を開放する事で本体を文字通り粉微塵に変えてみせた。本体が死んだことで醜悪な形をした怪物は姿を保てなくなり解ける様に崩れていく。
アサシン、キャスター、ライダーの三人がかりで押さえつけていた怪物を正面から単騎であっさりと斬り伏せるセイバーの姿は正しく最優と呼ばれるに相応しい能力だろう。
死んだ虫の後を眺めてから背後で光り続ける柱を見上げるとその光が少しづつ小さくなっているのが分かる。自分の直観がアソコに間桐桜が居ると告げているが同時にあの男も居ると確信している。
聖剣を振り刀身に着いた虫の体液を吹き飛ばして柱を睨む。アサシンにはその姿はまるで先ほどの虫は前座で今から本番が始まると言わんばかりの気合が入っているように見えた。
お盆休み中に仕事が入って密かに考えていた連続投稿計画がとん挫した作者です。
一区切りするまで投稿をしたかったですが現実が許してくれなかったので読者さん、許して、ユルシテ。
こんな作品書く位なのであのゲームもやってますがイベント始まっちゃったので執筆速度が低下しています。
皆さんお目当てのキャラは引けましたか? 私は最高レアリティの乳が出なくてぐったりしております。
気が付けばお気に入りは100に届きそうで感想も個人的に沢山頂けて大変うれしい限りです。遅筆なので続きはまだかとヤキモキされるかもしれませんが良ければお付き合い宜しくお願いします。