情勢的に仕事のやり方が変わったり、そもそも仕事に対してのモチベーション維持が難しく趣味に割く時間がなかったりと色々ありましたが何とかGWに投稿できました。
次はこれほど時間を空けるつもりは無い・・・はず。
ランサーの奇襲で中真が意識を失った後、彼は衛宮宅の居間にキズが見える形で寝かせられていた。
彼を挟む形で衛宮士郎と遠坂凛が傷を観察し、ライダーは傷を圧迫しながら溢れる血をタオルでふき取っている。
士郎と凛が傷の具合を見ているのに対しライダーは傷というよりそこから流れる中真の血に怪しい目線を向けているのはご愛敬だろう。
「遠坂、どうだ? 治せそう?」
「……手持ちの宝石じゃ直ぐにどうにかするのは無理。応急手当よりマシ程度かな」
士郎の問い掛けに厳しい顔で凛は返答する。実の所、彼女の宝石魔術ならば中真を完治させる事も可能ではある。
しかし先の見えない聖杯戦争の最中で限られた魔力込みの宝石というリソースを目の前の男に割り当てるべきではないと凛は考えた。
そうしていると士郎の後ろから覗き込む様にしてイリヤが口を出す。
「じゃあ私がやる?」
「イリヤ、出来るのか?」
「まかせて」
士郎に頼られたのが嬉しいのかイリヤは胸を逸らせながら自信に溢れた態度を取って見せる。返事の後、直ぐ様横たわる中真の傷の上へと掌を上にして差し出す。
イリヤが自身の魔術回路に魔力を巡らせると、回路が体表に薄っすらと浮かび上がるのが士郎の目から見えた。光はやがて腕から掌へと集まり光の雫となってイリヤの右手から零れ落ちていく。
落ちた光の雫は中真の体へと染み渡りじわじわと傷が塞がっていく。それと同時に中真からうめき声が漏れる。意識は無いが傷が治る事で痛みを感じているのかもしれない。
暫く幻想的な光景が続いた後イリヤの手から溢れる光が収まっていった。見た目にはそこまで変わってないが出血に関しては明らかに減り、今溢れてる分を拭ってしまえば殆ど出血は止まっていた。
イリヤは小さく息を漏らして士郎の膝へと座り込む。
「あ~もう疲れた! シロウ、何かデザート無い?」
魔術を行使していた先ほどまでとは打って変わり、外見年齢通りの仕草に思わず士郎は笑ってしまいイリヤに怒られる。その光景に毒気を抜かれたのか何かを聞きたそうにしていた凛は肩の力を抜いて中真の傷を診る。
肉体的な傷はそこまで癒えてないにも関わらず出血が止まり先ほどまで上げていたうめき声も小さくなったのが見て取れた凛はイリヤが使った魔術の概要に当たりをつけ流石アインツベルンの名家と思わずにいられなかった。
恐らく肉体ではなく精神面、アストラルボディ……魂と言うべき部分を癒したのだろうイリヤ。多分それは聖杯戦争においてサーヴァントの治療を意味する。
そんな手札を切ってまでこの男を治療したイリヤに信じられない気持ちと、何としても「 」へ至るという気概を感じずにはいられない。
仕方なく手持ちの中で小ぶりな宝石を使って魔術を使うワードを唱える事で手に持つ宝石から赤い光が部屋を満たす。それに気づいたイリヤと士郎が凛の行動に疑問を持つ。
「遠坂?」
「治せないんじゃなかったの?」
「治せないわよ。でも気付け位にはなるでしょ。こんな状況なんだから動けないよりはマシでしょ」
魔術の起動ワードを唱えた事で周りに漏れていた光は宝石から10センチ程度に収まり、光を押し当てる様に中真の額へと近づける。
するとまるで眠っていた所を無理やり起こされた様に手で目を隠しながら不機嫌そうに中真が目を覚ます。
「ん”ん~? あ?」
「いつまで寝てるのよ、元先生。さっさと起きなさい!」
寝起きに強烈な怒声を突き付けられ段々と頭が覚醒していくと同時に体から来る痛みを脳が認識する。痛みで一気に目が覚める。
「あだだだだっ! え? 何これ、めっちゃ痛い!」
「起きたわね、それなら後は自分でどうにかなさい。魔術師の端くれなんだからそれ位は出来るでしょ?」
そう言いながら凛は中真の傷口付近のタオルを圧迫する。
「いでででで! ちょっと、触んなよ! 痛いって!」
「何よ、アーチャーから聞いてるわよ。どうせ霊薬を持ってるんでしょ。後は自分で治しなさい」
「は? 霊薬? ……あぁポーションの事か」
上半身を起こしながら真っ赤に染まったタオルを剥ぐと普段皮膚に覆われて見えないはずの肉の色が見える。思わず眉を寄せてしまうが目をつぶりJOBの変更を行う。
メインJOBを【モンク】から【白魔導士】に切り替えて両手で背中と腹の傷を覆う様に手を当てる。
「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』【ケアルV】」
両の掌から光が溢れ、見る間に傷口が盛り上がり塞がっていく。凡そ10秒もかからない間に何の触媒も用いず、自らの魔力だけで行使した魔術で背中から腹にかけて出来た穴が塞がってしまったのを見た凛が叫んだのも仕方がない事だろう。
「何よソレー!」
「何って……ナニ?」
「質問を質問で返すんじゃないわよ! あんたのその魔術よ! なんで貫かれた腹が数秒で完治してんのよ! よっぽど魔力を込めてるならまだしも何気なく使った魔術でそんな事が出来るなんて理不尽よ!」
「いや……昨日も言ったけど魔術じゃねーし」
「それでもよ! あーもう! アンタ自分で治療出来るんなら魔術なんて使うんじゃなかった! リソースが限られてるのに使うとか馬鹿じゃないの私?!」
その発言で自分の治療に遠坂が一役買っていた事に気が付いた中真は成程と納得してしまった。
ぼんやりと覚えてる知識で彼女が使える魔術には宝石が必要だった事。その少ないリソースを一部とは言え自分に使ってくれたのだろうと。
「わざわざ魔術を使ってくれたんだ……んじゃ何か適当にお返しをすっかねぇ」
「はあ? 小ぶりとは言っても使ったのは宝石で、しかも魔力が込められたものよ……それを教師の安月給で払える訳が……」
「いや、金は無理。離職したばっかだし貯金崩せねえよ」
思わず顔の前で手を振って否定してしまう。この辺の金銭感覚はどれだけ稼ぐようになっても変わらないのはヴァナディールの冒険者時代から分かってるとはいえ、自分で言っててちょっと情けなくなる。
「だから代わりにコレの中から1つやるよ」
そう言って中真が影から出したのは所謂原石だった。赤石、透石、翠石、黄石、紫石、藍石、白石、黒石。
初めはそんな石を貰ってどうするのかと言っていた凛だが中真がこの石から宝石を取り出すと言うと興味を示しだしたのでヴァナディールでの彫金の事を教える。
クリスタルと呼ばれるエネルギーの結晶体。ソレを使って使用者のイメージを物質に反映させるという無茶苦茶な生産方法に頭をくらくらさせながらも宝石が手に入るのならと凛も納得した。
ヴァナディールの世界では彫金スキルを持つ者なら割と手に入れる事が安価だった宝石だが此方では貴重品。何かの時に買った原石だがこんな時なら良かろうと出したが凛はその後に出したクリスタルの現物に興味が引かれた。
しつこく聞いてくるのでクリスタルには属性があり用途に応じて使い分けるという事を言うと一通りのクリスタルを見せろと言ってきたので仕方なく8属性全てを見せた。
属性が8つという事に凄く驚いていたが気にせず1つだけ譲る事にした。大分悩んでいたが最後に選んだのは火のクリスタル。深く考えずに火のクリスタルを渡すと語尾を強めて「取引成立よ!」と言ってかなり喜んでた。
何がそんなに良かったのか分からず仕舞いだが本人が納得しているので問題は無かろう。遠坂さんがクリスタルを貰って喜んでいるのを眺めていたらイリヤスフィールちゃんが「私には?」と上目遣いで訪ねて来た。
容姿が子供+上目遣い……こいつは自分の使い方を心得てますね……。
話を聞けばどうやら本格的な治療をしてくれたのはイリヤスフィールちゃんの様なので此方にはもうちょっと良い物を渡したいが……何が喜ばれるのかさっぱり分からなかったので取り合えず無難に食べ物、フィクリカゼリーを取り出す。
異世界の食べ物という事で珍しがってくれたが味に関してはそこまでじゃないっぽい。まぁ味はイチジクのゼリーに近いからな。
欲しい物が何か無いかと聞いてみると
「健康かな~」
という答え……いい年したおじさんみたいな事言うなこの見た目幼女。うーん、健康……体調回復……長寿……。
「あっ」
「え?」
思わず手を叩いたので周りの全員の目が集まったが気にせず影に手を突っ込んで目当ての物を取り出す。あの人が欠かさず飲んでたアレをやろう。
「ほい、コレを上げよう」
俺から渡された物を両手で抱えて目を瞬かせる。しかし健康ってワードで良く思い出せたなコレ。
「……ミード? 何でミード……蜂蜜酒なの?」
「いや、健康が欲しいって言ったからコレかなって」
「あの……ユウカ。そのミードってもしかして……アムリタですか?」
「お? ライダーも知ってるの? 健康が欲しいって言われてコイツの効果思い出したんだよね~。実際マート老なんか毎日健康の秘訣とか言って飲んでたしきっと効果あるよ」
ライダーの一言で全員の目がイリヤスフィールの持っている蜂蜜酒……アムリタに注がれる。と思ったら何か女性4人が台所の方へ集まって話し始めた。
「ねぇ、どう思う? コレって本物かしら?」
「いや……私に聞かれても判断出来ないわよ。でもアイツが持ってる物の価値ってアイツが一番判ってないんじゃないの?」
「多分ですが、恐らく本物かと……。ユウカの場合は道具が如何に戦闘で役に立つかという点で収集している節があるのでその他の効果は二の次になっているという事では……」
「先生って色々と規格外ですからねぇ……」
何か色々言われてる気がするが畳の上で横になって奇襲への対策を考える。ぱっと思い浮かぶのは装備品だが普通の装備品を付けたままで生活なんて出来ないからアクセサリー群か。
指輪やピアスを使えば良いんだけど……そっと耳を触るがそこに穴は開いてない。ヴァナディールの世界でも結構な間ピアス穴を開けるの嫌ってたから当然か。
一先ず【守りの指輪】と【ヴォーケインリング+1】を両手にそれぞれ付け、【ストンチタスラム+1】を懐に忍ばせた後【ロリケートトルク+1】を首に着ける。
これで最低限のダメージカットは付けたが……ピアスなぁ。悩んでも解決しないし取り合えず穴を開けてしまうか。
「よし、ライダー! ちょっと俺着替えてくるから後で運転頼む」
「え? 何処へでしょうか?」
急に声をかけられたのでびっくりしたライダーが目を広げて此方を見る。そんな驚き顔にちょっとだけ嫁の面影を見て思わず笑ってしまう。
「ちょっと病院まで」
ライダーの運転で病院に着いて30分もしない内に穴開けが終わった。ヴァナディール時代だとでっかい針で穴をあけるってんだからかなりビビッたのを思うとやっぱ技術の進歩って大事だと思う。
病院から出てライダーが待つ車に乗り込んで直ぐにサイドミラーで穴を確認しながらピアスを付ける。
「あの……ピアスの穴を開けに病院へ?」
「そうだよ」
「何故こんな時にピアスを?」
ピアスを片方付け終えてもう一つのピアスをライダーに渡して見せる。
「奇襲対策って言っても気休めだけど付けとこうって思ってさ」
「コレをですか??」
「うん、ちょっと面白い効果があってね。お守りだ」
「そう……ですか」
不思議がりながらライダーが返してきた【玄冥耳飾り】の片割れを付ける。これで約3割のダメージカットなので気休め程度にはなるだろう。
そのまま車でショッピングモールへ行きぶらぶらして着替えを何点か買う。その後軽食を済ませて衛宮宅に戻り始める頃には既に日が傾き、町は夕焼けに染まっていた。
車を走らせ目的地までそう遠くない場所まで来た頃、唐突にライダーが急ブレーキで速度を落とし道の真ん中で停車してしまった。
何事かと横を見ると彼女の服は平時のソレではなく戦闘時にのみ見る服装へと変わっていた。
停車と同時に淀みなくシートベルトを外したライダーはそのまま車を降りる。それに倣って有香も車を降りてライダーを見ると彼女は前方を睨んでいる。
そちらに視線を向ければランサー、その後ろには言峰神父と金髪の男。周りへ視線を向けるも人処か車一台通っていない。
人払いの魔術、またはその延長にある術を使っていると当たりを付けてライダーに近寄り小声で話す。
「ランサーのクーフーリン、言峰綺礼、最後のは……多分アーチャー」
「アーチャーは……いえ、分かりました。では遠距離での攻撃もあると想定して動きます」
遠坂の契約サーヴァントがアーチャーであり同一クラスが2基同時に出る事はありえないと聖杯から与えられた知識が否定するが、ライダーは何故か彼の言葉を信じてよいと受け入れた。
そんなライダーの返事を聞きながら有香は視線を再び相手へ向けて考えを巡らせる。
あのアーチャーはぼんやりと覚えてる知識の中で武装が厄介な相手として覚えている。かなり出鱈目な存在で無茶の効く相手だと。
警戒すべき相手とだけは何となく分かるが具体的な攻撃法がさっぱり思い出せない。暫く向こうを睨みつける形で見ていたが頭を切り替える事にした。
下手にアーチャーに気を取られるよりランサーと正面からぶつかった方が良かろうと思いなおす。しゃがみ込み影から竜騎士での使用武器「アラム」を取り出す。
合わせてJOBを竜騎士/忍者に切り替えてからリレイザーを飲み干す。口元を袖で拭いながら大きく息を吐く。
槍を右手に左手で頭を掻きながら前へ出て相手まで30メートル程の場所まで進むとランサーが声をかけて来たので足を止める。
「よぉ。まさか三度も仕留め損ねるとは思わなかったぜ。さっき呑んだ奴がカラクリの種か?」
「からくり? 何のことか分からんけどさっきの襲撃は本気で焦ったよ。逝きかけた」
「そうかよ。所で今回は槍で戦うのか? 後で後悔しても待ってはやれないぜ」
「んー、個人的には今すぐ回れ右して逃げ帰りたいけどさ、そうするとアンタ追いかけてくるだろ?」
「まあな、何せマスターが出張る位には気合が入ってるからな」
「うん、だから正面から行くわ。多分だけど足を止めるだろ?」
「……良いねぇ。そう来なくっちゃ」
喋りながら緩やかに、自然な動作で両手槍を取りまわして両の手に抱えてランサーを見る男にクーフーリンは思わず笑みを浮かべて槍を構える。
ランサーの後ろに居る二人は動かず、又ライダーも同様に動かなかった。
少しの語らいの後、同時に動き出したランサーと有香が激しく体の入れ替えを繰り返しながら戦っている最中、ライダーは目の前で戦っている有香と『交信』していた。
ランサーとの交戦に入る前に密かに渡された携帯電話を弄ってライダーは桜の携帯へと発信。そのお蔭でライダー達が敵と交戦中である事は実に現代的な手法で他のサーヴァントへ伝わっていた。
そしてランサーと交戦中の有香は、いずれ援軍が来る事を見越して守り主体の戦闘を行っている。防戦一方ではなく時には攻め、守り、受け流す。
その攻防が気に食わないのかランサーは段々と眉間のシワを深くしていく。
時間にして凡そ10分に満たない戦闘はランサーからの攻撃中断という形で幕を閉じ、忌々し気にランサーは口を開く。
「攻めるつもりが殆どねぇな。それに勝つ気もないと」
「ふー。お察しの通り」
急なインターバルに有香は大きく息を吐き出しながら呼吸を整えていく。動いていた時間は僅かだが額には玉の様な汗がびっしりと浮き出ている。
そんな有香を値踏みしながらランサーは槍で肩を叩きながら言葉を紡ぐ。
「攻めっ気が無いのはこの際置いておくとして、テメェの動きは何だ? 何か妙に隙があるというか『足りてない』感がある」
ランサーの一言に思わず目を開く。今有香がメインJOBに設定しているのは『竜騎士』名前の通り竜と共に戦う者であり戦闘も当然同時に行う。
前情報なんて何一つ無い中で戦っている相手の挙動だけでソレを大まかに言い当てるという離れ業を当たり前の様に行って見せる……そんなランサーの戦闘センスというものが自分とはかけ離れてる事に言葉を失ってしまう。
そもそも有香が数あるJOBの中から竜騎士を選択したのは主兵装が槍でありランサーと同じ間合いであればランサーの興味を引いて多少なりと足止めが可能だと踏んだからであり勝てるなどは微塵も考えてない。
正直に言えば槍だけで何処までやれるのか試していた部分もあったので言い当てられたのはかなりびっくりしてる。
「いやー、流石ランサークラス。持ってるセンスが違うな」
「っけ。こんなもん俺の同郷なら誰だって判るさ、そんなこたぁ良いからさっさと何か出せよ。そうすりゃ多少はまともな闘いが出来るんだろ?」
ランサーは呆れ交じりの視線を飛ばしながら言葉後半になるとその目線は真剣味を帯び、言外に槍を持っていない時の方が良かったぞと語りかけてくる。同時に口元は歪み期待が込められている事が分かる。
元々は平凡な日常を歩んでいた有香だが最初の世界でも格闘技は多少齧っていたし、ヴァナディール世界では冒険者として常に闘争の中に身を窶していた。冒険者として活動していく内に戦う事の快楽をや強くなる事への楽しさ等を覚えもした。
恐らく目の前の漢は時代や環境がソレを一般的だとしていたのだろうと見当がつく。何となくではあるがあの世界での冒険者達と似たような雰囲気があるのだ。
相手は槍の使い手で自分よりも巧みに操ってくる。『目の前の漢をびっくりさせたい』そんな欲求が知らず知らずの内に有香の中に湧いてきていた。大きく深呼吸を一度してから改めて槍を構える。
先ほどの様に自然体では無く槍を体の左に構えて腰を落とす。下半身に力を貯めながら相棒を呼ぶ。
「ギズモ!ご指名だ!! 【コールワイバーン】!」
叫び声と同時に有香は前へ飛び出しランサーの頭を正面から狙うがランサーは一瞬で身を沈めて意趣返しと言わんばかりに下から有香の顔を狙う。やはり先ほどまでは加減をしていた事が分かる槍の速度に冷や汗を掻きつつ、槍に添えていた左手を外し回避と同時に反撃を狙う。
右足を軸に体を開く事で回避は成功したものの石突での反撃はランサーが突きの途中から防御姿勢に切り替えた事で易々と受け止めて防がれてしまう。さらにランサーは槍を受け流しながら足元を自分の槍で薙ぎ払ってくるので堪らず後ろへ下がる。
当然の様にランサーが追撃を仕掛けてくるがソコへ上空からランサーへ向けて炎が襲い掛かる。持前の俊敏さで炎を回避するが炎を放った相手を見て驚いた顔を見せる。
「ほぉ、こりゃ驚いた。飛竜か」
「サンキュー、ギズモ。助かった」
竜騎士の相棒であるワイバーンのギズモが肩に留まりながら『どういたしまして』と言わんばかりに一鳴きし、有香が相棒の頬を撫でる。相棒の重さを感じながら槍をもう片方の手で取りまわす。
それは決して素早い動きではないが淀みなく間違いなく槍を自分の一部としている者の動きだとランサーは見て取った。暫く飛竜を撫でていた手をゆるりと垂らし、取りまわしていた槍を両の手で握ると全身から力が抜け先ほどまでランサーと対峙していた時と相手の視線の置き方が変わっている事に気が付く。
これが相手の本来のスタイルだろうと口元が歪む。相手は全体を俯瞰して見るような目線になっている事から飛竜との連携を前提とした攻撃を繰り出してくると予想したランサーは当然の様に有香と飛竜の両方を視界に入れて身構える。
ランサーは有香がほんの少し前傾姿勢になり攻撃が仕掛けられるのを予感し下半身に力を籠めるが次の瞬間には視界に捉えていた相手がブレて消えた。視線を外した等ではない事は視界に入れてる飛竜が動いていないので間違いないが少なからず驚き身が強張る。
次の瞬間、ランサーは感で下半身に貯めた力を開放して左へ跳ぶ。すると跳んだと同時に今まで立っていた場所に槍を突き立てる形で有香が居た。
舌打ちをしながら相手は下がろうとする所にランサーが追撃をかけようとするがソレを阻止するように飛竜が炎のブレスを放ってくるので避ける為にランサーは下がる事を余儀なくされる。
数は二対一、更に向こうには空中を自由に躍る飛竜のブレスがある。全方位から遠近両方で来る敵。生前の戦争を思い出すようなシチュエーションを目の前の一人と一匹が作り出している。
初め違和感を覚えた槍術で、型にはめたような使い方だったが飛竜が居るのであれば逆に納得してしまう使い方だ。
更にどんなやり方か分からんが自分の目から一瞬で消えて見せる攻撃法。アレが相手の決め手なのか、それとも見せ技なのか。
自身の口角が上がるっていく事を自覚しながらも思考だけはどんどん加速していく。やはり目の前の男は当たりだったと心が躍る。
有香は【ジャンプ】が避けられた悔しさと共にアビリティが通用するという事実に少しだけ心が躍る。元は争いを好む性質ではないし出来る事なら楽に生きたい。
そんな人間でも長い年月を争いの中で過ごし、体を鍛え、荒事も含めて仕事として熟していれば闘争に多少なりと楽しみを見出す事はある。子供の頃に憧れた強い男というヴィジョンはヴァナディールという世界では実際に一定層は居るし、冒険者としては必要なスキルだった。
仕事人間というか根が真面目というか、元々はそんなに運動が得意ではなかった有香だが人間追い詰められたり環境が整うとソレを当たり前の様に熟すという事をあの世界で言葉の意味を身をもって体験していた。尤もソレ故にこの聖杯戦争に意味を見出していない側面もあるのだが。
息を整えて両手に持ってた槍を左腕のみで逆手に握る。更に背負う様に槍を移動し無手の右手を前にする様に半身に構える。
示し合わせたように同時に駆け出しランサーの間合いに入った途端、腹に向けて突いてくる切っ先を右手で逸らしてその勢いのまま更に踏み込む。切っ先を反らした上半身の反動を使い背負った槍で薙ぐがランサーは上体を反らし、そのまま有香の顎を蹴り上げる。
認識外からの一撃に意識が飛びそうになるのを気合で持ち堪えて振り抜いた槍を半ばで右手に持ち替え体重をかけて振り下ろすも、蹴りの勢いのままバク転で距離を取るランサーに避けられてしまう。追撃にギズモがブレスを吐き、その隙に【スーパージャンプ】ではるか上空へ上がる。
また一瞬の隙で有香が自分の視界から消えて見せた事に悔しさを感じながらも目の前の飛竜からの攻撃を往なす。ブレスや爪、時折尻尾での攻撃をしてくるが単体で見ればソレほど脅威とは見れない。
勿論竜種なので一撃は重く片手間に相手して良い類のものではないがソレでも単体なら何とでもなる程度だ。飛竜の爪を槍で受け止め跳ね返した際、首筋に刃物を宛がわれた様な感覚を感じて受け止めた姿勢のまま首を庇う様に槍を首に背負う。
次の瞬間相手が首を狙って槍を振り下ろしていたのを激しい金属音と共に受け止める。
「クソほど重てぇな!」
「コレを受け止めるとかマジかよ!?」
「って、熱っちぃ!!」
有香は【スーパージャンプ】を受け止めたランサーをあり得ないと驚きながらも受け止められた槍を足場にして跳ぶと同時にギズモのブレスがランサーを襲う。流石に受け止めた槍を足場にされた状態から即座に避ける事は出来ないようである程度ブレスを浴びてしまっている。
とは言えある程度で済ませてしまっているのがランサーの技量を物語る。普通なら小型とは言えドラゴンブレスをある程度浴びたのなら火傷の重症度で言えばII度と呼ばれる熱傷深度は免れないのだがぱっと見、彼は火傷らしい火傷を負ってない。
火に対する耐性が高いのか炎があまり効いてない。突きと払いを基本に棒術や格闘、更にギズモとの連携を織り交ぜながら思考する。
ランサーの属性に対する耐性は炎以外も高く他属性のドラゴンブレスを行っても大してダメージにならない可能性がある。というか属性によっちゃ逆に回復しそうなのでギズモのブレスを決め技にするには厳しい。
小手先の技で何とか場に留めているがそろそろ出せる技も少なくなってきた頃、金色の剣が此方に向かって飛来。俺を貫いた瞬間、ダメージを肩代わりして常時展開していた分身の一枚が破られる。
ついに動き出したかとランサーを警戒しながらレザーパンツとジャケットを身に纏った金髪のアーチャーを見据えるとちょっと驚いた顔をしていた。正直近距離戦だけで手いっぱいなので援軍の到着が待ち遠しく思いながらもランサーと交戦を続ける。
「だー、くそっ! ランサー、アンタのお仲間にチャチャ入れるなって言っとけや!」
「っは! アイツがこっちのいう事を聞く玉かよ! むしろさっきのを無傷で済ますとかやるじゃねぇか!」
「殺し合いしてる奴に褒められるって変な気分だよな!」
悪態を付きながら称賛されるってあのアーチャーはどんだけよ。そう思いながらもランサーの槍捌きが苛烈になっていく。
「そらそら、アイツが手出ししてくる暇が無い位に上げていくぜ!」
そう宣言した途端にランサーの動きが段々と、正確には2回攻撃する度に速度が上がっていく。思わず一昔前の人気俳優の台詞を使って制止を訴えそうになったのは悪くないと思う。
「っちょ! スピード上げすぎだろ!」
上半身への突き、突き、突き、突き、からの足先に対しての突き、と思えば顔面に対しての薙ぎ。速度が上がり過ぎて防戦しか出来ねぇ。つーかギズモのブレスや近接に対応して更に俺に攻撃仕掛けてくるってお前の速度どうなってんの!?
一気に攻撃速度が上がりソレに対応する為に必死に体を動かすが余りの速度に受け流すだけで一杯々ゞ、というか無理やり対応する為に速度を上げたせいで呼吸が浅くなり酸素が持たん。
時間にして凡そ30秒。その間に攻撃速度が約3倍程に上がったランサーの槍は二度、俺の体を貫いたが分身の術がダメージを受け持ってくれた。そのお蔭で如何にかランサーの槍を弾いて距離を取る事が出来たがたったの30秒で息は乱れて汗も尋常じゃなく溢れる。
荒い呼吸を整えながら手だてを考えるがあの速度は流石にどれだけドーピングしても追いつけそうにない。つーかジョブに縛られ状態じゃ無理なのが痛いほどわかる。
「っへ。どうした? 無手の時に比べて大分やりにくそうだな?」
「そりゃまぁ? 状況が違うからなぁ。つーか想像以上にあんた速過ぎだよ」
「そらどうもっと!」
掛け声と同時に飛び込んでくる突きを受け流そうとするが間に合わず左肩を貫く。痛みに耐えながら如何にか右手で握り込んだ槍を使い反撃をするもあっさりと避けられて距離を開けられる。
「成程。この位がオメーの限界速度か、無手の時を参考にしてたからっよ。もちっと上があると思ったんだが……コレで詰みか?」
余裕のランサーに対して槍を持って警戒するが関節を貫かれた左肩の所為で力は入らず、腕を持ち上げる事も出来ない。柳洞寺での戦闘と先ほどまでのランサー相手で、ある程度は通用するなんて思っていたが明らかにまだ余力のあるランサー相手に出し惜しみすると死ぬ未来しか見えない。
焦りが心を塗りつぶし始めたがライダーとの交信で援軍が直ぐそこまで来ており1分と待たずに到着すると連絡があった。それを受けて先ほどまでの焦りと不安から来る腹痛が無くなった。
だが本気のサーヴァント相手だと此処まで一方的になるのかと思いながら余力を残すという考えを捨てて、右手に持った槍の穂先を地面に向けて突きたて大きく息をする。
「ギズモ、【送還】」
その一言でギズモの体は光の粒子となり大気へ溶けるように消えていく。あわせて取り出したハイポーションを傷口にぶちまけて傷を塞ぐ。
回復するのを何も言わずにランサーは見ている。まるで今からやる事を分かってるかの様に『さっさとしろ』と言わんばかりに口角を上げて槍で遊んでる。
思わず笑って体の力が抜けた所で突き立てた槍も影の中へしまい込む。再度深呼吸をしてから体に不備が無いかを確かめるように手足や肩、腰等を動かして骨を鳴らして息を吐く。
「マート老、使います」
そう呟いてから今まで付けていた【JOB】を全て外す。ジョブを外した傍から自分の手足が躰がミチミチと音を立てて膨らんでいくのが分かる。
体格が総じて一回り大きくなり感覚が先ほどまでの比ではないほど鋭敏化していく。躰の肥大化が終わったと同時にアスファルトを砕きながら跳躍する。
先ほどまで竜騎士で使っていた【ジャンプ】を利用してのストンプ攻撃。が、やはりランサーには避けられる。
直ぐに追撃で【コンボ】、【短勁】を放つが槍で旨い事防がれたので【ためる】からの【夢想阿修羅拳】で何発か入ったので距離を取るために【空鳴拳】を打つ。するとランサーは自ら後ろへ跳んで空鳴拳のダメージを殆ど相殺して槍を構えなおす。
「っく、クハハハハッ! 何だ、やれば出来るじゃねぇか。出し惜しみしてたのか?」
「馬鹿言え。奥の手だから使いたくねーんだよ(反動あるし)」
口には出さないがジョブ無しで戦う技法はマート老に教わった。といってもあの人程に武を収めていない俺だと本来ジョブという枠に収めている技能が自分の躰に跳ね返り反動で動けなくなる。
因みに躰が一回り大きくなっているのが跳ね返った結果。これを解除した後はアホみたいにしんどいし倒れるが、此処で使わないと時間稼ぎすら出来ずに終わりそうなので出した。
悪態をつきながら【プロテスV】【シェルV】【空蝉の術:参】を使い【マイバック】から【エクスカリバー】【イージス】を手元に呼び出してランサーへ突っ込む。
右袈裟懸け、からの踏み込んでシールドバッシュを行いつつ剣を引き戻し勢いのままに喉狙いの突き。コレを悉く躱し流し突きに合わせて反撃してくるランサーの槍をイージスで流しながら盾で殴る。
受け流そうとランサーが後ろに飛ぶが逃がしてたまるかと追撃の【ファストブレード】を繰り出す……いや、繰り出そうとした。だが次の瞬間にはランサーへ追撃を仕掛けようとしていた右腕は持っていた剣ごと吹き飛び十を超える刀剣が俺を貫いていた。
何か毎回主人公ぽっくり逝ってるな。
ひどい目(逝く)