祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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えー、今回は若干の原作キャラ強化や性格の下方修正(?)が入っております。
また性的な表現も分かりにくいですが入ってますのでご注意ください。


19話 試練

有香が奥の手を出す暫く前、桜の携帯電話が鳴る。ソレを取ったのは持ち主の間桐桜……ではなく遠坂凛だった。

 

「はい、もしもし」

 

ナチュラルに携帯を取る辺りに妹がハイライト無しの目で反応しているが凛は気が付かない……というより電話口の相手が何の反応も無いのが気にかかる。

 

「もしもし? もしも~し?」

「凛、少し貸してみろ」

 

見かねたアーチャーが現界して受話器を受け取り耳に当てると声を発する前に沈黙してしまった。その事に凛と桜は怪訝な顔をして問いかける。

 

「ねえ……ちょっと。何で黙り込むのよ」

「あの……誰からの電話なんでしょうか?」

「着信はあの元教師だな……凛、あの二人が出かけてからどれ位経つ?」

「は? 出かけて……昼過ぎに出てるから1時間位かしら?」

「雪布病院に行くって言ってましたからもう帰ってくるんじゃないですかね」

「……なるほど」

 

居間の壁に掛けられた時計を見ながら携帯を耳に当てて一人納得顔のアーチャーに速く説明しろと凛は言う。ソレを受けてアーチャーが口を開けば電話越しに戦闘音が聞こえるとの事。

 

「それってつまり二人からのSOSって事じゃない?! 何でアンタはそんなにのんびりしてんのよ!」

「わ、私、先輩呼んできます!」

「何、あの男ならある程度は持たせる事位は出来るだろう。勇んで浮ついた足取りで駆けつけるよりもきちんと準備をしてから向かった方が良かろう」

 

ああ言えばこう言う自分のサーヴァントに凛はカチンと来るが言ってる事はまともなので一息ついて冷静を取り戻す。こちらの戦力はセイバー、アーチャー、バーサーカー、ライダーにマスターが4人。

思案していると話を聞いた士郎、セイバーが来たので直ぐにキャスター組に連絡を取る様に言うと固定電話から誰かに連絡を入れている。おそらく葛木の携帯に電話しているのだろう。

これでサーヴァントが6基、アサシンは動けないとして相手は消去法からランサーのサーヴァント。相手マスターは……恐らく言峰綺礼の可能性が高い。

認めるのが癪だがあの元先生は有能だ。魔術師としてみたら出鱈目だけど物事を冷静に見て何かを導き出すという点では私、遠坂凛の知る大人の中では群を抜いている……と思う。

だから元先生が綺礼に対してあんな事を仕掛けたのにも理由がある?

昨日の夜に流れた速報では言峰綺礼が指名手配をされ『教会の地下に繋がれた子供、笑顔の裏に潜むその凶悪犯の心理』等と報道されていた事から魔力を搾り取る為に人間を飼っていたと推測出来る。じゃあ何のため?

サーヴァントに十分な魔力を提供する為……でもそれだとニュースの中で「生きるか死ぬかギリギリの食事しか与えられず骨と皮の様な姿」と報道されたのは可笑しい。聖杯戦争が始まってまだ数日しか経過していないのに骨と皮だけに見える程に拘束時間が長い訳が無い。

答えが見えてこないがあの綺礼の事だから碌な事では無い。自分が考えている以上に悪い事が起きてる事を想定するべきだと勘が告げている。

 

「衛宮君! アインツベルンも直ぐ呼んで! 勘だけど総力戦で行くわよ!」

「え……っと、遠坂? 中真が襲われてるんだよな? 早く行かなくていいのか?」

「綺礼の奴が今回の聖杯戦争に深く関わってるのよ……」

「教会の神父だよな。それがどうしたんだ?」

「運営側って認識だったけどよく考えたらそうじゃ無いのかも。……すごく嫌な予感がするの、戦力を集めておいた方が良いわ」

「……分かった、確か近所のコンビニにセラ達と行くって言ってたから迎えに行ってくる」

「出来るだけ急いで頂戴」

 

返事もせずに出ていく衛宮を見ながら遠坂の思考は段々と加速していく。今回の聖杯戦争、言峰綺礼の不可解な行動、そして彼女はふと思いついてしまった。

『前回の聖杯戦争に綺礼は参加していたのか?』 一度考えると色々と怪しく見えてくる自分の兄弟子に背筋が冷える。信用はしていないながらも、少なからず多少は信頼していたがここに来てその相手が信頼できなくなってくる。

まるでダイビング中に酸素ボンベを取り上げられる様な息苦しさを感じながら彼女の思考はどんどん悪い方へ考えが膨らんでいく。「そんな」「まさか」といった『if』は元々優秀だった彼女はある可能性を導き出す。

あり得ないと思いながらも頭脳明晰な彼女はその考えを捨てきれないままに戦場へ出向く支度を整える。

 

 

 

「もしもし?セラか?」

『どうしました? 衛宮士郎。わざわざ携帯で』

「今三人で近所のコンビニに居るよな?」

『えぇ』

「今さっき電話がかかってきて中真……イリヤが傷を治した人居ただろ。アイツが今サーヴァントに襲われてる、全員で助けに行くからイリヤとバーサーカーにも手伝ってほしい」

『わかりました。お嬢様にそうお伝えしましょう。どこで合流しますか?』

「俺がそっちに向かってる。ソコで合流してから一度家へ戻る」

『待って下さい。今は衛宮士郎、あなた一人ですか?」

「そうだ」

『……直ぐに家に戻りなさい。こちらはお嬢様を連れて直ぐに貴方の家へ向かいます。』

「いや、でもな」

『戻りなさい。これはお嬢様の命令と思いなさい。伝えた時に戻っていなければお嬢様は貴方にお説教をする必要が出てきます』

「わ、わかった……戻るよ」

 

駆け足で向かっていた脚を止めて電話を切る。中真の忠告通りイリヤ達に携帯を持たせておいて良かったと思いながら士郎はイリヤが一緒じゃない状態で戻ると遠坂が煩そうだなと考え足取りが少し重くなったのはご愛敬だろう。

士郎が家へ帰り付くとソコにはキャスターが、更には先ほどまで確実にコンビニに居たであろうイリヤ一行が既に帰宅していた。

 

「衛宮君遅い!」

「え、えぇ……何でコンビニに居たイリヤ達の方が俺より早いんだ?」

「何でってリズに背負ってもらったから」

「だから言ったのです、直ぐに戻れと」

 

あっけらかんと言うイリヤとヤレヤレと言わんばかりの溜息を吐くセラ。そんな二人を見て肩を落とす士郎を見て空気を入れ替えるように遠坂が両手を叩いて全員の注目を集めて準備を進めていく。

必要な物が揃った所でサーヴァントは全員が戦闘態勢、マスターも戦闘に必要な道具や触媒を持ち戦える心構えを済ませていた。場所に関してもアーチャーが既に電話口の戦闘音、そして反響具合からある程度目星を付けて屋根の上から町を観察し場所を割り出している。

準備を完了させた全員が各々のサーヴァントの力を借りて最短で戦場へ駆ける。

 

 

 

 

 

有香とクーフーリンの戦闘を高みの見物と言わんばかりに屋根の上から眺めるギルガメッシュと言峰綺礼の姿があり、ギルガメッシュに至っては黄金の椅子に座り眼下の戦闘を肴に酒を飲んですらいる。先ほどのちょっかいをあの男が凌いだのが面白かったのかとても機嫌が良い。

 

「くははははっ、見ろ言峰! まるで出来の悪いヒーローショウだぞ! あ奴変身しおったわ!」

「中々興味深いな。先ほどの宝具を受けた後にソレ自体を無かった事にしたのも気になる」

 

暫く笑っていたギルガメッシュが不意に笑いを収めて酒を煽る。

 

「……どうやらお前の客が来た様だぞ、言峰」

「ふむ、少し彼等と話してくるが……ギルガメッシュはどうする」

「よい。お前はあの雑種どもと戯れていろ。我はアレに興味がある」

「ふっ、仰せのままに」

 

言峰の戯言に付き合うつもりは無いので自由にさせる。それよりもアレだ。アレは人だ……だが中々面白い中身をしている。

中に何人入れているか分からんが少々特殊なモノも入っていよう。我が手を出す価値があるものか……。

 

「さて、少し試練を与えようか」

 

 

 

 

 

衛宮一行が各サーヴァントの背に乗ったり抱えられ、もう直ぐ現場に到着するという所で飛来する何かを感知したセイバーは士郎を地面へ下ろして飛来物を剣で迎撃する。甲高い金属音を響かせて迎撃されたソレは黒い十字架を模した剣だった。

 

「やあ、少年。参加の意思を表明して以来か?」

 

警戒したセイバーと士郎の前に現れたのは何時ぞやに会った言峰神父。相変わらず何を考えているのか分からない表情で士郎を見据えながら物陰から這い出る様に体を現す。

 

「どいてくれ、あんたに構ってる場合じゃないんだ」

「ほう? 何か急ぎの用かね?」

 

士郎がニヤニヤ顔の神父にいら立ちを感じながら肩から下げたバックに手をかけると近くの建物の屋根から遠坂が下りて士郎の目の前に立つ。遠坂が出て来た事で士郎の手は止まる。

 

「ねえ綺礼、エセ神父であるアンタが今この場に居るのはどうして?」

「凛、監督役の私が此処に居る事が疑問かね?」

「ええ、平時なら兎も角アンタは既に犯罪者として一躍時の人よ。教会も別の監督役を送ってくるだろうし魔術協会だって他の人間を送ると連絡してきたもの、なのにアンタは相変わらず此処に居る。何が目的なの」

「ふむ……理由の言語化か。中々難しいな」

「また誰かのトラウマでも抉ろうっての?」

「そうだな、ソレもある」

 

そう言って言峰は周りを見回して見る。

 

「セイバー、アーチャー、それにバーサーカーか、随分と集めたものだ。凛、君は自分の力だけで聖杯戦争を生き抜くのではなかったのかね?」

「通常の聖杯戦争ならそうしたわ、けどアンタが裏で糸を引いてるなら話は別よ」

「ほぅ、私が糸を引いていると……」

「多分だけど……あんた前回のマスターの生き残りでしょ」

「遠坂?」

 

行き成りの凛の推論に士郎は戸惑うが言峰は手で口元を隠すが目が笑っている事を隠せていない。少なくない付き合いの凛には自分の推論が当たっている確信を得ると同時にもう一つの最悪のパターンを確かめずにはいられない。

魔術刻印を起動させ何時でもガンドを撃てる体制で問いかける。

 

「もう一つ……お父様を殺したのはアンタなの? 綺礼」

「えっ? 遠坂の親父さん?」

「さあ! 答えなさい!」

 

気迫の籠った遠坂の問い掛けに対して言峰がとった行動は『堪え切れずに笑う』だった。肩を震わせながら静かに、だがとても嬉しそうに口元を隠して腹を抑えながらも楽し気に笑う。

ひとしきり笑った言峰はまるでネタ晴らしだと言わんばかりに手を広げ言う。

 

「そうだ」

「~~~~ッ!!!!」

 

半ば予想していた答えに遠坂がガンドを放つが言峰はその軌道を当たり前の様に見て避ける。立て続けに放たれるガンドの連射をほんの少しの体捌きだけで避けきる言峰に凛は歯噛みをし、士郎は目を見開いて驚いている。

遠坂のガンドを避けていた言峰に士郎の横を駆け抜けセイバーが上段から斬り付けると手元から何かを出したと思えばソレは行き成り刃が成形される。セイバーの剣を受け止めると一瞬だけ拮抗するが直ぐに砕けてしまうがその一瞬で言峰はセイバーとの間合いを開けてしまう。

神父の体捌きに唖然とする士郎に対して歪な笑顔を崩さぬまま語り掛ける。ガンドとセイバーの剣劇が入り乱れる最中で神父は尚も士郎に注意を注ぎながら。

 

「どうした少年? 君は何もしないのか?」

 

自分と相手の実力差に唖然としながら何故この男が自分に固執しているのか士郎にはわからなかった。答えが出せず呆然としているとアーチャーの援護まで追加されると流石に捌くのが難しいのか数回被弾し怪我を負う。

 

「ふう、流石に多勢に無勢。こちらも手数を増やすとしよう……『来い、ランサー。サーヴァントの相手をしろ』」

 

そう言峰が言葉を紡いだ直後、ソコには有香と対峙していたはずのランサーの姿があった。

 

「っち、消化不足だ。俺の憂さ晴らしに付き合ってもらうぜ」

 

そう零したランサーは言峰を狙っていたセイバーの顔面を狙い突きを繰り出す。鋭い一閃を不可視の剣で防ぐと同時にセイバーの腹に衝撃が貫き吹き飛ばされる。

傍から見ていた士郎はランサーの突きと同時に出した蹴りがセイバー入って衝撃を逃がすようにあえて吹き飛んだ様に見えたが、アーチャーは槍よりも蹴りの方が本命である事を見抜いた。

 

「お? 見様見真似だがこりゃぁ案外いけるか?」

 

そう言いながらランサーは先ほどの有香が見せた様に両の手で槍を取りまわして見せる……といっても有香が行うようなゆったりした動きではなく動きを何倍も速くしたもので手元から槍の動きを想像しないと槍の先は殆ど見えない。

槍の取りまわしを急に停めたランサーは道路から一瞬で屋根の上から狙撃を狙っていたアーチャーの背後へと移動、背後からの一撃を投影していた双剣でコレを受け流すが同時に放たれた蹴りを処理できずに肩で受けてしまう。

肩に当たった蹴りの衝撃は肩から胴へ伝わり右腕を貫く。更に衝撃が大きい為、足元の踏ん張りが効かずに3軒ほど隣の屋根まで吹き飛んでしまう。

この蹴りの特徴に少なからず知識があるアーチャーはランサーが使える事に驚きを隠せない。というよりも何故使えるのかという疑問が思わず口から出てしまう。

 

「この腕の痺れ……何故君が中国拳法の『発勁』を使える」

「あ? 別にそういったのは知らねえよ。ただ……さっきまで相手してた奴の見様見真似だ」

「見ただけで再現しただと?」

「食らったら奇妙な感覚だからな、使えりゃ便利だろ」

 

ランサーの言葉からあの元教師がその手の事が出来るのに少なからず驚くが、それを見ただけで自分の中に取り込んでしまっているランサーに絶句してしまう。そしてそんな隙をランサーが逃すわけもなく追撃が始まる。

ランサーの発勁モドキの蹴りを受けてしまった左肩はダメージが大きく左腕は上手く動かせない。更にその衝撃が伝わった右腕は動かせなくはないが少しぎこちなく軽い麻痺にかかったような感触で動作がワンテンポ遅れてしまう。

二刀というアドバンテージが発揮しきれずランサーの槍が振るわれる度に傷が増えていく。槍がアーチャーの胴に穴を開けようとした時、横合いからの一撃を避けるためにランサーが距離を取る。

援護の一撃で助かったが思わず皮肉の一言が出るのはアーチャーの性格故か。

 

「ふう、助かった。だがもう少し早く援護に来てほしかったな、セイバー」

「ランサーに受けた一撃の影響が思いのほか抜けきれずに遅れてしまった。損害は?」

「左肩をやられた。その影響で右腕の痺れ。近接では元々不利だったが……あのまま続けてたら負けていた」

「では貴方は本来のクラス通り後方へ。私が前を受け持ちます」

 

 

 

 

 

「さて凛、サーヴァントはサーヴァント同士でやりあってる……ならばマスター同士もまたソレに倣うべきではないかね?」

「冗談でしょ。それは単にアンタが自分の土俵に私達を上げたいだけじゃない」

「ふむ……では言葉の剣で戦うとしよう。師である時臣氏の様に」

「っ!!」

 

言峰の一言に反射的にガンドが放たれるがソレを手元から出した剣で防ぐ。遠坂のガンド撃ちではらちが明かないのを察した士郎は言峰の言葉に乗る事を決めて口を開く。

 

「なあアンタ。言葉でって言ったけど話し合いをするって事でいいのか?」

「衛宮士郎……そうだな、私はその為に此処に立っている。サーヴァントと対峙する事になるのを承知した上でだ」

「じゃあアンタはその……聖杯戦争を止めたいって事で良いのか?」

 

その一言を待っていたとばかりに言峰の口元は歪む。

 

「いいや。私は聖杯戦争の調停を望まない。むしろ達成を望んでいるのだよ」

「なっ、何でだよ! 話し合いがしたいってのはそういう事じゃないのか?」

「少年。前提が違う。私は聖杯戦争を成立させる為に話し合いを行っているのだ。この意思は何を言われても変わらない」

 

根っからの善性を持つ衛宮士郎は言峰の言葉の意味が分からない。誰だって人が傷つく事、死ぬ事を良しとしないし出来るなら誰もが幸福であって欲しい、そんな理想論が根底にある少年の思考は目の前の神父の革を被った破綻者には辿り着けない。

紡ぐ言葉が思い至らない士郎を横目にガンドが無駄だと思った遠坂は撃つのを止めて言葉を放つ。

 

「それで、聖杯戦争を止めるつもり無い教会の監督者でランサーのマスター……それに前回のお父さまのサーヴァントまで持ってる意味を説明して貰おうかしら」

「凛。そんな態度では君の家訓を守れるのか? 師は常に言っていたと思うのだがね『常に優雅たれ』と。そのお蔭で最後のあの時はとても心が躍った」

「相変わらず嫌な趣味してるわねアンタ。お生憎様だけどマスターとしてアンタと対峙する以上、あんたの好きなトラウマ弄りには付き合ってやらないわ」

「そうか、それは残念だ。では先に君への用事を済ませよう。要件は2つ、時臣氏の最後に関する事と遺産に関してだ」

「いけしゃあしゃあと……」

「遺産に関して私が後見人となり大半を運用しているが……とても私の役に立ってくれた。お蔭で君を学生とする事も出来、君の母君はとても喜んでおられるよ」

「………………何を言ってるの?」

「師は家族を残されて逝く事に多少なりと後悔を持っていた。だからこそ師のそんな父としての願い位は叶えねばと私なりに貢献したつもりだ」

「ねえ!アンタなんて言った!!」

「それから、常に持ち歩くようにと言っておいたアゾット剣は帯刀しているかね? もし持っていなかったら興ざめだ」

 

歯を食いしばりながら遠坂はコートからアゾット剣を出して時臣に対して構える。それを見た言峰は目元を緩ませ満足そうな顔で凛と士郎を見る。

 

「そう、その剣が君の父、遠坂時臣氏を殺した剣。そして母君の腹を割いた剣だ」

 

凛は目の前の漢が言った言葉が理解できなかった。最悪の予想はしていた。

第四次聖杯戦争での父親の死に言峰が関わっていた可能性、最悪は下手人が目の前の男という可能性。だが先ほどの一言で疑うべき事柄が増え、人として混乱している頭でも魔術師として機能している彼女の脳の一部は冷静に且つ残酷に想像が進む。

心臓の鼓動が早くまるで全力疾走をした直後の様に息は荒く、普段なら考えが回る頭は思考が混濁する。目の前の現実が歪み視界が朦朧とする中で震えながら出て来た言葉は問いかけだった。

 

「私のお父さまがアンタの手にかかったのは分かった。腹が立つけど飲み込むわ。でもさっきの話にお母さまが出てくるのは何故? あんたはお母さまの何を知ってるの?」

「どうした凛。剣先がブレる等優雅ではないぞ?」

「答えなさい! 綺礼!!!!」

 

怒声を上げ気丈に剣を構えるもその剣先は震え、上げる声は大きく声量とは裏腹に言葉の裏の不安が聞き取れる。そしてその眼はまるで親から捨てられた子供の様に不安と理不尽に対する怒りが綯交ぜになり一言二言で感情があふれ出るだろう。

その声が、表情が、目の前の男を喜ばせてしまうものだと分かっていても彼女の人としての部分は男の言葉に揺さぶられてしまう。

 

「凛、君の誕生日の度に私は君にプレゼントを渡していたのを覚えているかね? 触媒として使用できるブラックダイヤモンドだ」

「それが! 何よ!」

「あれは君の母君が産み落としたモノだ」

 

今自分は地面に立っているのか、それとも座り込んでしまったのか。綺礼の声は聞きとれるが平衡感覚が機能していないのか地面が揺れる。

男の言っている事が分からず、理解できずに疑問の声は口から洩れてしまう。

 

「何を……言っているの?」

 

今知るべきではないと魔術師の頭が警告を発しているが人である部分の彼女が反応してしまう。

 

「どうした凛。普段の君ならある程度想像がつくのではないかね?

 つまり君が葬儀で見送った母君は別人で、本当の母君はついこの間まで生きていたのだよ。もっともその役割も終わったので処分してしまったがね」

「何を……言って……」

「君の兄弟……いや、この場合は姉妹か? ソレ等を使っての魔術はとても成功率が良かっただろう? 何せ肉親から作られたモノだ相性も格段に良い」

 

言峰の言葉に過呼吸になってしまった遠坂を労わる様に士郎が支える。だがソコで言峰の口撃は終わらない。

 

「その触媒の生産に携わった身としては君の魔術の習得に貢献出来た事は兄弟子としてとても誇らしい。母君も死を偽装してまで君の魔術師としての能力に貢献したのは誇りある物として受け止めてくれるだろう」

 

その一言に母の身に起こった出来事を想像してしまった凛は吐いてしまう。彼女は想像してしまった。

衰弱していた母が汚された場面を、そして知らなかったとはいえソレから作られた触媒を喜々として利用し魔術を収めていた自分を顧みて嫌悪感はピークを迎える。

士郎は剣を取り落とし嘔吐してしまう兄妹弟子を見て悦に浸る言峰綺礼を相容れない相手だとここに来て漸く判断する。目の前の男は悪であると。

 

 

 

 

 

ランサーが言峰綺礼に令呪で召喚される少し前。有香にギルガメッシュの試練が襲い掛かっていた。

 

右腕に熱を感じたと同時に体を衝撃が貫いた。ランサーに向けて踏み込んだ勢いは制御しきれずに足が縺れて地面にぶつかってしまう。

倒れ込んで漸く自分の躰に刀剣が貫いていることに気が付いた。目の前のランサーに集中し過ぎてアーチャーの存在を忘れてしまっていた。ある意味一番気を付けるべき相手の事が頭からすっぽり抜け落ちていた。

その代償が自分の躰を貫くコレ等というのは代償としては重すぎる。そしてマズイのはこの刀剣が『消えない』事。

うすぼんやりと覚えてる映像だとアイツは攻撃に使った後は直ぐに武器を消していたが何故か今は消さない。ヴァナディールならホームポイントの設置という保険があったがこの世界じゃソレが無い。

だからこそ『異物が入り込んでいない体』というのがリレイザーで蘇るための最低限のライン。目の前のランサーもヤバいが今は何より体に残る武器がヤバい。

あふれでる血やモツをそのままに立ち上がる。呼吸と共にあふれ出る血の味に眉を歪めながらランサーを睨むと忌々し気な顔でアーチャーの方を一瞥した後、俺に向けて槍を振るってくる。

咄嗟に残された左腕とイージスで止めようとするも動きが間に合わず胸の中心に槍が深々と突き刺さり勢いを受け止め切れず、そのまま後ろへ倒れ込み俺の自重で刀剣が更に深く体を貫く。

ランサーが何かを言ってるがソレを聞き取る余裕も無い。胸に刺さった槍を抜き取り俺に止めを刺そうとしたランサーが唐突に消えたのを最後に頭に響く何かの音を聞きながら俺の意識は飛んでしまった。

 

ギルガメッシュはそんな有香を見ながら思案する。

あの男は間違いなく人で、魔獣や幻想種などで無い事は間違いない。だが同時に普通の人間でない事も分かる。

人の身でありながら体の中に別の人間が居る。二重人格等ではなく完全に別の個体として中に存在しているのが分かる。

しかもギルガメッシュの眼を持ってその姿かたちを見通せば、凡そ人とはかけ離れた存在でありながらもギルガメッシュにはソレが人である事が分かる。

自分の眼は間違いがない、だが人の形からは逸脱したソレがとても面白くギルガメッシュの興味を引き付ける。

 

「存外あっさり試練に落ちたな……さて、このまま躰を割けば中身が溢れるか? それとも穴を開ければ出てくるか……そら、追加だ。特とその姿を我に見せよ」

 

呟きと共に有香の体に刺さった刀剣が彼の体ごと浮かび上がり、まるで磔で捌かれる罪人の様に宙に晒される。そして彼を取り囲む様に展開される『王の財宝』から様々な武器が顔を出しその攻撃性を体に刻んでいく。

有香の体が針山の様になった頃、そこに天を貫く巨大な光の柱が立ち上る。

 




※本文に出てくる病院名は適当です。
初めは都市名+病院を考えたのですが・・・検索したら普通にあるっぽいので適当に作りました。
(冬木病院→冬=雪、木→キ→着物→布、じゃあ雪布でいいやという謎ロジック)

※蘇生時の異物=宝具
普通の武器や鉛玉は問題なし。

はい、ランサーさんしれっと強化です。食らった【短勁】で見て覚えて「発勁」を再現してます。
影の国の女王の弟子ならこれくらいイケルイケル!といったノリで強化されました。

言峰神父は……元々破綻してるし愉悦部だからこれくらいやるかなと
言峰ファンの人はもうしわけない。何か筆が乗ったんです。

ギルガメッシュさんの千里眼は何か今一要領を得ない書かれ方されてたので「人相手なら大体読み取れるやろ」という事にしておきました。
表に出てこれる人は見渡せるって事で一つ。
尚、使徒=人は公式設定。(のはず)

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