光の柱を見つめながらギルガメッシュはその中身を見ていた。柱の中に内包されたモノが現れては戻り、現れては戻りと男の躰を媒介にして目まぐるしく入れ替わる。
それをまるで何が出てくるか分からないびっくり箱の様に心を躍らせながら酒を煽る。
「くはははっ! 良いぞ道化! 中々に演出という物が分かっているではないか。さあ、その中身を我に見せよ!」
その言葉に呼応するかのように柱が消え、男は武器に貫かれたまま自分の足で立っている。流れ出ていた血は止まり傷口には青い粘膜の様なモノが見て取れる。
身じろぎをすると武器同士が当たりガチャガチャと金属音が鳴り行動を阻害するのでまともに動けず、ふらついてはバランスを取るといった行動を繰り返している。
「ほぉ……この国の言葉に『二人羽織』というものがあるがその状態は『三人羽織』という訳か?」
その滑稽さを暫く眺めて次なる試練をと『王の財宝』から手頃な武器を展開する。射出された1本の剣は眼下でふらつく男の頭蓋を砕く軌跡を描きながら真っ直ぐに飛んでいく。
剣が当たったと思った瞬間甲高い音と共に男が仰け反る。そのまま後ろに倒れ込む様に見られた体は体中に刺さった武器を鳴らしながら倒れる事無くその場に留まった。
良く見れば頭に刺さっているのではなく口で剣を加えて止めている。当然ながら剣幅の所為で口の端は斬れて血が出ているがしっかりと刃を止めている。
「ふっ、ハハハハハハ! くち! まさかの口かっ! ハハハハハハハ、流石にそう来るとは思わんかったぞ! 良い良い、さぁもっと我を楽しませろ!」
興が乗ったのかギルガメッシュは百を超える王の財宝を展開し各種宝具を次々と男へ打ち込んでいく。立っている事自体が不思議な状態の男に向けて放たれる数え切れぬ白刃は寸分たがわず男の体に当たり一層針山の様に飾られていく。
全身の至る所に武器が刺さり、かろうじて視認できるのは男の顔右側の一部。ソコを覗くと最早人型のシルエット状に武器が集まっているとしか見えない。
「ほう、これでも倒れぬか。ふぅむ……ならば次は……ムッ?」
ギルガメッシュが次の試練を思案していると男の右腕があった個所、切り落とされた箇所の武器が不意に蠢いた。蠢きは段々と動作を大きくしていき一度ピタリと止まると男の全身が大きくブルりと震え、直後右腕から大量の青い粘膜の様なモノが溢れだしてくる。
溢れたた粘液は男の体に刺さった武器ごと全身を包んでいく。ソレに合わせて宝具の雨を降らせると粘液に当たる寸前にATフィールドに弾かれ周りの地面を抉り取るだけに留まり男の立っていた場所を残してクレーターが出来上がる。
時折粘液が盛り上がりながら流動するソレは一見してアメーバーに見えるがギルガメッシュの眼はソレがまごう事なき『人』であると訴える。人の可能性、人の別の形がコレだと示す目の前の存在に気分が乗った。
「さぁ人の形を捨てた人よ! もっとだ! 貴様の本質が獣か、それともそれ以外か、本質をさらけ出してみよ!」
ギルガメッシュの言葉に応えるかのように粘液は震え一部がまるでカメレオンの舌の様に伸び、斬り落とされた右腕を拾い断面をつなげる。繋がれた右腕と剣の一部を粘膜が覆い、まるで確かめる様に指を動かす。
ソレに合わせて体に突き立てられた宝具に異変が起きる。突き刺さっている部分から青いナニカがまるで染色が布に染みこむ様に宝具を侵していく。
英雄王が次の宝具を射出した直後、男の足回りに突き刺さっていた宝具は全体を青に侵され、直後ずるりと体に引きずり込まれ傷だけが残った。着弾した宝具がもうもうと土煙を上げる中その後方、不自然な形で道路の上に立ちながら男は次々と突き刺さった宝具を体に飲み込んでいた。
全身を覆っていた宝具が消え傷口から肉の色ではなく青の粘膜が見える男はまるで動かしづらい体を無理やり動かす様に錆び付いた可動部を動かすロボットの様な緩慢さで四足歩行の姿勢を行う。
「■■■■■■■■■■―――――――――――――――――――――!!!!!!!!!!」
金属同士を擦り合わせた様な音を叫びながら男は地を這う様にギルガメッシュへ向けて駆ける。それを予見していたように宝具の弾幕で阻止を狙うが正面からの攻撃は剣と盾で弾き、左右からの攻撃はATFに阻まれ失敗に終わり男は尚も駆ける。
ならばと頭上や背後も含めた全方位に展開された王の財宝からの宝具射出に対して男が見せたのは『両手を物理的に伸ばし迎撃する』という方法だった。その手法には流石のギルガメッシュも驚き思わず目を見開いてしまう。
その隙を逃すことなく足元に展開したATFを使い自身を射出、アーチャー相手に見せたATFを利用した立体軌道でギルガメッシュの頭上から両手持ちのエクスカリバーを叩きつけるも上空を取った段階で展開された宙に浮く華に阻まれる。
3枚の花弁を叩き割る事が出来たがソコで留まりギルガメッシュの左右から射出された宝具で両脇を抉り取られ再び距離を離されてしまう。傷口からあふれ出る血を粘液で抑え込み再び男がギルガメッシュへの疾走を再開させようとした時、世界が一変した。
空には巨大な歯車
地面は砂
汚染を思わせる赤い空
無数に突き立てられた剣
草木は無く
生物の形も無い
「固有結界、そこ彼処に並べられた贋作の宝具……。下らん心象風景だ。そうは思わんか?」
ギルガメッシュが周りを見渡して心底落胆したが目の前の男は混乱していた。男は、否、体を操っていた第11使徒のイロウルと第13使徒のバルディエルは戸惑っていた。
器の体を蘇生可能状態に戻す事を最優先とし体に突き立てられた邪魔な武器を引き抜こうとするも器の出力が足りず叶わない。ならばと浸食し邪魔な武器を取り込む事でどうにかしようとすると今度は目の前の男が蘇生を阻害する武器をまた投げつけてくる。
これではイタチごっこになると避けながら一先ず体に突き立てられた武器を取り除くが、尚も攻撃してくる男が煩わしかったのである程度邪魔な武器を取り除くと受け身ではなく攻めに回る。
彼等本来の体なら直ぐに対応できるが如何せん器の体は出力が小さく思い通りに動かすのにも苦労する。アレを倒してから蘇生を行えばと思っていたがソレが叶わない事を手痛い反撃で判明した今、ギルガメッシュは排除対象となり本格的に立ち回ると決めた瞬間に周囲の状況が激変。
暫く周りを眺めたものの邪魔するモノは無いと認識し再び戦闘態勢に移る。足元が青く染まり先ほどまで獣染みた動きが少しだけ人の動きに近づいている。
割けた両頬を補うかの様に傷を覆った粘液が口の可動域の限界を超えて開き獣の咆哮を上げる。その咆哮に応えるようにギルガメッシュが宝具を展開し再び宝具の雨を駆け抜ける事となる。
■ ■ ■ ■ ■
時は少しだけ巻き戻り、固有結界が展開される前。綺礼と遠坂達の争いは佳境に入っていた。持前の速度に加え発勁という使い勝手の良い攻撃法を覚えたランサーにセイバーとアーチャーはジリジリと削られ、綺礼の口撃は更に遠坂を追い詰める。
「どうした凛。高々家族の死を偽造され辱められただけではないか。魔術師として不利益があるならまだしも利益として君に魔術触媒として優秀なモノを産み落とし渡していた……何か不満があるのかね?」
「お前っ……!」
「どうした少年。何か気に障ったか?」
「ふざけるな! そんな事して何でそんなに笑ってられるんだ!」
「……楽しいからだ」
綺礼が答えを口にした途端、彼の顔から表情が抜け落ちる。まるで自分がそうである事を再認識するかのように声に出しながら目線を彷徨わせる。
「そう、楽しいからなのだ……私は所謂『普通』という物が分からない。他人の傷を観察し加虐した際に発生する表情が私は楽しいと感じる。故に……私は私を肯定する為に他人を弄ぶことを是とするのだよ少年」
「ふ……っざけんなぁ!! 他人の家族を殺しておいて楽しいだとか、アンタ狂ってる!!」
抱えていたバックから木刀を取り出し構える。士郎の行動に対して綺礼がとった行動は身構える事ではなかった。
「それがどうした?」
「んなっ……!」
「私が狂っている事など昔から知っている。生きる事を止めた時から……いや、妻を娶った時か」
士郎は目の前の狂人に会話の余地無しと判断し木刀を構えて切りかかる。だが余りにも無謀。
無知とは罪と言われる事があるがこの時の彼はまさにその通りだろう。執行者と呼ばれる言峰綺礼に対し魔術を齧った程度の衛宮士郎が挑むのは余りにも無茶が過ぎる。
結果としてほんの少しの間に士郎の体と武器は刻まれ、叩かれ、圧し折られてしまう。数発の打撃で戦闘など出来ぬ程に追い詰めた士郎を気を失っている凛の方へ投げ捨てると巨大な岩の剣が真上から迫ってくる。
咄嗟の回避を図るが躱しきれぬと判断し黒鍵を手元に出して防御するも岩の剣は黒鍵を圧し折り勢いのまま綺礼の右腕の一部を削り落とす。本来であれば最低でも右腕を斬り落とすはずだった剣を自らが回転する事で肩から二の腕の肉が削がれる程度の損壊に抑えたのは偏に彼の研鑽の賜物だろう。
更には回転の際にバーサーカーの剣を足場に距離を取る事までやってのける。それを家屋の屋上から見ていたイリヤは眼下の男が本当に人間なのかと疑ってしまう。
「やれやれ、奇襲とは魔術師としては如何なものかな。アインツベルン」
「あら、確かに魔術師同士であればそうなんでしょうけど、貴方は魔術師じゃ無いじゃない。教会の監督役でルール違反者なのでしょう?」
「確かに私は今回の聖杯戦争の正式な参加者ではないが……参加権なら持っているのだがね」
「それは何処から調達したのかしら? 私達が持ってる情報から察すると……ランサーのマスターね?」
「そうだ、アレは余りにも実直でね。ソレでは面白くない、だから私が貰ったよ」
「ふーん、でも貴方の遊びは此処でお終いよ。バーサーカーには勝てないんだから」
「あぁ、確かにそのバーサーカーは厄介だ。だから私も切り札を切らせて貰おう、アインツベルン」
「君の両親は生きている」
「……そんな冗談に私が付き合うと思っているの? バーサーカー、やっちゃって!」
嫌悪感を隠し切れないイリヤの言葉に反応しバーサーカーが獣の如き雄たけびを上げながらアスファルトを破砕し弾かれたように綺礼へ迫る。巨躯から繰り出される剣戟を傷を負いながらも避けていく。
ほんの僅かなやり取りで全身がボロボロになる。先ほどの士郎と同じような構図になるがそれでも尚、綺礼が浮かべた笑みは消えなかった。
「アインツベルン、君の母親は前回の小聖杯の器だった。そして前回の儀式は聖杯を産み落とす事に成功し彼女は命を落とした……と、君には伝わっているのだろう?」
バーサーカーに攻撃されながらも綺礼は喋る事を止めない。
「そして最後まで生き残った第四次聖杯戦争のマスターで君の父、衛宮切嗣。彼は病死した……とされているがこの二人は未だ死なず私の監視下にある」
「黙りなさい!! そんな話は信じないわ!!」
「そこの衛宮切嗣の息子は魔術を殆ど知らない。だからあの男の体を回収するのも左程難しい事ではなかったよ」
「お母様は死んだの! キリツグも死んだの! だからあの二人はもう居ないの! 居ないのよ!! バーサーカー早くそいつを黙らせて!!!!」
「食屍鬼(グール)」
綺礼の言葉にイリヤは体を強張らせる。
「正確にはソレに似た別物だが……死んでも肉体と魂を維持する事は可能なのだよ。何を隠そう私がそうなのだから」
「見たまえ、これだけの傷を負いながら血液が殆ど流れ出ない。生きてはいないからだ。だが思考を行い喋る事が出来る」
「だがコレだけ傷つけば遠からず私は停止するだろう。そうなれば君の両親も同じ道を辿る」
言峰綺礼の言葉の毒がじわりじわりとイリヤを侵す。
もう居なくなったはずの家族。新たに出来たバーサーカーとの絆。聖杯戦争という儀式を勝ち残らなければいけないというプレッシャー。
彼女の心を構成するあらゆる情報が秤にかけられ天秤は揺らぐ。魔術師としてのプレッシャーではなく一人の子供としてのプレッシャーに彼女の心は悲鳴を上げる。
心の悲鳴は体に影響を及ぼし異常な発汗と手足の震え。更に常であれば完璧である魔術回路の制御が心の圧力で揺らいでいる。
無意識の内に固く握りしめていた両手が綺礼の次の一言で解かれる。
君は君の手で両親を殺すのかね?
親を求め焦がれる彼女にその毒は余りにも強く、彼女は抗う術を持たなかった。
リアル諸事情でメンタル&フィジカルがガタガタになっているのでちゃんと執筆が厳しい状態になっています。
待たせるのもアレカナーなんて思ったので多少なりと区切りが付けれるところで投稿していこうと思います。