宙に浮かぶウィンドウに映る光景の中心にギルガメッシュが映る。その周囲を飛び回り辺りに突き立てられた武器を使ってギルガメッシュを攻撃する零号機モドキ。
物理一辺倒とはいえその攻撃速度と攻撃回数は苛烈でヴァナに居る時にあんなもん食らったら俺は絶対耐えれそうにない……そんな攻撃を余裕で受けてるギルガメッシュ。
「ゲンドウさん……これどうやったら勝てるかな?」
思わず対面に居る碇ゲンドウに質問を飛ばすが青い顔したままで何も言わない。仕方なくウィンドウを眺めていると何かが頭に引っかかる。頬杖をつきながらウィンドウを睨む。
ギルガメッシュ、今映ってるギルガメッシュが気にかかる……何か似たようなものを見た事がある様な。暫く眺めていて唐突に思い出し思わず笑ってしまう。
「ふはっ、あっはっはっはっは!」
「!? どうした、突然……」
「くっくっく、いや、今映ってるコイツ」
そう笑いながらウィンドウに映るギルガメッシュを指さしながらゲンドウに思い出したものを教える。
「こいつノリマロ! ノリマロに似てんだよ! 攻撃方法がっ! ぶはっ!!」
自分で言って更に爆笑しながらテーブルを叩く俺に意味が分からないという顔を向けながらゲンドウは質問を投げてくる。
「ノリマロとは?」
「はーっ、笑い過ぎて腹痛い。あーっと、何て言うか……ゲームのアレ……なんだっけか。確か格闘ゲームの……そう! マーヴル・スーパーヒーローズ VS. ストリートファイター!」
「格闘ゲーム?」
「そうそう、昔ちょろっとだけやった事あるんだわ。興味あるなら記憶を覗いてみりゃ多分あるだろ」
「ふむ」
会話で冷静さが戻ったのかゲンドウの青かった顔は普段の顔色に戻るのを見てからノリマロの説明に戻る。
「こう文房具をさカバンから取り出してめちゃくちゃに投げる奴、アレに似てんだよアイツ。まーアイツが投げるのは武器なんだけどさ」
「全身を貫かれていたな」
「おー、アレな。めっちゃ痛かったわ」
そう、あれは痛かった。痛いという事を知覚する前にコチラに来たが体が貫かれる痛みは知っている。
ヴァナディールで腹を、腕を、足を、頬を斬られ、抉られ、傷つけられる痛みを知った。今回は全身がそうなった。
あのノリマロ野郎にソレをされた。それを考えると腹が立つ。
痛いのは嫌いだし出来れば争いごとなんざ面倒だから避けれるなら避けたいのが本音。だけど全身ぼろ雑巾の様にされてまでノリマロ野郎から逃げる? 何もせずに?
「冗談じゃねぇぞ」
全身がジクジクと痛む。古傷を抉られる様な痛みが全身から来る。
クゥダフの亀野郎に斬られた肩、ヤグードの糞鳥に抉られた腕、オークの豚に貫かれた脚、爆弾魔のゴブリンに焼かれた顔。過去の傷が一斉に痛みを思い起こさせる。
実際に痛い訳じゃない、訳じゃないが……不愉快だ。
「ムカつくな。もう何か色々巻き込まれてこんな状態になってるけどさぁ。それでもノリマロ野郎にハリネズミにされる理由にはならんよな」
「太古の王をノリマロ扱いか……それにしても宝具だったか厄介なものだな、使徒が出た時点で武力制圧は成ったものと思っていたが」
「ギルガメッシュ……確か手札の多さがキモな人物だな。持ってる物の種類は多いし効果もバライティに富んでる。爆弾みたいな物から医療関係、呪術関係とか多種多様」
「だがアレに勝つ手だてはある……だろう?」
「一応ね、外の風景が町並みじゃなくて砂漠広がってるって事は件の人物のどちらかが使ったんだろ。固有結界っての」
頬杖をつきながら肩をすくめて見せる。どっちもエミヤシロウだからある意味一人だけどさ。
「固有結界か」
「自分の心の中の風景を現実に置き換える? 浸食する? そんな奴」
「随分と都合が良い魔法だな、自分に有利な地形を出せるのだろう?」
「いや、都合の良い地形に出来る訳じゃなくて……なんか強烈な思い出の風景を出せるみたいな」
「……君の此処の様にか?」
「へ?」
「此処は"君の心の中"の風景だ。という事は同じ様な事が出来るんじゃないのか? 君も魔法が使えるのだし」
魔法は使えるけどコッチのは魔術だし……というか固有結界使ってもちょい田舎の風景が広がるだけで特別何か良い事がある訳でもなし。
「それはどうかな。そりゃヴァナディールで魔法は覚えたけどこの世界の魔法……つーか魔術? は学んでないし」
「なら学んでみれば良い。何かと便利な物もあるんじゃないか? 科学で再現が面倒な事を身一つで再現出来るなら便利だろう」
この人こんな事言う人だっけ?
「ゲンドウさん……意外とロマンチストっつーか、中二?」
「ロマンチストか……妻……ユイには割と言われるな」
「へぇ、何か意外」
「元の場所ではユイに会う事だけを考えていた……だが此処へ来て妻と穏やかな日々を過ごしていると色々と余裕が出来てね」
「ヴァナで俺が老衰するまでの時間を過ごしてるって考えりゃ……そりゃ落ち着くか。50年は此処で過ごしてるでしょ?」
「大体ソレ位になるのか? こちらでは君の体験を通して外の世界を見る位はしてるが今回の様な非常時で無い限りは出てこない……というか出れなかったというのが正解か」
出れなかった? 俺が思案していると続きを語ってくれた。
「ヴァナディールだったか、あそこへ流れついた時点で表へ出る為の枠は1つだった。こちらの世界へ来て暫くして枠が増えて同時に2枠、君がこちら側へ居る時に限っては3枠になるがね。
君の体をエヴァに見立てた場合君の魂自体は機体に付属し、魂の拡張によってダブルエントリーが可能になった……という訳だ」
「いや、いきなりエヴァに例えられても……」
「普通なら使徒3体の同時顕現でどうとでもなると高を括っていたが、あの太古の王相手にはむしろ悪手なのだろう。恐らく君が全面に出る方が勝率が高い……が、体の蘇生がまだ出来ていないので表に出る事は無理だ」
「痛し痒しって奴か」
「そうだな……しかし、ココから魔法というモノは使えないのかね?」
ゲンドウさんの言葉に口を付けていたお茶をテーブルに置く。
「それは……どうなの? そもそもこの場所を自覚したのもついこの間だし、心の中って事だけは判ってるけど」
「では質問だ。『心』とは何処に有る?」
ん? 急に哲学的な質問が飛んできたな……。
「えーっと頭か、心臓か、もしくは体のどっかって話?」
「そういう認識か、ならば『此処と体の距離』は零という事になるな」
「……そうなる……かな?」
「では距離的な問題は無い。後は此処で魔法が使えるか試してみるだけだ」
「えぇ……」
原作と比べてポジティブだなこの人……下手に後ろ向きな人と付き合うよりかは断然良いけどさ。しかしこの場所で魔法ねぇ……。
「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』【ウォーター】」
掌を上に向けて【ウォーター】を唱える。ウォーターが発動した感覚はあったが水の球が出てこない?
不思議に手を振ったり表裏ひっくり返したりするも何も無い。
頭に疑問符を浮かべながら唸っているとゲンドウさんが宙に浮かぶウィンドウを此方へ滑る様に投げて来たので見てみると『現実の俺』の斜め後ろの辺りにウォーターが発動していた。
呆けている俺を他所に碇夫婦はこの現象について話し合っている。
ウィンドウの中では『零号機モドキ』が目まぐるしく移動しながら近接攻撃を仕掛けてる……何だろう、目の前のモノが現実離れしてまるでオンラインゲームでもやってる気分だ。
待機してる【ウォーター】のターゲットをギルガメッシュに向けると当たる瞬間にはギルガメッシュの盾に阻まれた。ギルガメッシュが嘲笑った様に見えて何かムカつく……このノリマロが。
ジョブを無しから【黒魔導士/白魔導士】に切り替えて自分にバフを掛けた後、出の早い物から順に唱えていく。弱い攻撃魔法は弾かれる。デバフも同様に弾かれる。
ん? 動きが唐突に止まったけどスタンが入った? あ、モドキに殴られて吹っ飛んだ。スタン効くのか……って事はLv50以上で使える魔法が効く?
「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』円環起動」
試しに【フリーズ/トルネド/クエイク/バースト/フラッド/フレア】を並行で唱える。この魔法の使い方もヴァナディールじゃ場のエーテルが乱れるから結構問題視されたけどこっちなら平気だろ。
タイミングをずらしながら延々と魔法をぶち込む。どうやらソコソコレジストされてるけど全くダメージが通ってない訳でもなさそう。こうなりゃトコトン乱れ撃ちしちゃる。
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
有香がギルガメッシュに対して魔法の乱れ撃ちをしている頃、衛宮士郎一行も佳境を迎えていた。
セイバーがランサーの槍を捌き、アーチャーがバーサーカーに対して五月雨撃ちをしながらライダーが隙をついてその援護を行う。衛宮士郎は言峰綺礼と対峙し傷つきながら周りの剣を無意識に解析し無自覚に自身を強化していく。
サーヴァント同士の闘いは当然ながら、綺礼と士郎の闘いも次第に人外染みた戦闘速度に突入し、凛を抱えた桜はゆっくりと影を纏い周囲を警戒している。
桜に抱えられた状態で意識を取り戻した凛は魔術の強化を使っても援護が難しいと判断し思考というリソースを別の事へ割いていた。
セイバーの闘い方は市街地での地に足を付け、弾き、受け止め、反撃といったドッシリとした戦い方から打って変わって軽く、流れるような剣筋へと変わっていた。これは地面が砂地になった事もあるがそれ以上にランサーの技量に対応する為。
剣は受け止めるのではなく、そっと槍に触れるように剣を添え、勢いに沿う様に、そして自分が有利になる様に力を加えて流す。流すと同時に自身は踏み込み攻撃へと転じる。
踏み込みは力強いモノから地面を滑る様に蹴るモノへ変わり、攻撃に転化した瞬間に魔力放出を行い攻撃力を高める。ランサーはその攻撃を槍を手放し身を沈める事で掻い潜りセイバーのがら空きの背へ蹴りをお見舞いする。
ランサーの闘い方と状況に応じてセイバーの闘い方も急速に変化し対応し始めているがそれでも尚ランサーには届いていない。
蹴りにより崩れた姿勢をランサーが逃すはずもなく追撃の一撃を行おうとした所に当然の様にアーチャーの援護が入る。
「っち! 相変わらずチマチマと」
ランサーが悪態を吐くのと同時にアーチャーとは別方向から剣が飛んでくる。槍で撃ち落とし飛んできた方へと視線を巡らせれば地面から次の剣を引き抜くセイバーの姿が見える。
「おいおい、マジかよ」
聞こえていたかは定かではないが冷や汗と共に思わず出て来たランンサーの言葉にセイバーは当然といった態度で手に持った武器を投擲。その踏み込みを利用して魔力放出を行い加速。
周囲にある刀剣類を投げ、剣で弾き遠距離攻撃を行うと共にそのタイミングに合わせて近接攻撃も仕掛ける。更にソコに合わせるようにアーチャーの支援が所々で入ってくる。
展開された固有結界はバーサーカーを如何にかするではなく、ランサーを追い詰める為に利用されていた。
そんなサーヴァント同士の争いを後目に言峰と衛宮の争いは加速していく。嘗て第四次聖杯戦争で起こった最後の争いの様にマスター同士が生存をかけて争っている。
最初こそ言峰の優勢は揺るがなかったが固有結界に入ってから、徐々に士郎が言峰を押している。視界の端に移り込む多数の刀剣から無意識化で吸収した経験を自身に、戦闘に反映。
時間をかけるほどその経験は蓄積されていきそのパワーバランスがもう少しで拮抗するのは間違いないだろう。だが現実には体力という枷があり急速に上昇した戦闘技能に振り回され士郎の体力配分はグチャグチャだ。
結果として士郎は地に伏せ、綺麗はそんな士郎を見下ろしている。
「どうした少年、もう終わりか?」
士郎は滝の様に汗を流し気力を振り絞って立とうとするが底を付きかけている体力ではどうにもならず、地面から言峰を睨みつけるしか出来ない。
「君の正義への執着はこの程度か……これなら衛宮切嗣の方が幾分マシだったな。さて、アインツベルン……そして衛宮切嗣の娘、君がやりたまえ」
「え?」
「君が衛宮士郎を殺すと良い。どうせ元からそのつもりだったのだろう? 聖杯戦争に参加した以上、衛宮士郎は敵。ならば君が殺すと良い、そうすれば聖杯は君の願いに応えるだろう」
「あっ……」
衛宮士郎への興味が薄れた言峰は体をイリヤに向けて彼女の心に言葉の毒を吐く。
「君はバーサーカーを使い衛宮、遠坂、間桐の陣営と事を構えた、私の陣営に味方をした、賽は振られ事態は進んだ、後に戻る事は出来ない。ならば歩を進めるしかない……そうではないかな?
さあ、地に伏せた兄妹をその手にかけると良い! 君の持つ天秤には両親が! もう片方には義理の兄妹が! 選べるのは何方か片方だけ! 君が選ぶのは何方かなアインツベルン」
「ふざけるなよ、どっちか一方なんてのは手前が決めたルールだろうが! イリヤ! そんな物に従う必要なんて無い!」
「ほう、ではどうする?」
「手前を倒す! そんでもって爺さんも! イリヤの母さんも! どっちも助ける!」
僅かな時間で戻った体力を振り絞り地に足を付け立ち上がる。目の前の悪を倒すという鋼の意思を持って。
「ふっ、私を殺せば両親の魂は肉体から離れる。どうやって私を倒す? 私が活動停止したのなら直ぐに魂は離れていくというのに」
「分からねぇ! 分からねぇよ! でもこのままにしたらお前は似たような事を繰り返す! ソレだけは駄目だ!」
「ほう……では君は義理の姉に犠牲を強いると。二度と会えないと思っていた両親との再会のチャンスすら奪うという訳か、流石だ! それでこそ衛宮切嗣の後継者、正義の体現! 正義の名の元に他人に犠牲を強いる、実に正義らしい行いだ」
「~~~っ!」
「何故怒るのかね? 古来より行われてきた正義とは正しく、君が行おうとしている事の繰り返しだ。大儀の元に少数を犠牲にして多数を救う、君の養父、衛宮切嗣がそうしてきた様に……ああ、そうか。こういう手法もあるな、君がアインツベルンを倒せば良い。そうすればバーサーカーも同時に片付けられるぞ?」
その言葉の毒に周りも自分の状況さえも見えなくなる。体の疲労を心の沸騰が凌駕し、全力での攻撃を繰り出す。
砂を蹴り、数歩でトップスピードにまで加速、敵の眼前で急旋回しながら更なる加速を行い知覚外である背後からの奇襲。
両の手に現れる夫婦剣、無意識に吸収した戦闘技能。自分の使えるモノを総動員した人生の中でも最高の一撃。
それでも言峰綺礼には届かない。
ほんの半歩、自身の体を攻撃対象である士郎へ近づけ、相手の勢いを利用した左手で行われる背面への肘撃ち、からの体を捻り向きを変えながらアッパー気味に行われる掌底打ち。
肘撃ちで肺の中から空気を抜かれ掌底打ちで内蔵を持ち上げ傷つけられ、士郎は口から血を吐き出しながら砂へ落ちる。
「今のが全力か? ならばソレをアインツベルンへ向ければ君は死なずに済んだ物を……さあ、アインツベルン。君はどうする? 神は自ら動かないモノに慈悲は与えない。両親に会いたく無いのかね?」
心臓の鼓動がハッキリ分かる。お母様の死を告げられた日、キリツグの裏切りを知った日、バーサーカーに助けを願った日、どれも心臓が張り裂けそうな思いだったがそのどれよりもキツイ。
全てを投げ出しても取り戻したい、そう思える。それが例え義理の弟を手にかける事だとしても。
振るえる躰で息を吸い魔術回路を起動させる。普段なら意識せず、それこそ息を吸う様に扱えるはずの慣れ親しんだ術がとても難解な術の様に感じる。
触媒が私の魔術で形を変え剣になり、衛宮士郎へと矛先を向ける。後は攻撃の意思を乗せれば対象の肉を割き、骨を砕き、命を刈り取る。
宙に浮かぶ剣はゆっくりと士郎へ近づいていく。
後ほんの少しの意思でお母様が取り戻せる……キリツグも……意思があるのなら裏切りの事を問いただせる。
二人が死んだと聞かされた時からの続きが取り戻せる。
なのに……何故私は攻撃出来ないのだろう。
震え、視界が歪む中で私が最後に見たのは倒れた士郎と視界の端に映る黒い呪いだった。
動けない士郎に魔術が届く寸前、凛のガンドがイリヤを撃ち抜いた。心の動揺で防御がまともに出来ていないイリヤはガンドを受けて倒れ込んでしまう。
尤も、例えイリヤが魔術を行使して士郎を襲った所で桜の影が攻撃を阻止していたのは疑いようもない。だが綺礼にとってみれば攻撃の成否は重要ではない。
攻撃を行った。この事実が重要であり今後を楽しむ上で重要な要素になるはずだったのだが……。
「やれやれ、せっかくのクライマックスでこの様な邪魔が入るとは……やはり先に片付けるべきだったか? 凛」
「黙りなさい綺礼。もうアンタの遊びに付き合うのもまっぴらごめんよ。それに、アンタって因縁を断ち切るのは私以外に適任者は居ないでしょ」
内心は煮えたぎるマグマの様な感情が渦巻いているがソレに反して思考はクリアになり冴えていき、冷たい目線で綺礼を見据える凛。
妹弟子の成長に思わず苦笑する綺礼だが肩をすぼめて見せる。
「成程、だがどうする? 君は魔術師としては成長したが私の相手が出来るとは思えんな。それとも、『コレ』が足りなかったかね? 凛」
そう言って懐から黒く深く光るダイヤを取り出す。忘れもしない毎年届けられたブラックダイヤモンド。
激情に駆られ乱れ撃つガンド、それを避けながらとても良い顔で笑う綺礼。凛の冷静で整っていた顔が怒りによって歪む。
「そう、良いな凛。私はソレが見たかった、人が、感情で歪む顔。剥き出しの感情によって歪められる感情の発露。
それこそが私が美しいと思える人の側面。長い時間をかけ、ゆっくりと育てた、私が作り上げた、私が! 私だけが分かる。
だから凛……もっと魅せてくれ」
攻勢に出た綺礼の攻撃を桜の影が防御する、その影の上からめり込む言峰の拳。
拳は割れ、肉が裂け、骨が見えても意に介さず影の上から鋭い一撃を叩き込む。肉体の損傷を考慮しない捨て身の攻撃。
ソレを受けながらも凛は反撃の拳を放つ。恐らくアドレナリンが大量に出て痛みを克服しているのだろう。
響くのは言峰の肉体が受ける損傷の音か、凛が行う打撃の音なのか。体に浮き上がる魔術回路が瞬き、血が飛びながら拳が互いの肉体にめり込む。
何方の体から響く音なのか、その区別すら着かない中サーヴァントの戦闘をBGMに肉を撃つ音が響き渡る。
だがその争いも凛の響く一言にかき消された。
「バーサーカーーーーーー!!!!」
予想外の一言に対峙している綺礼も一瞬の隙が出来る。そしてソレは致命的だった。凛に対しての隙ではなく『アーチャー』に対して致命的な隙だった。
凛は言葉と共に全力の掌打とガンドを綺礼の体越しにイリヤへ向けて放つ、掌打は言峰綺礼の左わき腹を捉え、地面から伝わる捩じれは彼の肋骨を砕き、圧し折り、粉砕する。そして掌打と共に放たれたガンドは掌打によって抉られた肉を穿ち、背中を引き裂きながらイリヤへ向かう。
バーサーカーは当然それを許さず一瞬でイリヤを庇いガンドをその背で受ける。そしてソレはバーサーカーを相手取っていたアーチャーにとって格好のチャンスだった。
待機させていた剣を矢として引き絞り狙いを付ける。心を空にして狙うべき敵の頭蓋へと剣を放つ。
寸分の狂い無く放たれた剣は言峰綺礼の頭蓋を砕き、その内に詰まった脳漿を砂漠の上へとぶちまけた。
「魔術師として……そして遠坂当主として、先代の仇、取らせてもらったわ」
その一言を最後に凛の集中力と体力は底をつき意識は飛び、攻撃を放った姿勢から糸が切れた人形の様に砂の上へ崩れ落ちる。
直ぐ様桜が駆け寄ると大量の汗で髪が張り付き砂が顔を汚している。
「っけ。散々こき使っておいて真っ先に自分が脱落すんのかよ……白けるぜ」
呆気なく動かなくなった自分のマスターに対してランサーは唾を吐き捨てながら言葉を投げかける。バーサーカーの驚異が無くなったと判断したアーチャーはその様子を見据えながら再度剣を手元に呼び出し構える。
ソレに対しランサーは肩をすくめて戦う意思無しと態度で示す。
「別にお前と遊ぶのも悪かねぇがよ、先約があるからテメーとはその後だ。もしお前等のツレが大事なら早めに来る事をお勧めするぜ。
どーせアイツは邪魔してくるだろうし、面倒だからな。じゃあな」
言う事は言ったと背を向け離れようとするランサーに対しセイバーが構えながら此処で仕留めると言わんばかりの視線を投げかける。
「待てランサー、何処へ行くつもりだ」
「あぁん? 決まってるだろ。お前等相手するよりもよっぽど面白れーアイツの所だよ」
口元を歪ませ、今まで以上の闘気を漲らせながら手を広げてみせる。
「あの野郎は面白れぇ。今を生きる奴なのに気概が違う。生きる為に戦う奴の匂いがする。
こんな時代じゃなけりゃ一角の戦士になっただろう類だ。そんな奴だからこそ闘いがいがある。
約束もあるしな、さあ、ソコを退きな。さもなくば先ずはお前からになるぜ、セイバー」
槍を構えセイバーと対峙するがセイバーが構えを解いた事でランサーも闘気を消して歩みを進める。そう遠くない場所、争う音の発生地へ。
次話は年内に出せるよう頑張ります。