祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

23 / 29
あけましておめでとうございます。
本年もよろしくお願いいたします。


23話 固有結界2

衛宮一行の騒動が一段落した頃、ギルガメッシュ対使徒の戦いは続いていた。

渇いた砂の匂いを嗅ぎながら青の軌跡を残し空間を縦横無尽に駆け回る影とソレを追撃せんと黄金の軌跡を描く宝具の雨。大量の宝具を従え扱う王は動かして見せろと笑みを絶やさず砂の上で仁王立ちで待ち構える。

青い影が動く度にギルガメッシュの周囲には砂とぶつかり発生するバチバチという衝突音が響き様々な角度からばら撒かれる魔法。そしてソレ等を防ぐ様に王を守る盾の群れ。

時に離れ、時に接近しながら青と黄金は周囲を破壊し派手な音を立てながら闘いは加速していく。最早爆心地といった戦場にランサーが到着すると第三者の登場に青と黄金は距離をとった。

黄金の揺らめきを背に抱えたまま赤い眼をランサーに向け問いを投げかける。

 

「ランサー、貴様何をしに来た」

「おいおい、何をしに来たか位テメェなら検討ついてるだろ? 元々俺のが先約だ。譲ってもらうぜ」

「ふん、我の獲物に手を出すつもりか痴れ者が」

「アイツがやられた今、縛るもんは何も無ぇ。オレはオレのやりたい事を優先するに決まってんだろ、それともお前からやるか? それも悪かねぇな」

 

ランサーの軽口が終わる瞬間、ギルガメッシュが背にする揺らめきの一つから斧が射出されランサーが居る場所へ向かう。その様をランサーの眼は然りと捉えているが動く様は無い。

距離にして残り2mといった所で漸くランサーは動き出す。しかしソレは回避行動ではなく槍を構えながら前へ踏み込む事だった。

斧の下へ潜り込み槍を使って斧を巻き上げる。射出の勢いを殺さず、むしろその勢いを利用してギルガメッシュへ投げ返すと展開された盾の宝具が斧を弾き落とす。

 

「一撃で屠ってやろうという我の慈悲を無碍にするどころか、我が財を投げ返すとは……余程惨たらしく死にたいらしいなランサー」

「おいおい、全盛期の肉体で健忘症か? テメーの蔵から薬を出した方が良いんじゃねぇか?」

 

この会話を皮切りにランサー対ギルガメッシュが始まる。先ほどまでギルガメッシュと相対していた零号機モドキとなった使徒達は暫しの思考の後、このチャンスを逃すのは愚策だとし肉体の蘇生を優先させる。

空間をATFを用いて飛び回る行為は当然ながら肉体に過度な負荷をかけ、一度針山にされた躰は使徒イロウルとバルディエルによる補修があったとはいえ多大な負荷により更に損傷していた。

零号機モドキの胸の辺り、本来コアが収まっているであろう箇所の外装が剥がれ、中の粘液が盛り上がりそこから有香の顔が露出する。露出した顔は嗚咽する様に口から血を吐き出し反射で呼吸を開始する。

 

有香の肉体が蘇生し、意識が表に出るまでの僅かな時間でギルガメッシュとクーフーリンの闘いは苛烈をを極めていた。

ギルガメッシュはその有り余る財を消費し物量によってランサーを殴殺せんと殺意を向け。その意志に従い宙に黄金の揺らぎが見上げる程に天高く広がりランサー目掛けて殺意の代行者たる宝具を射出する。

それに対してクーフーリンは自分に目掛けて飛んでくる宝具を軽い物は弾き、時に跳ね返し宝具同士の誘爆を狙う、また重い物は避け、時に足場にしながら宙を駆ける。時に爆破の影に隠れ、周囲の砂に溶け込みギルガメッシュに奇襲をしかけるがコレを盾で防ぎお返しとばかりにギルガメッシュが剣を振るう。

振るう剣は一級品、しかし振るう者は武芸者ではなく為政者(いせいしゃ)。故にクーフーリンは槍を巧みに使い、武器を通して発勁を打ち込む。

これには多少なりと驚いたのかギルガメッシュがその整った眉を僅かに歪ませた後、不敵に笑ってみせる。深くなった笑みに反応するかの如く空間を歪める黄金の瞬きは煌めき、一層激しくクーフーリンに殺意を向ける。

 

呼吸の開始を切っ掛けとして意識が浮上し始める。強烈な吐き気と血の匂いに血の塊を吐き出しながら動かない体と定まらない視界に困惑しつつも現状を把握しようとする。

肉体の痛みと目の前に広がる砂漠風景に鼓膜を揺さぶる轟音で自分が中から表へ出て来た事は把握出来たが体がマトモに動かせない。しかし状況とは裏腹に思考は冷静に動き始める、直前まで内側で聞いていたからか『痛み』があるという事は肉体が機能しているという事。マトモに動かせないのは損傷が激しい為、ならば回復が最優先。

 

「【ケアルV】」

 

詠唱する余裕も無く呪文名だけの詠唱で周囲のエーテルが反応し光を放つ。光は傷口に作用し肉が盛り上がり傷を埋め、肉同士が繋がり皮膚を作り上げる。

治っているのだが治る際の痛みまでは消しきれないので治る痛みに顔を歪めて治るのを待つ。もっとも呪文一つで原型さえあれば部位欠損も含めて治してしまうのだから現代医学に喧嘩を売るとかいうレベルではない。

直ぐに体が動かせるようになる。ズルリと粘液から腕を突き出し【マイバック】からリレイザーとラストエリクサーを呼び出し中身を飲み込むと全力疾走の疲労感が一気に引くように消耗していた体力魔力が戻ってくる。

回復の際に伴う感覚に背中をぞくりとさせながら体を覆っていた粘液が体から分離し、周囲に漂いながら此方に飛んできた剣をATFで弾き飛ばす。飛んできた方向を見ればギルガメッシュが口元を歪めながら赤い眼でこちらを見下ろしている。

クーフーリンを相手にしながら良くやると半ば呆れながら自分の装備を見下ろす。

 

オフィスカジュアルで通るであろう灰色のインナーと白のカッターシャツ。薄いオレンジのジャケットに黒のズボンに運動靴。

全身の洋服が穴だらけでとてもじゃないが再び着る事は出来なさそうだ。聖杯戦争に関わってしまったが為に数が多くない俺の服達はボロボロでこのふざけた争いが終わったら洋服を買いに行こうと決めた。

深い溜息と共に如何にか原型を保っていたジャケットを脱ぎ捨ててナイトのAFを取り出して身に着ける。戦場で着替えるってのもどうかと思うが防御は幸い粘液……バルディエルがやってくれてるので気にせず着替えを済ます。

というかJOBを外して戦った影響で体があちこちガタ来てる。ヴァナディールの装備品は体格に合わせて自動的にフィットする魔法が施されているので問題ないがJOBを外して体が一回り大きくなった影響で地味に靴のサイズがあってないので痛い。

着替えるついでにヴァナディール時代の靴へ変える。履き心地は兎も角JOBを外して戦うならこっちのが良い。

装備を着込んで体の調子を確かめながらクーフーリンとギルガメッシュの争いを観察する。

 

うん、ギルガメッシュの闘い方は記憶の中にあるモノよりちょい苛烈だけど分かる……クーフーリンさん、アンタなんで発勁使えてるん?

頭痛がする頭を振りかぶりやる気が少し萎えた心を深呼吸で振るい立たせる。まずはノリマロをぶん殴る!

 

そう意識した瞬間ATFを利用してギルガメッシュの頭上に居る。頭上から体重を乗せた全力の振り下ろし。

予想していたと言わんばかりに頭上を守る様にギルガメッシュが剣を振るう、同時にクーフーリンによる槍の刺突も周囲を浮遊する別の盾が防いでいる。鍔迫り合いで火花が飛びギチギチと金属同士がぶつかり合う音が鳴る。

けれどバルディエルの直接攻撃は予想が出来なかったらしく拳を模った粘液に殴られ数メートル吹き飛ばされた。だが大したダメージにもなってない為、口元に浮かべた笑みを消す事さえ出来てない。

 

「硬った、つか今のを剣で防ぐとかマジかよあのノリマロ野郎」

「やっと起きたか、遅ぇぞ。つってもアイツをやらねぇとオメーとマトモに戦る事も出来やしねぇ」

「士郎君来ないかな、あのノリマロ相手なら士郎君に任せる方が楽なんだけど……でもまぁ、やっぱ殴らないとちょっと気がすまないよなぁ」

 

自分を奮い立たせるために無理やり口角を上げて強気の言葉を吐き出し身構える。

飛んでくる武器を盾で弾き剣で受け流しながら隣を見る。隣ではクーフーリンも槍を使って受け流し手足で弾いたりもしている……この人のセンスどーなってんのマジで。

本物の戦闘狂のセンスに脱帽しながら【リジェネV】をかける、ATFを利用した加速……もといATFピンボールは球である自分の耐久力が低いのでダメージを受ける。

ランサーを警戒しつつ、じわじわと治る下半身を感じながら意識をギルガメッシュへ向ける。多分多少なりと怒りを感じているんだろうがそれ以上にこの状況を楽しんでいるのがギルガメッシュのあのにやけ面から読み取れる。

さらに後ろに浮かぶ黄金の揺らぎは数えるのが馬鹿らしくなる程に展開され様々な武器が此方に向かって飛んでくる。このままマトモにやってたらジリ貧になりそうなので……更に切り札を使う。

「ファンタジー+漫画」の発想で辿り着いたヴァナディールには無かった魔法の運用方法。遠距離を速度でもって潰す、その為の切り札。

 

「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』フィジカルエンチャント【エンサンダーII】」

 

呪文の詠唱完了と共に体のあちこちから放電が始まる。本来武器に付与する魔法を自身の躰へと付与すると心臓の鼓動が早くなり血流が普段よりはっきりと自覚できる。

視覚が聴覚が触覚が、戦闘で使用する感覚が鋭敏になるのがわかる。だが用途が違う物を無理矢理付与した為、呼吸で口から吐く息と共に口内の水分が蒸発し煙となって消えていく。

だがコイツはあくまでもスイッチ。コレを更に加速させ剣を届かせる為にはもっと大きな雷を取り込む必要がある。エンチャントが馴染む時間と次への布石として追加の詠唱を口にする。

 

「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』【雷精霊召喚】」

 

戦場一帯に紫電の走る球体が出現する。ソレ等の球体は明滅しながら宙を動き回りギルガメッシュの周囲に纏わりつく。

当然迎撃しようと武器が放たれ球体を貫くが周囲に水晶と雷をまき散らしながらまた別の球体が現れる。

もしこの場にヴァナディールの住人が居たのなら口を開け呆然としただろう。有香が作り出したモノはヴァナディールで『エレメンタル』と呼ばれるモンスター、一説にはそれぞれの属性エネルギーが精霊として具象化したものとして伝わっており本来の雷精霊召喚はその特性が共わないエレメンタルを呼び出す。

特性とは物理の75%カット、魔法感知、洗脳(あやつる)不可、……そしてクリスタルのドロップ。そう、今この固有結界を無数に飛び回るエレメンタル達は迎撃される度に『雷のクリスタルの塊』をドロップしながらリポップしている。

このクリスタル、ヴァナディールではエネルギーとして利用されており雷のクリスタルは読んで字のごとく雷属性のエネルギーを保有している。そのクリスタルが宙を舞いながら振っている最中、雷をを纏った有香が駆けだす。

地に落ちたモノや降り注ぐクリスタルから雷のエネルギーを取り込みながら、迫りくる武器を弾き、避けながらギルガメッシュへ向けて駆けていく。クリスタルを踏み砕く度、走る速度は上がり肌から流れ出るはずの汗が水として露出するよりも前に蒸発し煙となる。

体表から漏れ出る程度だった電気と火花は既に放電と呼べるレベルになりまるで暴走し漏電する発電所の様に一帯を雷のエネルギーで満たしながら縦横無尽に駆け回る。最早雷の化身、その速度を持ってギルガメッシュへと攻撃を仕掛ける。

当然クーフーリンも黙って見ているはずもなく、雷を伴う暴風の最中を駆け抜け王へとその槍を振るう。異界からの来訪者と槍の英雄、攻撃速度のみで言えば間違いなく人類史に類を見ない攻撃の嵐。

 

だが、それでも尚エスカリバーの刃、ゲイボルグの矛先は届かない。

 

あらゆる方位、角度からの奇襲も興の乗った英雄王、慢心の無い王には届かず悉くが防がれる。

 

雷の轟音と擦れ合う金属音、神話に語られるような争いが固有結界内に再現される。

クーフーリンが横合いから槍の刺突を繰り出し槍を通して発勁を通そうとするも、英雄王は槍を直接は受けず宙に浮かぶ盾が矛先を止める。ソコに有香が上空から畳みかける様に振り下ろし、切り返しの胴薙ぎ、駆け抜けながらの切り上げ、瞬きの間に繰り出す剣の3連撃に加えて魔法の連射と粘液での打撃を仕掛けるが剣戟は2回をギルガメッシュの持つ剣で、1回を宙に浮く盾、魔法と粘液の打撃は揺らぎから射出された武器が上空から地面へ縫い付ける。

すかさずクーフーリンの矛先が有香へ向くが体に届く前に潰された粘液を切り離し距離を取る。三者三様、自分が勝つ為に物量で、速度で、技術で、あらゆる手段を用いて周りの敵へ攻撃を仕掛ける。

 

衛宮一行が合流したのはまさに神話の闘いが再現されている最中だった。

 

 

 

士郎がイリヤを背負い、凛を桜が支えて中真の元へたどり着いた時には周囲は雷が轟く嵐の真っ只中になっていた。

雨こそ無いものの砂塵が飛び雷が鳴り響くソコは固有結界を展開したアーチャーでさえ受け入れがたい現実でありその中心で争う三名も同時に否定したくなる。

三者三様の思わず笑いだしたくなる攻撃速度、金属音を響かせながら現れては消える無数の薄壁とソレを足場に跳ねまわる雷を纏う白、吹き荒れる風や砂すらも足場に無軌道に駆ける群青の影、無限に展開される至高の煌めきと流星群に王の威厳を示すかのようにどっしりと構え青と白を捌く黄金。

基本はギルガメッシュを攻めているが機会があれば躊躇いなくもう一人を攻める。まさに三つ巴と言える状態が眼前で繰り広げられている。

 

「っは、そろそろ貴様の相手も飽きて来たな雑種。その身を別のモノに明け渡し我を楽しませろ」

「うるせぇ、ランサー! もっとコイツを攻めろや!」

「あぁ!? オメーこそ他に隠し玉ねぇのかよ!」

「くっそ! 隙が無さすぎるんだよ! 【スタン】!!」

 

衛宮達には悪態をつきながら天候を操っている様にすら見える有香が呪文らしき言葉を口にするとギルガメッシュの動きが不意に止まる。それに合わせてランサーが槍を、有香が剣と粘液を叩き込む。

既に【フリーズ/トルネド/クエイク/バースト/フラッド/フレア/エンサンダーII/雷精霊召喚】と大量の魔法を行使している中、【スタン】を行使した為ギリギリだった負荷が鼻血、血涙として現れる。

血を流しながらの有香の攻撃とランサーの槍は防がれるが、どうにか粘液であるバルディエルの攻撃がギルガメッシュの体に通り、接触した部分から憑りつき浸食を試みる。

 

-広大な都市と黄金の煌めきを放つ様々な道具、そしてソレ等を自分のモノとして着飾り、見下ろす男-

 

浸食して直ぐにバルディエルは今まで触れて来た中で一番大きな精神を持つ個体だと認識し目の前の個体を改めて敵として認識。バルディエルの生存本能が刺激され波紋が走る様に粘液の体表が震える。

 

「ほう、王たる我の心を覗き込むか。異邦人」

 

その言葉を切っ掛けにバルディエルは器である有香に明け渡していた主導権を乗っ取りにかかる。

 

 

 

戦闘の為に展開した雷の雨、吹き荒ぶ砂嵐に災害と思える様な魔法の数々が荒れ狂い、更には固有結界という特殊な砂漠が広がり空に歯車の浮かぶ空間に居たはずの有香は戦闘の最中から……夕日の中、山間を歩いていた。

鼻を微かにくすぐる木々の香りに澄んだ空気、足から伝わる若干のぬかるみに足を取られない様にしっかりと地面を踏みしめながらリラックスした体で足を進める。

 

はて? 自分は何をしていた?

 

そんな疑問が頭に浮かぶが何かに急かされるように足は前へと進む。気が付くと目の前には輪郭があやふやな人影があった。

訳が分からないままに何故か体は動き人影を攻撃する。殴り、蹴り、跳躍し背後に回り攻撃を仕掛けるが抵抗され有効打が決まらない。

 

軽い苛立ちから自分の躰を『書き換える』

 

俊敏な躰を。そう思いながら四つん這いで地面を駆け、交戦を続けるがやはり倒せない。苛立ちをぶつける様に腕を地面へ突き立てる。

意志を読み取った様に腕が伸び、地面をかき分けながら相手の背後へ回り込みまんまと相手の首を取る事に成功。

憎しみを相手へぶつける様に腕に力が入っていく。両の手で人影の首を絞め段々と相手の抵抗が弱まってくる。

自分が相手の命を素手で摘み取ろうとしている事に疑問も無く、ただその行為自体に興奮を覚え気分が高揚した。

だがソレも相手の力が抜けた所までで、暫くの後に相手は本能を剥き出しにして抵抗を始めた。

 

掴んでいた手首を握りつぶされ。圧し折られ。

折られた腕ごと体を振り回し地面へと叩きつけられる。

痛みに呼吸が出来ず立ち上がる事すらままならない中、相手は自分に馬乗りになって殴りつけてくる。

猛烈な痛みを感じていたが体は動かせない、途中から痛みは鈍くなり何となく殴られているという感覚だけが残り躰は反射を返すだけになっていった。

鈍い感覚だけが相手は攻撃の手を止めてない事を教えてくる。視界も消え、自分がどうなっているかも分からないが相手の殺意だけは感じ取れる。

そして自分の核と呼べる部分に相手が触れたのを感じ取る。

 

『終わる』

『終わりたくない』

『嫌だ』

『生きる為に』

『どうすれば』

『失敗』

 

まるで妻が光の柱になってしまった時、自分の娘が腕の中で溶けた時の喪失感をループで思い起こすような感覚の最中、コレがバルディエルがギルガメッシュに感じたモノとして理解出来た。

 

「始まるのね……ゲンドウさん」

「ああ、私が為しえなかった神へと至る道。ユイと会う為に進み……挫折した先へ彼は進む。

 例え進む先が地獄だとしても……今の私なら少なからず彼の気持ちが分かる。痛い程に」

「ゲンドウさん……」

「アダムとリリンへの扉を持った器に知恵の実と生命の実がくべられた。彼の王のお蔭で器は船へと昇華する。

 私達を運ぶノアの箱舟へと」

 

次の瞬間、これまで戦場に落とされてきたどの雷をも上回る特大の雷が有香の体から空に向けてあふれ出る。先ほどまで縦横無尽に動いていた体は動きを止め微かに震えながら自身の傷から流れ出る血液すら沸騰させながら雷が吹き上がる。

同時に喉を潰してしまっても構わないと言わんばかりの雄たけびが有香の口から鳴り響く。雷と咆哮の音が固有結界を駆け巡る。

 

その光景にギルガメッシュは思わずといった笑みを零しながら剣を使いランサーの攻撃を捌く。

 

「我の獲物が漸く出てくる所だ、邪魔をするなランサー」

「っへ! そりゃコッチの台詞ってんだ!」

 

二人の剣戟を他所に有香の咆哮と放出していた雷が止まる。離れた場所から全体を見渡していた衛宮組全員は次の瞬間に有香の姿を見失う。

 

「はっ?」

 

誰の口から出た言葉だったろうか、視界に映らない有香を他所にギルガメッシュとランサーの争いは激化していき、視界の中では地面である砂地がそこ彼処で爆発し何かの痕跡だけを残していく。

最初に違和感に気づいたのは固有結界の主である英雄エミヤ。自分の投影した武器が遥か上空に集められている事を感じた。

宙に浮かぶ巨大な歯車より遥かに上。固有結界でなければ成層圏と呼ばれる地上からの距離、上空凡そ50kmの場所に自分の投影武器が集められている事が感覚として分かる。

そして同時に姿が見えないアイツがやろうとしている事が武器を通して理解し、同時に息が詰まる。

 

「凛! 今すぐ魔力を廻せ!!」

「アーチャー?」

「全員私の後ろへ! 早く!!!!」

 

ほんの数歩分、全員の前へ飛び出し比喩抜きの限界まで魔力を絞り出しながら両の手を前に魔術回路を全力で稼働させる。眼前に展開されるのは七つの花弁を模した盾。

生半可な宝具ならば正面から受け止める事さえ可能なアーチャーの持ちうる最強の盾が展開された次の瞬間、今までの比ではない轟音と共に世界が白に染まった。

 

 

 

激しい音、目を瞑っていても尚見える光、盾の後ろに居ても体全体を襲ってくる空気の波、空気と共に襲ってくる熱と皮膚を割いてくる砂。

目と耳の機能を一時的に奪われた衛宮達が正気を取り戻し視界に捉えたのは、アーチャーの展開した盾が残り2枚まで減っていた事とまるで爆撃された砂漠跡地と呼ぶような地面だった。

砂は消し飛ばされ、窪み、地面は溶け流れ、まるで活火山の火山口を見ている様に見える。砂が焼け、溶岩の様になった地面からは地面を焼き、焦げた匂いが立ち上がり辺りに広がり鼻を刺激してくる。

 

「何だコレ……」

 

士郎が口にした言葉は全員が思う所だった。

大量の汗を流しながらアーチャーがふらつき片膝を地面につけ荒く息を吐き出す。

 

「ちょっと、アーチャー。辛いのなら霊体化を」

「それは出来ん」

 

凛の助言を斬って捨てる様に食い気味にエミヤが言葉を遮る。守護者としての側面を持つ彼だからこそ、この場を離れられない理由がある。

 

「ここで固有結界を解いてみろ、冬木の街で目の前のコレが起こるぞ。セカンドオーナーとしてはソレは許容出来るか?」

 

言われてギョっとする。目の前の惨事が冬木で? 冗談ではない。正直体に残る魔力はほぼない、限界まで絞り出してしまっているがそうも言ってられない。

 

「それは駄目。アーチャー、魔力を廻すからどうにか固有結界を維持して。セイバー、ライダー、バーサーカーはアーチャーを守って頂戴」

「シロウ、構いませんね」

「あぁ、アーチャーを守ってくれ」

「ライダー」

「分かりました、サクラ」

「バーサーカー、お願い……」

「■■■■」

 

凛が右ポケットから魔力を込めた宝石を取り出し飲み下そうとした時、視界にクリスタルが飛び込んでくる。はっとなり左ポケットに入れていた炎のクリスタルを取り出す。

手持ちの宝石と比べても遥かに多くの魔力を含んだクリスタルをじっと見つめてから飲み込む。するとどうだろう、先ほどまで魔力が空となり倦怠感を覚えていた体が嘘の様に気分がすっきりしてくる。

というより魔力が溢れる。普段以上の魔力に戸惑いながらもソレをラインを通して全力でアーチャーへ流し込む。

エミヤが固有結界を補強し終えると爆心地から高笑いが響いてくる。

 

「ふははははは! 良いぞ! 良くぞ人の身でソレ程の力を蓄えた! 貴様を敵として認めよう!!」

 

ギルガメッシュの足元から黄金の船がその姿を見せ空へと飛び立ち、宙に佇む男へ迫る。

盛大な空中戦の幕開けである。




やっと最大の敵が対戦してくれる所まで来ました。
プロット通りに書いてたはずなのに何か色々追加で文章が生成されるのは何でじゃろ。
きっと面白くなってると信じてこのまま書いていきます。

因みにチート染みた雷云々はバルディエルのアニメ能力ではなく元ネタを参考にしています。
ご了承ください。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。