でも形にはなったと思うので投稿します。
生身で空を飛ぶ。
このシンプルな行為を行った人間がどれくらい居るだろう。ヴァナディールでも終ぞこんな経験はしなかった。
遮る物が一切無いと風は強く冷たく体温をどんどん奪っていくだろう。本来は相応の恰好をしておくべきだが今は全く気にならない。
産まれた世界ではそこまでアクティブな趣味は無かったのでスカイダイビングも体験してない。そんな人間が空を飛んでいる。普通……と言って良いか判断しかねるがこんな状況になれば普通は焦ったりするものだろう。
だが特別な事をしている感覚は無い。まるで歩く事を一々意識しない様に当たり前の様に空に浮き、猛烈な勢いで此方へ来る黄金の船を見下ろしている。
自分はこんなに落ち着いた思考をしてただろうか? 若干の違和感を感じながらも体は緩慢に動き始める。
点の様に見えた黄金の船は徐々に視界の占有率を上げながら此方へ近づいてくる。残り10Kmを超えた辺りで船の周囲に黄金の波紋が現れる。
船の移動速度を加えた宝具の射出は音をも切り裂きながら迫ってくる、ほんの1秒程で10kmの距離を縮めその刃を届けようとした所で体を傾け宝具の隙間に滑り落ちる様に回避。
目の前数㎝を通過する刀剣類、その刀身の美しさに思わず見とれつつ風切り音を聞きながら脅威を見送る。
次々にこちらに向かってくる宝具を基本避けながら避けきれない物を剣と盾で受け流す。受け流す度にまるで金属カッターを使ったような音と火花がイージスとエクスカリバーから出てくる。
伝わってくる振動と衝撃が手を痺れさせ直撃すれば危うい事が伝わってくる。極力避ける様に空を駆け船ごと両断しようとギルガメッシュへこちらから向かう。
右手に握ったエクスカリバーを両手持ちに変え上段へ構えたまま頭から敵へと突っ込む。周囲に漂う雷を取り込みながらぐんぐん加速し、ギルガメッシュから見れば黒い点の様な影が雷を背負って落ちて来ている。
体の傷口から血が溢れ、溢れた端から蒸発していく。血以外の水分が体から出ていない……汗が出てない事を冷静に危惧しながら敢えてギルガメッシュとの闘いで使ってなかったカードを切る。
「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』【ヘイストII】」
JOB無し状態、所謂ノービス状態でのヘイストIIは本来の攻撃速度に限定した速度増加と違いあらゆる速度を増加させる。
元々高速と呼べる状態からの更なる高速化で尚且つ視覚的に点の様に見える相手を欺くには効果的だった。
疑似的な超高速化にギルガメッシュの宝具の五月雨撃ちも展開が間に合わず見えている宝具群を潜り抜けると敵は直ぐ目の前。
渾身の力を持って上段に構えた剣を振り抜く。
殺った
そう確信出来る距離、武器の威力。
周囲から集めに集めた雷を武器の運動エネルギーに乗せて相手へ叩きつける一撃は正に必殺技と呼んで遜色ない威力。
だが剣が伝えてくる感触は肉を斬り絶つ感触ではなく。硬く、侵入を拒むモノだった。
何に拒まれたのか分からないが振り抜く事が出来ずに結果として相手の船の運動エネルギーに押し負け吹き飛ばされる。弾かれた身体は錐揉みをしながら宙を泳ぐ。
乱れる視界で敵の船を探しながら思考を走らせる。
相手への近接タイミングをずらして正面からの奇襲が破られた今、取れる手札は限られてくる。
だがやる。
絶対に、此処でアイツを落とす。
この一点だけは違えないとふら付く身体に気合を入れなおし再度宙を駆ける。
矢継ぎ早に押し寄せる宝具群を掻い潜りながら相手の上を取るように立ち回り、急降下で再び奇襲。
だが予測した通り敵に触れる直前に『何か』に弾かれる。
予測済みだと言わんばかりの眼に睨まれ離脱する際に背後から溢れる黄金の武具に身体を削られる。
魔法を使っても治りが遅い。薬を取り出したいがそんな暇が無い。
詰将棋を強いられる感覚がする。延命の手を打ちながら打開する為の一手を考える。
盤面を破壊する一手。
ギルガメッシュは周囲を動き回る異邦人……正確には混ざりものだが……について考えを巡らせていた。自分の『眼』を通して視たアレは人とは異なる姿形だったが間違いなく人である。
そして目の前の雑種の中に居る複数の人影と無数の雑種。
此処で全てを蹂躙し塵芥と変えてしまうか、それとももう少し遊ぶか……黄金の肘掛けを指先で数度叩き背後に金の波紋を出現させる。
再度の宝具群。ソレに加え英雄王の秘蔵の一品が異邦人を迎える。
『天の鎖』
英雄王がそう呼ぶ宝具であり友でもある。英雄王の眼が捉えた相手の性質は間違いなく人間だが其れと同時に僅か……本当に僅かだが神性も感じていた。
故に出し惜しみ無し、例え幾ばくかの遊びがあろうとも久しく相対するに足る人間だ。自分が一番信頼の置ける宝具を惜しげもなく使う。
鎖と武具が織りなす黄金の煌めきの中を文字通り駆ける。空気の薄さにも慣れ、頭の何処かで感じていた違和感も気にならなくなった。
迫りくる宝具に逃げるルートが制限され逃げ先にも天の鎖が配置されている。ある意味「詰み」の状態になった事で今まで見せていた手札の変化球を見せる。
「■■■■■■■ーーーーーーーーー!!!!」
咆哮と共に全身から発せられるATF。今までの様に壁としてではなく正に『フィールド』として発動させる。
ATFの出力に負け宝具の軌道は歪み、ランクの低い物は圧し折れ爆発という結果に帰結する。
視界から来る情報、空中に漂う雷から入ってくる情報を元に躰は行動を起こす。腕に力を入れ右手のエクスカリバーを振り上げる。
胴体から肩、右腕を通り剣へ大量の……それこそ負荷に耐えきれず金属が蒸発してしまうであろう電を魔法【エンチャントサンダー】を介して剣に宿す。
感覚としては【サンダーVI】なんて目じゃない、というか魔法とも違うプロセスで雷を産み出してる。
奇妙な感覚を感じながらも船以上の速さで迫りくる宝具を眼に収めながらもどんどん雷は剣へと蓄積していく。そして荷電がエンチャントの許容量を超えたのか剣から雷が漏れ出す。
次第に剣からだけでなく体全体から溢れる雷を使い姿勢を変え両手で剣を握る。その姿勢は奇しくもこの世界のエクスカリバーの持ち主、アーサー王が宝具解放を行う姿勢と似ていた。
そして上段に構えるソレを敵の船へ向かいながら振り下ろすと剣の軌跡をなぞる様に極閃が現れる。
光と轟音がギルガメッシュへ向かう
ギルガメッシュの宝具群が迫りくる極大の雷に飲み込まれ一瞬勢いを落とすが溢れ続ける雷が止まる事は無くギルガメッシュに牙をむく。それを見て英雄王は船の座席から立ち上がる。
英雄王の動きに合わせ背後の宙に浮かぶ黄金の波紋群、そして顔を覗かせる宝具の数々。ソレ等を躊躇なく眼前に迫りくる極閃へ向け射出。
多少は威力が減衰するものの勢いは止まらない。
黄金の主はその光景に怯む事無く口元を楽しそうに歪ませながら右手に持った鍵を起動させる。宙に走る紅の線、その線は直ぐに鍵へと戻ると右手には一本の剣が握られていた。
剣の名前は「乖離剣」
ギルガメッシュの持つ「王の財宝」の最奥に納められる知恵の神・エアの名を冠する剣。
英雄王にのみ持つ事を許されるその剣は「天」「地」「冥界」を表す円筒が回転しその性能を現実に刻む。
「出番だ。起きよ、エア!」
振るわれた剣は船の勢いを上乗せし、空間断層を眼前に押し出し迫りくる極大の雷を削りながら進む。そして英雄王は手を抜かない。
起動する乖離剣に魔力を通しながら左手を柄の底に添えてその本領を呼び覚ます。
「原子は混ざり、固まり、万象織り成す星を生む。異邦人! これを乗り越え拝して魅せよ!『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』!!」
円筒がソレまでの比では無く回転を高め、圧縮された空間断層がエアから放たれ眼前に広がる極閃を全てのみ込む。
その攻撃は正しく究極。空中においても遺憾なく威力を発揮しありとあらゆる事象を飲み込み断裁し「原初の地獄」を再現してみせた。
ギルガメッシュの持つ最高の手札。最高の攻撃。コレを前に立つ者は居ない。
どこかでギルガメッシュもそう思っていた。次の瞬間までは。
両の手足に走る激痛。揺れる視界。
突然の事に痛みよりも困惑が先に立つ。
視界を巡らせると自分の右側に件の異邦人が居る。
振るわれた剣、斬られた四肢、攻撃されたのは分かるがどうやってエアの攻撃を避けたのかが分からず困惑は溶けない。
だが事実は至極単純。男は盾で顔を庇いながら突き進み、体に雷を纏い、エヌマ・エリシュを超えてギルガメッシュを斬り付けた。
ギルガメッシュの唯一の想定外、それは『原初の地獄でも生きる生命体』の存在。
男と混ざり合ったバルディエルもそんな想定外の内の一体であり、例え生命の実を持たない今でも『どんな環境下でも産まれ生きていける』という特性は引き継がれている。
例えソレが原初の地獄であり人類にとっては致命的な環境であろうとも短時間でソコを抜け出すのであれば死ぬ事は無い。最も、ダメージを受けないという訳ではないが……。
腕が引き攣る、皮膚が爛れ筋肉が痙攣し今の姿勢から動く事がキツイ。
込み上げてくるナニかを無理やり飲み込み息を吸う。
有香はギルガメッシュの四肢を斬り落とした剣を切り返しで首を落とす……つもりでいたが切り返しの踏み込みを行った途端に全身から血が噴き出し黄金の船へと倒れ、留まる事が出来ずにそのまま宙へと投げ出された。
('ω')スッー
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