祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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時間が開いてしまいました。
中々展開の舵取りに踏ん切りが付かなかったので読者の方に見たい先を選んでもらいたいと思います。
アンケートへご協力ください。
※アンケートは4/11の1:00で終了しました。
 ご協力ありがとうございます。

※一部原作ゲーム内の仕様と異なる表現があります。 ご了承ください。

2022/06/19
一部修正


26話 秘薬

線香とい草の香りで意識が戻る。軽い身じろぎをすると重い感覚となれない感触……。

目を閉じたまま身体を動かして上半身を起こして目を開くと見慣れない和室だった。

 

「…………何処ここ」

 

暫く考えが浮かんで消えてという時間を過ごして少し頭が回り始める。倦怠感を振り払いながら毛布をはぎ取り立ち上がる。

どうやら新品のシャツとパンツ姿で寝ていたらしく、枕元には甚兵衛が置いてあるので取り合えず着る。大きな溜息を吐きながら敷布団の上で胡坐をかいて思考する。

覚えてるのは英雄王と戦った事、最後は負けた事、『槍』に貫かれた事。

シャツを捲って自分の身体を見直しても傷が無い。そんでもって和室っつー事は……可能性から考えて柳洞寺?

ふら付きながら襖を開けると日が落ち、ちらほらと雪が降る庭が見える。雪と夕方の所為で尚の事下がる温度が身を刺しぶるりと身が震える。

腕を摩りながら廊下を歩くと年配のお坊さんに遭遇した。

 

「あっ、どうも」

「おぉ、目が覚めた様ですね。葛木君とキャスターさんのお友達だとか」

「あー、えっと葛木の奴は今は?」

「葛木君は今学校ですよ。キャスターさんは貴方と一緒に訪ねて来た方と買い出しへ。多分1時間もすれば戻ってくるかと」

 

少し話を続けて一緒に訪ねて来たというのが衛宮一行という事らしい、お坊さんに礼を言って寝ていた部屋へ戻る。暫くしたら火鉢に火を入れてくれたので改めて礼を言って暖を取る。

掛け布団を羽織りつつ火鉢の傍で座布団を敷いて胡坐をかく、どうせ時間もあるし少し自分の『中』へ集中しよう。

 

大きく息を吸い、吐く。一呼吸の間に意識は自分の中へと移り変わる。

懐かしの我が家で目を開くと最初に飛び込んできたのはぐったりしたゲンドウさんだった。そしてリビングでハイテンションのユイさん。

何に対してそんなにハイテンションなのか謎だが目の前に空中ディスプレイとキーボードを出して物凄い勢いでタイピングを行っている。

 

「えっと……ゲンドウさん、何故奥さんはあんなにテンション高いんすか?」

「戦利品をとても気に入ってね……ソレの所為でああなった……」

 

やられたのに戦利品? そう疑問を浮かべてると詳細を教えてくれた。

 

「君が受けた槍、アレは【ロンギヌスの槍】。そしてバルディエルが最後の抵抗として槍を喰った」

「喰っ……た?」

「古代の王が所有する宝物……あらゆる至宝の原典を持つというのを『知識』としては持っていたが、あそこまでとは……エアの名を冠するあの武器も凄まじかったがロンギヌスの槍が変化したのは此方としても予想外だった」

「そう! 変化!」

 

リビングに居たユイさんがゲンドウさんの言葉に反応して顔を此方へ向ける。その顔は赤く興奮した状態で……端的に言えばエロい顔して此方に詰め寄ってくる。

 

「私達はあの英雄王と事を構える時が来る事は予想していたの! 色んなパターンと可能性を考え、貴方の持ちうる道具から色々な可能性を考えていたわ! でもあの変化は予想外だった! そしてバルディエルの『死』と『恐怖』そして『力への渇望』!

 槍が貫いた傷はこの場所まで届いた! でも同時に此処から槍へ干渉出来る事の証明! そしてソレは槍の簒奪という結果で証明出来たの! 不可逆な槍の変化、つまり槍は我々【箱舟】の【羅針盤】になりえるのよ!」

「お……、おう?」

 

言ってる事が正直解らんと言うか、理解するのを頭が拒否った。取り合えず英雄王との一戦にとても興奮してる事だけは分かった。

ユイさんのあふれ出るリビドーについて行けないのでスルーを決め込む。大人は何時だってこのスキル(スルー力)を求められる、コミニティに属している以上は必ずだ。

そんなアホな事を考えていると先の発言に気になる情報があった事を理解すると同時にあの状態のユイさんに聞くべきではないとゲンドウへ言葉を向ける。

 

「ゲンドウさん、『バルディエルの死』ってどういう事?」

「……言葉通りだ。第8使徒バルディエルは死んだ。君という肉体を通して彼の王はバルディエルに攻撃を届かせた。結果としてバルディエルはこの世界で言う『起源』とやらを覚醒させ因子を残して扉の先へ逝ってしまった」

 

そう言ってゲンドウが上着のポケットから取り出したのは黒いビー玉。正確にはビー玉の様に見えるナニか。よく見ればその中には黒い雷雲が漂い雷が雲の隙間を走っているのが分かる。

テーブルに置かれた球体はまるで傾斜を転がる様に水平なはずのテーブルを音を立ててこちらに向かって転がってくる。

思わずソレを手に取り持ち上げるて掌を開くと視線が吸い込まれる。その中に居る訳でも無いのに感じる吹き荒れる風、その風に乗って暴れる雲、身体を濡らす雨、空気を震わせ音を割いて走り回る雷。

ハッとし、引き込まれる様に近づけていた顔を球体から離す。固唾を飲み込み背中には一筋の汗が流れる。

視線を合わせたままテーブルに肘をついて溜息を吐くと球体を持っている右手がじわりと暖かい事に気づく。改めてソレに顔を近づけようとした時、球はまるで水に落とす様に掌の中へ吸い込まれていった。

唐突の事に混乱しているとゲンドウとユイが唐突にクラッカーを鳴らす。

 

どこからそんなもん出したんだと心の中で突っ込みを入れつつも、突然の大きな音にビックリして口からは出てこなかった。

 

その後何だかんだとお祝いとか言われて碇夫婦に飯を振るわれた。実際に腹が膨れる訳じゃないが意外と料理上手なユイさんの料理に満足してから現実の方で目を開けると既に夕方だった。

 

立ち上がって凝り固まった体をほぐしてから部屋をでる。夕飯の良い匂いに誘われ台所に近づくと姦しく女性が大勢で食事の支度をしている声が漏れ聞こえる。

やれ何処のお店が良いやらドコソコの店が安いから自分の懸想しているしている男の話。空気を読まずにさっと入った方が良いと判断し台所へ続く扉を潜る。

 

「腹減った~。晩飯は何じゃろかい」

「ユウカ」

「あ、有香先生。起きたんですね」

「いや……もう先生じゃないけどね」

 

俺の第一声に反応したのはライダーと桜の二人、次いでキャスターが声をかけてくる。

 

「『杖』を私に預けておいて正解だったわね。心臓止まっていたわよ」

「お~、キャスターもありがとね」

「アンタ運ぶのに苦労したんだから、運賃は後で請求するわよ!」

 

凛に続く様に視覚外から声が掛けられた。

 

「リン、その場合運んだのはバーサーカーだから請求するのは私よね?」

「う”……」

「どうせリンの事だからついでに吹っ掛けようとか思ったんでしょ。まったく」

「な、何よ! ウチの土地で色々やらかしてるんだからちょっと位請求しても良いじゃない!」

 

イリヤが凛をからかい全体を巻き込んでギャーギャーと言い合う。数時間前に戦場に居たと思えない程この場は和気藹々としている。

そんな中、頭の後ろ……頭頂部辺りがチリチリと反応する。直ぐに【マイバック】からイージスとエクスカリバーを取り出しジョブを【ナイト/戦士】へ切り替え嫌な予感がした方向へ向き直る。

台所の勝手口から飛び出し外へ、釣られて出て来たライダーとイリヤ、そしてイリヤの隣に現れるバーサーカー。

彼等を伴って直ぐに寺の入り口へ駆け階段の方を見ると横にアサシンが現れる。

 

「門番より先に客の気配に気づくとは……客はお前様が目当てかな?」

「さてね、取り合えず出てきたらどうだ? ランサー!」

 

その一言に少し下った先の踊り場に光の粒子が集まりランサーが現界する。姿は万全とは程遠く、装備はあちこちボロボロで疲労の色も見て取れる。

そんなランサーが此方を見上げ肩をすくめて話しかけてくる。

 

「よう、お互い生き延びたみてーだな」

「いや? こっちは一回死んだぞ」

 

こちらの真正面からの否定に少しの間呆けてから笑い出す。

 

「くっ、あっはっはっは! そうか! 一回死んだか! あっはっはっは!」

「いや、何わろてん。オメーも下手人の一人やろがい」

「いやーやっぱお前に頼るのが正解っぽいわ。スマンが助けちゃくれねぇか?」

 

涙をこらえながらランサーがそう言い放つ。その姿に裏は……無さそうだがこの場面で助けを求める理由なんてコイツにあったっけ?

まぁ理由は後回しで良いや。

 

「見返りは?」

「俺が味方になる」

「乗った」

 

即断即決。敵が減るなら良い。

で、話を聞いてみればどうやら元マスターを助けて欲しいってのが今回の救助を乞うた理由らしい。油断していた所を外道神父に襲われて元マスターが部位欠損及び重体の状態で放置されているんだとか。

直ぐにライダー、イリヤ(+霊体化バーサーカー)とランサーで車に乗って元マスターが居るという場所へ。50分程移動した所でランサー案内の元辿り着いたのは寂れた洋館。

既に暗くなり始めた状態で扉を潜り懐中電灯で周囲を照らしながら奥へ進むと床に左腕の先が無い、背中をバッサリ切られた男(?)がうつ伏せに倒れて……っちゅーか死んでた。ランサーが冷静に「こいつが元マスターだ」とか言ってるけど死んでるんじゃねーの?

そりゃ止血を試みた後はあるけど明らかに流れ出てる血が多すぎる。部屋の床が渇いた血でどす黒くなってるし。

俺が近づこうとしたら止められてライダーが生存確認すると生きてるらしい。思わず目を見張るが取り合えずケアルしとこう。

 

「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』【ケアル】II」

 

詠唱と共に発動したケアルは手元の色とりどりの発光体が件の男へ吸い込まれ傷を癒していく。取り合えず大まかに傷を塞ぐのと増血程度は出来たと思う、現に塞がりきってない傷口から少し血が溢れてるように見える。

直ぐにランサーがソイツを担いで車へと運ぶ。俺はそれを追いかけながら携帯電話で葛木の携帯へ連絡。

 

「もしもし、葛木?」

『そうだ、中真か』

「おう、何か運び込まれたらしくて迷惑かけたな」

『構わん』

「運び込まれた奴が言うのも可笑しな話だがもう一人運び込んでも良いか?」

『どういう意味だ?』

「例のパーティーに参加してる奴が助けを求めてきてな。元主人を~って、見返りは味方になるって」

『……分かった、こちらはもう直ぐ寺へ着く。先に言付けておく』

「すまんが頼む」

 

少し遅れて車に戻ったら後部座席に例の元マスターが寝かされて……って

 

「っちょ! 直に置くなよ! せめてタオル敷け! タオル!」

「あ? オメーそんなの気にする性質なのか」

「他人の車を汚すなっつーの! 布に血が染みこむと取るの大変なんだからな!」

 

そう言いながら影から取り出した大量のタオルを後部座席へ放り込む。ライダーとイリヤがせっせとそいつの背中部分にタオルを敷いてる。

ついでなので毛布も出してライダーに渡す。

 

「ったく、ランサー。コレから戻ってお前の元マスターはきっちり助ける。その代わりちゃんと味方になってもらうし情報も貰うかなら」

「おうよ。なんならゲッシュに誓ってもいいぜ」

「要らねーよそんな誓い」

 

軽口を叩きながら運転席へ潜りエンジンを掛け暖気してから車を出す。因みに元マスターを乗せて席の余裕が無くなったのでランサーは霊体化して貰った。

このまま寺へ……と行きたかったが胸ポケットの携帯が鳴った。運転中なのでライダーへ投げ渡す。

 

「もしもし」

『あれ? ……ライダー?』

「シロウですか。ええ、ユウカは運転中なので」

『あっ、そうなんだ』

「何故彼の電話に?」

『遠坂から目が覚めたって、後イリヤが一緒に居るって』

「確かに一緒に居ます。変わりましょうか?」

 

ライダーがそう言いながら後部座席のイリヤを振り返るとイリヤは「私?」と自分を指さしながら言外に語って見せた。渡された携帯を受け取り耳へ当てる。

 

「ヤー?」

 

そう言って士郎との会話を始めた様で暫くすると血相を変えて叫んできた。

 

「行先変更! 直ぐにシロウの家へ向かって!」

「は? いや……こっからだと暫く一方通行だから遠回りなんだけど」

「そんなの良いから! 今すぐ方向転換! 早く!!!!」

 

余りの剣幕に仕方なく車を停める。

 

「ちょっと! 何で車を停めるの!」

「手っ取り早くショートカットするわ」

「ショートカット?」

「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』【デジョンII】」

 

車を覆う様に出現した暗闇は中に居る人間とサーヴァントを車ごと帰還ポイントに設定している俺のマンションの地下駐車場に出る。周りはポカンとしてるが気にしない。

 

「よし、ここからなら衛宮家の場所も分かる。何か急ぎっぽいから速度出すぞ」

 

混乱している周りを置いといて車を発進させる。まぁ飛ぶ前と後、どっちの方が近かったかは正直微妙だが運転する側としては見知った道の方が運転しやすかった。

そうして着いた衛宮宅。出迎えてくれたセイバーが案内してくれた先に居たのは布団に寝かせられた男女3名。

イリヤそっくりの女性と見るからにアジア系の2名。一緒に部屋へ入ったイリヤからこぼれた言葉で2名の正体が判明する。

 

「お母様……キリツグ……」

 

改めて視る。頬はコケて肉が無く、手も枯れ木の様に細い。肌は渇き髪の毛もパサパサで女性の一人は銀髪っぽくて分らんが黒髪の男性は髪の毛の大半が白髪だ。

 

(多分この男女がイリヤの両親、そんでもって以前話に聞いた切嗣さんか。あれ? でも二人とも亡くなってるって話じゃなかったか?)

 

そんな事を思案しているとイリヤに服を引っ張られた。

 

「ユウカ、貴方なら助けられる?」

「いや……んー、どういう状況なのかも分からんから何とも……衰弱してるってだけなの?」

「じいさんもイリヤの母さんも聖杯の泥でグールって奴になってるらしい」

 

俺の質問に答えを返してきたのは士郎君だった。

 

「ぐーる? ゾンビの親戚的な?」

「大体その認識で合ってるわ。それでどう? 貴方から見てお母様やキリツグ……それにリンのお母さんは助けられる?」

 

言われて改めて男女3名に目をやる。全員共通しているのは肌は罅割れて髪の毛パサパサ。

 

「取り合えず取れる手段は取って見るかね」

 

そう言いながらJOBを【白魔導士/学者】へ変更する。

 

「【白のグリモア】『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』【女神降臨の章】【レイズ】【イレース】【ケアル】」

※1

 

レイズの行使で切嗣さんには若干の改善が見られるが女性2名に対しては効果が殆ど見られない。イレースで状態異常を一つ消せた筈だがケアルの効果も薄い。

近づいて確かめてみれば黒髪の女性は腹と胸を割かれてる上に息も浅い、イリヤのお母さん……アイリスフィールさんは外傷は無いけど息が殆ど無く体温も極端に低い。

……さてどうしたもんか。というか……。

 

「あのさ、遠坂さん……それに桜さんも、この件知ってるの?」

 

気まずそうに顔を伏せる士郎君にイリヤさん。溜息をついてから直ぐに携帯を取り出してキャスターを呼び出す。

 

「あ、キャスター? 今すぐソコに居る遠坂、間桐の二人に衛宮宅へ来る様に言ってくれ。家族が死にそうになってるから直ぐに来いって。あ? 晩飯? んなもん後。さっさと連れてきて」

 

葛木が絡んだ時のキャスターのポンコツっぷりにイラつきながら部屋の隅へ移動し座り込む。視線の先には遠坂凛と間桐桜の母親。そしてイリヤの母であり衛宮士郎の義母であるアイリスフィール。

改めて大きく息をする。別段珍しい事でもない。友人知人、家族との死別。

何時かは必ず来る別れ。それが彼等に訪れようとしている……違う所は既に死んでいると思っていた人物で、又死にそうになっているという所。

頭の中がグチャグチャになるような不快感を抱えながら過去に思いを馳せる。

ヴァナディールにもあった友人との死別。魔法ですら取り返せない傷に零れ落ちる命。

遺体を抱え家族の元へ運んでもそこに待っているのは泣き崩れる顔。そして後日会った時の反応……気丈に振舞う人も居れば心を病む人も居る。中には『お前が代わりに死ねばよかったんだ』とののしられた事もあった。

 

彼女達は耐えられるのか? 近しい人が再び生きていたと知った直後に再度死ぬというストレスに心を病まずに済むだろうか?

 

自分なら耐えれない。仮にもう一度自分の家族が何処かで生きてるとして再びその命が脅かされたら……。

きっと何においても妻と我が子を優先する。例えそれが何億という人の命を天秤に掛けたとしても。

 

心が痛い。頭の片隅にある可能性の糸がちらつく。

当事者ではないはずなのに何でこんなに肩入れをしてしまうのか、これは彼達の問題のはずで、俺はただ頼まれたから関わっているだけなのに。

思考の沼に嵌りかけている事を自覚して頭をリセットする。

 

結局の所『どこまで手を貸すか』だ。

 

ヴァナディールで錬金術を収めたを理由……より強力な蘇生薬の製薬を目指して収めた錬金術を、今、此処で使うか否か。

大きな溜息をついてから肩の力を抜く。湧いてきた気持ちは『良いか』という感情。

世界を跨いだ事で禁忌とされる技術であれってもソレを知る人は居ない。ならば後は自分が納得出来るかどうか。

腹が決まった俺は家主に一声かけてから部屋を出る。居間へ場所を移して影から素材を取り出す。

 

ランサーの元マスターの治療を粗方終わらせてから素材の準備に取り掛かる。まさか女とは思わず思いっきり上着脱がせてしまったが不可抗力だ。俺は悪くねぇ。

 

暫くするとチャイムが鳴り訪問者の訪れを知らせる。恐らく遠坂と間桐の二人が来たのだろう、こちらも残りの準備を済ませて向こうへ合流する。

 

 

 

襖を開けるとソコには役者が揃っていた。

衛宮士郎、イリヤスフィール、遠坂凛、間桐桜。そして横たわるアイリスフィール、衛宮切嗣、遠坂葵。

セイバー、アーチャー、ライダー、それに別室だがランサーとその元マスター、更にはキャスターと葛木もこの屋敷には居る。つまり聖杯戦争の主要人物は最後の敵を残してこの場に居ると……。

 

「先生! あのっ、母を治せますか!?」

「私からもお願いするわ。勿論報酬だって可能な限り用意する」

 

桜、凛の二人が駆け寄り問てきたので出来るだけ感情を抑えて答える。

 

「俺は善意で今まで自分の持ってる術を開帳してきた。そこの衛宮切嗣さんはその範疇で如何にか出来る見込みが高いが君達二人の母親、それにアイリスフィールさんは正直厳しい」

「そんな……」

 

俺の答えに対して俺の態度を見てある程度覚悟をしていたのか士郎イリヤの二人は顔をうつ伏せアイリスフィールさんの方を見る。桜は感情が優先されたのか涙を目元に蓄えたが、遠坂凛は冷静に言葉を紡ぐ。

 

「……じゃあ見せてない術の中にお母様を助ける術は?」

「姉さん?」

「……可能性としては……ある」

「じゃあ!」

 

さっきまでもっと気楽にやろうとしていたのに、いざとなるとやはり心が重くなる。

 

「数字で言えば1割前後、そして失敗すれば二度と動かなくなる。ある程度意識を取り戻す程度なら間違いなく開帳した術の範囲でやれる。

 確実な限られた時間の会話か、一か八かの博打に掛けるか。家族である君達がそれぞれ決めてくれ。

 それと決断に余り時間を掛けすぎると成功率は下がるぞ」

 

ふら付く桜をライダーが支える。遠坂も顔色が悪い。そしてソレは士郎、イリヤの二人も同じだった。

二人を尻目にちらりと件の人物を見れば退室した時と変わらない傷と血が『そのまま』ある。恐らく肉体と魂の繋がりが希薄でありソレが常習化していた弊害。アイリさんは外傷こそ見当たらないが似た様な状態だろう。

身体が傷ついても心と魂が薄く繋がっている状態なら魂への影響が薄く、傷からの出血も少ない。

 

「決断出来るまでに切嗣さんを先に処置する。士郎君、イリヤさん、布団ごと奥へずらせるか?」

「あぁ……」

「ずらせばいいのね?」

 

粛々とケアルを重ね掛けし、何度かエスナを掛ける。グール化していた身体は元に戻り、体の弱っている部分もエスナで治す。

繋ぎ留められてた切嗣さんの魂はきちんと復活したので暫く療養すれば順調に回復はしていくはずだ。そう士郎君に説明してから問題の女性二人に向き直る。

改めて二人を見る。見た目としては肌に走る亀裂や腹部の傷等が目立つがそれ以上にアンデッド特有の匂いが微かに漂う。

湿気た古木から出る甘い匂い……これが強く香り始めると途端に腐敗臭が漂い始めかなり分かりやすいサインとなる。この匂いを嗅いでいるとヴァナディールでアンデッド討伐を行う傍ら狂気じみた実験を行った過去を思い出す。

一応はその狂気の感情は乗り越えたが自分の過去の罪を思い返す様であまり気分は良くない。首筋をかきむしりながら畳へ胡坐をかいて座る。

 

全員が見守るなか影から次々と材料を取り出す。

先ほど準備した反魂樹の根をすり潰しペースト状にしたモノと聖水に浸した夢想花の花びら、細かく砕いた蜂の巣の欠片に光のクリスタル。そして鍵となるレイエリクサー。

光のクリスタルを右手に持ちながら子供たち4人に目を向ける。

 

「作って投薬したらもう引き返せない。灰になるか、生き残るか……二つに一つ。それでも作るか?」

 

4人は一縷の可能性に掛けて首を縦に振る。ソレを見て溜息を一つ吐いてから右手に持ったクリスタルを両の手で包み魔力を流す。

魔力を流す事で固体として結晶化していたクリスタルは属性固有の光を放ちながら宙へ浮き物質としての形を解いていく。クリスタルが完全に光になるタイミングで注ぐ魔力を一気に増やす。

飽和した魔力が畳に置かれた素材を浮き上がらせ光の中へ取り込んでいく。光の坩堝へ取り込まれた素材はお互いに作用しあいながら一つの形へ導かれる。

 

部屋中に広がった強力な光はやがて有香の手元へ収束しソコには二つの小瓶が収まっていた。

 

「っはーーーーーー。出来た。はい」

 

そう言って有香は手元の小瓶を桜と士郎、それぞれの子供たちへ手渡す。時間にしてほんの数十秒の作業なのにまるで滝に打たれたかの様に汗を流しながら。

 

「悪い、かなり疲れたから向こうの部屋で休むわ。ソレ飲ませれば良いから自分たちの手でやってくれ」

 

言い終わると返事を待たずに部屋を出ていき残されたのはマスター4人とそれに付き従うサーヴァント。そして其々の母。

誰もが言葉を発さず移動する男の足音が聞こえなくなると恐ろしいまでの静寂が部屋へ訪れた。

 

最初に桜が口を開き姉へと問いかける。

 

「姉さん……」

「……桜、貸して。私がやるわ」

 

「イリヤ」

「シロウ、ソレをやるのは私の役目よ」

 

年下から年上の子へと渡される可能性の切符。かくしてその切符は各々の母の口へと注がれる。




※1.本来のFF11では学者の「女神降臨の章」ではレイズは範囲化しません。

投薬の結果

  • 両者生存ルート
  • 遠坂葵のみ生存ルート
  • アイリスフィールのみ生存ルート
  • 両者死亡ルート
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