祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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一部間違いに気づいて修正


3話 生誕

休日二日目、日曜日。普通ならだらだらゲームしたり寝たりと自堕落な事をしたいのだが、状況が状況なので身の振り方を考えなければいけない。

一先ず洗濯物を干しながら仕事の候補を考える。教師になるのも良いし、前の世界の様な仕事に着いても良い。

引き出しだけなら割とあるのだから食っていくだけなら仕事を選ぶ必要も無い。

何より死なない事を優先しよう。そのためには先ず今の学校を辞めて就職活動か……貯金はそこそこあるし問題無いだろう。

ため息を一つついてから辞表をPCで作成してプリントアウトする。そして直ぐに封筒に入れて準備完了。

時間にしたら1時間も掛かってないのに凄く疲れた。リビングで昨日買ってきていた缶ビールを飲みながらぼけっとする。

どれ位そうしていたのか、何時の間にか眠っていたようで不意に目を覚ます。目を擦りながらソファーから立ち上がろうとすると目の前のテーブルに奇妙なモノを見つけてしまい動きを止めて凝視する。

見たことの無いギチギチと音を鳴らしながら此方を見ている何か。余りに気持ち悪く顔をしかめる。というかこんなの何処から入ってきたんだ。

顔を歪ませながら買い置きの殺虫剤はと視線を部屋に巡らせてると目の前の奴が甲高い音を出したと思ったら飛び掛ってきた。瞬間、全身に鳥肌が立った。

ゴキブリが顔面に向かって飛んでくるとかそんなモンじゃない。もっと気持ち悪い。生理的に嫌な感じがして思わず両手で顔を庇う。最悪飛んで来た奴を右手で叩き落とすつもりだったが、それは目の前で起きた現象でやる暇すらなかった。

 

まるで金属同士を叩き付けたような音が鳴ったかと思うと目の前に薄い橙色の壁がが広がっていた。

 

その光景に思わず動きが止まる。

 

知ってる。これは前の……エヴァの世界で人外の敵、使途が使って……いや、正確には前の世界の生物なら誰もが持っていた『心の壁』

でも何でここに来てこんなモノが出てくる? ヴァナでは全くといって良いほどこんなモノは発現しなかった、それこそ今よりよっぽど命の危険があったのに。

余りに唐突な光景に虫の事すら意識の外になってしまう。どれ位呆然としていたのか、虫の事を思い出して辺りを見回すが虫は既に居なかった。

ため息を吐きながらソファへ腰を下ろす。何で俺が心の壁……ATFを使えるのかはこの際置いとく。自衛手段が増えたとでも思ってよう。それよりあの虫だ。

うろ覚えだけどアレは確か慎二君所の祖父の使い魔か何かだった気がする。肝心な何かを忘れてるけどそこは間違ってないはず。

確か元がエロゲーなだけにR18的存在だった様な気がする……だから昨日の食事の前に会話した時に鳥肌立ちまくってたのかな。

休んだはずなのに心労が一気に表に出てきたような虚脱感を感じつつ、買い置きのカップうどんに湯を注ぐ。自炊する為に食材を買ってきていたがそれすら使うのが億劫になり思わずインスタントに手を出す。

前の世界じゃ不摂生だった為に色々と体にガタが来ていたから自炊を心がけようとしていたのに……。思わずため息が出てしまう。

 

 

 

「はー……又無職か……、だる」

 

 

 

翌朝、疲れた体を引きずって職場の学校へ。着いてからは直ぐに上司に掛け合って退職の意思を伝えて引き継ぎの為に1週間は続けると約束した。

急な退職の為に理由を聞かれたがソコは嘘八百。ある意味俺の一番得意な事。

理由は天涯孤独と思ってた自分の家族が見つかった、そして相手から一緒に生活をしたいと持ちかけられそれを受けた為に学校での勤務が厳しいという事。

更に相手は病気を患っている為、中々移動が出来ないという設定。

余命が無くなって唯一人自分の血を分けた存在を探し出して連絡をしてきた家族に対して情を動かされたという……傍から見たら荒唐無稽だがこの世界の俺だと天涯孤独って事実があるので嘘に聞こえない。

ある程度察してくれたのだろう上司は引継ぎも1週間で良いと言ってくれた。本当にありがたい上司だよ。

そんな訳で俺の退職期間が確定した為、表面上は何事も無い様に過ごしてる。俺自身どこかのクラスの担任って訳では無いから特別連絡事項は無い。

ちょっと最後の飲み会と言って連日飲みにつき合わされはしたけど、そこはご愛嬌って奴だろう。

 

退職が決まり3日が過ぎた頃、引継ぎの資料作成等に時間を取られて遅くまで職員室に居たのだが……ソレが災いした。

資料作りが一段落して自動販売機に飲み物を買い、戻ろうとした所で耳障りな音が聞こえてきた。

鉄同士を叩きつけるような音、非日常的な音に思わず眉を寄せて音の出所を探ると校庭から聞こえてくる。身を屈めながら全体が見える校舎の2Fまで上がり窓から見下ろす。

見えない何かが音を立ててる。所々で土煙が上がって人影が見えたと思った次の瞬間には又消えて音が聞こえる。

薄暗いというのもあっただろう。だがそれ以上にソレ等は速かった。

自分では見えない、視界に捕らえきれない何かが争っていると理解した時、ゾっとした。

 

 

 

コレが始まりだと。

 

 

 

原作の開始だ。

思わず駆け出した。

直ぐに職員室へ全力で向かいノートPCと荷物をまとめて車へ向かう。

電気等を消すとか最低限の所だけで鍵も掛けずに走る。

明日怒られるとかそんな事を考える暇も無く兎に角走る。

あんな人外の争い事になんて巻き込まれたくない。俺はもう死にたくない。

俺は自分が思っていた以上に自己保身が大事で矮小な人間なんだ。

 

車の運転座席に座って噴出す汗に不快感を感じつつハンドルを握りながら頭を置く。

大丈夫と自分に言い聞かせながら、流れる汗をそのままにキーを挿そうとした―――――――――硬質な音がした。

 

 

 

車の屋根から槍が生えていた。

 

 

 

自分の顔の横。ほんの数センチ横でATFに阻まれて動きを止めた真っ赤な槍。

もし止まることなく突き入れられた先には、鎖骨を貫き、肉を割き、恐らく心臓へと到達していた。変な声が出た。

そのまま車の外に転がり出る。堪らず転び、後ろを振り返ると車の上に青い男が立っていた。

知ってる。槍兵。

赤い槍を使うとても速い……。

 

「くーふーりん……」

 

思わず出てしまった言葉に青い男、クー・フーリンが顔を顰めながら此方へ身体を向ける。

 

「オメェ……何故俺の名を知ってやがる。それにどうやって俺の槍を止めた? 魔術師か? にしちゃぁ……まあ良い」

 

極限に追い詰められると考えるより先に体が動くというのは嘘ではないらしい。思わず両の手で顔を庇った俺の顔、数十センチ前にはATFに阻まれる槍があった。

涙目になりながらも立ち上がり駆け出すが直ぐに目の前から強烈な衝撃が腹に伝わる。

肺から空気が出て目の前がチカチカと明滅するような感覚。あぁ、人間って蹴りで浮くんだな……等と場違いな思考をしながら体は吹き飛ばされ車にたたきつけられる。

背中を強かにぶつけて目の前へ倒れこみ息を吸い込もうとするが腹の痛みでそれもままならない。

まるで餌を求める鯉の様に口をパクパクとさせるが空気は一向に入ってこない。

空気を求める間に幾度と無く硬質な音が鳴り響いた後、今度は衝撃が顔に来て頭が跳ね上がる。

蹴られたと解ったのは大量の鼻血を流しながら鼻を押さえているとクー・フーリンが独り言を喋ったからだ。

 

「ふぅん、手前、何でか知らねぇが武器に対しての防御が硬てぇな……その割りに蹴りは普通に通じると……ならコレならどうか……なっと!」

 

顔が燃えた。

比喩ではなく、恐らく手で覆ってた顔が物理的に燃えた。

目を開ける事も呼吸をすることもままならず、たまらず地面を転げまわる。

余りに痛く、辛く。ただ涙だけが出た。

そして何故か体が軽くなる感覚だけが酷く鮮明に感じられた。

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

「ッチ、後味が悪過ぎるぜ」

 

ランサーのクラスで現界したにも関わらずルーン魔術を使った。その事にもムカツクし、俺の槍を妙なモンで止めやがった。

結局魔術師かどうかわからなかったが……もう終わった事だ。残りの処理は綺礼に任せちまおう。

後味の悪さからつい相手に目をやるとピクピクと動いてやがる……哀れだ。せめてもの情けとして首を落そうと槍を振るう。

 

キィン! と硬質な音を立て再度あの壁が槍を阻む。

 

「何!?」

 

直ぐ様後ろへ飛び身構える。肉弾戦でボロボロにした挙句、ルーンで顔を焼いて殺した。

手ごたえとして確かに殺したはずの肉体に情けで首を落そうとした途端、またあの壁が出現した。

アレを出してるのが焼いた奴ならまだ生きてるって事になる。だが色々と可笑しい。

 

何故アレは自分の攻撃全てをあの防壁で防がなかった?

何故槍だけを拒んだ?

何故ルーンは通った?

実はアイツが防御した様に見せて術者は別?

若しくは自動的に防御する何かを持っているだけ?

相変わらず魔力が動く気配が無いのに槍を阻むコレは何だ?

 

疑問が次々と湧いてくる。ソレ等を考えながらも視線は焼いた男から外さない。

……動きは無い。だが俺の感がアレを危険だと教えてくる。何かは分からんが脅威にならん内に摘み取るのが良いと。

最速で、最小の動きで、倒れている奴の死角……上空から槍を穿つ。だが、再度硬質な音と共に槍は壁に阻まれる。

 

「やはり槍は防ぐか……」

 

防がれた槍を足場に後ろへ飛びながら炎のルーンを紡ぐ、着地と同時に足元に転がる石に炎とは別のルーンで働きかけ相手へと飛ばす。

すると又、壁に阻まれた。解りづらいが先ほどよりも壁の色が濃く……はっきり視認出来る。

髪の毛を結んでいる辺りがチリチリと違和感を告げてくる。アレは何かヤバイ。

ランサークラスで現界している為にワンテンポ遅れたがそれでも直ぐに出来上がったルーンを放つ。

 

「燃えろ!アンサズ!」

 

火球を倒れてる男に向けて飛ばすと、盛大な爆発音と共に炎が広がる。だが同時にまた『アノ音』が聞こえた。

距離を取りながら槍を構えなおすと先ほどは通った炎が壁に阻まれ男の前で防がれているのが解る。ランサークラスとはいえ、それなりに魔力を込めたルーンが防がれた事に多少苛立ちながら再度死角へ飛ぶ。

目の前の男は確かに倒れている。時折体を痙攣させている所を見るとまだ死んでないだけで顔面が焼け、吸い込んだ炎に肺や気管を焼かれて苦しんでるのか……それとも死んでるのか。

どちらにしろ先ほどから死角から放つ槍を悉く不可思議な壁で防いでやがる。時折ルーンを使ったり肉弾戦を仕掛けてみたりするもキッチリ壁が止めて来やがる。

素人の始末なんざ直ぐに終わるとコイツを無視し戦いを優先させ、さらに気分が乗ってる所に別のボウズに水を差されて戦いを中断して殺した。

あっちのボウズの始末は直ぐに終わったってのにコイツは妙な壁使いやがって・・・・・・やっててイライラする。

つーか綺礼!!見てるならテメーが対処しろや! 明らかにコイツはお前向きだろうが!

暫く攻撃を続けてたが綺礼から戻ってくる様指示があった。ま、この男自体はさっきから動かなくなったし死んだかもしれねが。

消化不良だが仕方無しと割り切ってさっさと霊体化する。まったく、アイツがマスターならこんな面倒な事しなくても良かったんだがな・・・・・・。

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

青い鎧に身を包んだクー・フーリンが霊体化して姿を消した後、数分経過した所で男の身体が光始める。

まるでその死を無かった事の様に血が、傷が、逆再生の様に戻りながら宙へ浮かび、全てが完治すると同時に地面へ着地した。

着地と同時に尻餅を突いて盛大にため息を吐く。

 

「はー……リレイザーがあって助かった」

 

魔法【リレイズ】効果のある妙薬。ヴァナで一時期俺の収入源になってた薬。

時代と共に代価品が出て使われる事も減っていったが、収集癖というか勿体無い病というか……兎も角手持ちにあったコレのお陰で窮地は脱した。

現代日本だからステータスを白/黒にしていたのがアダになった。つーか動き早すぎる。ありゃ後衛職の能力だと捌けない。

っていうかATFが又出てたし。ヴァナだと一切出なかったモノが何でこっちじゃ出る? 助かってるけど謎だ……。

ヨロヨロと立ち上がり自分の服がまったく問題ない事を確認してから直ぐに車を走らせる。

兎に角一度家に帰って、直ぐに色々準備してから人目のある所へ移動しないと。

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