祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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4話 産声

青いのに襲われてから既に3時間程経過している。今は某ハンバーガーが代表の飲食店で時間を潰してる。

っていうかファーストフード店って意外と24時間営業してるのね。ジャンクフードとか久々に食ったけど……やっぱ旨いな。

もう2時間もすれば日が昇り始めて辺りも明るくなるはず。そうなったらさっさと引き継ぎの連絡だけして街を出よう。

最後の仕事がこんな形とか個人的にも嫌だが命には代えられん。メールで資料や手順をまとめたモノを送信してと……。

首や肩を捻りながらゴリゴリと音を鳴らして水を飲む。目を瞑って自分のステータスを思い描く。

何も見えない瞼の裏に自分の能力が浮かび上がる。これはヴァナディールで冒険者になってから身に付けた事で、他の人達はもっと細かい所まで見えるらしいが、自分は装備品や所持品、今何の職業をセットしているか程度しか分からない。

逆に所持品の所持限度が無い状態のは物凄く羨ましがれたが。そのおかげで今、家財道具一切合財を手ぶらで持ち歩くという荒業が出来ているのだからコレには感謝。

ただ他の人と違って一定量以上の物は何故か自分の影から出入りするという謎仕様なのは疑問だ。

 

一息ついた為に腹が空いて来た。1階のカウンターで追加の注文をして受け取りまた2階へ上がる。

ノートPCを使って軽く住む土地の目星を付けていたら、ふと、違和感に気がついた。静か過ぎないか?

さっき注文しに行く前にはまだ何人か客が居たのに居ない。始発が動いたのかと思ったがまだ4時を過ぎた位で始発までまだ時間がある。

嫌な予感がする。直ぐにPCをリュックに詰めて店を出るため1階へ降りよう……そう動いたが、嫌な予感ほど当たる。

後ろからの風斬り音。振り向きの最中、視界の端から向かってくる赤い槍。

槍に合わせて上半身を下げ、合わせて左足を起点に右足で蹴りを出す。易々と蹴りを防がれたがどうにか距離は開いた。

テーブルの上で気だるそうに槍を肩に担いでしゃがみ込む青い装いの男。つい数時間前に俺を殺した男がソコに居る。

 

「よう、さっきぶりだな」

「これ程嫌な再開ってのは中々無いなぁ……」

「まぁそう言うなよ。しっかし妙な事ってのは続く時は続くもんだな。まさか一晩で同じ人間を二度殺すって珍事が二度も続くたぁ。師匠が何かやったのかと疑うぜ」

 

やれやれだ、そう言わんばかりにテーブルから飛び降りてこっちを睨む。何で原作キャラが絡んでくるかね、こっちは被害さえなけりゃ逃げるだけだってのに……。

しかし危なかった。さっきの奇襲はステータスをモンクに切り替えてたから対応出来たが、そうじゃなけりゃ今頃あの槍に貫かれてたかもしれない。

 

「クー・フーリンさんよ」

「おん?」

「アンタの目的って何だ?」

 

キョトンとした顔でコッチを見てるが目的が『目撃者を消す』って事ならイコール『魔術の秘匿』のはずだ。なら俺が秘密を喋らないって事でカタがつく筈。

 

「こりゃ俺の推測だけどよ、恐らく……魔術の秘匿って奴だろ? もしそうなら俺は今回の事は喋らないし墓まで持って行く。俺自身叩けば埃の出る身でね、いざこざは避けたいのさ。ついでに言えば既にこの街を出る準備は出来たから後は電車なりなんなりで移動して口を噤むだけ。どうだ?」

「ほう、そりゃ何とも手回しが良いな。さてどうしたものかね……」

 

ニヤニヤと笑いながらこちらへ一歩近づくのに合わせて俺も後ろの階段へ下がる。モンクにしてるおかげで何とか槍へ対応は出来るけれどでもソレだけ。

ATFを自在に出せるならまだやりようもあるけど、何で出たのかも解ってないモノに頼るよりは自分の体に頼ったほうがいい。分の悪い賭けは好きじゃない。

クー・フーリンがにやけ顔で此方へ詰めて来る……直ぐに動けるよう重心を落としていたにも関わらず初動が見えなかった。顔の近くまで槍が近づいてやっと反応出来る。

 

「にゃっろ……!!」

 

悪態を付き床に倒れこみながら手近な椅子を手に取り武器にする。迫り来る槍を椅子で弾き、時に椅子で避け、絡め取れないかともやってみるが逆に椅子を巻き上げられた。

直ぐ様別の椅子を蹴り上げて構える。突きを椅子で受けながら絡めて近づく。が、クー・フーリンが下がりながらなぎ払いで対応してくる。直ぐに椅子を手放して槍の逆方向へ回り込んで接近。

そのままの勢いで足払いをかけながら【コンボ】からの【双竜脚】を放つが入ったのは足払いのみ、【コンボ】と【双竜脚】は初撃を右手で防ぎ、二撃目を槍を手放した左手で、三撃目は倒れこむ勢いを利用してかわし、追撃の双竜脚は一撃目を足場にして宙を舞い、追撃を手元に戻した槍で防ぐ。

俺がモンクをやる時の決め技を初見にも拘らず見事といわざる得ないほど槍と体裁きで防がれてしまった。戦いの最中とはいえその体裁きには思わず目を見張る。

直ぐに思考を切り替えて攻撃の手を続ける。椅子を蹴り飛ばし、ソレを追いかける様に近づいていく。

飛んで行く椅子が切り払われる寸前で追加の椅子を放り投げてクー・フーリンの死角へ。勢いを保ったまま【タックル】

上手い事入ったと思ったがどうやら誘われていたらしい。俺から受けた衝撃をまるで独楽の様に回転しながら殺し、オマケに槍での攻撃に転じて見せた。

両腕でガードが出来たものの左腕の二の腕と一の腕、更に右の一の腕の三箇所をザックリと切り裂かれてしまった。確実に骨まで達した傷。たった一回の防御でコレとか原作キャラ本気で強すぎませんかね!?

思わず舌打ちをして無理矢理腕を上げて構える。右はまだ構えられるが左腕が胸の辺りまでしか上がらない。

背中から冷や汗が流れ、額には脂汗が流れる。あぁ、ヴァナディールで色んなモンスターを狩ったが目の前のコイツ程じゃなかった。

いや、性格には自分の腕が上がってからはここまで追い詰められなくなってた。装備が無いとか色々な要素もあるがそんなの抜きにしてもクー・フーリンは強い。というか強すぎる。

どうやって切り抜ける? 何か何か無いか。切り抜ける為の何か。

 

「悪く無い動きだ。初めの動きとはまるで違う。ちと脆いのが残念だがソレでも良いセンいってるぜ?」

「そいつはドーモ、良いセンついでに見逃しちゃくれんかね。アンタの相手は俺にゃ辛い」

「悪ぃーな、マスターが始末しろって言ってんだ。諦めてくれや」

「さよで……」

 

呼吸を吐く、吸う、吐く、吸う。何度か呼吸を繰り返し気合を入れて再度構えながら【チャクラ】を使う。両腕に着いた傷から煙りが上がりミシミシと音を立て再生する。

再生すると言っても限度があり全快とはいかないが拳を振るうには足りる程度には治った。その様子を怪訝な顔でクー・フーリンは見ている。

追撃してくるかと思ったが何故かしてこなかった。何のつもりかわ分からない……だが折角なのでやれる事は全てやる。

【インナーストレングス】【無想無念】【インピタス】【集中】【回避】【百烈拳】

効果時間は短い、やれて45秒。その間にどうにか転機が訪れなければ……ここで死ぬ。死にたくない。

 

知らず知らずの内に唸り声を上げていた。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

目の前に迫り来る拳を見ながら考える。この男はどういった経緯でこの戦争に参加しているのか。

先の言動を考えると偶然巻き込まれた類か……あの小僧が七人目になるよりコイツが七人目になればもっと楽しかったのかもしれない。そんな事を頭の隅で考えながらも体は目の前の拳を反射的に防ぎ、捌いていく。

あの壁は魔術であろうと当たりを付けたが先ほど見せた回復はどうだろう。目の前で行われた回復行為に魔力の気配は無く、先ほどから続く拳の嵐もその速度がドンドン増している。

まるでエンジンの回転数が上がりギアを上げていく様に、加速度的に拳の速度は上がっていく。その光景には思わず口元がにやけるほど。

強者との戦いを望み参加してみれば出鼻を挫かれ、望み薄な展開だったにも関わらずココに来てまさか生身の人間が自分と同じ領域に居る事実。

しかもさっきまで物理一辺倒という感じだったコイツの拳は急にサーヴァントである自分に攻撃が通用し始めた。面白い。面白過ぎる。

思わず零れる笑いを止められそうにない。

 

「ははっ! イイ! やっぱり戦闘ってのは血湧き、肉踊るって感じじゃねぇとなぁ! そうだろ!」

「っ!! 戦闘狂かよ!」

 

拳一発の威力も悪く無い、速度も良い感じだ。だが見るからに後が無い。

だったら俺はこの猛攻を捌いているだけで目の前のコイツはジリ貧になるだろう。だがそんなのは俺の好みじゃねぇ。

槍で防御しながらあえて素手で応戦する。時折織り交ぜるように槍で攻撃する。

槍を振るう度に男の身体は赤く染まっていく。

 

「どうしたどうした! さっきの傷を塞ぐ奴は使わないのか!?」

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

「それとも赤く染まってみるか!?」

 

このやろぅ……クー・フーリンが槍を振るう。手加減されていると解っていても尚、避けきれないその槍捌きに若干の嫉妬を覚えながら致命傷にならないように身体をずらす。

防御はまだ良い、当ってるが致命傷にはなってない。問題は攻撃で振るう拳を奴が槍で防ぐ時、ご丁寧にしっかり槍を俺の拳に当ててくる。

当然奴さんの固い武器を素手で殴る形になる訳で……結果的に俺の拳は皮膚が裂け結構な血が流れ出してる。それでも攻撃を止めれば直ぐにあの槍を振るわれて終了。かといって打開策も無い。

気持ちばかり焦るがたとえ拳が砕けようとも今は気にする場面じゃない。体感で百烈拳の効果が半分を切りそうだ。

たった数十秒がやたらと長く感じる。目の前の男のニヤケ顔が凄くムカツク。振るうたびに重くなってくる自分の拳が嫌になる。

だが拳を止めることは出来ない。止める事は自分の死を意味し、それを受け入れてはヴァナディールで世話になった彼に、そしてエヴァの世界で家族になってくれた妻や娘に顔向け出来ないような気がしてならなかった。

故に、傷つき血に塗れた身体を動かす。限界ギリギリまで身の内に溜まった『気』を拳に乗せて放つ。ヴァナディールでモンクの代名詞と呼ばれるその技に変えて。

 

「食らっとけ! 【夢想阿修羅拳】【連環六合圏】【四神円舞】」

 

男の技が発動した時、初めてクー・フーリンは彼の拳を……自分に放たれた攻撃を見失った。知覚したのは届いた打撃の感覚。

ほんの一瞬の内に20近い打撃。生前にすら感じなかった知覚出来ない攻撃……しかも魔術の類でなく純然たる技として放たれた攻撃。

それが自分に向けられた物だとしても滾らずには居られない。闘争を求め参加した戦争、にも拘らず戦争を避けろと命令されフラストレーションが溜まっていた所に来た一般人を殺すという面白くも無い仕事。

なのに蓋を開けてみればどうだ。魔術を使うでもなく、純然たる技で、その拳一つで自分とやりあう男が居る。多少食らった所でこの戦闘への飢えが満たされるのならば笑わずには居られない。

 

冒険者生活80年を超え、只管マート老と研鑽を重ね辿り着いた怒涛の3技連携。間違いなくクー・フーリンに届いた攻撃だが……それでの目の前の男は倒れなかった。

それを受けて尚、立ちふさがる男は間違いなく英雄と呼ぶに足る人物だろう。そして自分の敵としては余りに強く、ましてや一人で挑むには高過ぎる壁だ。

最早身体に力が入らず立っている事さえ辛い。今すぐ膝をついて倒れてしまいたい。

だが駄目だ。ここで倒れたら待ってるのは死ぬ未来。それはどうあっても受け入れられない。

 

「くっそ……まだ余裕たっぷりかよ」

 

あふれ出る汗と上がらない腕。息を吸うにも一苦労と思える疲れが全身に圧し掛かる。

こうなったらJOBを変えて……いや、多分魔法職にした時点で槍に対応出来ずに死ぬ。せめて装備ありなら離脱の隙を作る位は出来たかもしれないが、周りの目があれば手を出しにくいだろうと考えた事が完全に裏目に出てる。

考えを巡らせるが良い案なんて出てこない。物語の主人公キャラは何でこんな状況下で色んな閃きがあるんだろう……やっぱ世界に愛されてるんかね。

そういう意味だと俺なんか完全に異物っつーかウィルスみたいなもんじゃね? 別世界を渡り歩いて巡り巡ってこの世界に来て……っは。妙な笑いが出てくる。

 

「地力の差がありすぎて笑えてくるな……英雄ってのはスゲェよ、素直に関心する」

「ハッ、その英雄に食らいついて来たお前さんも大したモンだと思うけどな」

「馬鹿言え。拳は割れてるわ、疲労困憊。それに引き換え相手はピンピンしてると来た。せめて隙の1つでも出来るかと期待したけどソレもムリっと」

 

言いながら疲労が足に来て尻餅を付く。一度崩れたらもう立ち上がれそうにない。大量の汗を流しながら愚痴を零す。

 

「この様だ。こんな事なら万全の体制で迎え撃った方がまだ目があったかもなぁ……、まあ所詮『たられば』だな」

 

盛大にため息を吐いて息を整える。何かここまで来ると諦めが出てくるな。

 

「ほー、って事は何か? 準備が出来てたなら俺とまだやれてたと?」

「さてね、でもちゃんと準備しとけば拳が割れる事は無かっただろうし、防具も着けれた。もっと言えば槍でやっても良かったかもね」

「へぇ、オメー槍も使うのか」

「アー、使う使う。槍でも銃でも剣でも斧でも、使えるもんは何でもな」

「面白れぇな」

 

「逃がしてくれりゃもう一回位ならやれるけど?」

「そりゃ出来ねぇ相談だ。こっちも仕事なんでな」

 

言いながら槍の先を俺へと向ける。ま、解ってたけどね。残念だ。

 

「せめて『痛い』なんて思う暇も無しに頼むよ」

「こっちじゃ『武士の情け』って言うんだっけか?」

「言うねぇ、ま、俺武士じゃないけど」

 

ま、思えば人間80歳までと思えばヴァナで1度は大往生の年齢まで行った。結末がこうなるとは思ってなかったが大分生きた。

諦めて目を閉じる。

 

奇妙な人生だったが、ある意味大満足だ。

一度は家族が出来、子も設けた。

我が子を抱く時の幸福も、失う時の絶望感も味わった。

死んだら何処に行くのか……家族とまた会いてぇな。

 

そんな事を考えながら、胸に感じる異物感と遠くに聞こえる馬の嘶きを最後に意識が途切れた。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

ビルの屋上から後ろにライダーを携えたままアイツとサーヴァントのやり取りを見ている。……アイツ本当に人間か?

 

「何でサーヴァント相手に生身で対応出来るんだよ……」

「シンジ、あれはランサーが手加減をしているおかげです」

「そんな事は分かってるよ! そうじゃなくて、手加減されてたとしても何でまともに戦う形になってんだよ! 普通嬲り殺しにされて終わりだろうが!」

 

何であんなポっと出の奴がサーヴァントとやりあえるんだ……思わず爪を噛む。くそ、あんな魔術の素養が無いただの一般人と思ってたのに……サーヴァントと殴りあいが出来るとかバグも良い所だ。

あぁ、イライラする。

 

「で?」

「で、とは?」

「お前はアイツを手に入れるつもりなんだろ? 行かなくていいのかよ。アイツ死ぬぞ。さっさと全部食ってりゃこんな面倒な事にならなかったのに……ったく」

 

そう。今僕がこんな寒い思いをしているのも。イライラしなきゃならないのもこのグズがあの時にアイツを全部食っておかなかったからだ。

せめて閉じ込めておけば後は吸い尽くすだけだったのに。

 

「そうですね……そろそろ行きます」

 

そう言い残して屋上を蹴り、ライダーがファーストフード店へ向かって飛んで行く。後はアイツが上手くやるだろう。

こんな寒い所で一人待っても意味が無いしさっさと家に帰ろう。こんな時はアイツでストレス解消するしかない。ああ、イライラする。僕の思ったとおりに動けよクズ共が!

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