祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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5話 思考

心臓を貫いた槍を捻って確実に殺し、更に突いた槍を横に薙いで傷を広げる。あふれ出る血液の量が目の前の男の死を間違いないと告げている……だが、クー・フーリンは警戒を解かずに男の死体を観察し続ける。

そんなクー・フーリンの耳が馬の鳴き声を捉える。場違いなその音に直ぐ様警戒を強めて声の方へ槍を構える。

直後、背後から嫌な気配を感じて身を屈めながら槍を振ると切っ先が鎖付きの短剣を捕らえていた。火花を飛ばしながら短剣を弾き、直ぐ様その場から飛び退くと同時に先ほどとは別の短剣が別角度からクー・フーリンが居た場所に突き刺さる。

そして目の前には堂々と姿を晒す女性のサーヴァント。長髪で紫の髪色、両の目を覆う眼帯。

まるでお前等眼を瞑ったままでも相手に出来ると言わんばかりの井出立ちに少なからず怒りが湧く。

 

「テメェ……」

 

さらに目の前の女は敵対している自分を無視して先ほど殺した男の死体を見下ろす。

初見のサーヴァントには深追いせず情報を必ず持って帰って来いとマスターの命令があったが、隙だらけであり多少の怒りも相まって刹那の間に背後へ移動し槍を振るう。

しかし、クー・フーリンの槍は獲物を捕らえる事無く空を切る。それどころか既に槍の間合いから外れている。

その事が逆にクー・フーリンを冷静にさせた。目の前の奴のクラスは何だ?

 

「セイバー、アーチャー、ランサー」

 

自分を含めてこの3クラスはもう会っている、更に態々姿を晒すなんて事はキャスターならするはずもない……となると。

 

「アサシン……いや、ライダーか」

 

ライダーのクラス名にピクリと反応する。やはりライダー。しかし自身の速さに多少なりと自信のある身としてはたまらない。

更に踏み込んだ先が良く無い。一度目の弾いた攻撃。二度目の別角度からの攻撃。

この二回で既にライダーの鎖による結界が出来上がっている。狭い室内で鎖の結界により尚の事狭くなり、満足に槍が振る事が出来ない。

 

「っち、この場面で出てくるって事は、テメェ見張ってやがったな?」

「……えぇ。どうしてもソレが必要だったので」

 

そう言ってライダーは男の死体を指差す。

 

「へぇ……だがソイツはもう確実に殺したぜ。心臓を貫き、抉ったからな」

「だとしても、ソレは回収します」

 

ライダーは対決も止む無しと短剣を構える。

それを見たクー・フーリンは構えていた槍を解いて背を向ける。

 

「付き合ってやりてぇ所だが初見のお前さんが居る以上、俺は直ぐに撤退する必要があるのさ。じゃあな」

 

言い終わると同時に直ぐ様クー・フーリンの姿が消える。ライダーは暫く迎撃の構えをしていたが気配が遠のくのを確認して男の死体を回収してこの場から離脱した。

 

 

 

あの場から離れたクー・フーリンは自分のマスターが居る場所へ向かいながら思考を巡らせる。

 

(ライダーがあの場に現れたのはあの男を手に入れる為だった。だがアイツは確実に殺した……それでも欲しがるって事は……。)

 

一つの可能性を思いつく。二度ある事は三度あるとはこの国の言葉だったか。思わず口角が上がっていくのを押さえられない。

三度目に期待しつつ、マスターへの報告の仕方を考えなければ。

 

 

 

ライダーが真中を回収し、死体をうつぶせの状態でペガサスへ乗せて間桐宅へ移動の最中。死体がもぞりと動いた。

行き成りの事に思わずペガサスを止めた途端、彼はガバリと起き上がり、そのままの姿勢で地面に向けて落ちていく。

 

 

 

意識が戻った時には空の上だった。目を開けたら町並みが眼前に広がってるとか誰が予想するよ。

 

「う、うぉあ!?」

 

思わず驚いて立ち上がろうとし、『落ちた』

物の見事にするりと落ち、馬上から転げ落ちた。頭が追いつかず目の前のペガサスを思わず凝視。

あ、ライダーが手綱持ってる……ってか何でライダー? ライダーもめっちゃ驚いたっぽいな、ちょっと固まってるし。

 

「どわぁあああ!!」

「っ!!!」

 

おちっ、落ちる! 死ぬぅぅうううう!! 長い人生ココまでの高さから落ちた事なんて無い。焦りながら咄嗟にポケットを弄り目当てのモノを見つけ直ぐに口に含む。

飲み込んだ数瞬後に強烈な衝撃を受けて意識が飛んだ。

 

 

 

困惑しながらペガサスを繰り落ちていった男の元へと辿り着くと、案の定潰れた死体がソコにあった。下半身は服が無ければ飛び散り、上半身は胸の辺りまで潰れており、腕も肩口辺りまで地面に叩きつけられて飛び散っている。

恐らく痛いと思う暇も無く絶命したであろう男の死体は、服という袋が無ければ間違いなくミンチになっていただろう。尤もその袋も殆ど破れてしまっているのだが……。

どうしたものかとライダーが思案していると多少飛び散っているミンチ死体が『もぞり』と動いた。この場で物理的にでも男の肉を食らうべきかと考えていた矢先に死体が動き始めたので尚の事驚いたライダーは目の前の光景を呆然と見る。

見る間に死体はミンチから元へ戻り、あっという間に人の形に戻ってしまった。ただ破けた服と辺りに微かに残る血の匂いが目の前で起こった事を主張している。

男が死んで、その後に蘇生した。

神秘が薄れて希薄なこの時代にそんな事が可能なのか……そう思いもしたが目の前で起きた事を否定する材料も無い。動揺しながらも男を再度ペガサスに乗せて空を翔る。今度は落さない様に鎖で縛り上げた状態で。

男を縛り上げた時についでに男のポケットを弄ると小瓶が一つ出てきた。見た目だけなら綺麗な小瓶位の感想で終わるが中身がおかしい。

この時代にそぐわない神秘を感じられる、それも自分が生きていた頃でもお目にかかれない様な濃厚な神秘。思わずその小瓶を自分の胸元に収める。

もしこの男がこの様な薬を複数所持していたら。もしかしたら自分の本当のマスターを……サクラを治す手立てがあるのかもしれない。

そんな期待を感じながらライダーは男をペガサスに乗せて空を掻け、間桐家へと急ぐ。

 

 

 

目が覚めると薄暗い場所で冷たい床に寝かされていた。身体を起こそうとすると背中側の服がガビガビになっていてゴワゴワする。それに身体中から骨が鳴って節々が痛む。

あぁ、空から落ちたから……何があったのか思い出しながら身体の痛みに顔を歪めつつ辺りを見回す。目を覚ました場所はライダーを抱いた(抱かれた?)場所だった。上に掛かっているタオルケットをどけながら起き上がる。

 

「ここって……」

「蟲蔵じゃよ、お若い先生」

 

声のする方を向けば間桐兄妹の祖父。コツコツと杖を突きながら階段を下りてくる。老人が近づく度になにか違和感が増していく。

 

「少々……おんしの持ち物を改めさせてもらった。一つ聞きたい、あの薬を何処で手に入れた?」

 

何の事を言われているか分からなかったが自分の体を弄って予備のリレイザーが無くなっている事に気が付いた。しかめっ面しながら間桐祖父を睨む。

粘着質な笑みを浮かべながら尚も此方へ近づいてくる。

 

「人の物を盗るのは関心しないな……」

「わしも孫の教師の荷物を改めるのは心が痛んだがね……死者の蘇生が叶う薬となれば話は別だ」

 

さっきから音が大きくなってる。小さい音が幾つも重なって大きく聞こえてくる。

 

「更に言えば……」

 

そう言いながら間桐祖父は杖を此方に向ける。次の瞬間、俺の頭上で硬質な音がした。振り返るとソコには人の倍はある蜘蛛が此方に牙を向けていた。尤もATFで防がれてはいたが。

直ぐ様振り向きざまに拳を一発。殴った感覚はあるが……柔らかい。いや、脆いという方が正しい。

結構キツメに殴ったはずなのによろけもせずに牙を突きたてようとしてくる。悪態をつきながら数発追加で殴る、蹴る。やっぱり手ごたえが可笑しい。牽制の意味で攻撃してたが距離を取りたい。

幸い【気(TP)】は溜まってるので技は使える。気の流れを右腕に集めながら力を貯める。周りのエーテルが反応し周囲に緑の淡い光が漏れて右手へ集う。放つ技は【短勁】

 

「食らっとけ!」

 

ドゴンッ! と、まるで自動車同士が交通事故を起こしたような重たい音が蟲蔵に響く。吹っ飛んだ蜘蛛を確認してから後ろを振り返る。【気】を高めながら余裕たっぷりの爺を睨む。

 

「どういうつもりかな、爺さん」

「サーヴァントと渡り合ったと聞いたのでな……どれ程か見てみたくてな」

「だから蜘蛛をけしかけた?」

「そうとも、それとお前さんが魔術師である事もこれで確信が持てた。何より、ランサーと会話するという事はそういう事じゃろう」

 

何でクーフーリンと会話してる事を知って……あぁ、そうかこの爺がアレだ、蟲の塊。という事はあの会話を虫を通して見聞きしてた?

取り合えずもう体裁を気にする段階は過ぎたか。

 

「はっ! そんな事知るか。それより俺は帰りたい……つーか出て行きたいんだけど? 」

「お主が魔術師である事は分かった。だがその所為で一つ疑問も増えた……何故お主が聖杯にマスターとして選ばれなかったかだ。何年も前からこの地に住んで居るといる上で聖杯に選ばれなかった……更に言えばお主の経歴や血には魔術の痕跡は無かった……ワシの記憶にも無い」

「なぁ、会話のキャッチボールしようぜ。俺は帰りたい。年寄りの話とか興味無いんだけど?」

「……間桐臓硯」

「は?」

「ワシの名前じゃよ」

 

次の瞬間、臓硯の身体が崩れた。

思わずギョっとなり臓硯が居た場所を凝視してしまう。するとソコから嫌な音があふれ出す。

知識としては思い出したが目の前で体感するのとはやはり訳が違う。想像して欲しい。目の前で会話していた人が崩れ落ちて、その残骸が全部虫に変わり自分目掛けて這い回ってくる様を。

全身に鳥肌が立ち後ろへ下がる。そりゃ大きな昆虫とかはヴァナで相手をした。アンティカ族とか砂丘でのガガンボとか色々と。

でもアレは大型で、かつ単体。こんな小さいのが郡体でワラワラと自分目掛けてやってくるのは流石に経験もないし……何より気持ち悪い!正直触りたくないというのが心情。

ならどうするか。

 

答え『焼く』

 

メインジョブをモンクから赤魔道士へ切り替える。そのまま直ぐに【ファイア】の詠唱に入る。冒険者時代からずっと続けてきた詠唱。

特に意味は無いけれど、それでも逝ってしまった彼と共に考えた詠唱は習慣で口から漏れる。

 

「『朱と生命の泉』『対価と世界の法則の歪』『エーテルの輝きを此処へ』【ファイア】!!!!」

 

詠唱の完了と共に手の平を対象へ向けながら魔法名を口に出すと、虫の中心で人一人分飲みこめるほどの炎が起こる。

更に下がりながら【ファイア】を詠唱しつつ考える。

感覚的に【連続魔】が使えない今、発動までの時間が短い魔法を使うか、それとも多少時間を食っても範囲魔法を出すべきか。

全方位から這い寄って来る虫に鳥肌が立ちながらも虫が身体に這い上がってこないのは、虫が飛び掛ってくる度に発動しているATFのおかげだが何時まで防いでくれるか分からない為一瞬でも油断すれば即座に死んでしまうかもしれない。

湧きあがる生理的嫌悪感を目の前の虫を燃やす事で抑えながら出口を探す。【ファイア】を連続で放ち地面に残る炎が辺りを照らしてくれたお陰で殆ど暗闇状態だった蟲蔵がぼんやりと見え始めた。

その為、階段自体は直ぐにわかったが……階段が単純に長い。もっと言えば周りの蟲が減る様子が無い。

 

「だー! クソがっ! 一体どれだけの蟲が居るんだよ!!」

 

自分の周りで響くATFの硬質な音を聞きながら魔法を詠唱し続ける。いっその事【とんずら】使うか? でも効果が切れたら追いつかれそうだし。

逃げるだけなら呪符がまだ幾つかあるが……効果が現れるまでの詠唱で邪魔がされそうだよな……。相手のペースに乗せられてるよなぁ……新しい手札切ってる上に魔法使ったから魔術師じゃないって言い訳も通用しないだろうな。

やっぱここは逃げるが勝ちか。しかし打開策が……なんて考えていたら2Hアビリティが回復したのが感覚的にわかる。確実に逃げるなら後はジョブ変えて……。

 

 

 

目の前の小僧が足を止めおった。先ほどまで魔術で儂の蟲を焼いておったがそれも止めて目を瞑っておる。

この小僧が持っていた薬。アレが欲しい。アレの製法を含めてこやつを手に入れる。初めはそう思っておったが……。

見かけた当初は苗床としても、種としても優秀だと思って操る為に奇襲したが失敗。だがソレと同時にこの男を桜と共に間桐に染め上げれば次代の間桐に相応しい子が出来るやもしれん。仕込むだけ仕込んで、残りはサーヴァントの養分にでも……そんな考えはこやつが炎を使うまでじゃった。

アレはいかん。炎を使う魔術師は別に珍しい訳でもないし過去に何度かやりあった事もあって対処は分かる。だが先ほどから小僧が使う炎には何故か蟲の身体が過剰に反応してしまう。

理由は分からんがアレは儂と相性がよくない。儂の勘がそう告げておる。何としてもココで息の根を……。

あの小僧を庇う様に展開されておる赤い壁を貫くのは意識外からの攻撃くらいしかないか。そう思って天上からの奇襲を仕掛けるべく蟲を集め大型の蜘蛛を成形していたが……小僧が掌を振りかざしたかと思えば閃光が現れた。

蟲の特性上どうしても光に弱い儂は一時的に視界を失い、視界が戻る頃には小僧は既に蟲蔵から抜け出しておった。

蟲を集め普段の儂の形を作る。幸いにも小僧から奪った小瓶は合い変わらずこの手にある……。

 

「ふむ……収穫は薬一つ。されど使い様によっては鬼札になりうる……か」

 

小瓶を懐に収めて上へ上がる。仕込みが肝心、それもなるべく早い方が良い。早速桜を呼ぶとするか……。




後書きは本編とは余り関係ない事を……。

作者のFate暦は浅く、本格的に知り始めたのが去年の11月。
それまではアニメや原作者のきのこ作品を読む事はしてましたがFate関係はそこまで入れ込んではいませんでした。
ある事が切っ掛けでFGOに手を着けてそこからFateに触り始めて1年。
こんな作品をこさえる程度には作品に興味を持ってます。

作品自体には作者の好きな物を集めて、それをFateに落とし込んだらどうなるか。それを試しているので出来上がりが遅いですが付き合っていただければ幸いです。

質問や感想、評価や誤字報告等、反応、ご指摘は何でもありがたいのでお待ちしております。
では次話でお会いしましょう。
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