祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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実に3か月……4か月ぶりの投稿。
その間にお気に入りとか評価してくれた人。本当にありがとうございます。
仕事優先なので色々とね……。
次はもうちょい早く書き上げます。


7話 始動

驚きの表情でこちらを振り返る男、名前は真中有香……。きっと普段の私ならこの先生に興味を持つ事すらしなかったはず、けれど冬木のセカンドオーナーとしては見逃せない。

何時から魔術師として活動していたのか知らないけれど、私に……セカンドオーナーに何の断り無く魔術師が住み着いて知らん顔して出て行ける何て思ってるんじゃないでしょうね。

 

「先生、今……お時間宜しいです?」

「あ~~……っと……確か遠坂さんだよね? もう9時をまわろうって時間なのにこんな所で何か?」

「中真先生に是非お聞きしたい事がありまして」

「えっと……それは今日じゃないと駄目なのかな? 何だったら後日とかでも良いと思うんだけど」

「いえいえ、先生は辞職なされたと聞きましたから……なら今日の内が良いかなと思ってここまで」

 

逃げようったってそうは行かないわよ。アンタが魔術師だって事はあの日……アーチャーがランサーとやりあったあの日から張り込んで分かってる。

必ず自白させて今日までのショバ代払わせてやるんだから!

 

 

 

後はホテルで休んだら明日からは新天地! そんなタイミングで女生徒からめちゃくちゃ良い笑顔で話しかけられた。一瞬『実は先生の事がっ!』なんて妄想してしまったがナイナイ。

振り向いてみればツインテールにリボンを付けて、こっちをキリッ!っとした目つきで微笑を浮かべている女の子……何だろう自宅訪問のセールスか宗教勧誘くらい胡散臭い。

一瞬『誰?』と口から出そうになったが、直前の記憶からこの子が原作のヒロイン枠である事を思い出した。確か弓の赤い奴と一緒にこうビルをピョンピョンと飛び跳ねたりするんだっけ。

ある意味正しい魔術師って奴だからルールに乗っ取れば話せない相手じゃないか。

 

「そっか、じゃあ取り合えずホテルのロビーでも良いか? それともどっか別の場所の方が良かったか?」

「(罠? 例えそうだとしても最悪の場合はアーチャーで身柄の確保という手もあるし)……いえ、ロビーでお願いします」

「そう? じゃあ入ろうか」

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

ホテルに入りチェックイン処理と手荷物を預けてから遠坂さんの所へ戻る。まぁロビーなんて言っても高級ホテルじゃないからフロントから少し離れた角にあるソファーに腰掛けるだけ。

座る様子の無い遠坂さんに手で座る様に促すが座る気配が無いので一度肩を竦めてそのまま切り出す。

 

「それで? 話ってのは何かな? 確か遠坂さんとはこんな風に一対一で話した事も無かったけど……俺に何の用なんだい?」

「そうですね、幾つか質問が……でもその前に一つはっきりさせておきたい事があります」

 

腕組と仁王立ちに加え、まるで裁判員の様なモノ言いにちょっと押されながら先を促す。何というかパワフルというかエネルギッシュというか……やっぱ原作キャラって持ってる熱量が違うねぇ。

 

「先生は魔術師ですね」

「……ん?」

「それも戦闘と治療に特化したタイプ」

「ん~~?」

「そんな魔術師が、この冬木の……セカンドオーナーたる私に断り無く入り込み、挙句に聖杯戦争に少なからず加担しているのはどういった理由かしら? 少なくとも時計塔から何も連絡は受けていない以上、派遣されてきたって訳では無いのでしょう?」

「……」

 

勝ち誇ったドヤ顔を披露されながら頭をかきつつ、遠坂さんの言葉を頭の中で紐解いて見る。セカンドオーナー、聖杯戦争、時計塔、派遣。

聖杯戦争ってのは確かこのドンパチの総称だった気がする。で、時計塔から連絡が~ってのは遠坂さんと繋がりがあるナニカで、そこから人が派遣される場合があると。

で、魔術師うんぬんの話の流れで派遣って話に繋がるって事は時計塔ってのは魔術師を派遣するような場所? 会社? 多分そんな所か。

分からんのがセカンドオーナーって奴だけど……オーナーって事は何かを管理、又は所有してる人って事だよな。

窓枠に頬杖つきながら外を眺めて思考を巡らす。ここで選べる選択と行動は何だ? そして遠坂さんは何を目的として俺に話しかけてきた?

正直分からん事だらけだなぁ……って言うか何でこんな駆け引きっぽい事を俺はやってるんだろう。面倒臭いなぁ。

何か適当に煙りに撒いても言い気がしてきた。嘘八百並べ立てても理論的に潰されそうだから……真正面から潰すか。

 

「遠坂さんの質問に答える前に、一つ聞きたい事があるんだけど……セカンドオーナーって何だい?」

 

 

 

思わず目を見開き、口を開けてマヌケ面を晒してしまったわ。

この男、言うに事かいて『セカンドオーナーって何』って本人に聞く!? なめるのも大概にしなさいよ!!

思わず怒りから立ちくらみを起こして頭に手を当てながら数歩下がる。

なるべく事を穏便に済ませようとした私が馬鹿だったわ。礼儀を知らない者にはソレ相応の対応があるって事を知りなさい!

 

「ふっ、ふふふ。先生は冗談がお上手な様ですね。魔術師が自分の住んで居る土地のセカンドオーナーを知らない? それは自分の国の大統領を知らないって事に似てますね」

 

 

 

遠坂さんの頭に井形の血管が浮いてる様が幻視出来る程度には怒っているのがわかる。っていうか何でこの子は『俺=魔術師』になってるんだろう。

接点って学校位? 学校……学校……あ、ランサー戦?

あの頭焼かれて殺されたシーン見てたのか。もしそうなら其処から蘇生したのを見れば魔術師に見えるのかな。

でも魔術師って事とセカンドオーナーってのが繋がらんな。オーナー……貸し出す? 何を? 魔術的な何か?

知らない内に魔術的何かを借りていて、ソレに対して怒ってるのか? だったら筋が通るような気もす……る?

もんもんと頭を捻っていると、ついに痺れを切らした遠坂さんが俺に宣言してきた。

 

「兎も角! 先生が魔術師である以上! この冬木に来てセカンドオーナーたる私に何の断りも無く魔術の行使はご法度!

 通常のやり取りに従って、先生には手数料及び滞在した年数分の金額を納めてもらいます!」

 

……え? オーナーって土地貸しみたいな事?

思わず口開けてぽかんとしてしまったが、気を取り直して遠坂さんに問いかける。

 

「つまり冬木って土地で魔術師が滞在するには通常の部屋を借りたりなんかする以外に、セカンドオーナーって役職に対して滞在費を支払う義務がある?」

「えぇ、そうよ。魔術師なら知っているでしょ?」

「でもさ……先生魔術師って奴じゃ無いんだけど?」

 

あ、目元と口元が痙攣してる。美人の怒った顔って何か迫力あるよな。アニメ顔とはいえ。

しかしまぁ、そうか。セカンドオーナーってのは土地貸しをする人なのか。で、誰彼が今この土地に居るって情報を魔術教会って奴に送ると……魔術を使う人間の位置情報の把握って奴?

人の意識下に働きかえる術とかやれる事を本気で使えば犯罪も容易だから取り締まってるのかね。でもセカンドオーナーの役職持ちと実行犯が手を組んだら色々面倒……もしくは更に監視する役割を持つ組織が別にいるのか?

監視……何か思い出せそうな気がするけど、何だっけか。何とか機関? こりゃエヴァの方か。魔術機関? 何か違う。

イタコ? シャーマン? 霊能力? 今一ピンとこねぇな。もっとこう……仏教系だったような?

 

「セット」

 

何かの掛け声が聞こえたのでそちらを向くと、彼女が右腕を銃の形にしてこちらへ向けていた。次の瞬間、二重の衝撃と鈍い音を感じながら意識が飛んだ。

 

 

 

あれ……? 目の前の男、中真先生は魔術師だ。それは疑い様も無い。始めはランサーとやりあったあの日、衛宮君を治療した後に学校を出る前に見つけた血溜まり。

周囲を調べて槍での攻撃痕がついた車をアーチャーが見つけて持ち主を特定。(ミヤコに借りを作ったのは癪だけど)

衛宮君の家まで行った時にランサーの一言が無ければ見落としたかもしれない其の後の攻防。何せあのランサーとファーストフード店でやりあっているのを見た。アレが一般人な訳がない。

なのに目の前にはガンドの一発を奇麗に食らい、あまつさえその衝撃で後頭部を壁へと叩きつけるというおまけ付き。完璧に気を失ってる。

 

(おい、凛?! これは大丈夫なのか?)

「え……いや、だって(素直に食らうなんて思わないじゃない!)」

 

私が慌てふためいてオロオロしている間に、ホテルの従業員が声をかけてきた。

 

「お客様どうかされましたか?」

「えっ?あっ、いや……」

(疲れてしまった。寝てしまったそう言え)

「えぇっと、連れが急に寝ちゃって……多分疲れてたのかと……」

 

従業員が私の後ろを覗き込む様に顔を傾け、男が俯いているのが見て取れたのだろう。従業員はニコリと笑いながら腕で力こぶを見せてくる。

 

「そうですか、ではこちらでお部屋まで運びましょう」

 

善意、もしくは若干の下心でもあるかもしれない従業員の対応に私は慌てて止める。何せ先ほどは勢いに任せてガンドを放った為、魔術での人払いをしていない。

 

「あああぁ!いえ!いいの!私が運ぶわ!」

「いや、しかし……」

「いいから!」

 

そう言う放ちながら暗示をかける。……ポケットに忍ばせておいたソコソコ良い宝石を触媒にしたのでバッチリ効いてる。でもこんな使い方するのならもっと安い奴も持ってきておくべきだった。くそう。

 

「……はい。……わかりました」

 

フラフラしながら従業員が去っていくがお財布的に私の方がフラフラよ! アーチャーから哀れみの籠った念話が飛んでくるが無視無視。

 

(凛…………)

 

手を頭に当てながら暫し考える。

 

(お小言は後、兎に角部屋へ運ぶから手伝って)

 

中真先生のポケットを弄って持っていた部屋のカードキーを使って部屋へ入る。落ち着いて軽い認識阻害をかけたので人に見られることも無かったから良し。

 

「で? どうするだ?コレは」

「うっさい!今考えてるのよ!」

 

男をベッドに放り込んで備え付けの椅子に腰かける。

 

「アーチャー、実際の所アンタの目から見てこの男ってどう?」

 

アーチャーが現界しながら凛の問に答える。

 

「どう……というと?」

「印象っていうか……行動が凄くチグハグなのよ。サーヴァントとやりあうだけの戦闘能力がある。其の上魔術の心得も多分持ってる。なのに聖杯戦争が始まった途端に町を去ろうとする。

 マスターの一人になる事にかけて冬木に滞在していたのかもしれないけど、だったら別に方法は他にもあるでしょう? それこそ最後のマスターが聖杯を手に入れる寸前になって奇襲をかけるとか。

 なのに取ろうとした手段が冬木からの脱出、つまり逃げるの一手だったのが凄く気になるのよ」

「そうだな……私から見てソコの男は確かに奇妙な点が多い」

「例えば?」

「動き方だ」

「動き方?」

「一般的な生活……少なくとも学校でその男の動きを監視していた時は『ちょっと運動神経が良い一般人』位の動作だったが、君と一緒に見ていたランサーとの闘いの時には完全に体の動かし方が違っていた」

「……言いたいことが今一うまく分からないのだけど、それは闘い方が上手いとかいう話では無いの?」

「全く違う。君もスポーツをするなら分かると思うが、覚えた動きというのは何気ない仕草にも必ず影響を及ぼす。

 水が高い場所から低い場所へ流れるように、一度体が効率の良い動かし方を覚えると関係ない場面でもその動きを取り入れようとするものだ。

 だがソコの男にはソレが全く見られなかった。もっと言えば君と対面した時ですら一般人と変わらない動きだった」

「戦闘になるかもしれないという考えが全く無かったとか?」

「そうかもしれない、だがあり得るか? 聖杯戦争の最中、この冬木を出る為に色々と画策している男に学校の生徒が、学校を辞めたその日の晩に訪ねてくる。

 私なら間違いなく警戒心を抱いて身構える」

「確かに……なら何故ガンドを黙って受けたのか。そもそもコイツって……」

「凛」

「何よ。何か良い案でもでた?」

「そうじゃない、今、彼の身体が動いたぞ」

 

「え?」

 

アーチャーが示す指先にはゆっくりと上半身を持ち上げる先生の姿があった。

 

 

 

奇妙な感覚だ。

まるで遠い所から……俯瞰で自分の体を操っている様な……、それでいて感触が水の中に居る様に感じる。

そうか、コレが妻や娘が感じていた感覚なのか……。

上半身を起こし自分の掌を見つめる。

 

そこで漸く人が居る事に気がついた。

あぁ、覚えているぞ。

敵だ。あれは紛れも無く敵だ。

私と彼女の邪魔になる。このノアの箱舟たるこの躰、私たちの敵。

 

「…………出て行きたまえ」

「えっと……」

「私を攻撃してきただけでは飽き足らず、私の荷物まで漁ろうという魂胆かね?」

「んなっ?!」

「盗人猛々しいな。それともそういう血筋か?」

「ちがっ!私はアンタを部屋に運んでやっただけよ!」

「そもそも、私を倒したのはキミだろう。まったく。教師生活の最後にこんな手痛いしっぺ返しを食らう事になるとはね……」

「…………っ!」

「大体、昏倒させた人間の部屋に別の男と一緒に潜り込んで何をするつもりだったのかね。私を贄に見立ててサバトの真似事でもやるつもりだったか?」

 

 

 

そりゃ攻撃したのは私だし、多少は言われるのも分かるけど……ここまで言われると流石にムカつく!

 

 

 

「さあ、もう帰りたまえ。私はコレでも忙しいんだ。わざわざキミの為に時間を割いたが……それが失敗だったようだな」

 

 

 

ここまで虚仮にされたのはアイツ……綺礼以来だわ。血管が破裂しそうな眩暈を覚えながら目を瞑る。手を頭に当てて少しの間自分を落ち着かせてから、アーチャーに念を送る。

 

(常に優雅たれ、でも私ってここまで馬鹿にされてコイツを許すの? ソレは違うわよね? ええ、違うわ、絶対違う。

 ……アーチャー今直ぐコイツの肩でも太ももでも貫いて自分の立場ってモノを解らせて)

(落ち着け、凛。コイツはマスターでは無いのだろう? ならばサーヴァントを使ってまで脅すというのは優雅とは言えないんじゃないのか?)

(うるさい! ここまで虚仮にされて泣き寝入りなんざ出来るかっての! キッチリやりかえさないと収まりがつかないのよ!)

 

 

 

アーチャーの溜息を聞いた気がするが視線は目の前のこの男へ向ける。認識外からの攻撃で慌てふためくコイツの顔を見て留飲を下げるのが先よ!

そう考えていた私の思惑は当てを外れる。

アーチャーが男の背後に回り込んで攻撃を仕掛けようとした瞬間、アーチャーが逆に吹き飛ばされた。

視覚外からの英雄の一撃を防ぐ魔術師って何よ。戦闘に特化した魔術師の大家なら分かるけど、存外の魔術師でそんな事が出来て良いわけ?

 

 

 

(ふむ……ユイが守ってくれたか)

視覚外からの一撃を放とうとした男をATFを使用する事で吹き飛ばしていた。使用方法自体はかつて敵として対峙した第14使徒と同じ使い方。

今、中真有香の体を動かすのは本人の意思では無い。

かつて、別の世界であらゆる犠牲……それこそ世界を犠牲にしてでも自分の妻を救い出そうと狂気の世界をその身一つで掻い潜ってきた男。

名前を碇ゲンドウ。巨大な組織の長であり、あらゆる非道な決断を自分の息子にまで下し、そうしてでも自分のたった一つの宝を求め続けた男。

そして彼は自分の考えていた方法とは別ではあるものの、求めていた者を手に入れた。思いがけず手に入れた理想郷。

長い時間を妻と過ごし、幸せを享受したがこの世界では新たな生命の創造は出来ない。そして次に出た夫婦の欲求は『息子に会いたい』という願いだった。

しかしこの理想郷に息子は居らず。さらにこの世界では新たな命の創造は許されていないらしい。いくら事に及んでも新たな命が宿る事は無かった。

だが、一縷の望みがある。この箱舟の能力を考えると無いとは言い切れない。もしかしたら違う世界かもしれないが、それでも自分たちの子供に会える可能性が残っている。

だからこそ守らねばならない。前の世界では敢えて箱舟を危険に晒して自衛手段を手に入れたが、この世界では手に入れるべき力は殆ど無いに等しい。

故に、ある意味総力戦が行える。魂の形を変え、理想郷で摩耗した者達も消耗される事に同意している。

その為にはまずは今、この時を生き残らなければならない。

先へ、類似の世界へたどり着く為に。

 

「私の……私達の邪魔をするな」

 

男の両目が赤く染まる。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

遠坂凛は困惑していた。聖杯戦争の枠を狙ってきた魔術師を追い詰めるつもりで来てみれば、逆に自分の英霊を追い詰めている。

しかも今まで目の前の男が使ってきた身体的能力ではなく、恐らく魔術で生成された壁をぶつけるというシンプルな技術で。

支援として放ったガンドも片手で展開された壁に阻まれ、反対側からアーチャーが切りかかるも同様に壁に阻まれる。しかも生成した壁をアーチャー事打ち出して建物の壁にぶつけるオマケ付き。

シンプル。やってる事は物凄くシンプルなのだがそれ故に破るのが難しい。

男が壁を作り出す前に攻撃を入れれば倒せるであろうと思うが、その壁の生成が早すぎる。

ノーモーションで少なくとも二方向に同時展開が可能な壁。さらに生成後に射出が可能。面での攻撃と同時に防御壁でもあるアノ壁は非常に厄介だ。

それに場所が良くない。こんな狭い部屋であの壁を作られると攻撃の幅がものすごく減る。

今思えば話の場に誘われたのもフェイクかもしれない。屋根と壁のある場所、アーチャーの強みである遠距離攻撃というものが潰される形での戦闘。

もしかしてこの男は私がアーチャーを召喚していた事を知っていた?

嫌な汗が首筋に流れるのと同時にアーチャーが自分の隣に戻ってくる。そしてすかさず私を抱えたかと思うと直ぐ様部屋から離脱し始めた。

 

普通の敵なら文句の一つも出るかもしれない。常に優雅たれ。この私の家訓に背くからだ。

だが今回に限っては文句が出なかった。悔しいが敵を過小評価しすぎていた。

故に今は退く。自分の見通しが甘かったせいだと。

 

「覚えてなさいよー!!!!」

「凛、それだと思いっきりヤラレ役だぞ」

 

冷静なアーチャーの突っ込みが辛い。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

直面していた危機は乗り切ったか。

そうゲンドウは判断して直ぐに荷物を纏めると、ATFを使って足場を作りながらホテルの窓から隣のビルへと歩いて移動する。

確かにここで戦闘を行ったのは自分だが、ホテルの修繕費を払うだけの支払い能力が有香には無かったからだ。

なので彼はさっさとこの場を去る事にした。詰まらない事で余計な出費をするのは組織を動かす長だった者としても容認出来ないという考えの元。

最も、翌日にはこの部屋でボヤ騒ぎがあったと報じられ、ホテルには保険が下りるのだがソレはゲンドウはあずかり知らぬ事である。

 

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