祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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8話 決意

目が覚めたら自宅だった。どういうこっちゃ。

良く分からないままポケットを確認してサイフがある事を確認。現金もちゃんとある。

そして謎の封筒が一つ。振ってみた感触だとどうやら紙が入っているらしい。

 

電気や水道その他諸々の解約手続き上、まだ水道が通ってた事をちょっとラッキーと思いつつ喉を潤してから身支度を済ませて家を出る。

家を出て腕時計を見ると昼過ぎだったので、その足で近くのファミレスに入って昼食。店に入る前に【マイバック】からカバンとノートPCを取り出して小脇に抱える。

昼を取りながらwebニュースを見ているとどうやら冬木でガス事故が起こったらしい。被害の場所は……元職場じゃねぇか。

学校で事が起こったって事は原作が本格的に開始されたって事か? いや、もしくはもっと前から始まってた? 正直時系列を殆ど覚えてないし、ぼんやりと覚えているイベントもどうやってソレが起こるか詳細は分からん。

だがコレが原作が開始されたスタートと考えると1か月以上此処を離れればそれだけで自分が被害に会うというのは免れる事が出来る。

職を失うというアクシデントはあったが、まぁソレも過ぎてしまえば笑い話に出来るだろう。何事も前向きに考えないと足が止まってしまう。

 

…………。

PCから目を上げて前の席には相変わらず話した事の無い人が居る。

 

「それで貴方は何でわざわざ相席してきたんですかね? キャスターさん」

「あら、私を知ってるのね」

 

面白そうに俺の前でクスクスと笑うキャスター。まぁ、一応聞いてたし。

 

「えぇ、葛木さんと呑みに行った時に話題に上がりまして。何でも将来を考えてる相手だと聞いてます」

「えっ!? そ、そそっそうなの?」

「酒が入った時に女性の話になって……その時に……あれ……もしかして何も言われて無いです?」

 

キャスターの顔が真っ赤になってる。というか耳尖って無いのは幻術か何かかな。

少し考える素振りをしてから視線を外しながら指を彷徨わせる。

 

「あー、じゃあ俺から聞いたとかは無しでお願いしますね。彼ってちょっとロマンチストな所あるから、もしかしたらサプライズとか計画してるかもしれないので……」

 

顔を赤くしながら首を縦に振るキャスターを見つつ、本題を切り出す。

 

「それで、俺に何か用ですか? 今日ってか今からでも此処を発つ予定なんですけど」

「あっ、あら。そうなの。あ、あ~えっと、え~っと、そのね。色々と聞きたい事とかあったのだけれど……ああ~えーっと……」

 

ふむ、神代のキャスターって言うけど、そこを外れるとこの人ただのバカップルの片割れだよな。

割と可愛い感じの思考してるというか……昔の人の価値観があるから残酷な側面もあるけど、それでも現代に適応出来るってスゲェよな。

そんな感想を抱きながら黙々と食事を進めていると、恐らくキャスターが頼んだであろう食事が運ばれてくる。

 

「キャスターさん、一先ずは落ち着いて食事をしたらどうですか? その後に多少はお話に付き合いますんで」

「……そうね」

 

顔を赤くしながらもパスタをフォークで突くメディアさんは割と可愛いと思う。後、恥ずかしさ紛れにタバスコ結構かけてるけど食べれるのか?

 

 

 

案の定というか掛けすぎて食べれなくなったパスタはせっかくなので俺が貰い、もう一つパスタを注文して再度食事再開。

予定になかったパスタだったが、まぁパスタの一皿位は許容範囲なのでペロリと食べた。割と辛いのも平気で食べれるのでこの程度は余裕。

で、食事を終えてから話を聞いてみると何か要領を得ない。肝心な事を聞きたいのにそれを上手く切り出せないでいるというか……。

どうせ上手い事駒にしようとか思ってた所に彼の話をぶち込まれたからタイミング失ったって所かな。

あっ、因みに葛木君と一緒に飲みに行ったのは本当だし、女性関係の話をしたのも本当。彼って口下手だけど話題を振ってやるとちゃんと喋るし回答が面白いので何度かサシ呑みにも行った。

酒の趣味が甘党だったのは意外だったが話は割と合うんだよね。

 

「さて、キャスターさんとの話は名残惜しいんですが俺はそろそろ店を出ないと」

「あ、あら? もうそんなに時間が経ってたかしら?」

「えぇ、この後の予定も押してるので……すみませんがこの辺りで」

「あー……あぁ……分かったわ。ごめんなさいね、ここまで話に突き合わせちゃって」

「いえいえ、楽しかったので気にしないで下さい。ああ、それと結婚式には是非呼んで下さいね、スピーチしますよ?」

 

顔を真っ赤にしたキャスターに笑いながら「ごちそうさまです」と言って伝票持って席を立つ。

何というか……葛木君から聞いてた印象よりもかなり可愛い感じだな。

 

追ってくるかと思ったけどそんなことも無く、あっさりと離れていった。もしかしたら魔術を使われてる可能性もあるから後でディスペル使っておこう。

それにしても……葛木君人生の勝ち組じゃねぇか。公務員で美人の恋人が居て順風満帆……うーん、出来るならひっそりと幸せになって欲しい二人だな。

さて、街中でタクシーを拾って量販店へ向かう。ダクトテープを買って車の屋根に空いた穴を簡易処理しないと……。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

量販店でダクトテープを買って店の裏手口、カメラが設置されてない場所で自分の車を【マイバック】から出す。

車外と車内の両方からダクトテープを張り付けてとりあえずの応急処置を完了。直ぐにエンジンを掛けて出発、目指すのは一先ず南!

自分の足が手に入った安堵感から溜息を出しながら車を県外へ向ける。一旦県外に出てしまえばそう易々と原作に絡むことも無いだろう。

高速に乗って2時間も走る頃には既に熊本に入っていた。小腹が空いたのでドライブスルーで軽食を取ってさらに南へ。

 

夕方には鹿児島に着いてホテルへ。露天風呂を満喫してから夕食には海の幸満載の料理。

飛び魚の刺身を久々に食べたけどやっぱ旨い。

腹を満たしてから朝に見つけた封筒を開けると中には2枚の紙。それぞれ筆跡が別なのでこれを書いたのは二人、片方は文字的に大人の女性?

 

手紙の中身はちょっと信じられない事が書いてある。人類皆兄弟ってフレーズがあったが、俺一人でそれを体現してるってどういう事だよ……。

混乱した頭を抱えながらリフレッシュの為に風呂に向かう。頭の中さっぱりさせないと理解が追い付かん。

 

手紙は『碇ゲンドウ』と『碇ユイ』の二人からの物だった。

自分が初めて世界を移動し、新しい家族を作った世界。その世界の住人からの手紙。

あり得ない差出人に非常に混乱したがそれと同時にある程度の納得もいった。

あの世界で溶けた人間はその殆どが自分の体の中に居るらしい。

そして長い時間を過ごして、今は自分自身の体を手に入れようと俺の中から異世界を見て研究をしていた……結果として俺が意識を失った時に限り体を動かせるようになったらしい。

どこまでが本当なのかは分からないが、それ以上に衝撃だったのが俺の中に妻と娘が居るかもしれないという事……。

現実味は無いが再び家族に会える可能性が残ってる……それだけで救われる気がした。

 

 

 

少し落ち着いてから露天風呂に入りに来た。

湯舟に浸かりながらも考えることは家族の事。

どうやったら体を取り戻せるのか。エヴァンゲリオンの世界基準で考えればやはりエヴァを模倣するって所か? 肉体を用意してLCLを利用して魂を移すって方法。

だが今いる世界でそんなもんを作り出す技術ってあったっけ。科学技術で言えばエヴァ世界って一部が元の世界より進んでたからな。それでもエヴァを用意するのに膨大な金と時間を使う。

こっちの技術や魔法やらを取り入れれば費用と時間を抑えることも出来るか? もしくは何か別の案を探す……あ?

まて、待て待て! あるじゃないか! メインはアレとして腹案としてはアレも有り……っつーか腹案の方がエヴァ世界的には有りなのか?

そんな事を考えながら夜景を眺めていると不意に入り口の方から湯舟に入る音がした。

多分別の客が入ってきたのだろうと思いチラリとそちらを見ると、とても肌の白いおっぱいが目に入ってきた。

 

「どうしたのですか、急に真顔になって」

「……何でこんな所に居るんですかねぇ……ライダーさんや」

「勿論あなたに会いに」

 

外では付けてたバイザーも外して綺麗な顔が見れる。見れるが……目が笑ってない……。あかん、俺も笑えてないと思う。

 

「それは……男冥利に尽きる台詞だけど、良くココが分かったね」

「えぇ、あなたの残滓がまだ残ってましたので」

 

そう言いながらライダーは自分の下腹部を撫でる。めっちゃ色っぽいけど色々思う所があって愚息はあまり反応しない。

ライダーを眺めてると抱いていた既視感の正体を理解した。この子、嫁さんに顔が似てる……ってかそっくりやん。

 

「それで……何の用があるか聞いても?」

「あら、女が裸で会いに来てるのに……野暮な事を言いますね」

「それは確かに嬉しいけどさ。本当にそれだけ?」

 

何となくそうじゃない気がする。細かい所は忘れてるけどこの世界って主要人物を中心に色んなパターンがあったはず。

この子もその内の一人……のはずだから何かしら抱え込んでるんじゃなかろうか。どうしようかとボケっと考えている間にライダーさんが俺の隣から正面に移動してきた。

 

「お願いがあります。私のマスターを助けてください」

 

どういうこっちゃと首をひねりながら問いかけると、まー厄事の数々。聖杯戦争だとか、性的虐待だとか、身体的な問題等等。いや、ある程度は朧気に覚えていたけど実際こうして聞くと思うところは有る訳で……。

夜空を見上げつつ色々試案する。

ここに来る前は関わるべきでは無いと思っていた案件だが事情が変わったので参入するのも良いかと考える。色々とメリットも多そうだし。

 

「で、ライダーさんからの報酬は何かあるの?」

 

一瞬キョトンとした表情になったが、直ぐに表情を変えて真剣な顔になる。

だが彼女曰く、渡せる報酬としては金銭的な物はほぼ無し。聖杯戦争の優勝賞品である『聖杯』を譲ると言ってきた。

 

「出来ればもっと確実性があるモノを用意したかったのですが……如何せん時間が足りなくて……」

「ふーん、じゃあその聖杯ってのが成功報酬って形か」

 

今の目的としてはアリか? えっと……確かこの世界の魔術としては規格外の代物だからアレとかアレに依頼をする時の報酬としては成立するかも……。

下手に金を積むよりもよっぽど確実かもしれんな。金だといくら掛かるか分からないし。(そもそも遭遇出来るかは別とする)

 

「じゃあ、報酬の一つはソレにしようか」

「聖杯だけでは足りないと?」

 

訝し気な顔をするライダーだが、俺の価値観からすると聖杯って必須アイテムって訳でもないからな。取引材料にはなるだろうけどソレ以上の価値は無いし……。

 

「報酬自体は聖杯って奴で良い。それ以外の所に条件を付けるよ」

「と言うと?」

「……それは事が終わったら教えるよ。今言っても意味無いし」

「そうですか、分かりました」

 

 

 

何かの作品で聖杯戦争後も生きてた描写あったけどそれが叶うかどうかはまた別だし……。

可能でありゃ……幸せに生きてほしいんだけどねぇ……。

 

 

 

■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■

 

 

 

旅館で一泊して運転をライダーに任せて移動中。影から色々と道具を出しながらソレを【マイバック】の中身と入れ替えていく。

 

「貴方のソレは魔術……ですか?」

 

手元に引き出したイカロスウィングを弄りながら視線をライダーに向ける。因みにイカロスウィングはヴァナではTPを瞬時に貯める薬で決戦アイテムとしてちょくちょく作っては市場に卸していた。

 

「ソレってのは……この薬って事か?」

「薬に関してもですが影から色々と出し入れをしているでしょう」

「あー魔術ってのがどんなモノか正確に知らないけど、俺のコレは多分別じゃないかな」

「そうなのですか?」

「だって俺、魔術なんて習ったことも、修めた事ないし」

 

【マイバック】だって最初は普通の背負いカバンだったが、2日目にはカバンが無くなったと思ったら手元で入れ替え可能、内容物確認の為のウィンドウが目の前に見えるって不思議仕様に切り替わってたからな。

彼に『そういうものだ』って説明された時は納得いかなかったが、使えればいいかの精神で飲み込んだ。慣れればこんな物かって感じだし。

それに俺が学んだ物は魔術じゃなくて魔法。しかも別世界だから『こっちの魔術=あっちの魔法』って図式にはまずならんだろう。

ライダーがぽかんとした顔でこっち向いてやがる……前見てくれよ高速で事故って洒落にならんぞ。

 

「口開けてないで前見て、前。トラックに近づき過ぎてるぞ」

 

注意した途端、車がスッと動く。決して急に車線変更したって感じではなくスムーズに切り替えた様な、全く体に負荷がかからない運転技術。いいなぁ……俺もコレだけ運転上手くなりたい。

ライダーに前方注意しつつジョブを切り替える。メインジョブを戦士、サポートジョブに白魔導士。

安定して戦えるっていう意味ならコレで良い。けど、コレは保険であって力押しの戦術なんて取らない。

ランサーと戦ってみて分かったけど基本スペックは相手の方があほみたいに高い。ゲームで言えばLv100の敵にLv10位で挑む感じ。

世界を跨いだ時点で肉体的なスペックはこっちの世界基準に代わってるみたいだし。仮にヴァナ時代の40歳位の頃の体があっても、ランサーとやりあえば8~7割は負ける。

相手の土俵に立ってそれを打ち負かすってのは力ある人物がやればいい。俺みたいに半端者は争いの全容を俯瞰で見て、その根本とルールを抑える。

『戦争』って付いてる位なんだ、ルール無用は世の常だよな?

 

「今所在が分かってるのがセイバー、アーチャー、ランサー、バーサーカー、分かってないのがキャスターとアサシン、でいいんだっけ?」

「はい、その内セイバーとアーチャーは協力関係、バーサーカーはアインツベルン陣営なので他と組む事は無いでしょう」

「なるほど……まぁキャスターとアサシンの所在は俺が知ってるから良いとして」

「え?」

「そもそもこの聖杯戦争って奴を正確に理解している人物はどれだけ居る?」

「えっと……正確にとはどう言う……」

 

ライダーが横目でこちらをチラチラ見ながら聞いてくる。

 

「例えば聖杯戦争の主役はあくまでもマスター側であって英霊はその手助けをするもの、そして贄になる事。そしてその贄を使って聖杯を起動、

 その聖杯も実現可能な物のみ叶えるだけで何でもは叶わない事とか。

 後、聖杯って何か中身が汚れてるっつーか余計な物が付与されて性質が変わってるから……「ちょっ、ちょっと待って下さい!」……どしたん?」

 

こっちが覚えてる事を共有しようと喋ったらライダーに遮られた。何でそんなに焦ってるの?

 

「色々混乱する情報はありましたが、貴方は何故そんなに聖杯戦争に対して詳しいのですか? コレは秘匿された魔術師の儀式のはず、それに貴方は一応一般人というはずでは?」

 

あ、そうだった……俺一応一般人枠じゃん。どないしょ……。

考えを巡らせているとライダーが溜息を吐き、話の続きを促してきた。

 

「はぁ、貴方が何故聖杯戦争の詳細を知っているかはこの際置いておきましょう。貴方が一般人という所も併せて」

「ま、明らかに異常だからそう言われても反論できねーや。取り合えずこの手の細亊は横に置いておこうぜ、目の前の事を終わらせてから説明なり何なりやればいいさ」

 

色々と面倒な事は後に回してまずは目の前の事を完了させる為の方便だがライダーも乗り気なので良しとする。

 

「で、今回の戦争のルールの根底は『サーヴァントを特定の人数倒す』っていう所と『聖杯が願いを捻じ曲げて叶える』って所ね」

「? サーヴァントを全員ではなく特定の人数……ですか?」

「そうそう、というか儀式の更に根底を話せば実は聖杯戦争とかやる意味無い。何せ儀式に必要なのは魔力だけだから時間をかければサーヴァントなんて呼ぶ必要すらない。

 では何故儀式は今のような形を取っているか、過去の英霊を呼ぶとソレ等は形を取るために魔力を目的である根源?だか何だかから魔力を引っ張って顕現する。

 結果、少ない魔力でサーヴァントという魔力の塊が手に入る。コレを核となる英霊殺してしまうと魔力の塊が残る。普通だと根源に戻るが顕現させる際に聖杯に戻る様に仕込みをしておく。

 後は聖杯から魔力を逃さない仕組みをしておけば、結果として小さい魔力で大きな魔力が溜まるって儀式の完成」

「成程……しかし分かりません。それならば態々サーヴァントを争わせる意味が無い様に思えますが……」

 

ある意味当然の疑問をライダーが口にする。

 

「それなー……何でそうなってるのかは謎だけど多分意味はあると思う。例えば戦わせる事でサーヴァントの持つ魔力が散って地脈に流れて活性するとか……何にせよソコは重要じゃない。

 大事なのは『特定の人数を倒す』これに限る」

「特定の数ですか……具体的には?」

「数だけ言えば『7』でもこの数は質を求めなかったらって意味」

「質……ですか?」

「サーヴァントにもピンキリで核となる英霊の質が高いとそれを顕現させるのに必要な魔力も膨大になる。結果として聖杯が得られる魔力が増える。

 これがこの聖杯戦争の抜け穴とも取れる部分だな」

「そんなサーヴァントが居るのですか? 私もある程度他のサーヴァントと会っていますが……」

「まあ、俺が知ってる通りなら問題ないと思う。やる事は増えるかもだけど」

 

【マイバック】の調整を終えて窓の外を眺める。高速で流れる背景を見ながら頭の中でパズルが組みあがっていく。

この戦争を切り抜け、自分の目的を達成する為には倒れられては困る相手が居る。まずはソコを抑えて……後は交渉次第かな。

あぁでも調査しなきゃならん事もあるから金がなー……どんな世界に流れても、結局資本主義社会だと何事にも金がかかる。世知辛いわぁ。

 

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