祝福と目の覚めない悪夢   作:タラバ554

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9話 一歩

「はい……はい……、えぇ。では明日にでもお願いします。はい……では宜しくお願いいたします」

 

相談窓口の人と話をして一通りの計画の目途が立った。教師をしていたという後押しもあって割とすんなり話が通り、直ぐに決行が決まった。

携帯の通話を切ってPCのCADを立ち上げる。伏せていた幾つかの雑誌資料を見ながら図面を引いていく。

1時間もしない内に目的だった物の図面が引き終わったのでその流れでプログラミングを組む作業を進めているとホテルのドアがノックされた。

 

「はーい」

「頼まれた品は買ってきました。ただ、お店の人に聞いても分からないと言われたものが幾つか……」

「んー? 何も特殊な物は頼んでないはずだけどドレだ?」

 

扉を開けると頼んでおいた買い物の品を抱えたライダーが居た。渡された買い物袋を物色して買えなかった物を調べるとソーラーパネルが足りてなかった。

 

「む……ソーラーパネルが無いっつーのは意外だな。でも肝心なFRP樹脂が手に入ったなら後は計算で賄えるでしょ。ありがとさん」

 

本当はソーラー使って日中は無補給で動かしたかったけど無理ならしゃーない。バッテリーの交換とか定位置に置いて使う事で補えばいい。

買い物袋をテーブルに置いてプログラムを組む作業を再開する。

 

「はぁ……しかしこんな物で何が出来るのでしょうか」

「聖杯って知識を与えるけど応用とかは本人の頭でどうにかするって感じなのかね?」

「感覚としては思い出すというものが近いかもしれません。若しくは昔やっていたスポーツを数年ぶりに行う……そんな感じでしょうか」

「ははぁ、成程。っつー事は俺のコレも似たようなモノかもしれねーな。思い出すって感じがしっくり来る」

 

そんなやりとりをライダーとしながら作業を行う事計4時間。お手製のドローンと盗聴器が完成した。

 

「材料さえ揃っちまえば割とどうにかなるもんだな。というか今市場にある物よりも遥かに良い物のはず」

「盗聴器は分かりますが……このドローンという物は?」

「んー、お手軽な偵察機って所。ちょっと動作確認して早速仕掛けるかね」

 

手元のラジコン用のコントローラーでドローンを浮かせてみる。とても小さい駆動音が聞こえるが、それだけ。

環境音等がある状態なら殆ど気にならない程度なのでこれで良いだろう。簡易ギミックアームの方は……こちらも問題なし。

下準備は完了したからこれを飛ばして敵情視察と行きますか。

 

 

 

ライダーに車を運転して貰って複数作ったドローンを指定の場所に配置してきた。映像と音を受信出来る事も確認したのでこれである程度、人の動きは把握できる。

並行して人探しを探偵会社に依頼、そこそこ費用がかかるのが辛い所だが会えない事には話が進まないので必要経費だ。

ドローンを配置し終わって最優先でやるべき事が片付いたので、次は顔合わせを行いたい。

 

「よし、ライダー」

「なんでしょう」

「やるべき事もやったし、ちょっと近くのコンビニで飯でも買って休憩でもしようや」

「分かりました、コンビニの後は公園に向かいますか?」

「ん、じゃあそうしよう」

 

ライダーの運転する車の揺れを感じながら次の事を考えてうとうとしていた。

そうこうしている内にライダーがコンビニで買い物を済ませて近くの公園まで移動してくれて、俺はライダーに肩を揺られて起きた。

 

「んぉ? あぁ、寝てたか。ごめん」

「いえ、それよりご飯は買ったのでソコの公園で食べましょう」

「おう」

 

ベンチに並んで座り受け取った缶コーヒーを煽る。冷たい空気の中で飲む暖かさと仄かな甘みを噛みしめながら大きく息を吸い込む。

もしこれが聖杯戦争なんて物騒な事の最中でなければ、きっと隣に座るライダーとデートの一つでもしたのかもしれない。

ライダーと改めて情報交換をしながら昼食を取り終え、次に目指すのは葛木とキャスターのいる場所。彼らとは出来れば協力をしたい。

携帯を持ち出して登録してある番号を呼び出す。数回のコール音の後に通話が始まった

 

『……もしもし』

「もしもし、葛木?」

『教職を辞めた貴方が私に何か?』

「実はあんたと、お宅の嫁さんが参加してるイベントに関してちょっと話があってさ。 これから会えない?」

『そうか……分かった、場所は?』

「俺がそっちに行くよ。 一人で」

『そうか、待ってる』

 

そう言って彼はさっさと電話を切ってしまった。余り人の事を言えるものではないが、やっぱ葛木ってコミュ障だな。

ライダーと軽く打ち合わせをしながら昼食を終わらせる。ゴミを公園のゴミ箱に捨ててから車に戻り自分一人で車を走らせる。

20分程走らせた所で人通りが少なく、民家もまばらになってきた。更に走らせてソコソコの坂を上りきったことで目的の場所が見えてくる。

 

「やっぱこの距離を毎朝移動ってアイツの脚どうなってんだろ……」

 

アホな事を考えながら車を停めて目的地を見上げる。

 

「前ならこんな階段絶対上りたくなかったな……」

 

溜息を一つ吐いてからえっちらおっちらと石畳の階段を上がっていく。時折山肌を舐めるように吹く風が上り運動で火照った体を冷やしてくれて気持ちがいい。

上りきった所でまた葛木に電話をかける。1コール目で出たのでもしかしたら待っていたのかもしれない。

 

「着いたよ。今、寺の門の前に居る」

『分かった、迎えに行く』

 

階段に腰かけて街を眺めてると、自分の元居た所とは全然違う。都心から離れてるこの地方都市であんな馬鹿でかい高層ビルがあったり、ここに来る途中に大型の橋があったり。

肌で感じる風の冷たさや香る土の匂いは現実なのに……やっぱり心の何処かで現実じゃないと……そう感じてしまう自分が居る。

暫く門を背に風景を眺めていると後ろから声をかけられた。

 

「中真先生……いや、元先生か。キャスターの参加している件で話があるらしいな」

「お~、出来れば三者面談でもしねぇ? 俺も退職する前後でイベントに巻き込まれて就職活動どころじゃなくなってさぁ……ついでに相談したいなって」

「……わかった。こっちだ」

 

階段から立ち上がり葛木の後をついていくと本堂の一室へ案内された。部屋へ入るとキャスターが丁度お茶を用意していて二人と対面する形で座布団へ座る。

お茶で口を湿らせてから早速本題を喋ろうとしたが体が上手く動かない。視線を動かすとキャスターが呆れた顔でこちらを見ていた。

 

「凄く色々準備をしていたのに最初の罠に見事に嵌るとか……準備した私が凄く間抜けに思えてくるわ」

「キャスター、彼から情報を引き出してどういった手の者か確認してくれ。……私にとって数少ない理解者だが、同時に警戒すべき友人なのでな」

「分かりましたわ、宗一郎様」

 

二人が喋ってる間に口の中に入れてたカプセルをかみ砕き、中からあふれてきた『万能薬』を飲み込む。

 

「不意打ちは止めてくれよ。心臓に悪い」

 

メディアは驚いた顔でこちらを見るが葛木は冷静にこちらを見下ろしている。

盛大に溜息を吐きながらテーブルに肘を乗せ頬杖しながら体の力を抜く。

 

「別にお二人さんに危害を加えようとか謀ってやろうなんて気は無いし、敵対するつもりも無いから安心してよ。そもそも敵対するつもりならココに来たりしないって」

 

お茶と一緒に出された羊羹をパクつきながら二人の反応を待っていたら葛木が対面に座り、それに続いてキャスターもつられて座った。ついでにお茶は新しいものを貰う。

何か一々行動が一昔前の夫婦像なんだよなぁ……寡黙な父親と数歩後に続く妻みたいな……。

 

「あー、とりあえず最初に敵意が無いって点を証明しようとか考えてたけど……今のこの態度で納得してくれね?」

「……そうだな。貴方が本気なら他に方法があるにも関わらずこうして目の前で茶を飲んでいる……ソレで良しと……私はしよう。キャスターはどうだ?」

 

葛木がキャスターに意見を求めると首を縦に振り肯定の意を示してきた。

 

「宗一郎様がそうおっしゃるのなら私は……ただ、聞いておきたい事が。『他の方法』というのは何でしょうか」

「この男の体術は私と同じ程度、特定の動作、技などは私より遥かに威力や所作が洗練されている。つまり純粋な白兵戦……奇襲を行えば我々を無力化する事が容易い……なのにしなかった……そういう所だろう」

 

キャスターは自分のマスターの言葉に目を丸くしている。何せ宗一郎は暗殺者として優れ本骨頂が体術。

その技術はキャスターから見てもとても高く、明らかに他の人間とは一線を画す高みにある。そんな宗一郎自身が認めている以上それに異を唱える事は無いが、そんな存在が居る事に驚きが隠せない。

 

「葛木、そりゃ言い過ぎだ。奇襲しても成功は7:3位だろ」

「7割もあれば十分だろう」

「いやいや、やるならほぼ成功させないとダメだろ」

「以前話したが此方は元本職、それに対して7割成功の時点で十分だろう。ましてやお前は他に手札があると言っていたではないか」

「酒の席での話を信じるなよ」

「ソレを言ってしまえば、この話自体が四方山話になるだろう」

 

先ほどまでの衝撃とは別にマスターが長々と他人と話している。コレにもキャスターは驚いた。

宗一郎は寡黙な人物で独特の価値観を持つ。彼がこれほど他人と言葉を交わし冗談を言い合う事をこれまで見たこと無かったキャスターにとって彼が本当に宗一郎にとって友人であると無意識に認めた。

 

「おい、葛木。お前の嫁さん惚けとるがな……というか俺を見る目が珍獣を見つけた人みたいになってるのは何でなん?」

「正しくお前が珍獣だからだろう」

「酷くね?」

「正しい認識だ」

「へいへい……んじゃ、その珍獣さんからの申し出だ。聖杯戦争から時期を見てリタイアしてくれ、願い自体は別ルートで叶えさせる」

 

葛木とキャスターの両名が沈黙する最中、中真の茶を啜る音だけが響く。そしてその沈黙を最初に破ったのは葛木だった。

 

「中真有香、貴方はキャスターの願いを知っているのか?」

「……葛木よぉ……、酒場であれだけ惚気かましといて分からない訳ないだろが!」

 

以前職場での付き合いで酒を飲んだ際に葛木と少々絡んでいたが、何かコイツと居るとヴァナでの雰囲気を思い出す。其の所為か色々と懐かしくてちょいちょい酒に誘ってたが……こいつってば無自覚にキャスターとの惚気をかましまくる。

やれ、キャスターの行動の意味を理解したいだ。やれ、出てくる料理があいつの作る物の方が旨いだ。

えぇ、えぇ、そんな風に惚気話を長々と聞いてりゃ君等が夫婦として所帯を持ちたいんだろうなって事位、こちとら丸っとお見通しって奴だよ!

つーか葛木! おめーは少し位自分が話してる話題が惚気だって事に気が付け! ウチの高校の独身教員全員がおめーの事をヤレヤレって目線で見てるって事を自覚しろ!

 

「む、そうか……だが私は思った事を口にしただけなのだがな」

「そーいう所だよ……独身には辛い話題だったりする訳よ、おめー同僚の今年50を迎える藤井さんとか未だに独身の癖に生え際後退してきて『俺って結婚出来るのかな……』とか職員室で偶に呟いてるんだから察してやれや! 流石に可哀そうだぞ」

「そうか……善処しよう」

「キャスターは一々顔赤くしてんなよ……こいつの無自覚というか他人の心の機微に疎い事なんて近くで見てるあんたの方が俺よりよっぽど知ってるだろ」

「え……えぇ……」

 

 

 

この後はキャスターを葛木をネタに弄りつつ聖杯戦争の事と願いの詳細に関して話し合う。とはいえ、葛木もキャスターも提案自体には異論は無く今の生活が続くのであればと了承をしてくれた。

なのでコレからの聖杯戦争の動きとコチラがどう動くのかを大まかに伝えて準備を手伝ってもらう、その際の方法には大分呆れられたが納得もして貰えた。

 

 

 

「という事で俺からの情報はおしまいだが、聞いておかないとマズイ事は他にあるか?」

「マズイというか考えれば考えるほど頭が痛い事だらけよ……貴方めちゃくちゃすぎるわ……」

「それはまぁ……本人が一番自覚してるから勘弁してくれ」

 

肝心な話を終えてから世間話感覚で情報交換をしていたらポケットに入れた携帯に電話がかかってきた。着信相手はライダー。

合流して直ぐに持たせた携帯を早速使いこなしてる辺り、どこぞのうっかり女子よりは機械に関しての柔軟性が高い。やっぱ魔術師ってのがダメなんだろうか?

 

「もしもし?」

「有香、桜から連絡がありました。タイミングとしては今が良いかと」

「っ!……明日っつってたのに、何処の馬鹿だよ……まぁ事が始まる前だから有りっちゃ有りか? こっちも手段の一つを確保した訳だし」

「という事はキャスターとの交渉は上手く纏まったんですね」

「応、だからライダー……お前が一番適任だ。 お前の願いの第一歩を踏み出せ」

 

返事をせずにライダーは電話を切るが俺にはアイツが笑っているように思えた。

 

「さてとキャスター、早速で悪いけど一つ働いてくれ」

「あら? さっき伝えられた話では明日か明後日では無かったの?」

「そのつもりだったけどタイミングが早まったらしい。日本のお役所も使い方次第って事かねぇ」

「??? 何をしたのか分からないけれど……私がやる事は変わらないわね?」

「あぁ、それと手筈通りに葛木にも手伝ってもらうからな」

「承知した」

「うっし、そんじゃやる事やって、聖杯戦争なんていう馬鹿な儀式を終わらせますか!」

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