「やたらとリアルな人形が置いてある店が出来た」
「リアルってどのぐらいよ?」
「生きてるように見えるというか……本物?」
「なぜ、疑問形?で、店の特徴とかは?」
「雰囲気は不気味だけど綺麗で、赤いレンガの壁が特徴」
翔鶴の休日、そんなありきたりな話を彼女は、通りすがりに聞いた。
「人形……折角だし、行ってみようかしら」
そう呟くと、気ままに街をうろつきつつ赤いレンガの壁の店を探し始めた。店探しは一日続くかと思われたが翔鶴の予想以上に早くに見つける。店は噂通り、綺麗でお洒落な雰囲気を醸し出していたが、どこか怪しく、危険な感じも出している。しかし、今の彼女は恐怖心よりも好奇心が勝っていたため、店内に入っていった。ドアに取り付けられていたベルがお客様を歓迎するように鳴る。店内は全体的に薄暗く、所狭しに人の等身大の人形が置かれており、彼らもまた歓迎しているように見えた。
「すみません。誰かいらっしゃいますか?」
翔鶴がそう言うと、女性の声が囁かれる。
「いらっしゃいませ」
「きゃ、きゃあ!」
耳元で声を掛けられ思わず声を挙げる翔鶴。
「何かお探しで……」
「え、えっと……」
何かを言いかけた店主に戸惑う翔鶴。
「綺麗………丁度いい!モデルになって頂戴!」
「え、えぇ!?」
そう言うと、店主は翔鶴の後ろに回り、背を押し始めた。
「さぁさぁ、遠慮なさらず!」
「あ、あの……」
元々、押しの弱い性格の翔鶴は断る事も出来ずに店内の奥に連れ込まれてしまう。
「ほらほらほら」
「あの、私、まだ何も……!」
翔鶴の返答を無視して、店主は彼女の衣服を引っぺがすとある衣装を無理矢理着させた。
「儚げに見えるけど、その心に強いものを感じる。そして、相手への奉仕心!この格好しかない!」
「こ、これって……」
「大丈夫大丈夫、一回だけモデルになってくれればいいから」
翔鶴は今、黒の靴、白の靴下を履き。フリルの付いたカチューシャを付け。銀のお盆を持ち。黒の服と白のエプロンのメイド服を着せられていた。店主はカメラを片手に真剣な眼差しで翔鶴を見る。
「じゃあいくよー。はいチーズ」
翌日、工蔽にて加賀は神妙な顔で、ノートを見ていた。
「怪しい情報は大体、纏めれたのけど……」
先日、博士は過去に危険な実験に携わっていたと聞き、独自に調査を始めた加賀。そして、彼女が神妙な顔になっているもう一つの原因は。
「加賀さん、瑞鶴と飛龍が戻りましたよ」
「ありがとう、次は私達ね」
赤城が憂いを帯びた顔をする。
「……翔鶴、何処に行ってしまったのでしょうか……」
翔鶴が昨日から連絡が取れずにいた。総出で探しに行きたくも、深海棲艦との戦闘、鎮守府の地上での防衛があるため全員がこの場を離れるわけにはいかず、五人はローテーションを組んで行動せざるを得なかった。瑞鶴は項垂れ、飛龍、蒼龍は励ましている。
「翔鶴姉……翔鶴姉……」
「瑞鶴、少し休んだら?さっきから探しに行き続けているし」
「……動いていないと落ち着かない……」
「瑞鶴……」
そんな三人に加賀が入り込む。
「二人共、どんな風に探したの?人にも聞いたの?」
「当たり前でしょ!!みんな、最後に街で見たって言ってたんだから!!」
「飛龍、そうなの?」
「はい、いろんな人に、翔鶴の特徴を聞いたんですが、どの人も街中で見たと言っているので、多分、街の何処かにいるんじゃないかなって思います」
「分かったわ。何かあったら私か、赤城さんの携帯電話に連絡を頂戴」
「加賀さん!私も!」
「瑞鶴!あなたは一度休んでください!」
瑞鶴はまた捜索に出ようとしたが赤城に止められる。それでも食って掛かる瑞鶴だったが。
「でも!」
「瑞鶴!隊長命令です。休んでいてください」
「……分かりました」
赤城の威圧に耐えられず、首を縦に振る瑞鶴。
「それでは、行ってきます」
赤城はそう言うと、加賀と共に、街へと向かった。
街に着いた二人は早速、聞き込み、施設をしらみつぶしに当たった。しかし、真新しい情報も得られず、途方に暮れる事に。そんな二人の目に、赤いレンガの壁の店が。
「赤城さん……あそこ調べた?」
「いいえ……行きましょう!」
そう言って二人は店内へと入っていった。
「いらっしゃい」
「失礼します」
店内にいる店主に対して、軽く会釈をする二人。
そして、自己紹介を始めた。
「突然の来店、申し訳ございません。正規空母の加賀です」
「同じく正規空母、赤城です」
「その自己紹介……艦娘ですね。本日はどの様な用件で?」
店主が微笑みながら言うと、加賀は一枚の写真を見せる。
「私達の部下が昨日から姿が見えないんです。こちらがその写真なんですが……」
「この方は……ああ、すぐ奥にいますよ」
「本当ですか!?」
赤城が驚いた顔をする。
「今から、用意しましょう」
「ありがとうございます!」
「ご協力、感謝い……?」
目を瞑り頭を下げる加賀。用意という言葉に違和感を覚えた加賀だったがその時には一足遅く、赤城は目を開けていたため、人形の様に固まり動かなくなっていた。
「赤城さん!?」
「……出来れば、着替えてから固めたかったんですが……」
店主の肌が徐々に白くなり、瞳が緑色に染まる。
「貴方は一体……!」
「進化した深海棲艦……地上棲艦とでも名乗っておきましょう」
「赤城さんと翔鶴を戻しなさい」
「コトワル!」
そう言って飛び掛かる地上棲艦、加賀も胴を大きく逸らし回避を続け、すかさず艤装を取り出したが。
「フンッ!」
「……!」
相手のパンチを受け、艤装を落としてしまった。さらに、回避中に店の出入り口を塞ぐように地上棲艦が立っており、加賀はやむを得ず奥の方へ逃げる。店内の奥へ逃げ込んだ加賀の目に入ったのは、地上棲艦の被害者達、その中には、翔鶴の姿もあった。
「翔鶴……」
拳を強く握ると彼女の携帯電話が突然鳴り出し、すかさず電話に出る。
「手短に」
『加賀さん!瑞鶴が逃げ出した!』
「なんですって……!」
『私たちが油断している内に飛び出したみたいで……』
「艤装を三つ持って、赤いレンガの壁の店に来なさい。翔鶴を見つけたわ」
『えっ!?加賀さん一体……』
話しの最中にも関わらず、後ろに迫って来た地上棲艦を肘で衝き、相手の方を向き構えを取る。
「……ナンノマネダ」
「一航戦加賀、いざ」
街を彷徨う瑞鶴。そんな彼女の目の前にも例の店が現れる。そこへ、二航戦の二人も駆けつけた。
「瑞鶴!ちょうどよかった!」
「蒼龍、飛龍!」
瑞鶴が二人に気づくと飛龍はすかさず、艤装を投げ渡す。
「これは!?」
「忘れ物!何でもここに翔鶴がいるらしい!」
「一緒に翔鶴を助けよ!」
「二人共……ありがとう!」
三人は艤装を装着し、ポーズをとると叫んだ。
「変身!」
姿を変えた三人は店へ突撃した。
「翔鶴姉ぇぇぇぇ!」
入り口を突進で破壊した瑞鶴はそのままドアが開きっぱなしの店内の奥へと消えていった。
「瑞鶴、前に出すぎ!」
「……これが姉妹パワーかぁ」
瑞鶴の姿に困惑する二人。ふと飛龍が足元を見ると、丸められた紙切れが一枚。彼女はそれを拾い上げ開くと、文字が書かれていた。
『メ・ミナイ』
「めみない?」
「め・みない?」
文字を声に出して読む二人、すると意味に気が付いたのか、叫んだ。
「目、見ない!」
「あああぁぁぁぁぁ!」
それと同時に、奥から瑞鶴の断末魔が響いた。そして、地上棲艦がガチガチに固められた瑞鶴を引きずって現れた。
「アイツが……」
「目を合わせないように!」
その為に二人は、無謀にも目を瞑ったまま戦い始めた。当然、手も足も出ず、二人は店内の奥へと逃げる。地上棲艦が何故か、追う素振りを見せなかったことから、飛龍はすかさずドアを閉め、鍵を掛けた。
「これからどうするの!?」
「蒼龍はこの辺を調べて!私は……!」
恐る恐る、のぞき窓に顔を近付ける。そこで、彼女が見たのは瑞鶴をいじり倒す地上棲艦の姿だった。
「アイツ……何やっているの?」
「飛龍!」
「どうだった?」
「出口どころか、窓一つないよ」
「アイツを倒さなきゃ出られないってことかな……」
「どうしよう……」
地上棲艦を見つめる飛龍は何かを思いついた。
「……私にいい考えがある」
「ほんと!?」
「うん、耳貸して」
そう言って、自身の作戦を小声で伝える飛龍。
「えぇ~!?やだやだ!」
「ワガママ言わない!しょうがないでしょ!これしか浮かばないんだから!」
「……分かったよ」
不服な顔をして飛龍のアイデアに乗る蒼龍、飛龍もまた作業を始めていた。作業中の飛龍の前に赤城と加賀の人形が、二人はそれぞれ、赤の着物と青の着物を着せられていた。
「赤城さん……加賀さん……失礼します」
少しして、地上棲艦が持っていた鍵を使って二人のいる場所へと入ってきた。
「ナ!?」
視界に飛び込んできたのは、衣装どころか下着もはがされた大量の人形達だった。
「アイツラ~……!」
苦労して作った作品をいじられ、憤る地上棲艦。ふと人形達の中から影が動き、飛び掛かる。
「ツカマエ……!?」
しかし、そこにいたのは加賀の人形。
「おおおおぉぉぉ!」
「やあああぁぁぁ!」
戸惑う棲艦の顔面にパンチとキックが直撃した。
「ゴッ……!」
「蒼龍!急いで!」
「分かっている!」
飛龍は何処かへと行き、蒼龍は、足元にある適当な服を拾うと相手の頭に被せて視界を奪う。
「こんな恥知らずなこと、二度とやらないからね!」
今二人の恰好は、人形達の中に隠れるため、同じ格好をしていた。
「蒼龍!」
「ん。ありがと」
飛龍は別の場所に隠していた艤装を投げ渡す。
「ン……グ……!」
目を隠している布を取ろうとするが固く結ばれていてびくともしない。
「変身!」
二人は姿を変えると協力して、パンチ、キックを放つ。そして、満身創痍になった所で、構えを取り叫んだ。
「ドラゴン……パンチ!」
「ドラゴンキック!」
二人の大技を受けた地上棲艦は爆破、塵一つ残らず消えた。それと同時に、被害者達も元の人間へと戻っていった。
「あ、あの、何で私……」
「二人共、ありがとうございます」
「翔鶴姉ぇぇ!」
「あ!ヤダ!ず、瑞鶴見ないで頂戴!」
同時に騒動も起きたが。
被害者達も救い、仲間も取り戻した一行は元の恰好になって工蔽に帰って来ていた。
「地上棲艦……確かにそう名乗ってました」
加賀は自身が見た物を五人に教えていた。
「喋るやつって初めてじゃない?」
「これまでのものと関係があるんでしょうか?」
各々、感想を呟く中、赤城が口を開く。
「人を固めるもの以外いると思われます。今後は何か違和感を覚えたら、必ず伝えてください」
「了解!」
戦いは激化の一途を辿り始めた。