どこかの研究室。
部屋の中央には、一人の艦娘がおり、傍には白衣の複数の男女の姿が。
「それじゃあ、起動させてくれるかな?」
「分かった」
男性の指示に素直に答えて、左腕に巻かれた装置を起動させる。
すると、彼女の体が光に包まれ、光が消えるとフリフリのドレスを身につけていた。
「おおお!」
「研究は成功だ!」
「おぅ!?」
それぞれ歓声を上げる人々と突然の事に驚く、駆逐艦の娘。
「良し!君は、報告。君はレポートの作成。君は……」
男は周りの者達に的確な指示を出しそして本人は。
「私は……連絡だ!」
「地上棲艦……確かにそう言ったのか?」
鎮守府の執務室にて。椅子に座り、疑問を投げかける提督。
視線の先には、赤城と加賀が背筋を伸ばして真剣な顔で立つ。
「はい、私達が聞いたわけではありませんが蒼龍、飛龍の二人がそう言っていました」
「特徴は恐らく、人に化けられる事、普通の深海棲艦が持たない謎の力を持っている事だと思います」
「それで見た目は深海棲艦か……」
顎に手を置き考え込む提督。
「今できる対策としては街に憲兵を配置するぐらいか……」
「艦娘は……ダメですよね……」
「ああ、街中で主砲を撃ち合うものなら大惨事は確実だ」
三人は、この場で何ができるのか考えていた。
その時、提督の机の上に置かれた電話が鳴り出した。
「すまない、電話いいか?」
「どうぞ」
加賀から許可をもらい受話器を手に取りそれを耳に当てた。
「こちら……」
「提督君!久ぶりだね!アッハッハッハ!」
「その声は……博士!?」
博士のノリと再会に驚き、思わず声を挙げる提督。
同室にいる赤城と加賀もまた両者の顔を見合うほど驚き、提督に近づいた。
「す、すごい嬉しそうですね……」
「ああ、分かるかい!?知りたいかい!?」
「いい研究結果が見つかったのですか?」
「概ね正解だ!正しくは私の艤装の量産化が始まったぞ!」
「本当ですか!?」
受話器の一部を押さえて二人に語り掛けた。
「博士の艤装の量産が始まるらしい」
それだけを言うと再び受話器を耳に当てた。
「まぁ!」
両手を合わせて喜ぶ赤城とそれ見る加賀。
「ぜひ!君から六人に伝えてほしい!」
「いえ、赤城と加賀なら今、そばにいます。変わりましょうか?」
「何だってそれは本当かい!? ぜひ!」
提督はまた、受話器を押さえ二人に差し出し言った。
「博士がお前達と話したいらしい」
「分かりました」
差し出された受話器を手にした赤城はそれを耳に当てると、博士の声を聴いた。
「お電話変わりました、赤城です。博士、お久しぶりです」
「赤城君!いやー久しぶりだね!いきなりだが、質問はあるかい!?」
「そうですね、量産された物についてでしょうか?」
「量産型は性能は多少落ちるが、軽巡洋艦や駆逐艦の娘でも装備が出来ると言う事かな」
「配備はいつ頃になりますか?」
「最初は横須賀になる可能性が高いからな……そちらに届くのはかなり後なるのかもしれない」
「そうですか……」
「あの、赤城さん」
博士と赤城の話の間に入ったのは加賀。赤城も加賀の話を聞くために受話器を押さえた。
「私も博士に聞きたい事あるの。変わってくれないかしら」
「分かりました」
再び耳に当て話始める。
「すいません。加賀さんに変わります」
「分かった」
そう言って赤城は、受話器を加賀に差し出した。
「加賀よ」
手にし、開口一番にそう言う。
「加賀君も久しぶり」
「……お久しぶりです」
「君の聞きたいことは?」
「以前、貴方は艤装以外の研究をされていたそうね。それについて聞きたいのだけど……」
「私の言える事はその研究はすでに凍結され、班も解体された。それにあれは元々危険な物だったんだ。ここで言えるのはこれぐらいかな」
「そうですか」
「以上かい?」
「ええ、提督に変わります」
加賀は受話器を耳から離し、提督に出した。
「お電話変わりました」
「ああ提督君。話はそれだけだから」
「あ、はい」
「時間が出来たら、話し合おう」
「はい!それでは」
「じゃ」
そう言って提督は受話器を戻した。
「加賀さん今のは……?」
「加賀……話してなかったのか?」
「……すいません」
工蔽に戻った二人は、加賀は自身の知っている、電話で聞いた情報を教えた。
「博士の過去ですか……」
一方、街の中心部にて、警備に回っていた翔鶴と瑞鶴はうつろ気な顔の女性を見かけた。
女性は二人を見つけるとゆらゆらと迫り、声を掛ける。
「アナタ……カンムス?」
「あの、貴方は?」
何も言わない女性。その時、彼女の瞳が真紅色に輝き肌もどんどん白くっていき瑞鶴は叫んだ。
「こいつ……!地上棲艦!」
地上棲艦は口角を上げるとその姿を変える。翔鶴は周りの危機を感じ叫ぶ。
「逃げてください!皆さん、今はこの場から離れてください!」
地上棲艦は本来の姿に戻る。そして、その姿に二人は目を見開いた。
「地上棲艦出現!場所は街の中心部!?ってこの反応……!?」
通信が入って来て驚きを隠せない明石。
「加賀さん!」
「はい!赤城さんは四人に連絡を!」
二人はそう言いながら工蔽を飛び出した。
携帯電話を取り出し、飛龍に連絡を取る。
「飛龍!? 今すぐ、街の中心部に行って下さい!」
「分かってます! この状況は……!」
「……何かあったのですか!?」
「赤城さん! あれを……!」
加賀に言われて街の方の空を見ると、視線の先には世界の終わりを見せる様に真っ赤な空が広がっていた。
「……変身!」
艤装を装着し姿を変えた二人は、急ぐのであった。
逃げ惑う人の雪崩に逆らって街の中心部へ向かう蒼龍、飛龍。
大きく広がった場所の中心にはリーダーだと思われる、港湾棲姫。
周りには、大量の駆逐艦、軽巡洋艦がおり、リーダーを守るように動いている。
二人は、あらかじめ腕に巻き付けた艤装に手を近付け叫んだ。
「変身!」
翔鶴は、張り手やビンタ、時には、相手を掴み別の敵に向けて投げ飛ばしている。
瑞鶴は何度も殴るが相手はビクともしていない。
それもそのはず、今一行が相手をしているのは、深海棲艦の中でも上位の存在、姫だったのだから。
「二人共! 今来たよ!」
「蒼龍さん! 飛龍さん!」
蒼龍の声に喜びを隠せない翔鶴。
「うわああああああ!」
しかし、それと同時に姫に殴り飛ばされた瑞鶴が三人の方へ転がってきた。
「三人共、今は雑魚を全滅させよう!」
「了解!」
飛龍の指示に従い駆逐、軽巡の一掃始めた四人。
パンチ主体の飛龍、キック主体の蒼龍、投げとビンタの翔鶴、喧嘩スタイルの瑞鶴ならば、この程度なら問題なかった。
そして、残るは港湾棲姫だけになる。
「よ~し! やりますか! 瑞鶴!」
「了解!」
そういって、飛龍、瑞鶴は姫へと突っ込んだ。
姫は巨大で鋭い爪を持つ腕を振り回し、抵抗する。
しかし、振るのやめ、掴みにかかってきたことで二人は、捕まってしまった。
そのまま、腕を大きく振りかぶって二人を壁に叩き付ける。
その衝撃で、瑞鶴のみ変身が解けてしまった。
「嘘ッ!?」
「蒼龍! 翔鶴!」
姫が二人に夢中になっている間に後ろに回り込んでいた蒼龍らが不意打ちを当てる。
それでも、大した効果にはならず、薙ぎ払われてしまう。
瑞鶴、飛龍は二人の応援のために、相手に立ち向かって行く。
瑞鶴は、再び変身をしようと艤装の起動ボタンを押した。
「えっ……!?何で!?」
変身が出来ず、瑞鶴は必至になって何度も起動ボタンを押すが、反応は全くあらずその際に、姫が目の前に現れる。
「ひっ……!」
瑞鶴が気付くころには手を大きく上げ爪で切り裂こうとしている所だった。
「瑞鶴!」
その間に割って入った翔鶴は瑞鶴を抱きしめ、相手に背を向けた。
凶刃は彼女の背中を裂き、大きな傷を作り、翔鶴もまた意識を失った。
「翔鶴姉……!?翔鶴姉!?」
「瑞鶴! 何やってんの!」
「翔鶴連れて早く逃げて!」
飛龍、蒼龍が姫の腕を押さえ促す。瑞鶴はただ、泣きながら姉を背負って戦場から逃げ出した。
赤城と加賀が駆け付けた頃には、地面に倒れた二人と未だに、健在の姫がいた。
「蒼龍! 飛龍!」
赤城は叫び二人に近づく。
「キョウハコレマデ……」
「……? 何ですって?」
姫はそう呟くと黒く染まり、地面へと溶けていった。
それと同時に空は先程とは、嘘みたいに青空を見せる。
「翔鶴姉……二人共……」
あの後、瑞鶴は駆け付けた憲兵に助けられ、二航戦もまた、赤城達により助けられた。
現在は、鎮守府の医務室にて眠っている。
瑞鶴はその姿を只々悔しそうに見つめる事しか出来なかった。