横須賀鎮守府から離れた海岸、加賀、翔鶴は武蔵と共に、現れた地上棲艦に挑もうとしていた。
「変身」
「変身!」
艤装を装備し姿を変え、二人は大群の中へと飛び込む。
一方武蔵は不敵な笑みを浮かべた。
「これぐらいの相手なら、必要ないな」
指の関節を鳴らしつつ歩いて迫る武蔵、飛び掛かってきたチ級の攻撃を首を逸らして避けると腹部に蹴りを入れる。すかさず、地面を蹴りチ級と共に大群の中へと入った。更に近くにいる者にパンチを一撃づつお見舞いする。後ろからの不意打ちも後頭部に目が付いているのかと疑りたくなるに簡単に避け、回し蹴りや胸倉を掴み頭突きを撃った。
「翔鶴!こっちに投げろ!」
「は、はい!」
武蔵に命令され、近くにいたル級の腕を掴むと、一本背負いの要領で彼女の方へ投げた。
「ル級か……いい判断だ」
飛んできた地上棲艦を見て呟くと、アッパーを当て、3メートルほど打ち上げる。残っている相手の方を睨むと、落ちてきたル級を残党の方へ向けて殴った。
「フンッ!」
ル級は殴り飛ばされ、飛んだ先にいる相手も巻き込み、一掃する。
加賀もまた手刀を構え、回転切りを放ち、自身の周りにいる地上棲艦を殲滅した。
辺りの敵を一掃しても、警戒を続ける二人を他所に武蔵は、携帯電話の着信に気づきそれに出る。
「武蔵だ。提督か、どうした」
黙って、彼の考えを聞く武蔵。説明が終わったのか、口を開いた。
「そうか。お前の案に賭けよう」
「どうかしたんですか?」
「全員、ここで待機だ」
一方、横須賀鎮守府では、瑞鶴の脱走に加え、周辺の地上棲艦に追われていた。
「内側は手薄。楽勝ね」
「手薄?それは違うわ」
声の方を見ると、亜麻色のポニーテール、赤色のスカート、白の服、長さの違う靴下をした女性が現れる。
「誰?」
「名乗った方がいいかしら?」
「どっちでもいい……かな!」
そう言うと、意識を完全に奪われた瑞鶴が女性に襲い掛かった。しかし、女性は瑞鶴の腕を掴み、外へ投げ飛ばした。
「わああああ!」
そのまま、グラウンドに飛ばされ転がる、そこへ女性が歩いて迫る。
「話は、提督と武蔵から聞いたわ。貴方は私一人で十分だと」
「カンムスノチカラヲエタ!ワタシハサイキョウダ!」
「そう」
腕に艤装を巻き起動させると言った。
「変身!」
その音声と共に、大和の姿が紅白のドレス姿になる。
「戦艦大和。推して参る!」
「ヤマト?」
「後、私には妹がいるの。武蔵って言うのだけれど……」
「!」
武蔵の姉、これだけで地上棲艦を警戒させるには、一番の言葉だった。危機を察したのか、森の方へと逃げ出す。
「逃がさないわ」
一瞬で瑞鶴の前に現れ、ビンタを撃つ、更に腕を掴み、鎮守府の門の方へ飛ばす。
「イイィ!」
今度は海岸の方へ、逃げようとする。しかし、大和はそれを追いかけず見逃すのだった。
「提督、良かったのですか?」
変身を解き、携帯電話で提督と連絡を取る大和。
「ああ、海岸の方に行ったのなら問題ない」
「海岸には何が?」
「武蔵らがいる」
「大丈夫ですか?」
「三人を信じろ」
海岸で待機していた三人の前に瑞鶴が現れる。
「カガァ……ショウカクゥ」
「……来たか」
「瑞……鶴……」
「瑞鶴!あなたはそんな事をする子じゃないはずよ!」
「ズイカクゥ?アイツハシンダヨ」
「死んだ……?」
「そんな訳ない!私を置いていくなんて!」
「イマナラカテル……オマエタチニナァ!」
「ほぉ……試してみるか?」
そう言うと、武蔵は艤装を巻き力強く呟く。
「変……身!」
「変身」
姿を変える武蔵と青白い炎を纏いながら変身する瑞鶴。互いに睨み合うと走り出して、拳と拳をぶつけ合った。
「瑞鶴!耳を澄ませ!」
「ダカラシンダト……」
そう言いかけた時、胸を押さえて苦しみだした。
「……ここは?」
瑞鶴が気が付くと、夕焼けが眩しい海岸にいた。
「瑞鶴!」
声のする方を向くと、翔鶴が手を振りながら走ってきている。
「翔鶴姉!って確か、私……」
「大丈夫!それは、私が倒したから」
両手を広げ、微笑む翔鶴。
「だから……来て……」
「翔鶴姉……」
ゆっくりと彼女に近づこうとした時。
「…………せ」
「瑞鶴?」
「……何かが聞こえる……」
そう言って、ゆっくり目を瞑り、全神経を耳に集中させた。
『瑞鶴!耳を澄ませ!』
「耳?」
「瑞鶴!それ以上聞いてはいけない!」
『瑞鶴!瑞鶴!』
「翔鶴姉?でもここにいるし……」
「それは罠よ!」
『瑞鶴は強気だけど、誰よりも私の事を考えてくれる!分かってくれている!』
目を閉じてまま、声のする方、海へ向かって歩き出す。
『あなたは、私にはないものを持っている!』
『翔鶴……』
「今度は加賀さん?」
「待ちなさい!」
『貴方がいるべき場所はそこではないでしょう。今すぐ戻りなさい……!』
『瑞鶴!子供の頃言ったでしょう!私がお姉ちゃんを守るって!それで私は、あなたを守ると誓った!』
「私が翔鶴よ!たった一人の姉よ!?惑わされないで!」
瑞鶴の体は、腰まで海水に浸かっておりこのまま歩けば、沈んでしまう所まで来ていた。
『あなたは私の……』
一歩ずつ、歩みを進める。
『愛おしくて……』
「止めなさい!」
「放せ!」
翔鶴は瑞鶴を羽交い締めにして止めるが、彼女がそれを払う。
『頼もしい……』
「行かないで!」
ついに彼女は首から下が沈む所まで来てしまった。
『守るべき……』
「聞くな!」
『大切な……』
「私の言う事を聞けええええ!」
『たった一人の……』
「ズイカアアアアアアアアク!」
『妹よ!』
この声を最後に瑞鶴は沈んでいく。赤く輝く海面から離れていき、暗い海の中へ落ちていく、しかし、彼女は暗闇で微かに光る何かに向けて手を伸ばした。輝きは大きくなり、やがて彼女を包む。
「うわっ!」
「ガァ!」
その時、瑞鶴の体から、半透明の人影が飛び出し、その衝撃で、吹っ飛ぶ。
「!?」
「何だ!?」
驚きの声を出し人影が飛んで行った方を見ると瑞鶴がいた。
「瑞鶴?」
「加賀さん?武蔵さん?ってなんなのよこれ!?」
二人を見て、半透明になった自身見て困惑してしまう。
「ショウカクゥ!」
突然の大声の方を向く一行。
「オマエサエ……イナケレバ……」
瑞鶴の体をした地上棲艦はゆっくりと立ち上がり、翔鶴に襲い掛かった。
「オマエサエイナケレバアアアアアア!」
「翔鶴姉!」
姉の危機に翔鶴の前に飛び出す瑞鶴、相手の振りかぶった一撃に片膝をつくが両手でそれを押さえる。
「瑞鶴!」
「今度こそ……守ってみせる!」
「それでいいわ。戦いなさい、瑞鶴!」
「自分の周りには誰がいるか、何の為に力を求めるか、何故、艦娘になったか。思い返しながら拳を振れ!」
「はい!」
私の周りには翔鶴姉しかいないと思った。上司を疎ましく思う時もあった。地上棲艦に打撃を繰り出しつつ自身の思いを拳に纏い撃つ。
「私が艦娘になったのは!」
そう言いかけた時、相手の一撃を受け、飛ばされる、そして止めと言わんばかりに突っ込んできた。
「瑞鶴!」
「待ちなさい」
「しかし!」
「これは、あいつの戦いだ。出る幕はない」
瑞鶴の劣勢に加勢しようとするが、それを加賀らが止める。そして、瑞鶴は地上棲艦が目の前に来た所でストレートを腹に向け放ちつつ叫んだ。
「姉を守るためだあああ!」
瑞鶴の狂いなき一撃は地上棲艦の意識だけを貫き、致命傷を与える。
「ズイカァク!」
「……何?」
「コウカイスルヨ……ワタシヲウシナッタコトヲ……」
そう言うと、彼女の体から黒い霧が出て行き、消滅した。それと同時に半透明の瑞鶴も消える。
「瑞鶴!?」
驚く翔鶴だったが次の言葉で更に驚いた。
「やった!戻れた!」
自身の精神が元の体に戻り、彼女の中の地上棲艦が消えた事で肌は健康的な色に、瞳も真紅でなくなり、髪も漆黒から深緑色に戻れた。
「瑞鶴!」
翔鶴は瑞鶴の方へ走っていき、身動きが取れなくなるほど力強く抱きしめる。
「もう離さない……」
「翔鶴姉……?」
「絶対に離さないから!」
「だから……だから……」
「うん…………ゴメン……」
「う……うう……うわあ……ああああああああああああああ!」
声を荒げて泣き出した翔鶴に武蔵は微笑み、加賀は背を向けて空を見上げると何も言わず、目じりを拭った。
「ご迷惑をかけて本当に、すみませんでした!」
横須賀提督に頭を深々と頭を下げる三人。しかし、彼は尊大な態度だが、穏やかな声で言った。
「いやいい、それよりも、俺様に謝るより先にすべき事があるだろう?」
「えっと……何か?」
「察しが悪いな。大和!」
「はい」
提督の右隣に立っていた大和が電話を差し出す。
「瑞鶴、出ろ」
「は、はぁ」
そう言って、受話器を手に取り耳に当てると聞きなれた声が聞こえた。
『赤城です』
「赤城さん」
『瑞鶴……瑞鶴なの!?』
「はい!」
『良かった……今二人にも変わりますね!』
そう言うと、赤城は蒼龍に受話器を渡す。
『瑞鶴!大丈夫!?』
「ええ、まあ、はい」
『うう~、良かったぁ~』
『蒼龍!ちょっと私にも聞かせて!』
『あ!ちょっと!』
『瑞鶴!久しぶり!』
「あ、久しぶりです」
『良かったあ~、加賀さんと翔鶴、やったんだね』
「二人だけじゃないです。武蔵さんにも助けてもらいました」
『飛龍返して!』
『いいじゃんいいじゃん。もう少し』
『ケチ!良いから渡して!』
『二人共!喧嘩をするなら私が出ます!』
「……聞いてますか?」
『すいません。二人共すごく嬉しいみたいで……』
「あの、赤城さん……」
『はい』
「私、艦娘でいていいんでしょうか……?」
『……』
少しの沈黙の後、再び赤城が口を開く。
『早く戻って来てください。その答えへのヒントは、直接私が教えます』
「……分かりました」
『……すいませんが、加賀さんに代わってもらえないでしょうか』
「はい」
何も言わず、加賀に受話器を渡す瑞鶴、そばにいる翔鶴は瑞鶴の言葉の意味を聞いてみる。
「瑞鶴……さっきのは……?」
「……言葉通り。散々迷惑を掛けた私が、艦娘をやり続けていいのかなって……」
「瑞鶴……」
赤城と今後の話をする加賀の後ろで、五航戦は負い目と戦っていた。
次回、ギャグ回