『加賀さん、お疲れ様です』
「ええ、ありがとう」
現在、横須賀鎮守府にいる加賀は、赤城と電話越しで話をしていた。
『二人と話は出来ましたか?』
「あまり……赤城さんも私の性格を知っているでしょう……」
『……私がお膳立てしますから、必ず言って下さい』
「……ありがとうございます。唯……」
『ただ?』
一呼吸置き、加賀は言う。
「赤城さん、すいませんが先に二人をそちらに戻します。私は、もう少し横須賀にいるつもりです」
『……何かあったんですか?』
「瑞鶴を襲った現象、地上棲艦の誕生、これら解く為に、数日ほど時間が必要だと思われるので」
『……分かりました。今、そばに提督もいらっしゃるので変わりますね』
赤城は携帯を提督に渡した。
『変わった、俺だ』
「……お久しぶりです。突然だけど、鎮守府の通信機器の調子はどうなの?」
『……変わらないな、これも、俺の携帯からだしな』
「修理は進んでないんですか?」
『いや、明石曰く、ちゃんとやっているんだが、何故か進めても、また調子が悪くなっているらしい』
「そう……それで暫くここにいたいという話なのだけど……」
『そうだな、有休という形でなら問題ないな』
「有休……あまり時間は取れないわね」
少しの沈黙の後、先に声を発したのは加賀。
「分かりました。二日。二日ほど用意できないかしら?」
『二日だな。分かった、だが一つでも結果を出せる様にしてこい』
「言われなくてもそのつもりよ」
『だな。赤城に戻そう』
「はい」
提督は電話を赤城に渡した。
『お休み、採れたみたいですね』
「ええ」
『折角ですから、何かお土産でも買って来てくれませんか?』
「何故?私は遊びに来たわけではないのだけど」
『瑞鶴が戻った記念ですよ』
「必要ありますか?」
『偶には、皆で楽しく過ごしたいじゃないですか』
「はぁ……」
「お世話になりました」
九十度の角度で綺麗にお辞儀をする翔鶴。瑞鶴もまた、翔鶴ほどではないが、礼儀正しく頭を下げる。
「何かあったらアイツに話せ、いざという時には、俺様達も手伝ってやってもいいぞ」
「二人共、機会があったらじっくり、お話をしましょうね」
「瑞鶴、私の言葉、忘れるなよ?」
横須賀提督、大和、武蔵に見送られる二人、しかし、この場に加賀の姿はなかった。
それに疑問を持つ瑞鶴は、辺りを見渡しながら言う。
「加賀さんは何処に行ったんですか?」
「確か……博士と調べ物するからと、資料室へ……」
「そうですか……」
下を向く瑞鶴。
「そろそろ、出た方がいいんじゃないか?」
「……分かりました。瑞鶴、行きましょう」
「……うん」
二人は送迎用の車に乗り込むと走り出した。それを見守る五人、三人は、近くで見ていたが遠くから、見ていた人物が二人いた。
「行かなくて良かったのかい?」
「会えなくなる訳ではないので構いません」
「……行ってあげても良かったとうもうけどなあ……」
「兎に角、時間がありません。ここから、全ての物を調べましょう」
そう言って、資料室内の大量の棚に収められた数え切れないほどの資料、論文を見渡す。加賀は、ノート、複数のペンを机に置くと、棚の資料を手に取った。
「愛しの後輩ちゃ~ん!お帰り~!」
「わわっ!」
鎮守府の工蔽に戻って来た瑞鶴を待っていたのは、蒼龍の熱い抱擁。しかも、顔を胸に押さえつける様に抱きしめてきた。
「二人共、お帰り」
「!飛龍さん!個人的な事で、鎮守府を離れていて本当に申し訳……」
「謝り癖は、直した方がいいと言ったはずですが?」
片手を上げながら、歯を出して笑う飛龍、謝罪をしようとした所で、赤城が微笑みながら現れた。
「赤城さん……」
すこし考えた所で言う。
「私達を待って下さってありがとうございます!」
「はい、どういたしまして」
頷きながら答える赤城。そんな中、五人の前に一人の女性が現れた。
「失礼します。艦娘の方はいらっしゃいますか?」
「……私達がそうですが?」
赤城がそう言うと、眼鏡にスーツの女性は近づいて一枚の名刺を差し出す。
「艦娘これくしょん……?」
「ご存知ですか?」
赤城が首を傾げていると、蒼龍が説明を始めた。
「私、知ってますよ!」
「そうなのですか?」
「艦娘のグラビア集です。皆、レベルが高いって人気で。ただ不定期刊行なんですけど……」
「説明ありがと。それで、緊急のモデルを探していたのだけど……」
緊急という言葉から、何かを察した赤城は疑問を問う。
「何かあったのですか?」
「そちらの山城さんにモデルになってもらう予定だったのですが、体調を崩されてしまったみたいで……」
「日を改めるというのは……?」
「締め切りが迫っていてやるにやれないんですよ……」
記者は続けて言った。
「確か、皆さん、艦娘ですよね。協力してください!」
両手を合わせて頼み込む記者。それに対して、五人は言った。
「すいません。写真のお仕事は……」
「写真って……撮られるときは、動いちゃダメなんでしょ?パスかなぁ」
「私も……写真写りは良くなくて……」
「別に……いいかな……」
赤城、飛龍、翔鶴、瑞鶴の順に答える。
「はい!私、やってみたいです!」
手を挙げて、声を出す蒼龍を見ると記者は目を輝かせて両手を握る。
「ありがとう!じゃあ早速行きましょう!」
「え!?あの、ちょっと!」
嬉しそうに蒼龍の手を握ると、そのまま、彼女を連れ出そうとした。
「すいません!まだ、私達、勤務時間なんですが!」
「大丈夫です!すぐに終わりますから!」
赤城も止めようとするが勢いに押され、彼女を許してしまった。
部屋に取り残された四人。そんな中翔鶴は話を切り出す。
「あの、お二人共、相談があるのですが……」
「翔鶴姉!?」
「ここは?」
鎮守府の部屋の一室に連れてこられた蒼龍は思った事をそのまま言う。
「今日のために、部屋を借りたのよ。さぁ、そこに立ってポーズを取って!」
「フッ……こんな感じですか」
決め顔で普段の弓道着で弓を片手にポーズを決めるが、記者は不服そうな顔をしていた。
「貴方……化粧してる?」
「え!まぁ、はい」
「必要ないわね」
「え」
そう言うと、記者はタオルを取り出し蒼龍の顔を擦りだす。一瞬で綺麗に落ちて彼女はすっぴんになってしまった。
「や、やだやだ!何するんですか!?」
「うん、可愛い」
「そうじゃないです!」
顔を両手で隠して訴える蒼龍を無視し、言い続ける。
「大丈夫!ほら、自信を持って、普段通りに振舞って!」
「うぅ~、やったら直していいですか?」
「考えとくから、早く!」
恐る恐る、顔を覗かせつつ言った。
「航空母艦、蒼……ごめんなさい無理です!許して!」
「どうしてそんな恥ずかしがり屋に……」
「だって、すっぴんじゃあ、可愛くないし……皆、魅力的だし……」
腕を組み、考える記者。彼女は何か思いついたのか、案を出した。
「じゃあこうしましょう。軽く何枚かとって慣らしていきましょう」
「お化粧は案にはないんですね……」
「それは、私のポリシーに反するから」
そう言いつつ、記者は、沢山の服を取り出して笑顔で蒼龍に見せつける。
「じゃ、まずはどれで慣らす?」
「えぇ……」
服のセンスに少し引いた蒼龍だった。
──────メイド服
「あぁー!良い!」
「お、お帰りなさいませご……うう……無理!」
「無理じゃない!」
無理矢理、メイド服に着替えさせられた蒼龍は悶えていた。
「ていうか寧ろ良い!恥じらい良い!」
「えぇ……」
「引き顔は微妙かな……」
「着替えていいですか?」
「後、三枚!」
「そんなぁ~」
──────浴衣
「うん。悪くないわ」
髪を下ろし、右手にはりんご飴の模型、反対の手には内輪持った姿を披露する蒼龍。
「私も、これはいいかな……」
そう言いつつも、内輪で口元を隠す蒼龍だった。
「じゃあ何か言って!デートっぽい事!」
「待ってたよ……えへへ、似合……うぅぅぅぅ!」
「まだダメか……」
──────制服
「先輩……私……あなたが……好きです付き合って下さい!」
「グッド!」
「……言い切れた!」
ツインテールにセーラー服姿の蒼龍は、嬉しそうに跳ねながら言った。
「でも、まだこれはグッド。どんどん行くわよ!」
「ま、まだやるの?」
──────ОL
「今日の会議での君、凄くカッコよかったよ。この調子でよろしくね」
蒼龍は、紙の束を右手に、眼鏡、スーツ姿でウィンクをした。
──────婦警
「深海棲艦規制班の蒼龍だ!お前達全員、逮捕する!」
──────バニーガール
「ねぇ~、いくらにするの?全部賭けて、大当たり引いたら……惚れちゃうかも……チュッ」
──────ウェディングドレス
「……嬉しいなぁ……夢じゃないんだよね。私、蒼龍は貴方を夫として、共に歩むと誓います」
「……尊い……優雅……最高……」
──────弓道着
「こうですか?」
「ああ、そうそう」
普段の弓道着になった彼女をひたすら撮りまくる記者。
「……」
ある程度撮ると、カメラを睨み始め、こう言った。
「……良し、撮影終了!良いのが沢山取れたわ」
「ありがとうございました!」
「自信ついた?」
「少しは……」
「やっぱ、無い方が似合うのに、なんでメイクなんてしたの?」
「……何て言うか……私、メイクをすると、生まれ変わったみたいで嬉しく感じるから?」
「ふーん、変身したい、的な?」
「まぁ、そうかも」
「……形から入って、変わるタイプと……とにかく完成したらこちらにも送るわね」
「……以上です」
「そんな事が……」
「……赤城さんは私をどう思いますか?」
工蔽にて、翔鶴から、横須賀であった事を聞かされ、驚きを隠せない飛龍、黙って聞く赤城。
「瑞鶴、以前に言った、私があなたの教育係に加賀さんを選んだのは分かりましたか?」
「……すいません。まだ……」
「……加賀さん、言ってなかったんですね……」
「加賀さん……何かあったんですか?」
「ええ、実は瑞鶴って、昔の加賀さんに似ている所が結構あってね……」
「それが、選んだ理由ですか?」
「いえ、加賀さんがある事に気づいた事で、辞めるのも考え直してくれました」
「加賀さん、辞職しようとしてたの!?」
加賀の過去に驚く三人を傍に、赤城は話し続ける。
「まぁ、飛龍が入る前の話ですからね。……心から変わりたいと思えば、実行に移す。私から言えるのはこれだけです」
「赤城さん……考えさせてください……」
そう言って、瑞鶴は立ち上がり、工蔽から、去って行ってしまった。
「瑞鶴……」
「今、瑞鶴が出て行ったけど何かあったの?」
彼女と入れ違いに蒼龍が戻ってくる。
「ほんとに早く、終わったね」
「私は、思った事を言っただけ、最後は彼女自身が決める事です」
「そうですよね……あの蒼龍さんはどう思いますか?」
「何が?」
三人は、先程まであった事を話した。
「そんな事が……」
「それで、蒼龍さんは、どうすれば良いのか聞きたくて……」
「まずは、とりあえず形からかなぁ」
「形?」
「うん、いつもと違う自分になる。変身だよ!」
「変身……」
呟き、俯く翔鶴。少しして、勢いよく立ち上がると言う。
「それです!私、良い事を閃きました!」
翔鶴は工蔽を飛び出す。赤城は、そんな翔鶴の姿を見て微笑んだ。
五航戦の部屋、机が二つあり、片方の前には瑞鶴が座り、物鬱げに一冊の雑誌を見つめている。
『週刊アッセン 今、工場が熱い! 履歴書付属』
求人誌だ。瑞鶴は自身が許せず、艦娘を止めようか考えていた。その時、ドアをノックする音が聞こえてきて、慌てて、求人誌を座っている座布団の下に隠す。それと同時に、翔鶴が部屋に入って来た。
「お、お帰り!」
「ただいま」
胸に紺と茶の布を大事そうに抱えていた事から、瑞鶴は聞き出す。
「それは?」
「今は……教えられないかしら」
「え~何それ」
翔鶴は小さく呟いた。
「とりあえず形から……か」