加賀が横須賀鎮守府の資料室で閲覧を始めてから二日が経った。この日は彼女が採った有休の最後の日、何としてでも、結果を残そうとする。
「………」
加賀は、ただ黙ってひたすらに、ノートと論文を見つめ、怪しい部分を色付きのペンで囲っていく。
「加賀君、言われた物は全て片付けたよ」
「………」
「加賀君?」
「………ありがとうございます」
顔を動かさず淡々と続けて言う。
「資料は纏められましたか?」
「私を誰だと思っている?」
そう言って、得意げにノートを見せる。
「すいません見せてもらいませんか?」
「分かった」
博士は、加賀にノートを差し出すと受け取り、比較を始めた。それぞれが気になった情報を見て、新しい知識、得ようとしていた。
「へぇ、加賀君はそこを……こういうのは、やっぱり性格が出るもんだねぇ」
黙って、両者の記録を睨む。
「すいません」
「何だい?」
「リエさんは何者なんですか?」
リエ……艤装の整備の為に鎮守府に配属された博士の助手の少女。
「彼女は私の助手だが」
「知っています。彼女の過去についてどこまで知っていますか?」
「私の記憶だと、確か以前説明した精神班に入り浸っていたらしいが……」
「入り浸る?何故?」
「確か、ここに書いたはずだけど?」
加賀からノートを取り上げ、問題のページを見せる。加賀はそれをまた黙って睨む。
「これは……日記?」
「一部だけだけどね」
「もしかしたら……彼女……」
「それ。譲ろうか?」
「ありがとうございます」
私物を纏めて立ち上がると加賀は続けて言った。
「二日間のご協力、感謝頂きます」
「……帰るんだね」
「はい。真相に辿りついたので、大手を振って帰れます」
「それは良かった。向こうに付いたらよろしく伝えておいてくれ」
「分かりました」
頭を下げると、加賀は資料室から出て行った。
「最近、翔鶴姉が隠れて何かしているような気かするんだよね~」
「そうなの?」
工蔽で飛龍と瑞鶴は会話をし、赤城は明石と共に、お届け物の封を開けていた。
「凄い数ですねこれ」
「そうですね、まさか六つも付けてくれるなんて……」
「何を見ているんですか?」
蒼龍が顔を覗くと地上用艤装が六つ置いてある。
「博士が以前に話していた、量産型の艤装が届いたんですよ」
「つ、使っている所を見てみたい……!赤城さん!当てはありますか!?」
「はい、丁度一人協力してくれる娘がいて、後の五つは追々決めていこうと思います」
その時、工蔽内に設置してある内線のチャイムが鳴り出した。
「おっと、失礼します」
蒼龍と赤城の脇を抜け、通信機に近づき、やり取りを始める。
「明石です。はい……瑞鶴ですか?今そこに……はい、分かりました」
明石は内線で誰かと話し終えると瑞鶴に声を掛けた。
「瑞鶴、提督が呼んでたわよ」
「提督さんが?」
「また何かやらかした~?」
「な!?違いますよ!」
「とにかく、今から、執務室に行ってみたらどうですか?」
「分かりました。行ってきます!」
「行ってら~」
飛龍と明石に見送られ、工蔽を出る。
執務室に入った瑞鶴が見たのは、席に座る提督と包装された何かを大事そうに抱える翔鶴の姿。
「えーっと、提督さん、話って……」
「瑞鶴、話は翔鶴から聞いた」
「あ、ああ!あー……」
「どうする?辞めるか、続けるか」
言い訳をしようとしたが何も思い浮かばず、声を出すだけになる。
「お前は、負い目を感じているようだが、赤城達は気にしていないぞ」
「……そうなの?」
「次に俺個人から言えば……お前の止めるっていうのはな、逃げるって言う事なんだよ」
「逃げ……」
「今回、騒動を起こしてどう思った?」
「周りに散々、迷惑をかけました……」
「今後はどうしたい?」
「……」
「何故艦娘になった?」
「……」
「瑞鶴?」
「強くなれれば、守れると思ってた……」
「誰を守るんだ?」
「翔鶴姉をだよ!でも……何も出来なかった……」
「瑞鶴……」
傍にいる翔鶴は暗い表情で呟く。
「翔鶴、お前から言いたい事は?」
「瑞鶴……子供の頃から、私の事を想ってくれてたわね。そして、心配をかけていたのかもね……」
「でもね、私は大丈夫。だってお姉ちゃんだもの。だから……私以外の人達を守ってあげて……」
「もちろん、これは私の勝手。だから、最後に決断するのは貴方よ」
「瑞鶴、もう一度聞くぞ。今ここで、艦娘を止めるか、新しい動機を作って戦うか」
「……私は」
目を瞑り、拳を握る。
「赤城さん、加賀さん、皆……」
そして深呼吸をして叫んだ。
「私は、今度こそ大切な人達を守ります!守ってみせます!」
目の色を変え、真剣な眼差しで、提督を見つめる瑞鶴を見て安心した提督は、表情を柔らかくして言う。
「……もう、大丈夫だな。翔鶴!」
「……はい!」
目尻を拭いつつ、一つのプレゼントを差し出す。
「……これに、あなたの新しい誓いに込めましょう」
「誓い?」
「そう、これになりたい自分を込めるの。変身よ!瑞鶴!今こそ変身して生まれ変わるの!」
「……やってみる!」
「……ええ、出来るわ、私の……妹なんだから!」
「着替えるなら自室でな」
自室に戻った瑞鶴は早速、包装を破る。中から、一着の茶色のミニスカート、紺の弓道着と翔鶴の服装とは色違いの服が現れた。
「……」
紅白の弓道着を脱ぎ捨て、渡された服に袖を通す。姿見の前に立ち呟く。
「……よし!」
一方、工蔽には、ウェーブがかった赤髪にベルトのバックル部分がライトになっている艦娘が腕と足を組み、強気な態度で座っていた。
「今日はわざわざ、ありがとうね。嵐」
「ああ、いいよ。それで、俺の艤装ってのは?」
「これです」
そう言って、一つの艤装を渡す。
「レンガみたいだな」
艤装を手に取り、感想を漏らす嵐。
「これを腕に巻き、起動させるんです」
「腕に巻く?」
首を傾げつつ、左腕に当てると、艤装が巻かれる。
「すごいなこれ!起動は……これか!」
立ち上がり、起と書かれたボタンを押す。嵐の体が一瞬輝くと、赤と黒のドレス姿になった。自身の姿に驚きの声を出した。
「な、なんだこれ!?」
「下、スパッツになっているんだ」
「おい!見るなよ!」
いつの間にか後ろに回り込んでいた蒼龍にスカートの中を覗かれる。
「なぁ、恰好どうにかならないのか?」
赤城にせがむ嵐、それに対し蒼龍、赤城は言う。
「可愛いからいいじゃない」
「いずれ慣れますよ」
「それが嫌なんだよ!」
そんな嵐を無視して赤城は言う。
「私達がしっかり教育していきますから、覚悟してくださいね」