「あのー、加賀さん?」
「何かしら?」
「最近、何していますか?」
「藪から棒に何ですか?」
「あ!その特に意味は無いですよ!ハハハ……」
工蔽で椅子に座り、戦術書を読む加賀に声を掛けてきたリエを睨む。
「だって聞いちゃったんですよ……加賀さん、昔の事調べているって」
「……確かにそうだけど」
「止めた方がいいと思います!」
「何故?危険だから?」
「そうですよ!」
「心配ありがとうございます。ですが、私は解決をしないと落ち着かないもので」
「……後悔しますよ」
それだけ言うと、リエは去って行った。
「加賀さん、さっきリエさんが出て行きましたが何かありましたか?」
「いえ、それよりも明日の午前五時、空いていますか?」
「起きようと思えば起きれますが……何か?」
「そこで話します」
「赤城さん」
「……分かってますよぉ……」
午前四時三十分、加賀に起こされ、時計を見た赤城は瞼を擦りつつ言う。
「まだ、五時じゃないですか……」
「三十分前行動です」
既に出かける準備をした加賀に起こされ、布団から出ると、普段の道着に着替え出かけた。
「……それで話というのは?」
「……ここはあまり人が来ませんからね」
砂浜に座り、朝日を待つ二人。
「相当大切な事ですか?」
「はい、これは提督にも話した事ですが……」
加賀は先日、上司に話した推理を語った。
「本当ですか?」
「いえ、まだ確証がありません。何か罠を用意出来れば……」
「罠、ですか」
「赤城さんでしたらどの様にしますか?」
「……私でしたら、罠より饒舌の方が勝つと私は思います」
「駆け引きと語彙ということ……?」
「……そうですね」
朝日が昇り始めた頃、誰かが走ってくる。その人は近づくと声を掛ける。
「やぁ、響だよ」
「基礎体力作り?」
「鍛えないといけないからね」
響はそれを言うと、右手を顔の斜め上に持って行くと横切るように振る。
「それでは、頑張って下さい」
「そうするよ」
響は走って行くとその後を追う様に、五航戦がやって来た。
「加賀さん……?」
「ああ二人共、来ましたか。加賀さんから話があるそうですよ」
加賀は赤城の方を掴むと、瑞鶴に背を向けて聞く。
「赤城さん、以前言っていたお膳立てというのは……」
「はい。ここで真面目に話す機会はそうそう無いと思いまして」
「はぁ……」
「では、私はこれで」
立ち上がると赤城は、笑顔で去って行き、三人が残される。
「……座りなさい」
「え?」
「話があるのよ……」
そう言われ、加賀の両脇に座る鶴姉妹。
「何から話せばいいかしら……」
「えっと……」
気まずい空気が生まれる。
「あ、あの!」
「翔鶴?」
「瑞鶴の事、どう思いますか!?」
「ちょっ、翔鶴姉!いきなりそれは……」
「大事な後輩よ」
やり取りを終えると、二人は再びジョギングを始めるために去って行った。それから数十分間、朝日を堪能した加賀は呟く。
「あの子達の訓練にでも見に行こうかしら……」
「え!?加賀さん!?」
「そうよ」
「な、なぜここに……」
「私が訓練所に来ては行けないと言うのですか?」
「だって、駆逐艦の娘達が怯えるといけないし……」
道を塞ぐように加賀の前に立つ瑞鶴。
「貴方こそ、そこをどきなさい。それとも、サボっている所を隠しているのですか」
「皆、真面目にしてますって!」
「尚更ね。見せなさい」
加賀が右に体を逸らせば、瑞鶴は左に、左なら右に逸らし防衛戦を繰り広げる。しかし、加賀が小さく左に動くと、瑞鶴が大きく右に動く、その隙にガラ空きになった方から、入っていった。
「あ!」
「あら?」
加賀が見たのは、赤城と飛龍を教官に真剣に取り組んでいる姿だった。その時加賀に気づいた睦月が指を指して叫ぶ。
「あ!鉄仮面!」
「は?」
「睦月ちゃん!?」
睦月の一言に一瞬で真顔になり、一気に近づく。
「鉄仮面の加賀です詳しい話を教えてください」
「えーと、瑞鶴さんが加賀さんは、表情がぜんぜん変わらなくて、仮面をしてるみたい。って!」
「む、睦月ちゃん。それぐらいでいいんじゃないかなぁ?加賀さんもつまらないでしょ?」
「そ、そんな事はあり、ありませんよ」
「顔、引きつってるよ」
悪意のない笑顔で話す睦月に対して瑞鶴の顔は笑顔だが真っ青に染まっていた。
「……」
「あー!すいません!調子に乗ってました!あー!あー!」
加賀が瑞鶴にヘッドロックをかましていた時、赤城の携帯に電話がかかって来た。
「私です。赤城です」
『赤城さん!助けて!』
「何かあったのですか!?」
『地上棲艦がそこに……ああ!』
それを最後に通話が切れる。しかし、その電話に違和感を覚えていた。
「加賀さん!」
「どうしましたか?」
「先ほど電話がかかって来たのですが……」
「内容は?」
「リエさんが地上棲艦に襲われたとの事なんですが……轟音や叫び声が聞こえてなくて……」
「演技でしょうか……」
瑞鶴を解放し、二人は話をしていると明石が訓練所に入って来て叫んだ。
「街に姫が現れました!急いで!」
「はい!」
「待って。赤城さん、飛龍は憲兵の方を連れて、遅めに来てください。瑞鶴、翔鶴を向こうで合流するように言って頂戴」
「わ、分かりました」
加賀の指示に従い、翔鶴に連絡を入れると、二人は現場へ向かった。
「ウオワアアアアアア!」
現場で暴れまわる姫を見ると、加賀は叫ぶ。
「瑞鶴!翔鶴!三人で戦うわよ!」
「はい!」
加賀の指示に従い、叫ぶと、艤装を取り出し腕に巻き付ける。そして、各々構えを取ると叫んだ。
「変身!」
加賀は青の翔鶴は白と赤のドレス姿になり、瑞鶴は弓道着と同様の色、紺と深緑のドレス姿になった。
「五航戦翔鶴、舞います!」
「五航戦瑞鶴、絶対勝つ!」
「一航戦加賀、いざ」
三人は、連携プレーで攻めて行き、体力を削っていく。姫は両腕を広げ三人を挟む様に腕を振るが、それぞれの腕を加賀、翔鶴が塞ぎ空いた胴に瑞鶴の渾身のパンチが入る。一撃を受けて、数メートル吹き飛ぶと、黒の靄を出して逃げられた。
「アイツ……どこ行った!」
「遠くには行ってないはずよ」
周辺を捜索していると、三人は行き倒れていたリエを発見する。
「うう……」
「リエさん!?」
「リエ!?」
リエが身体の所々から血を流しつつ歩いている。それを見た五航戦は、走り寄り介抱する。
「何かあったの?」
「加賀さん!吞気に見てないで手伝ってよ!」
「私にも、何が何だか……憶えてないんです……」
淡々と話しながら歩いている加賀に物申す瑞鶴を無視して加賀は言い続けた。
「そうですか……折角ですから、私の与太話でも聞いて下さい」
「加賀さん!」
「何故、瑞鶴が豹変したのか、何故地上棲艦が現れたのか、何故過去に事故は起きたのか」
「加賀さん?」
「その答えは唯一つ」
眉を動かさず言い続けて、しばしの沈黙、そして口を開く。
「リエ、いいえ。西谷里惠、貴方が黒幕だからよ」
周囲にまた沈黙が流れる。
「西谷里惠……?でもあの人は……!」
「翔鶴姉知ってるの?」
「黒幕? か、加賀さん何を言っているのですか? 私、被害者ですよ?」
両手を振って無罪を主張するリエを無視して加賀は推理を始める。
「確かに、被害者のフリなら容疑から外れる事が出来るものね」
「フリじゃないです!」
破けた衣服から腕の傷、足のアザを見せた。
「これも、これも、全部、姫にやられたんです!」
「何故それを知っているの?」
「え?」
「赤城さんの口頭では、貴方が地上棲艦に襲われたとしか聞いていない。姫だなんて言ってないわ」
「赤城さんが間違っていたんですよ……」
「……この話では埒があきませんね……」
加賀は少し考えて言った。
「では、最初に瑞鶴の一件をお話しします」
「あれはきっと博士が……!」
「瑞鶴と同じ艤装を使っているのは三人。しかし、その三人には異変は起きていません」
「……まだ不思議な事が起きていないから?」
「いいえ、瑞鶴の艤装にしか仕込みを入れられなかったから」
「仕込み、いつそんな事を……?」
「一度、彼女の艤装が変身できないほど大破しましたね。あの時です」
「確か、私達が姫に襲われた時ですか?」
「ええ」
翔鶴の疑問に答えると、トリックを話す。
「まず、姫になります。恐らくここで、全員の艤装を壊すのが狙いだったのでしょう。しかし、力量を誤り瑞鶴の物しか出来なかった。後は艤装の整備に便乗して細工を施す。これで……」
「待って下さい! だから何で私が姫と言う事を前提で話を進めるのですか!?」
「進めてないわ。これはあくまで推理よ」
「ふ、二人も見てないで何とか言って下さいよ!」
困惑をする瑞鶴、しかし、翔鶴は難しい顔をしたかと思うと聞く。
「あの、私からもいいですか?」
「何ですか?」
「以前、リエさんは加賀さんは元凶だ、って言っていましたよね?でも今は、博士になっている……矛盾していませんか?」
「!」
図星だったのか暫し考える、そして言った。
「私もこっそり、博士を調べたんです!」
「調べた?何故?」
「加賀さんが心配だから!それなのに……犯人呼ばわりなんて……」
「まだ、犯人とは言ってないわ」
加賀は第二の推理ショーを始めた。
「次に地上棲艦の誕生の経緯何ですが……翔鶴!横須賀鎮守府で過去に行われていた実験は憶えてますか?」
「え!?はい、確か、艤装の開発と人の意識に別の人の意識を入れる実験?」
「そう、貴方はこの時得た深海棲艦の意識を記録にして、取り入れる方法を体得した。この技術を使って、先程言った事をすれば……」
「……もう、私を犯人扱いするのは何も言いません。でも、人が深海棲艦になるなんてありえますか?」
「?貴方がそうじゃないの?」
「違うって言ってるでしょ!!」
「研究結果」
「!?」
加賀の揺さぶりに激しく動揺すると追い打ちをかける。気の動転からか言ってしまった。
「横須賀に残ってましたよ」
「あれはちゃんと燃やし……あ!」
「日記という形で残ってましたよ。貴方を慕い、尊敬し、体を奪われた少女の!」
「……」
ゆっくり立ち上がると、傍にいる五航戦を払うと、リエの体が黒い靄に包まれ、目が虚ろ気な女性にそこから姫になった。二人は急展開の連続について行けていない。
「リエ……!?」
「リエさん……!?」
「ウオオオオオオオオ!」
「加賀さん!」
「……」
飛びかかり巨大な爪を加賀の頭上に振り下ろそうとした。しかし、何者が姫の顔にキックを放ち直撃。地面に叩き落される。
「リエさん……」
「赤城さん!?」
「私達もいるよー」
叩き落された姫とは違い、着地した赤城は人外を睨む。後ろから二航戦も駆けつける。
「疑りたくはなかったです……」
「手負いの状態で万全の三人に勝てる自信はありますか?」
「……」
「動くな!憲兵だ!!」
加賀の脅しに黙り込んでいると、姫は二十人ほどの憲兵に取り囲まれる。
「たった今、貴様が化ける所を記録させてもらった!」
「……はぁ、そうですか」
彼女は特に抵抗もせず拘束され、連行される。かに思われた。
「逮捕だなんて……ほんと、馬鹿だね!」
姫は霞となって消え、憲兵達は動揺する。しかし、赤城は大声で指示を出す。
「隊長の方は記録を大本営に! 十二名は私達と捜索を! 残りの方は鎮守府で防衛をお願いします!」
「俺はそのつもりだ!」
遂に元凶が現れ、戦いは佳境に入ろうとしていた。
次回、最後の戦いが始まる