巨大な轟音、火の海、瓦礫の下には、一人の少女が下敷きとなっていた。少女の向かいにも、同様に下敷きとなった男女がいる。女性は意識を失っており、男性は少女の名前を言い
ながらその大きな手を伸ばす。
「う、うう……」
少女もまた答える様に小さな手を伸ばす。しかし、降ってきた瓦礫が二人の思いも、大きな手も潰した。
「……!」
目を覚ました赤城、当然、周りは燃えておらず、自室の布団の中にいた。静かに布団から出ると、隣の布団で眠る加賀を他所に窓へと近づき、外を神妙な顔で眺める。
「また……何かが……」
翌日、間宮亭にて、赤城は加賀、たまたま出会った提督と共に、食事をとっていた。
「そういえば、加賀さんはなぜ、協力してしてくれるようになったのですか?前は嫌がっていたのに……」
「以前、提督から聞いたのですが……、赤城さんは艦娘になったのは、人を守りたいからだと聞きました」
「え……」
「ん?」
加賀の淡々とした返答に凍る赤城、しかし、提督は、特に気した様子を見せず二人の話に耳を傾けていた。
「赤城さんが、青臭い事を考えていたのか気になって、それを知るためになりました」
「な、な……」
態度を変えず話す加賀に、赤城は叫んだ。
「なんで、それを言うんですか!?」
赤城は顔を赤くして隣にいる提督の胸倉を掴み、激しく揺すりながら続けて言う。
「提督!以前に言いましたよね!?私の過去最大の失態だけは、誰にも語らないでほしいと!どうして!寄りにもよって加賀さんに言ってしまうのですか!?」
「あ、あの……」
「ま、待て!」
提督に言われ、息を切らしつつ揺らしを止める、しかし、手は依然胸倉を掴んだままだった。
「俺がお前を受け入れたのは、心の底からの言葉、そこを気に入ったからだ」
「あの頃の私は青かったんです!」
「じゃ、じゃあ、お前は入った頃と変わったのか?」
「当たり前です!もう、可笑しな事も言いませんし、国のために戦えます!」
胸倉から手を放すと、加賀の方を向き、両肩を掴む。
「加賀さん!見ていてください!私は!変わったんです!」
「は、はい……」
赤城の鬼気迫る姿に、押される加賀。残った料理を一気に平らげると、赤城は急ぎ足で会計を済ませると出て行ってしまった。
「うわぁ……提督、何やらかしたの?」
「店内中響いてましたよ……」
偶然店内にいた蒼龍、翔鶴が二人に近づき話しかける。
「いや、俺はただ加賀に、赤城の秘密を教えただけだ」
「最低だなぁ……」
「秘密を晒すのは流石に……」
好き勝手言う二人に対し、提督は得意げに言う。
「赤城自身は嫌がっているが、俺はそういう所が気に入ったんだ。だから、好きになってほしくてな」
「ほかに、方法があったんじゃあ……」
蒼龍は提督を睨んだ。
それから、時間が経ち夜。
食材を買いに町に出かけていた赤城は、あるものを見た。
「姉ぇチャンよぉ……こんな時間に出歩いてるとあぶねぇぞ……」
「旦那、どうします?」
「……」
二人組のガラの悪い男に少女が絡まれていた。
「何とか……言えや!」
拳を振り上げた所で一人の女性がその手を掴んだ。
「そこまでです」
「何だぁ……?」
「鎮守府所属、正規空母の赤城です」
「そんなウソが俺に効くと……」
「だ、旦那! コイツ、いつかこの辺でふざけた格好で、深海棲艦を殴り殺した奴ですよ!」
「え!?」
本物の艦娘に戸惑うリーダー格の男。
一方、赤城はその時を思い出し、一瞬、顔をしかめたが、笑顔になり、口を開く。
「試してみますか?」
「旦那ァ、逃げましょう! 艦娘じゃ色々、分が悪い!」
「く、くそぅ」
赤城に怯えて男達は逃げだし、赤城は少女に声を掛ける。
「大丈夫ですか?」
そう言って手を差し伸べた赤城だったが。
「何?」
「え?」
「突然、出てきてスカした事言って、ヒーロー気取り?」
「そ、それは……」
「そういうの凄い迷惑だから!」
そう言うと、少女は立ち上がり走り去っていく。
赤城は、その光景をただ見る事しか出来なかった。
「赤城さん、上の空だけど何かあったんですか?」
「あ、いえ……大したことではないのですが……」
翌日、少女に言われた事が心に残っていた赤城は工蔽で上の空になっている所を加賀に気づかれていた。
「昨日、女の子を助けたんです。そしたら、迷惑だと言われて……」
「まぁ、私達艦娘を高給取りだの、税金泥棒だのと心無い事を言う輩もいるでしょう。しかし、相手をしていては身が持ちませんよ」
「気にしない方がいいのでしょうか?」
「ええ」
「でも、あの子……寂しそうでした」
「……たとえそうだったとしても、私達は深海棲艦を倒すために艦娘の道を選んだんです。人を救うのは、無理があると思います」
加賀にバッサリと言われて、赤城は物憂げな顔で艤装を眺める。その時、午後二時を知らせるチャイムが鳴ると立ち上がり言った。
「すいません。街の方に見回りに行ってきます」
「お気をつけて」
加賀に送られて街に来た赤城は巡回中に昨日の少女を見かけた。
「あの子は……!」
赤城は彼女の後を追いかけて、廃工場に入っていく。少女は赤城に気づくと突っかかて来た。
「また、アンタ?」
「ええ、昨日はちゃんと家に帰りましたか?」
「そんな訳ないじゃん」
「……家に帰らないと親御さん心配されますよ?」
「今度は説教?そういうのも迷惑だから」
「違います。心配して言ってい……」
「だから、そういうのが迷惑だって言ってんの!」
少女は怒鳴ると、走り去ってしまい、赤城はそれを黙って見るしかなかった。
「では、見回りに行ってきますね」
「お気を付けて~」
「いってらっしゃーい」
翌日、蒼龍、飛龍に見送られ、街に来た赤城はコンビニで肉まんを二つ買い、廃工場に向かった。
「やっぱりここにいましたか」
「……しつこいよアンタ」
「今日は手ぶらじゃありませんよ、ほら」
そう言って、赤城は手に持った袋から肉まんを出し見せつける。
「二つありますし、一緒に食べませんか?」
「いらない」
「そうですか、美味しいのに……」
そう言って、赤城は手にした肉まんを頬張る、それを見ていた少女は聞く。
「……肉まんだけ?」
「そうですが……他の物が良かったですか?」
「私は餡まん以外は食べないわよ!」
「餡まんですか……」
赤城は少し考えると言う。
「分かりました。少々お待ちください」
赤城は少女に袋を押し付けて、廃工場を飛び出すとコンビニに飛び込み、餡まんを買い再び少女の元へ向かう。
「お待たせしました。餡まん、ありましたよ」
「本当?」
袋を差し出した赤城から袋を取り上げると中を覗き怒鳴った。
「こんなものいらないわよ!」
「え!?さっき餡まんがいいと……」
「こんな安物、見たくもない!」
「……すいません」
「大体、お腹もすいてないのに安物を押し付けられる身にもなりなさいよ!」
そう言って、袋を地面に叩きつけようと腕を大きく振り上げたその時、少女の腹の虫が廃工場に響く。
「……」
「……すいているじゃないですか」
微笑む赤城に言われ、腕をゆっくり下ろすと、中から餡まんを取り出し、乱雑に置かれたドラム缶の上に座ると貪りだした。赤城も少女の隣に座り押し付けた方の袋からもう一つの肉まんを出し、食べだす。
「……」
「……よっぽどすいていたんですね」
黙って必死に貪る姿に呟く赤城。少女が食べ終えると赤城にまたしても突っかかる。
「アンタさぁ……またヒーロー気取り?」
「違います。貴方が寂しそうに見えて心配だったので……」
「それをヒーロー気取りって言うのよ!」
「違います!私は英雄を気取っていません!」
「だったら何で関わるのよ!」
「心配だからです!」
「余計なことって言っているでしょ!」
少女はまた怒鳴ると、赤城に袋二つを押し付けて走り去ってしまった。
「それでは、今日も見回りに行ってきます」
「お気を付けて」
今度は瑞鶴、翔鶴に見られて赤城は工蔽を出て行く。ドアが完全にしまった所で瑞鶴が姉に聞く。
「最近赤城さん、この時間帯に見回りに行きたがるよね」
「確かに……何かあるのかしら?」
ここ数日での赤城の様子に疑問を持ち始めた二人、そこへ加賀が話に入って来た。
「修行をしなさい、五航戦」
「今は休憩中です~それに私達若いので、すぐにでも出来ます~」
「瑞鶴!すいません。瑞鶴、上司に対して失礼よ!」
加賀の台詞を煽りで返す瑞鶴を論する翔鶴。更に二航戦の二人もやって来る。
「確かに私も気になっていたんだよね~」
「もしかして、タイムセール的なイベントに出る為に!?」
「はぁ……赤城さんが勤務中にそんな事をする訳が無いでしょう」
加賀は、蒼龍の大外れな推理に頭を抱えるのであった。
「……もう何も言わない」
「ええ、今日も来ましたよ」
いつもの廃工場で出会う、いつもの二人。今日の少女はドラム缶の上に座り赤城に対して特に何も言わない。赤城は昨日と同様、彼女の隣に座った。
「ここ、好きなんですか?」
「一人になれるからね、アンタが来るまで好きだった」
「でしたら、今度は二人でも好きになれる場所にしましょう」
少しの静寂の後に、赤城が思い切って聞いた。
「そろそろ、教えてくれませんか? ご家族の事を……」
「教えた所で私を救えるの?」
「言ってくれなきゃ、絶対に出来ませんよ」
少女は嫌々語りだした。
「かあ……あの人、私が小さい時に離婚してその後に変な男とくっついたの」
「まぁ……」
「あの女、再婚したと思ったら、二人がかりで叩いてくるし……」
「……すいません。思い出させてしまって……」
「いいよ、二人共死んだし」
「死……?」
「昔、深海棲艦が襲撃した時、私を置いて二人だけで逃げようとした所をズドン!……ってね」
「……すいません」
「は?何でアンタが謝るの?」
「私が不甲斐ないばかりに親御さんを奪ってしまって……」
「こことは違う場所だから」
再び訪れた静寂。今度は少女がそれを破った。
「アンタはさぁ、何で艦娘になったの?」
「私がなった理由……」
「やっぱ高給だから?」
「……人を守るため?」
「やっぱ、ヒーロー気取りだねアンタ」
それだけ言うと少女は立ち上がり去ろうとする。しかし、赤城は叫んだ。
「明日には!明日にはこの答えを出します!だから、明日も来てください!」
少女は赤城の方を見て彼女の叫びを聞くと何も言わずに去って行った。