「神運営様ァァァァァ!! 公式Twitterに言い続けた甲斐があったってモンだなぁ、おい!!」
スマートフォンの画面に表示された『アイオワの建造実装』の文字を見た瞬間、俺はここが何処かも忘れて叫んだ。PC、スマートフォン用のオンラインソーシャルゲームで、二次大戦時の艦艇を擬人化したキャラクターを収集して敵と戦う『艦隊これくしょん』のキャラの一人である『戦艦アイオワ』が、建造──所謂ガチャ──から出現するようになったのだ。今までは過去イベントの報酬と言うこともあって入手不可だった彼女に惚れ込んでいただけに、嬉しさは人一倍だった。
一人、狂喜乱舞する俺に突き刺さる視線と嘲笑。
「携帯を触るなら外でやれ。」
「す、すんません···。」
現在、大学の講義中。それなりの偏差値でそこそこの立地。当然のように人が集まる学校なので、講義に参加する人間も多くなる。
(アイオワの建造実装···アイオワの建造実装···アイオワの建造実装ォォォォ···!!)
資材大丈夫だっけ? いや、出るまで回すなら課金も視野に···。 全力オリョクルと課金で···。 バイト増やすか···。
そんな思考を巡らせていれば、講義はいつの間にか終わっていた。サークル活動やら合コンやら飲み会やらのお誘いを丁重に断り、ついでに「一緒に艦これやろうぜ!」と、同志を増やすべく勧誘してから帰宅する。大学キャンパスからバイクで10分ほど──バイク登校は駄目だったので諦めて自転車で通っているが──の位置にある自宅アパートを目指してペダルを漕ぐ。やたらと坂が多い上に、「行きはよいよい、帰りは怖い」──つまり、行きが下り坂で帰りが登り坂になる所為で、エンジンが付いていない乗り物だと行き帰りで大きく所要時間が異なる道だが、今の俺には関係ない。
「だぁぁぁぁぁぁ!!」
マウンテンバイクの車体を振るようにして全力ペダル。最後の一際急で長い坂を登れば、頂上がゴールだ!
「待ってろよアイオワァァァァァ!!」
叫んだ時だった。格好よさ重視でゴム製グリップを剥ぎ、金属パイプを露出させていた自転車のハンドルから両手がすっぽ抜けた。興奮したせいで手汗をかいていたのが致命的だったのだろう。両手が同時にハンドルを離れ、重心が後ろへ流れていく。
「···え?」
意識が暗転──
「なんだ、これ···。」
自転車が前輪を浮かせ、主を後ろへ放り出そうとして停止している。俺の体はそのまま倒れ込もうとして停止している。
「あれか、『ザ·ワールド』ってか?」
まるで時が止まったかのような状況。理解を超えすぎていて上手にパニックできない。
「存在Xの顕現、の方が近いかな。」
「誰? ···いや、ゴメン、ちょっとこっち来てくんね? 助けて。」
自転車の進行方向から、中性的な声が聞こえた。が、今の俺の姿勢では視界に納めることができない。
「いや、助ける事はできない。君はここで死ぬ
「神は言っている──ってか? ···マジで?」
「マジもマジ。大マジだよ。本気と書いてマジだ。」
この神えらく『コッチ側』に詳しいな、おい。
「···で、助ける事はできない。ってコトは、転生でもさせて貰えんの?」
「ま、テンプレ的にそうなるね。」
「 や っ た ぜ 」
特典とかあるんですか! 転生先は選べますか! 猿は人間に勝てますかぁ!
「特典は一つまで。転生先も選べるよ。お前はこの神にとっての、猿です!ジョジョー!!」
「うぉぉぉ!! ナチュラル読心だ! 神っぽい! すげぇ!」
「さぁ、特典と転生先を選びたまえ!」
「···! ···待って、考えさせて。」
沈静。いや、だって、転生だよ? テンプレ的俺tueee展開か、或いはテンプレ的俺yoeeee展開かの瀬戸際だよ? そりゃ真剣に考えるよ。
「ロンギヌス欲しい。」
「魂の格が違い過ぎて自壊するけど? いい?」
「じゃナシで。」
特典は一つ。獣殿並みの魂と同時には貰えないか。いや、逆に考えよう。転生先なんぞ艦これ一択。なら、あの世界で一番使えそうな能力と言えば──
「資材が尽きない能力。···いや、待って。」
轟沈回避能力···は中破撤退チキンの俺には必要ないし、女神も居る。火力補正なんぞ、弾薬さえあれば必要ないし、あ、いや、待って。羅針盤操作能力も欲しいな···。艦これのラスボスはレ級やら姫やらじゃなくて羅針盤だからね。故に──
「超弩級の幸運持って提督になりたい。」
「おーけー。じゃあ、サヨナラ!」
ふっ、と、唐突に世界が動き出した。当然、体は重力に引かれて落下する訳で──
「もっとスマートに転生させて欲しかった。」
視界が回転し、意識が暗転した。
▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼ ▲ ▼
「ここは···ゴボッ!!??」
意識が唐突に回復すると、そこは生暖かい水の中だった。がむしゃらに水を蹴って水面へ出る、と、水温なんかとは比較できない熱風が襲ってきた。
「!?」
続いて鼓膜を急襲する爆音。まるで艦砲射撃のような轟音は、かなり近くから聞こえた。そちらを向けば、画面越しに何度も見た、馴染みの顔があった。システム上の『ケッコン』をして、レベルを100まで育て、最上級の装備を積ませていたキャラクター。
「···what the fuck.」
「え?」
俺の呟きに反応した彼女は、砲弾飛び交う戦場にあって尚、煤で汚れることのない、流れるような銀髪を靡かせてこっちを見た。
「いや、違ぇだろ、おい。」
「
指揮官のことを『ご主人様』と呼び、紺と白のメイド服じみた装いに身を包む彼女の名は──軽巡洋艦『ベルファスト』。「違うだろォ~!!」のネタをかます事も忘れ、生ぬるい海水へ顔を付ける。
『艦これ』において、イギリスの軽巡洋艦『ベルファスト』をモデルとしたキャラクターは実装されていない。
「これ『アズールレーン』じゃねぇかクソォォォォ!!」
ぶくぶくぶく、と、気泡を立てながら水中で絶叫する。前世で俺が嵌まっていたもう一つの沼──もといアプリ。『艦これ』と似たコンセプトのゲームで、タイトルは『アズールレーン』。
「何をしているの? ベルファスト。」
また頭上から降り注いだ、こちらも聞き慣れた声に顔を上げると、バルケンクロイツをあしらった装いに身を包み、銀髪をツーサイドアップに結った──
「プリンツ···。」
「···あら、指揮官。わざわざ戦場で海水浴なんて、珍しい趣味ね?」
ドイツの重巡洋艦『プリンツ·オイゲン』。『艦これ』の方でも実装されていた艦船で、どっちも好きなキャラクターだ。
「ジーザス···。」
いや、提督にはなれた。けど、けどさぁ···。
「そうじゃねぇよクソッタレェェェェ!!!!」
今度は海中ではなく、天に向けて咆哮した。