大鳳すき。
会合をすることが決まった。まだ何も──日時も場所も決まっていないというのに緊張してきた。引きこもり気質なんだ···。あと面倒くさい。ついでに言うとアホみたいな勘違いをしてたアホだということがイラストリアスと相手の二人にバレたと思われる。つらい。
「詳しい日程とかはそっちで擦り合わせてくれ···俺は寝る。ぽやしみ。」
「はい、おやすみなさい。指揮官様。」
とぼとぼと自室へ引き上げる。生暖かい視線は無視だ···でないとお前···俺は···お前···うん(語彙)
「疲れたなぁ···こういうタイミングに限ってなんか問題起きるんですよ。俺知ってるよ。」
フラグ建築乙。そんな声が聞こえてきそうだが、甘い。こうして口に出すことでフラグは立つ。が、こうして脳内で指摘することで、逆フラグが立つのだ。つまり、我が安眠は何人にも脅かされることはない!! 私の安眠を妨げることは誰にも出来ない!! キラークイーン!!
自室のドアノブを握りながら、「カチッ、ドゥゥン。ジョォスケェ!!」とかやるアホがひとり。
──ドアを開けた瞬間だった。凄まじい違和感に襲われる。何の訓練も受けていない一般人だが、似たような違和感であれば経験したことがある。たとえば、中学校から帰ったら妙に部屋が片付いていたときとか。たとえば、登校したら机の端に書いていた数学の計算過程が消えていた高校生のときとか。或いは──『艦これ』の資材がいやに減っていたりした、大学の考査開けとか。
···オカン。掃除からの机配置ミス。建造衝動。
最後に至っては完全に自分のせいだが、前ふたつは違う。自分以外が自分の関知しないところで自分に関わる何かをしていたとき、こんな感じの違和感に襲われるのだと、俺は経験的に知っていた。
部屋が変に片付いていたりはしない。つまり、ベルが掃除してくれたという可能性はない。そもそも彼女はきょう出撃ローテの日だ。
物が無くなっていたり、新品とすげ替えられたりもしていない。つまり、ヤンデレsの侵入でもない。
単なる勘違いかと思いたいが、ここは軍事基地──情報の塊だ。不届き者が立ち入る余地はないが、不届き者が立ち入る理由は、ここに詰めるのが見目麗しい女性とアホが一人という理由も含めて山ほどある。諜報、盗撮、暗殺···。
杞憂で済ませるために、その証明のために。その道に詳しそうなヤンデレsを呼ぼうとした瞬間だった。
「はじめまして、指揮官様。」
「──ッ!?」
背後。首筋に柔らかな吐息がかかる感触と共に、甘い、恋人に語らうかのような声が掛けられた。
ヤンデレsの声を最速で思起し、該当する者と、最適な行動を弾き出す。
俺はズボンの後ろに挟んでいた9ミリ拳銃を抜き放つと、距離を取りながら振り向き様に後ろへ突きつけた。
先ほどと変わらぬ位置で、不思議そうな表情を向けてくる少女。艶やかな黒の長髪をツインテールに結い、開けた和装から豊かな胸元を覗かせる彼女の名は──
「···」
「指揮官様? そんなに怯えて、どうされたのですか?」
さっき、銃を抜いたとき。本職の兵士には遠く及ばないクソみたいな動きだったが、彼女は俺に銃を抜かせ、自分に向けさせた。見かけ通りの無力な少女なのか。そうすることで、俺に精神的安寧を保たせて落ち着かせようとしたのか。或いは、そもそも銃など意味を成さないからか。
慎重に狙いを定めたまま、口を開く。
「···君は、誰だ? どうやってここに入った?」
──俺は、彼女の名前を知らなかった。いや、名前どころか、顔も見たことがない。初対面のはずだが、そんなことはありえない。何度でも言うが、ここは軍事基地であり、詰めるのは人間スケールの軍艦たちだ。外部から侵入することなど不可能であり、侵入したとしても、彼女たちに消し炭にされるのがオチであり、正史だ。道理といってもいいその明白な運命を覆すとすれば、その侵入者は軍艦──否、その戦術集団である『艦隊』を打倒し得る戦力を有するということになる。
一気に意識が冷えていく。
ここに侵入できた時点で可能性がほぼゼロだった『見かけ通りのただの人間』という説は潰えた。そして、一番濃厚かつ最悪の可能性である、『銃が意味を成さない存在』──擬人化した艦船であるという説は、最悪の、『艦隊を打倒し得る戦略兵器』という仮説すら生み出した。
艦船が擬人化したのだから、クラスター爆弾あたりが擬人化してもおかしくはない。あぁそういえば核兵器なみの破壊力を有する胸をお持ちですね、と、胸派か尻派かで言えば胸派のアホは考えた。
銃を下げる。咄嗟に頭に照準を合わせていたが、以前、護身術を教えてくれたベルに言われた「至近戦闘で銃に頼るのは、あまり賢いとは言えません。」という言葉を想起したからというのもあるが、9ミリパラべラム弾が意味を成さないというのがなんとなく理解できたからだ。
「──指揮官様。」
優雅に、というよりは妖艶に。ツインテールを揺らしながら、彼女が歩み寄ってくる。銃口こそ床を向いているが、ハンマーは起きているし、指はトリガに添えられている。流石に掛けたままにするほどアホではない。
「ようやく、ようやくお会い出来ました···」
両手を広げて、抱き締めようとする動きを見せる。俺は名残惜しゲフンゲフン断固たる意思を持って、彼女を押し止めた。
「待ってくれ。君は誰かと聞いている。」
「大鳳は大鳳ですよ、指揮官様。あなたが呼び、あなたが作った、あなたの大鳳ですよ?」
──意味が分かりません、先生!!
大鳳。大日本帝国海軍が有した装甲空母で、300キロの通常爆薬の炸裂に耐え得る装甲を持っていたらしい。···なるほどな?
「気になりますか、指揮官様?」
なななななにがでしょうか!? アッアッ腕で胸を持ち上げないでッアッアッ···(動揺)
それはさておき、大鳳は艦載機は理論上70機まで積載可能で、なみの魚雷や爆撃にも耐え得る強大な戦力だ。ウチには···というか、『アズールレーン』には大鳳を沈めた潜水艦アルバコアは実装されていないし、もし本当に彼女が『装甲空母大鳳』なのだとしたら、確かにこの基地を制圧し得るかもしれない。
──ホンマか? 確かに重装甲の空母は脅威だが、俺の艦隊には一定時間無敵になれる奴とか、航空攻撃をほぼ全回避する奴とかがいる。ならば、彼女がここに来れた理由はその防御性能に依るものでも、多彩な艦載機に依る攻撃性能でもなく、艦船としてではなく、艦船少女であるからこそ持ち得る、その潜伏隠密能力──!?
「アサシンみたいな能力だな。が、そういうワケでもなさそうだし···」
ハニートラップでも掛けられたらイチコロだが、悪意は感じない。その道のプロならそういうことも可能だろうが、彼女の名乗りを信用するのなら、彼女は対人ではなく対艦を前提とした兵器。対人暗殺能力を持つ必要はない。
「やはり、ヤンデレ···」
恐るべき愛。恐るべき執念。愛すべき愛。愛すべき執念。
やっぱりヤンデレは最高だぜ!!
◇
無理やり纏めたはいいが、疑問が残る。『艦これ』の方には、装甲空母大鳳をモデルとしたキャラは存在した。ちなみにツルペタだったがまぁそれはそれとして、『アズールレーン』の方には存在しなかった。それに、つい先ほどまで電話機越しに会話していた、やはり『アズールレーン』には存在しなかったキャラと、陣営。この世界が『アズールレーン』をベースとしているのは確定と見て良いだろうが、そこから派生している別世界なのかもしれない。
陰のある微笑みを向けてくる大鳳を眺めながら、ふと、一つの仮説に思い至った。
「
すぐ目の前にいる大鳳が声を聞くより早く、その詰問を聞き届けたモノがいた。それは人の視座では決して測れない、神と形容するしかない遥かな視座にあって、嘲笑と共にこちらを見下ろす存在──。
『呼ばれて飛び出てー? どうもー、nyalさんでーす!!』
「うるせぇ、質問にだけ答えやがれ。こちとらセラエノ断章を探しに行く準備は出来とるんやぞ?」
『あ、はい···なんでございませう?』
──サイレントアプデしやがったな? お前?
『ばれたか』
殺すぞお前···ホンマ···お前···!! サイレント修正、緊急メンテ、ギリギリ許す。だがサイレント追加、おまえは駄目だ。石集めとか、素材温存とか、こっちにも準備とか都合とかいろいろあるんだよ!! せめて3日前くらいから告知しろ。いいな?
『えー、では。アプデ内容発表~いえ~』
「は?」
は?
『今回のアップデートでは、新陣営『自由アイリス』と『ヴィシア聖座』、および『北連』が追加されましたー。いえー。あとね、新キャラも何人か追加しといたから。』
「建造できないのにどうしろと?」
『いや、だからホラ。建造してもしなくても、どうせ君の幸運なら引き当てられるし配布したじゃん。』
言って、顔の横から白い腕が伸びる。人のそれと何ら変わりない、細く美しい彫刻品じみた指先が、目の前で微笑を浮かべたまま世界ごと硬直している大鳳を指向した。
「···なるほど。」
つまり、ついさっき、いきなりこの世界に産み落とされたが故に、ダンケルクやリシュリューには『自己の起源』の記憶がないのか。···なら、それは目の前の少女も──大鳳も、同じではないのか? 旧フランス陣営ズの二人と同じように、『自分が何から生じた何者か』を、知識として持たないが故の、自己喪失にも等しい不安に襲われて、艦船の本能に従って、『指揮官』である俺の部屋に侵入したのではないだろうか。
だとしたら、俺は、自分の内から沸き上がるゲシュタルト崩壊にも似た不安を抱え、唯一、それを解消出来るかもしれないと俺を頼った少女に、銃を突き付けたということになる。
──クソか?
「···クソが。」
確かに、大鳳はもともとヤンデレ気質だったのかもしれない。
だが、その気性を不安で煽り、侵入という直接的な行動を取らせたのは目の前···じゃなくて、背後にいるクソ野郎だ。野郎じゃなくて女郎かもしれんけど。
それは到底許されることではない。美少女を害する輩を許してはいけない。男として、人間としてだ。
「──おい、神。前に『何かお詫びをする』って言ってたよな。」
目まぐるしく、脳裏を過る武器たち。神殺しの槍ロンギヌス、神ですら"ばらばらにする"チェーンソー、唯一無二の対神特攻武器バールのようなもの。
だが、そのどれもが、彼の千の貌を持つ邪神には心もとない。だから、俺は、抗うことを辞め、受け入れることにした。
「任務を寄越せ。何でもいい。報酬はダイヤだ。」
この世界に来てから、一度も更新されていない『任務』という要素。指定された行動をこなせば、提示された報酬が支払われるシステム。資金や燃料から各種アイテム、課金石であるダイヤまで、その報酬の幅広さは無課金勢には嬉しかった。が、この世界に来て、『運営』というものは存在しなくなり、また、プレイヤーが所属する『組織』もまた消えた。誰にも従わなくていい自由を得るために、その庇護も報酬も捨て去っていた。
庇護などいらない。だが、自由は必要だ。そして何より、俺にはダイヤを入手する術が必要だ。
課金石であるダイヤでのみ入手可能な、
『···そんなにタイプだったのかい? ソレは。』
「お前よりは何倍も···いや、ゼロは何倍してもゼロか。お前とは比較するのも失礼だな。端的に言ってドストライクだったよ。」
ククク、と、嘲笑する気配がして──頷く気配がした。
『あぁ、良いよ。分かった。元より、それは運営の仕事だからね。きっちりこなさせて貰うさ。』
気配が消え、世界が動き出す。俺はすぐに銃をズボンの尻に挟むと、大鳳を抱き締めるべく両手を拡げた。
が、その動きでシャツやズボンも当然動き、挟み方が甘かったのか、九ミリ拳銃が落下する。──そういえば、セーフティ掛けたっけ?
──銃声が鳴り響き、壁に穴を穿った。警報器は警報器の役目を果たした。つまるところ──血相を変えたイラストリアスと愛宕が乗り込んで来るまで、あと五秒。
感想とか評価ウレシイ···ウレシイ···ウッ(嗚咽)