提督が鎮守府に着任···あれ?   作:征嵐

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 はやくサンディエゴ改造したいなぁ···え? オフニャ? 潜水艦? 皆まで言うな(白目)


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 とりあえず任務を確認してみると、意外と『アズールレーン』の、つまり、ゲーム時代と共通点が多かった。『資金を調達せよ』『燃料を調達せよ』といったデイリーミッションから、『100回出撃せよ』のようなウィークリーミッションもある。だが、要求したダイヤが入手可能な任務は、画面をいくらスクロールしても見当たらない。

 

 ──野郎、いい加減な仕事しやがって。

 

 心の中で毒吐いた時だった。指揮用端末が振動し、『ピロピロピロピロ···』という例の着信音が聞こえてくる。いま出撃しているのは、確か──

 

 「指揮官様、ベルから通信ですわ。」

 「繋いでくれ。」

 

 秘匿回線ではなく、緊急用の、暗号化レベルの低い回線だった。もしや、何かトラブルでもあったのか。考え込む暇もなく、イラストリアスがスピーカーモードにした端末から、ベルファストの珍しく焦った声が聞こえてきた。

 

 『ご主人様、今日の秘書艦はイラストリアスお嬢様だったと記憶しておりますが、いま、側におられますか?』

 「···え? うん、居るけど?」

 

 通信を繋いでから斜め背後に控えているイラストリアスを一瞥する。

 

 『では、即座の発艦──いえ、無敵化の発動をお願いいたします。』

 

 

 ──はい?

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 「──わたし、は。」

 「···?」

 

 ニューカッスルの様子がおかしい。まさか、私は()()()()()()()()のだろうか? 一瞬だけ背筋を凍らせるが、すぐに自分で却下する。私たちのような高レベルでは無いにしても、彼女も擬人化した軍艦であり、超越存在だ。外傷がないことと万全の状態であることが必ずしもイコールではないご主人様とは違い、一見しただけでコンディションを判別できる。燃料弾薬の類いが切れた所で、行動不能になる訳でもないのだし。

 

 「ニューカッスル? ──っ!?」

 

 近寄ってどうしたのかと訊ねるより早く、電探が艦影を捉えた。数は──一隻だけ。

 

 「···?」

 

 通常、セイレーンであろうが人類であろうが、単騎での行動はしない。人類はセイレーンという格上が制海権を持っているから、常に艦隊規模で移動する。セイレーンは、不意に人類に遭遇した時に確実に狩り尽くすため──かどうかは定かではないが、無人の幽霊艦隊を常に引き連れている。この海において、単独行動というのはそれだけ珍しい。まぁ、私もその珍しい部類に入るのだけれど。

 

 だが、私が怪訝に思ったのはそこではなく、その艦艇──サイズから見て戦艦か──が掲揚する、二枚の旗。

 

 白地に、黒く見慣れないマークが抜かれた旗。その下にはためくのは──白と青で描かれた、ロシア海軍の軍艦旗。

 

 「···どう思いますか、ニューカッスル?」

 

 旧国家の軍艦のコピーを操るセイレーンだが、国旗の類は掲げない。軍艦旗も同様だ。ニューカッスルにも一応訪ねてみるが、彼女は俯いたままだった。セイレーンの特異個体と断じて撃沈するには性急だ。つい先ほどまでセイレーンが埋め尽くしていた海域に、人類の船が単騎でふらふらと航行できるとは思わないが、それでも、可能性は──ロシアを中核とした国家群が、私たちのような超戦力を開発したという可能性は、ゼロではない。

 

 「悪魔の証明じみていますが···」

 

 独白し、通信を繋ぐ。甲板からこちらを見て慌てる兵士たちを睥睨しながら。

 

 

 

 ──繋がらない?

 

 通信端末から聞こえる不通音が、一気に意識を冷却していく。過冷却すぎて凍り付き始めたそれは、氷刃じみた殺意となって顕出する。

 

 「チャフとは、また前時代的なものをお持ちですね。」

 

 雪のようにひらひらと舞い落ちてきた金属片を頭や服から払い除けながら、私は動きを止めた戦艦を睨み付けた。

 

 無線連絡を使う私たちに、ジャミングやチャフの類は有効だ。だが、セイレーンは電波的な交信手段には頼らない。対セイレーン戦闘を想定した艦に積むには無駄で、国家間での戦争が絶えて久しい現代では、もはや存在価値のないものである。

 

 わざわざそんな骨董品を装備している理由が、自分に向けてそれを使われても分からないほど、私は愚かではないつもりだ。

 

 「──ニューカッスル、動けますか?」

 

 愚鈍な艦砲射撃になど当たるつもりはないし、当たったところで大した痛痒はない。

 

 痛くも痒くもないが──給仕服に汚れが付くのは、有り体に言って気に食わない。

 

 「ニューカッスル。少し、手荒になります。我慢してくださいね?」

 

 海面にへたり込んでしまったニューカッスルを、いつかご主人様にしたように横抱きに抱える。ジャミングの圏外まで移動しようとすると、戦艦に搭載されている三連装の主砲が動き始めた。

 

 だが、わざわざ照準を付けさせてやる必要もない。愚鈍極まる。そんな動きで、この私を──ご主人様のベルファストを、沈められると思わないで頂きたい。

 

 ジグザグに航行しながら、チャフの圏外まで疾走する。戦艦クラスの鈍重な主砲では、直撃どころか航行に影響を及ぼすレベルの至近弾ですら来るか怪しい。現に、こうして一度も──一度も、撃ってこない?

 

 十分に。戦艦の艦影が、海面上の小さな点になるレベルで距離を取ると、私は怪訝な顔のまま、もう一度通信を開いた。

 

 刹那。

 

 水平線上の黒点から、青穹へと。ひとつの光点が打ち上げられた。

 

 

 

 

  ◇

 

 

 

 

 『巡回中、ロシア海軍旗を掲揚した戦艦と遭遇。ジャミングにより即座のご報告が出来なかったことを、まずはお詫びいたします。』

 「ベルがその状況で最善だと思うことをしたのなら、謝罪は必要ないよ。それより、状況を教えてくれ。」

 『はい。戦艦より飛翔体の発射を確認いたしました。おそらく、巡航ミサイルの類いかと。』

 「はえーーー。······はい?」

 

 呑気に聞き返しているのは、俺だけだった。

 

 イラストリアスは言われた通り即座に発艦し、()()()()()()無敵バフをかけた。

 

 愛宕はカウンター部隊を編成し始めているし、大鳳は既に偵察機を放っている。

 

 戦争でもするんですか? というか何なら戦争してるんですか? 宣戦されてませんけど?

 

 「まぁ厳密には俺ら国家じゃないし、宣戦の義務なんか無いんだけどネ。ハハッ」

 

 いや、笑ってる場合じゃない。まるで意味が分からない。何故、いきなりミサイルを撃ち込まれた? なんかした?

 

 ──ま、まさか、プーチンアズレンユーザー説が真実で、その有り得ざる真実に辿り着いた俺を消すために···な、訳ないか。というか「ミサイル撃たれた」とかいきなり言われても、どうにも実感が薄い。ベルがそう言うんだから本当なんだろうし、執務室に詰める艦船たちのピリピリした様子も放つ殺気も尋常ではない。

 

 が。

 

 どうせ何とかなるんやろ? 知っとんで。

 

 そう、例えば──俺の"幸運"のお陰で、たまたま軌道が逸れるとか、たまたま弾頭が不発になるとか。

 

 そう楽観していたら、暴風のような勢いで、というか暴風を巻き起こしながら、執務室にサンディエゴが突入して···もとい、入室してきた。彼女は、いつもの快活で底抜けに明るい雰囲気をどこに忘れて来たのか、『兵器の本分は破壊である』と主張する、冷たく鋭利な殺気を纏っていた。

 

 「ゴメンね指揮官、お説教は後にして!!」

 

 自前の対空監視装備で接近するミサイルに気付いたらしい。が、何だってワザワザ執務室に?

 

 「指揮官様ッ!!」

 「ん"ッ!?」

 

 大鳳に俯せに押し倒されたかと思えば、細い指で強引に口を開かされた。残った方の腕が頭に絡みつき、目と耳を覆う。

 

 ···対爆防御姿勢? あ、おい、まさかお前(サンディエゴ)···!?

 

 轟音。着弾予想時刻より早くに襲い来たそれは、そもそも何かが着弾した音ではない。それは、発射された音だ。

 

 サンディエゴの装備する138.6ミリ単装砲が火を噴くと、当然のごとく執務室の壁に大穴が開く。その隙間──隙間どころのサイズではなく、完全に壁があった痕跡ごと無くなっている──から、艦載機が群れを成して飛び出していく。発射もとである戦艦に向けた艦上爆撃機。ベルたちの援護用か、艦上攻撃機と戦闘機。そして──ゆっくりと、いっそ優雅に執務室に入ってきたフッドを補佐するための、偵察機。

 

 「無事で何よりです、指揮官様。」

 「いや、待て、何する気だ。」

 「そのまま伏せておいてください。今から、あなたを脅かす不逞の輩を、撃滅いたしますので。」

 

 室内で戦艦の主砲斉射とか、アホかお前!?

 

 「目標──あら?」

 「え、な、なに?」

 

 怪訝そうに首を傾げるフッド。ミサイルは撃墜したらしく、サンディエゴはいつもの雰囲気に戻り、「ふぃー」とか言いながらかいてもいない汗を拭うジェスチャーをしていた。

 

 「標的、既に消滅していますわ。それに──」

 「見たことのない艦船が──擬人化した艦船が居ますね。どう致しますか?」

 

 イラストリアスとフッドが報告してくる。同じ情報を偵察機を発艦した大鳳も持っている筈だが、彼女はサンディエゴとフッドという知らない顔に遠慮してか、沈黙を保っていた。

 

 というか、見たことのない艦船って言われてもなぁ···リシュリューさんとかダンケルクさんとか、大鳳とか? 次々に現れすぎて最早驚かない。というか。

 

 「ロシアの、というか、北連の艦船やろなぁ···」

 『ご主人様。大丈夫ですか!?』

 

 まだ繋がっていた通信機から、ベルファストが呼び掛けてくる。あれだけの爆音を通信機越しに聞いたのなら、ミサイルが着弾したと思ってもおかしくはない···だろう。ミサイルの着弾音なんか聞いたことないけど。とりあえず上に乗ったままだった大鳳をそのままに、マイクに向けて話し掛けた。

 

 「迎撃成功。こっちの損害は軽微だ。」

 『それは何よりです、ご主人様。それと──』

 『──直接話そう。端末を寄越しな。』

 

 少し遠くから聞こえた、聞き慣れない声。少しだけ躊躇うような空白のあと、聞き慣れない声が近くなった。通信機を渡したのだろう。

 

 『bonjour. アンノウン指揮官殿? オレはヴィシア聖座代表兼指揮()、ジャン·バール。いまオレが沈めたのは、オマエたちの敵ってことで、良いんだよな?』

 

 

 

 ──いや、誰?

 

 


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