提督が鎮守府に着任···あれ?   作:征嵐

21 / 39
責任···取ってよね///

 side ジャン·バール

 

 

 「核なら幾らか持ってた筈だ」

 

 指揮官は核兵器──というよりは、効率よく都市を焼き払える兵器が欲しかったらしいから、傘下に入る手土産って訳じゃないが、くれてやろうと思った。ただ、それだけのつもりだった。誉め言葉とか、良い立ち位置とか、そういうの欲しさにやった訳じゃない。指揮官からの返事も、軽い感謝の言葉だった。

 

 「マ!? 愛してるぜジャンバール!!」

 

 流石に出逢って1日経つかどうかの女に言う言葉じゃないだろうとは思ったが、艦船に向かってジョン·ドゥを名乗るような奴だ。可笑しなユーモアのセンスをしてるってことは、オレにでも分かる。

 

 ──オレにでも分かるのに、なんでコイツらは、こんなにマジなんだ!?

 

 

 通信が切れた瞬間、まずベルファストとプリンツ·オイゲンが駆け出した。戦艦クラス──最高レベルの艦船であるオレですら捉えきれない速度を初速に、立ちはだかろうとした兵士たちを殴り殺していく。

 

 オレたちは、艦船だ。兵器──つまり、『使われる側』であり、何かを『使う側』ではない。艦船としての姿しか持たなかった頃、少女としての人格を持たなかった頃なら、そうだ。

 だが今は違う。人間の肉体を持ち、人間スケールで動くことが出来る今は、もうオレたちは何かを『使う側』に立っている。たとえば、そう。軍隊式格闘術なんかを。

 

 ···その筈だし、さっきプリンツ·オイゲンは"レーダーにも視界にも映っているのに意識できない"レベルで気配を誤魔化していた。本職のアサシンでさえ再現可能な奴は一握りであろう秘奥の技術を見せた奴と、同性のオレでさえ魅了しかねない優雅な立ち振舞いを見せるメイド。人として習得し磨き上げた技術を持つ二人が、今は──

 

 「ふっ!!」

 「はぁっ!!」

 

 ──まぁ、なんだ。野生に返っていた?

 

 二個から三個小隊の、対物·対装甲装備の兵士達を、片端から殴る蹴るの暴行で制圧していた。少女の細腕ではあるが、重巡洋艦のプリンツオイゲンは13万馬力、軽巡洋艦のベルファストでも8万馬力はある。鳩尾を殴るだけで、人体の半分以上は軽く吹っ飛ぶ。

 

 「うふふふ···」

 「···」

 「···」

 

 俯き気味に、前髪で表情を隠しながら不穏な笑いを漏らす大鳳と、無言でオレを見つめるフッドとグラーフ·ツェッペリン。正直、敵地のド真ん中でなくとも、なんならヴィシアのホームでも相対したくない奴らが、不穏な空気を纏っていた。

 

 一触即発。味方に対して用いることなんてそうそうない四字熟語がぴったり当てはまってしまう。そんな状況は、白亜の壁と床を、即席のレッドカーペットで染め上げた二人が帰ってくることで打開された。

 

 「何してるのよ、四人とも。援護くらいしてくれてもいいじゃない?」

 「それより、はやく一階まで下りてしまいましょう。モスクワを焼くのに8時間見積もっていましたが──皆様、6時間でお願い致します。」

 

 ···お願いできますか? とか、ここはそんな風に可能か否かを問うべきだろう。そんなことを言える空気じゃないし、無理だとも、何故かとも言えない空気だったが。

 

 「えぇ、そうねベル。欲を言うなら、5時間くらいで済ませたいけど。」

 「討ち漏らしは無くしたい。焦るべきではないと思うが?」

 「というか、話している時間が一番の無駄ではありませんか?」

 

 大鳳の言葉に全員が頷き、階段へと歩き始めた。···なんか怖いし、ちょっと離れて付いていこう。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 クレムリン地下 情報管理局

 

 

 最新の機材と、厳しい訓練と定期的な技術更新を受けたスペシャリスト。創作にありがちな、暗い部屋で無数のディスプレイが立ち並ぶ──といった相様ではない。むしろ、部屋の明度は一定に保たれ、空調にも気を使っている。快適さで言えばVIPルームにも引けを取らない、素晴らしい部屋だ。詰める特技兵の中には犯罪者(ハッカー)上がりの低階級層の者も居るが、苦情の類は上がらない。彼らこそが、北連の内部で犇めく無限の情報全てを管理しているから。つまりは言論弾圧し放題だからだ。スターリン万歳。

 

 「···で、どうだ? 傍受出来たか?」

 「はい。衛星経由の秘匿通信レベルなら、まぁこんなモンですね。」

 「暗号レベルが通常の軍事回線レベルで助かった。」

 

 クレムリン内部に突如として現れた、セイレーンの小部隊。情報局の仕事は、なるべく多くのデータのバックアップを取り、そして削除することだ。

 

 セイレーンの脅威──特異性は、一般兵には開示されていない。情報局の職員ですら、大半はつい先日の核攻撃までは知らなかったことだ。そして、その数少ないセイレーンの脅威を知る者である彼らは、クレムリンの防衛を半ば諦めていた。結果、対セイレーンの情報収集に当てられたのは、60人居る職員のうち、たったの2名。なんなら職員の半分くらいは、地下道経由で脱出を始めていた。

 

 「よくやった、もういいぞ。そのデータを防衛指揮官に送ったら、データを消して脱出しろ。」

 「了解です。」

 「ハードの破壊はどうしますか?」

 「爆薬を使って地下室ごとやる。分かったら早く動け。」

 「了解。」

 

 

 

 クレムリン五階 防衛作戦本部

 

 

 セイレーン侵入から数十分。ようやくと言うべきか、この混乱状態ならかなりの早さでと言うべきか、設営された緊急指揮本部には、大将クラスの重役が6名、中将クラスはその倍と、誰が指揮系統を握るか──誰が責任を持つかで大揉めしそうな相様だった。

 

 「そもそも奴等はどうやって入ってきた!? 空挺か!?」

 「海棲生物──生物? まぁいい。海棲生物が空挺だって? 笑わせるな。」

 

 やんわりと、「空軍のミスちゃうん?」「いや海軍だろjk」と言い争い、追従する一団が居る。少し離れたところで、「どうせウチに回って来るんだろうなぁ」と、達観した顔になっている首都親衛隊の一団が居て、「一応いま俺らが戦ってるんだし、はやくちゃんとした指揮系統が欲しいなぁ」と、困り顔の陸軍がさらにちょっと離れて傍観していた。

 

 セイレーン出現以降、海が主戦場となり、軍内部の力関係は海>空>陸。首都防衛軍やら監査部やら細かい奴等を抜くと、大体そんな感じだった。そして、そこに属する偉い人たちが対立するのも、まぁ仕方ないといえば仕方ない。唯一の救いは、実働する兵員にはそこまでの対抗意識が無いことか。共通の明確な敵に触れている者同士、団結出来ている。

 

 モスクワで海軍が仕事をするのはキツイ。軍艦レベルの大火砲を、まさか首都に向けて撃つわけにもいかない。じゃあ必然的に、小回りの効く陸軍にお鉢が回って来るのだが、現在進行形で戦闘し、セイレーンを押し止めることに失敗している以上、ここで指揮系統が握られることはない。じゃあ首都防衛軍である首都親衛隊が? まぁ普通はそうなのだが、力関係の模式図にも組み込まれない、ある種のアンタッチャブルには、やんわりとでも「責任···取ってよね///」とは言えないのだろう。

 

 膠着した空気のなか、据え置きの電話機が鳴る。一番近かった陸軍派閥の一団から、ひとりの中将が進み出て電話に出る。

 

 「···分かった、ご苦労。」

 「何処からだ?」

 「は。情報局からであります。敵部隊は一階を爆破しクレムリンを崩壊させる心積もりだと。それから、地下の一室を爆破するが気にしないでくれ、と。」

 「···情報局がクレムリンを捨てたか。不味いな。」

 

 かなりの──下手をすれば、この場の全員が持つ情報を上回る知識を持つ彼らが「負ける」と判じた。そういう戦場なのだ、首都(ここ)は。

 

 「──私が指揮を。」

 「···いや、私が。」

 「儂がやってもいい。」

 「俺も──」

 「私が──」

 

 事態の深刻さが、階下からの爆音と震動を伴って伝播する。今のはセイレーンか、情報局か。どうだっていい。生き残って、あとで調べれば分かることだ。陸軍派閥が動き、空軍派閥が動き、海軍派閥が動く。

 

 「いえ、参謀連が指揮します。指揮権の委任を──」

 

 参謀連に属する中将クラスが動き。そして。

 

 「いや、我々に任せて頂きたい。」

 

 ──この場における最適解が出され、モスクワ近郊全軍の指揮権が、首都親衛隊へと委任された。

 

 

 

 「対物兵を二階へ全動員。そこでセイレーンを仕留めろ。三階は──三階の兵は、捨てる。」

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。