提督が鎮守府に着任···あれ?   作:征嵐

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 前話の突っ込みどころに誰一人触れないどころか感想が一件しかなくて正直クソほど寂しかったので遅れました(いいわけ)



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 「核が欲しい。」

 

 上司の──それも、つい最近その配下になったばかりの、人格や性向をほとんど知らない、付け加えれば異性で異生の──部屋に呼び出され、唐突かつ端的にこう言われれば、どういう反応を示すか。まぁ簡単に想像が付く──

 

 「どのスケールのものを、どのくらい用意しましょうか?」

 

 ──ちょっと想像と違った。

 

 机越しにダンケルクと相対し、勧めたソファーを固辞した彼女に、対話のとっかかりとして要求をぶつけたら、まさかの一発OK。交渉の進め方とか説得の言葉とか、いろんな物が無意味になったわけだが。まぁ時間は短縮できた。

 

 「えっ、あっ、えー···と、取り敢えず都市一個分で。」

 「分かったわ。ミサイルならヴィシア本土から撃てるけれど?」

 

 どうする? とか、どこに使う? とか、いろんな意味の籠った言葉。核攻撃にものっそい乗り気じゃん。こわ。いや俺もだけど。

 

 「あー···いや、北連対ヴィシアの構図は作りたくない。ヴィシアを足場にこっちに難癖──は、付けられないかもしれんけど。まぁ念のためだな。核搭載艦を、装備ごと委譲してくれ。追及されても、その後どう使うかはこっち次第って感じに切り抜けられるだろ?」

 

 不満そうな表情を一瞬だけ浮かべ、ダンケルクが頷いた。

 

 「分かったわ。···差し当たり、書類よりも発射キーの方が欲しいのよね?」

 

 名実の実を。核抑止力なんてものは必要ないだろうと、そう問われている。頷いて応えると、ダンケルクも微笑と共に頷き──手にしていたブリーフケースを差し出した。

 

 「はい、どうぞ。」

 「うん。ずっとなんだろうなー映画で見たことあるなーとは思ってたけどね。やっぱりジャンバールから話行ってるんだね。」

 

 せいぎょたんまつ を てにいれた !!

 

 

 

 ◇

 

 

 

 核搭載潜水艦アルゴノート。指揮権と所有権を貰ったそれは艦船少女ではないらしいが、それを聞いてちょっと安堵した。核武装した艦船少女とか運用が難しいにも程がある。というか切り札すぎて死蔵するに決まってる。そんなアホみたいな名前のものをポンポン使う状況は、盤面そのものを壊すようなタイミングに他ならない。

 

 「と、いう訳でそろそろクレムリンの破壊も終わった頃でしょう。核攻撃しようぜ!!」

 

 脈絡なく、ダンケルクにサムズアップする。苦笑して、彼女は指揮用端末を細い指でこつこつと叩いて示した。

 

 「流石に、一声掛けるべきだと思うわよ?」

 「それはそう。···おろ?」

 

 繋がらない。まぁ流石に戦場だし、と、再接続して──繋がらない。

 

 「え? ちょ、え?」

 

 大鳳の偵察機にも、プリンツの服に付いたカメラにも、グラーフの艦載機にも、繋がらない。

 

 「──どう、なってる?」

 

 シグナル·ロスト。そう表示され、期待に沿わない砂嵐しか映さないカメラ画面から、指揮画面へと移す。艦船のアイコン、名前、艦種、耐久力、弾薬。その他もろもろのステータスが表示されているはずの画面だ。

 

 結果は変わらない。シグナル·ロスト。

 

 「轟沈···いや、違うか。」

 

 戦闘から艦船が脱落したとき、その艦は強制的にドックへ連れ戻され、戦闘参加者の枠から外される。シグナル·ロストなんて表記は出ない。

 

 「何かのバグか···?」

 「···いえ、通信障害の類いね。」

 

 そういやチャフとか使ってたな···いや、けど、自国の都市部で? 避難誘導とか出来なくなると思うんだが···クレムリン内部での指揮伝達にも支障が出かねないぞ。もしかして:アホ?

 

 「な、訳ないよな。何かしら問題が発生したと見るべきか···ダンケルク···にはちょっと厳しいか。イラストリアスを呼んでくれ。」

 

 後詰め? オーバーキル過ぎて草ァ↑ 要らんでしょww とか思ってたけど、これはちょっと不味い状況だ。核攻撃する前に気付いて良かった。対艦クラス以下の攻撃全無効とかいうエイヴィヒカイトは、流石に核攻撃にまでは通用しまい。面攻撃回避とかいうチートスキルも、万が一彼女たちの意識が無かったり、或いは不意討ちだった場合にまで発動するとは思えない。

 

 「分かったわ。」

 

 退室していくダンケルクのお尻とか大腿とかをチラ見しつつ、そんなことをのんびり考えていた。

 

 そういえば、ベルファストの対航空攻撃回避スキル···煙幕散布·軽巡って、核攻撃にも適用されるのか? はぇーチート。まぁイラストリアスの無敵化の方が何倍もチートなんだろうけど。というか人間みたいなサイズで人間みたいな動きのクセに軍艦レベルの馬力と耐久力って時点でチート。どないせぇゆうねん···なんか訛った。

 

 「失礼します、指揮官様。」

 「んぁ、イラストリアスか。お疲れー」

 

 早速なんだけど、と、口を開くより早く、イラストリアスの表情が翳った。

 

 「どうし──」

 「っ!!」

 

 全身を暖かいものに包まれるような感覚。微かに前の景色が揺らぐこの視界に、見覚えがあった。思い出すのと同時に、連続した銃声が響く。

 

 「なんだなんだなんだ!?」

 「対空銃座ですわ。···被害状況の確認は私が。カウンター部隊の編成と指示をお願いできますか?」

 「は? え、あ、お、おーけー。」

 

 何で対空銃座が起動したのか知りたいんだけど···イラストリアスはそれを確認しに行ったのか。じゃあ帰ってくるまでにカウンター部隊の編成を···何に対するカウンター部隊なのか分からなきゃどうしようもなくね? と、とりあえず高レベル艦で揃えとくか···全員100レベルやないかい!! やべぇどうしよ。

 

 「えぇ···じゃあ旧第三艦隊でいっか···」

 

 『アズールレーン』時代の編成を思い出し、手早く編成していく。武装は···徹甲弾と榴弾1:2でいっか。魚雷と対空はいつも通り、で···追加武装が悩みどころさん。

 

 「ただいま戻りましたわ、指揮官様。」

 「お早いお帰りで。で、被害は?」

 「はい。飛翔体は通常弾頭の艦対地ミサイル、発射予測地点付近に北連の一個艦隊が。当基地および人員への被害はありません。」

 「まぁ宣戦受理したし、そうなるわな。つかまた完全に撃墜したんか···。迎撃には巡回中の艦隊と、追加で第三艦隊を出せ。装備は···はい、これ見て。」

 

 基地用の端末を渡し、指揮用の端末を取る。シグナル·ロスト。まだ駄目だった。イラストリアスが出ていったのを見て、表情を歪めて嘆息する。

 

 「クッソ···やっぱり後詰めは必要だったか···愛宕とか、第二艦隊ズは──基地警備か。第三艦隊は出撃させちゃったし···やべぇ、どうしよう。」

 

 『アズールレーン』では、4つまで艦隊を編成·運用出来た。が、「めんどくせ、二個で十分ナリww」とか言って慢心してたクソ雑魚も居る。まぁ俺なんですけど。一応の予備というか、高難度海域用に3つまでは編成しておいたが、それ以上は初編成だ。

 

 「つか三艦隊同時指揮とか無理ゲー。マルチタスクとかマジ一握りの才能だから···」

 

 

 

 ──世界が、停止した。 

 

 

 

 「なんでやねん···」

 「いやー、お困りのようだったからね。」

 

 馴染みとなった中性的な声が、硬直した体の後ろから聞こえてくる。

 

 「そんな君にいいモノをあげよう。」

 「外付けの脳ミソ(ショゴス)とか要らんからな。つかSANチェック必要なのは要らんからな!?」

 

 じたばたと心中で暴れて中指を立てていると、それを見たのかクスクスと耳障り──とは、どうしても思えない、むしろ耳当たりだけなら良い──笑い声が聞こえた。

 

 「警戒し過ぎだよ。ボクだって、なにも君を壊したい訳じゃない。」

 「嘘乙。つかお前、同一世界に複数人···複数体? の化身置くとかズルくね?」

 「···え? あぁ、あー···」

 

 なにその躊躇い。しかも顔見なくても分かるレベルの嘲笑を添えた躊躇い!?

 

 「ま、それはそれとして。」

 「えぇ···」

 「はいこれ。プレゼント。」

 

 細く、しなやかな腕が伸び、目の前の机に箱を置いて引っ込む。箱と言っても、黒い小箱的なサムシングではなく、パッと見普通の段ボールだ。

 

 「段ボール!!(CV:大塚明夫)」

 「もうひとつ、あるの···」

 「おいよせバカ止めろよマジで。···で、この中身なに?」

 

 また、笑い声が返ってくる。なんや喧嘩売っとんのかコラ···どつき回すぞ···

 

 「や、ごめんごめん。蛇も生首も入ってないから、安心してよ。」

 「前者はともかく後者は伝わらんでしょ···」

 「じゃ、ボクはこれで。またねー」

 

 世界が動き出した瞬間、まず椅子から身を投げてその場に伏せる。もちろん机に足を向けて。

 

 「爆発···は、しないか。ふぅ」

 

 段ボールに爆弾とか神経ガスとか、その手の物が入ってる可能性はなきにしもあらずだし。怖いよぅ···やだよぅ···

 

 ぷるぷる震えつつ、段ボールをペン先でちょんちょんつついてみたりする。

 

 「これ僕が開けるんスか···マジっスか···えぇ···」

 

 何の変徹もない、ただの段ボールだ。膨らんでたり濡れてたりはしない。持ち手の穴から中が見えたりしないかな···いやでも、『ナニカ』と目が合ったりしないかな···ショゴスとか。落とし子とか。ぬわぁぁぁん怖いもぉぉん·······ふぅ。よし。

 

 「···。」

 

 ぎちぎち、と、カッターナイフを取り出し、刃を出す。

 

 「死ねぇぇぇ!!」

 「待てぇぇぇい!!」

 

 大上段から降り下ろした刃が付き立つ寸前で、焦燥に焦がれた声を発端にもう一度世界が停止する。

 

 「はー···はー···あっぶな···。中身を殺す気かい、君は?」

 「殺すって言った? いま中身が生き物だって明言した? なに? ショゴス?」

 「信頼度ゼロだなぁ···。うーん···そうだね···猫、かな?」

 「は? ねこ? SCP-040-JP?」

 「よろしくおねがいします···いや、そうじゃなくて···でも猫もどきって意味じゃ近い···かな?」

 

 ほーん? なるほど殺すか。見たら負け見たらアウト···見る前に殺さなきゃ···

 

 「なんか不穏な気配がするから答えを言うけど、その中身は君の補佐をしてくれる猫みたいなナマモノ、おふにゃだよ。」

 

 

 


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