感想を糧に仕上げたから結構早いペースで更新できたと思うんだ(当社比)
「なんて? オフ···ニャル? お前の親戚か?」
「流石に邪神クラスを送りつけるような真似はしないよ···オフニャね、お · ふ · にゃ。」
スタッカートに発音され、ようやく聞き取れた。オフニャね。ちぃ覚えた。で、直視で幾らのSANチェックですか?
「いや、正気度が減るようなヴィジュアルじゃないし···ねぇ、ちょっと本気でボクのこと疑いすぎじゃない?」
「これまでの行い振り返って、どうぞ。」
···このクソみたいな現状の半分はこいつのせいじゃね? 残り半分は人類。やだ、セイレーンが何もしてない!! というかノータッチだから相対的に好印象!!
「つかお前、ミッション更新しろし。ダイヤはよ。」
「あ、ごめん完全に忘れてた···えっと、オフニャの説明したらすぐやるよ。」
「いや説明とかいいんで。多分どうせ使わず死蔵するんで。」
要素が多すぎると面倒だよね。ワカル。
「えぇ···いや、でも一応ね? というか中身も見ずにカッター突き立てるような奴に説明せずに渡せるか。」
「···それはそうか。」
ショゴスとか斬撃無効ですもんね。ちゃんと火炎放射器用意しなきゃ。あとでベルに···っと、そういえばまだ出撃中か。硬直解けたら端末確認しなきゃな。
「そういえばさ、なんか電波障害起きてるんだけど···サーバー異常とかじゃないよね?」
「世界にサーバーなんてありません。いいね?」
「アッハイ···いや、おい待てメンテとか」
「あー、じゃあ説明の必要も無いみたいだし? ボクはこの辺で帰ろうかなー」
あ、どうぞどうぞ。
「えぇ···ツッコミすら貰えないと寂しいなぁ···ま、いいや。その箱と、コレもね。」
もうひとつ···ってホントにもう一個くれるのか。まぁどうせ燃やすんですけど。
「おっと、最後にひとつ忠告が。」
「···なんだよ。」
聞き慣れた中性的な声。それが、どうしてか初めて聞くような、違和感のある声色で、至極真面目に──あぁそうか、嘲笑の色を全く含んでいないんだ。と、そう気付いた時には、もう言葉は紡がれた後だった。
「···この世界は残酷だよ。気を付けるといい。」
──世界が動き出す。
クソ不穏な忠告と、縦に積まれた中身不明の段ボール。
いや、あの、うん。そんなコト言われてこれ開けるバカがどこに居るんですかねぇ···。オフニャっていうのが新型爆薬のコードネームだったり···まぁつまり、開けた瞬間にドカンとかしたりするんでしょ? 俺は詳しいんだ。アレの考えることくらい──
──バリバリバリ!! と、凄まじい音を立てて段ボールに貼られたガムテープが剥がれ、内側から蓋が開かれる。当然、俺は触ってない。
「うわぁぁぁぁ!?」
人間は、極限の恐怖を感じると大きく分けて2パターンの行動を取るという。
攻撃と、逃避。
寸前まで、俺の思考回路には火炎放射器だのカッターナイフだの、物騒極まる単語が並んでいた。──だが、並んでいたのはそれだけではない。ショゴス。ねこ。無形の落とし子。ねこ。無貌の邪神。ねこ。それら全てを象徴し抽象的に言い表すのなら、それはやはり恐怖であり、抗えぬ超越存在である。
···とまぁちょっとカッコよく言い訳してみたが。結局のところ俺が取った行動は逃避──その場から飛び退るというものだった。が、執務机の後ろは窓で、しかもつい昨日、明石によって防弾耐爆仕様のスーパーハードに改造されたものだ。背中から思いっきりぶつかり悶絶していると、視界の隅に見慣れないモノが見えた。
「毛玉···?」
黒い、拳三つ分くらいの大きさの、もこもこした塊。それを形容するなら、正しく『毛玉』という言葉が当てはまる。
呟いた瞬間、ぴくりと黒い塊が動いた。それはゆっくりと緩慢な動きでこちらを振り返る。そう。『振り返る』のだ。その毛玉には、首と頭部が明確──ではないにしろ、確かに存在していた。金色の双眸が動き、黒い縦割れの瞳孔が収縮する。
「···あ」
目が合った。気の利いた言葉のひとつも浮かばないまま、ただ時間だけが過ぎていく。5秒、6秒、7秒を数えた時点で、感嘆符以外の、意味を持った言葉が脳を過り、口を衝く。
「そうだ、ベルたちの様子を確認しなきゃ。」
机に置きっぱなしの端末を探し──床で見たものとは別の、茶色い毛玉に埋もれる──というか、下敷きになっているそれを発見した。
「···ふむ?」
ぎちぎち、ぎちぎち。カッターナイフを弄びながら、また数秒だけ思考を走らせ──
「確かこの辺に···あったあった。」
引き出しをまさぐり、予備の端末を引っ張り出した。初期設定とかは一応終わってるし、即座に使えるよう定期的に充電もされている。いやー優秀な秘書艦たちだなぁ。うんうん。素晴らしいことだ。
「···お? 通信戻っとるやーん。···まだちょっとバグってるけど。」
カメラ映像が不自然に途切れたり、ラグかったり。表示もところどころおかしいし。
「ハローハロー、こちら指揮官、誰か応答してくれー、どうぞー。」
双方向通信なので「どうぞ」は不要だが、そこは気分。何度か繰り返し呼び掛けると、無音だったスピーカーがノイズを発した。カメラ音声は銃声や砲声対策にミュートしてあるから、通信ツールのマイクが起動したことを示す音ということになる。
「電波障害があったんだが、ジャミングか? 誰か返事を──」
「──しき、かん」
返ってきた舌足らずな声に、一瞬だけ思考が停止する。編成した覚えのない──聞き覚えのない、知らない女声だと思ったからだ。
「え? あ、あぁ、プリンツ···だよな? どうした?」
「クレムリンの破壊は成功よ、けど···」
「···けど?」
よくやった!! と、叫ぶ前に、プリンツの言葉に続きがあると気付く。沈鬱な、飄々とした彼女らしからぬ声音と、弱りきって掠れたような声量。
不穏極まる邪神の予言、それを告げた声の感触すら残る耳に、その声は不吉で痛すぎた。
「けど、私たちがやった訳じゃないの。···奴ら、私たちが二階に到達した瞬間に自爆して、私たちをクレムリンの下敷きにしようとしたのよ。」
「そ、それはまた大胆な···」
頬が引き攣るのを自覚する。大量の瓦礫やら何やらで通信障害が起こってたんですね···。
「というか、今の今まで下敷きだったわ。やっと這い出してきたところ···よッ!!」
「──!!」
セリフの最後に、大気を震わす砲声が入り込み、続いて大鳳が焦ったように叫ぶのが遠く聞こえた。というか。
「なんて? なんて?
「えぇ。私が一番乗りみたいだか···らッ!! 救出活動中よ」
「──もう少し安全な···と言うのも今更ですわね。」
多分、いまセリフの合間にフッドの周辺を砲撃して吹き飛ばしたんだろう。うんざりしたような声が聞こえてきた。
「クレムリンの下敷きになって生還ってお前ら···」
ぶっ壊れというか怪物というか···お、カメラが···おぉ···
大鳳がもう一度偵察機を発艦したのか、カメラ映像が復旧する。目に付くのは大量の瓦礫、瓦礫、瓦礫。けれどその画は単調ではなく、アクセントとして所々に赤い水溜まりやピンクの塊があったりするし、何なら中途半端に潰れた、それでも明確にそれとわかる死体なんかも写り込んでいる。
「おっふ、すげぇ···」
呟いた直後、画面外から轟音が響いてくる。即座に画面からプリンツの姿が掻き消えるが、数秒後にいくらか安堵した様子で戻ってきた。
「···無事だったか、良かった。」
満身創痍といった風情のグラーフに肩を貸したジャンバールが、瓦礫を吹き飛ばして歩いてくるのが写った。
「そうでもねぇよ。オレはちょうど空間があったから軽傷だが···ツェッペリンの方は半身がまるまる──」
「言うな、痛みが増す。」
「そりゃ悪かった。」
グラーフは歩きづらそうではあるが、それでも慣れない冗談を言ってこちらを気遣う余裕はあるし、何よりパッと見で潰れている感じはしない。内側で折れているかどうかは、流石に素人目では判断しかねる。
「じゃあ、あとはベル···ベルファストだけだな。」
焦りを隠せず、愛称が口を衝いてしまう。この状況この状態の艦隊を一刻も早く撤退させ、核攻撃に移りたかった。
「えぇ、そう···ね。ごめんなさい指揮官、敵が来たわ。一度通信を切るわね。カメラも、一応。」
「え? あ、あぁ、分かった。」
いや、今更配慮とかされても、もう散々死体とか見ちゃったんですが。
──うわ、なんか今見たくない物まで見えた。具体的には机上でのんびりしてた茶色い毛玉と目が合った。
「お、おーけー。分かったよ分かりましたよ。ちゃんと相手しますよ···えっと、オフニャっつったっけ···?」
◇
北連 クレムリン跡地
「おい、オイゲン。どういうつもりだ? 敵なんてどこにも居ねぇだろう。」
瓦礫と死体の山の上で、怪訝そうにジャンバールが、声を上げる。他の面々も似たような、不思議そうな顔をプリンツに向けている。
「えぇ、そうね。でも絶対に彼に見せちゃ駄目なものが見えて、ね。」
言って、所々に汚れや穴のある手袋に包まれたしなやかな腕が伸ばし、プリンツは一際高い瓦礫の山の、中腹辺りを指す。
「──!!」
「···嘘。」
大鳳が口元を覆い、フッドが呆然と呟く。
それは、人体のパーツだった。
人間の、左腕。
端的に形容してしまえば、そうなる。そんなモノは少し見回せば幾らでも目に入るし、何なら頭でも胴でも中身でも、赤にピンクによりどりみどり···。ここはそういう地獄だった。
だが、その人体集積所じみた場所で、それは一際目立っていた。
白い肌と、どちらが白いかを競うような純白の手袋。その双方が血に塗れ、手袋は指の部分が親指にしか残っていないほどボロボロだった。ミニチュアの砲塔が付いた手甲に守られ、手首から下腕は見えない。だくだくと血を垂れ流す肘が見え──そこで、それは終わっている。
露出し、先端から血の雫を垂らす、細く形のいい五指。
その薬指に、プリンツたちは白銀の輝きを見留めていた。