「研究官? ···研究艦?」
「イントネーション的に後者っぽいね。まぁ文字通り研究開発段階で終わっちゃった、存在しないはずの艦船。それをベースにした艦船少女だよ。」
で、出た。
IF世界線に存在するアレだ。オフニャ同様のシュレーディンガー的スキル持ってそう(こなみ)
赤いメンタルキューブを片手で弄びながら、まだ見ぬトンデモ量子物理学艦船その2に思いを馳せる。ちなみにその1は我らがテスラの遺産しびれぷに···もとい、エルドリッジです。
「あは。オフニャの説明を真面目に聞いてたかい? アレはオフニャ専用スキルだよ。」
「言ってたような、言ってなかったような?」
というか、それが無いなら研究艦ってどういうメリットが···あ、狙った艦をピンポイントで取れるからか?
「それも一つだね。まぁ取るまでが長いけど。」
「というと?」
「経験値がいっぱい要る。」
「ええい、具体的な数値を出せ。」
「300万ぐらいかな。」
「は?」
桁がおかしい気がする。
···ま、まぁでも? 10時間遠征一回で18000の経験値貰えますし? だいたい170回くらいで終わりですよ。1700時間···何日?
「クソ雑魚暗算乙。」
「どつくぞお前···まぁいい。善は急げっつか時は金なりだ。はやく解放して(はぁと)」
かっこはぁと、と、真顔で言って、キューブを置く。
だが、神の嘲笑も世界の停止も、まだ終わらなかった。
「あぁ、言い忘れてたけど、研究艦に遠征とか寮舎の経験値は適用されないからね。」
「···は?」
「あと演習も。真面目に出撃してマラソンして(はぁと)」
かっこはぁと、と、聞き心地の良い、甘い声が脳を侵す。
が、それに溺れられるような情報じゃなかった。なんて? 出撃オンリーで300万? はっはー、無理ゲー乙。
「いやいや、言っておくけどかなりの温情だよ?」
「温情の意味調べてどうぞ。」
「時間が無いって言ってなかったかい? まぁここで勿体ぶってもアレだし端的にね。···この世界にさ、"戦闘シーム"ってあると思う?」
ついでに【勿体ぶる】も調べろよお前。あと【端的】も。
「つか戦闘シームってなんぞや。」
「あー···ググって? っていうのも時間の無駄だし、良いよ。まぁそもそも時間止まってるしね!」
「おう。で?」
あ、あれー? と、渾身のギャグをスルーされたようにしょんぼりする邪神。ようにっていうかそのままだけど。···渾身? いや、よそう。
「泣くよ? ねぇ泣くよ?」
「説明して、帰ってから泣いてどうぞ。」
「ふぐぐ。···で、戦闘シームっていうのはね?」
もう飽きたのか感情の模倣を放り捨て、邪神が説明に移る。姿勢を正す──のは無理だが、自由な両手を机の上に置いて聞く姿勢を取る。
「アプリゲームだった頃のマップ、覚えてるよね? ちみっとした海図に、ちみっとした艦隊が配置されてるやつ。」
「敵艦隊とおんなじマスに移動したら戦闘、弾薬マスで補給···ってやつな? そいで?」
「あのマス一つで起こる一戦闘、あれが戦闘シーム···まぁ厳密には違うけど、そういう認識でいいよ。で、この世界にあんな生っちょろいモノ、あると思う?」
「無いなぁ···」
いちおう、海図をエリアで区切って指揮する方法は今でも取る。というかこれが一番楽。ただゲーム時代のように、ワザワザ同じエリアに赴いて正面から殴り合い──なんてする必要はない。こっちの世界の国連軍でも、隣り合ったマスから砲撃くらいできるだろう。この前は北連がマップ外からミサイルぶっぱしてきたし。
あとついでに言えば、ゲーム時代みたいに出撃せず放置してたら敵方も何もしてこない···なんていう、「常にこっちが攻める側」みたいなお約束もない。対人タワーディフェンスみたいな、目を離したら基地炎上ダーティパーティーナイトフィーバーになったりする。何言ってるんだ俺は。
まぁとにかく、それを避けるために皆でローテーションを組んで常に哨戒任務やらをこなしていた訳だ。
「そうだね。でも、ゲーム時代は艦隊一個···もっと言うと、一シームで一回分、経験値分配がされていた。それが、いまは戦闘シームがまるごと消えて、シームレス戦闘MMOみたいな様相だ。自由度もめっちゃ高いね。」
「なお伴う責任。」
「えへへ。···でね?」
話続けていい? とばかり、ちょっと困った雰囲気で邪神が言う。
「うん。」
「流石に「ここまでで一回分」って区切ると面倒だから、「一人あたり何ポイント」って感じで、処理を簡略化しましたー。いえーい。」
「いえーい······うん?」
うん? 人間一人に一回分の経験値分配? ヤバくね?
「いやいや、勿論1人で300も400もあげないよ? 一人1ポイントだから、頑張って!!」
「人間一人1ポインヨ···胎児はカウントに入りますか。」
「バナナはおやつに入りますかみたいな聞き方だね···入ります。」
「ペットは家族!!」
「人間一人当たりって言ったよね?」
「奴隷に人権を!」
「生物学的に人間ならカウントします。それ以外は無し! 以上!」
聞くだにおぞましい会話がちょっと混じってたが、気にしてはいけない。
すべては新しい艦船をお迎えし戦力を増強するため。そう、すべては皆のためなのです。みんなはみんなのために。素晴らしい。
「ふーむ、となると東煌かインド辺りを核の炎で焼き払えば5億ポインヨは貰える? ···やったぜ。」
「草ァ↑ ···とりあえずは以上かな。研究艦は取り敢えずこっちで選定しておいたから、開けてみるといいよ。」
「開けるまでがクソ長いんですがそれは」
「ヒント:北連」
おほーっ。北連に核の焔を見せてやれーっ! ···ところで北連が自分で核使ったけど、アレは経験値カウントに入りますか?
「ダメです」
「はーい。」
シリアスに始まったチュートリアルをコミカルに終えて、動き出した世界。
救急箱を持ったイラストリアスから鏡も一緒に受け取り、彼女に別の仕事を与える。
そう。『核でおそうじ! ダーティパーティーナイトフィーバー作戦』発令である。
「はい? 核で···?」
困ったように小首を傾げるイラストリアス。かわいい···じゃなくて。
「核でおそうじ! ダーティパーティーナイトフィーバー作戦、だ。旧鉄拳作戦を改称する。」
「は、はい。鉄拳作戦改め、えっと、核でおそうじ!ダーティパーティーナイトフィーバー作戦、開始いたします。···あの、よろしいのですか? 北連本土はヴィシア領として統治するのでは?」
確かに、ユーラシア大陸の半分を占める北連領域、そこに埋まる資源。どちらも捨てがたい。正直言えば喉からもう一個喉が出るくらい欲しい。エイリアンばりの執念だ。だが、それを「戦勝国だから、ちょっとだけだから、先っちょだけだから!」と無理やり奪うと、それはそれで回りからとやかく言われそうで面倒くさい。
ので(順接)
核の焔で悲鳴を覆い隠せばええんやで。あなたの悲鳴は誰にも届かない···。「聞こえない」だっけ? 忘れたけど。
「ではてっ···核で」
「略称はナイトフィーバー作戦だ。」
「はい。ではナイトフィーバー作戦、第一フェーズへ移行します。」
イラストリアスは、おもむろに指揮用端末を取り上げる。同時に、基地内部用の内線も。
『これより鉄拳作戦改め、ナイトフィーバー作戦を開始します。各員、重要性B以下の行動を中断し、予定通りに行動してください。』
基地全域のあちこちに設置されたスピーカーから、目の前でイラストリアスが話した通りの内容が二重に聞こえてくる。同時に彼女は指揮用端末をポチポチといじり、そっと机に置いた。
一応、核で(ry の説明をしておくと、旧名は鉄拳作戦というそれは、簡単に言えば核による絨毯爆撃だ。今回やるつもりだった、艦船たちと核攻撃による北連遷都計画。それを全部核兵器に変えて、遷都すらさせずに全域を核による炎と汚染で蹂躙する。それを
ホウキでゴミを掃くように。何度も。何度も。
まぁ当然そんなに一気に核兵器は使えないし持ってないから、十年規模の作戦なんだけどね!!
「第一フェーズで自軍退避、第二フェーズが即座の核攻撃。第三フェーズは、第二フェーズ時点で子供だった者が戦力になる10年後から20年後。···何でこんな作戦立てたんだろう、当時の俺。」
「それは分かりかねますが、立てておいて正解でした。それと指揮官様、第一フェーズ終了に障害が。」
「え? なに?」
「北連の核攻撃による電磁パルスで、撤退指示が出せません。強制帰還のご裁可を。」
──あぁ。
涙が溢れそうだった。
俺は、彼女たちを喪ったと知って、発狂した。派手に自分を傷付けて、邪神に強制的に沈静化された。そして、彼女たちの死を受け入れて、それでも納得したくなくて、報復しようとしている。
けれどイラストリアスは──宥めてくれるモノが居なかった、彼女は。今も静かに狂っているのだろう。
「···あぁ、いいぞ。」
なら俺が。なんて、言えない。だって俺は──あん? 強制帰還? なんそれ?
「海域からメンタルキューブ化した船体と精神を量子テレポーテーションの応用でドックへ強制送還します。取得経験値や制海権を喪失することになりますが···タイムラグ無しで危険域から離脱出来るので、ナイトフィーバー作戦とは相性が良いですね。」
「え? いやでもあいつらは···」
ポロっと出た困惑に、イラストリアスは狂気の片鱗も感じさせない清楚な笑顔を向けた。
「指揮官様、あの場にはベルもエルドリッジちゃんも居るんですよ?」
『確率回避系は、キミの送ったオフニャが陰ながらブーストしてるから100%回避スキルと同義だよ』
鼓膜と脳裏で、最悪が拭われていく。
えぇ? いやでも、邪神お前「あいつらは死んだのか?」って聞いたとき──
『肯定したかい?』
──してなかった!! 黙ってニヤニヤ嘲笑の雰囲気だけ醸し出してた!!
「い、いやでも、プリンツが遺言を····」
『いつもの悪戯じゃないのかい? ボクに言わせればまだまだ甘いとしか』
「お前の悪戯はシャレになんねぇんだよ!! てかお前ワザワザ時間止めなくても喋れるのかよ!? もういいよ!! 第二フェーズへ移行しろ、ふぁいあふぁいあ!!」
···ちなみに「ふぁいあふぁいあ」は、『ヴィシア本土より核攻撃しろ』という意味のコードで、別にふざけてる訳ではない。立案時はふざけてたけど。
「了解、全艦をドックへ移送、核攻撃を開始します。」
「ニャルてめぇ、なんでこんな大事なこと黙ってやがった···」
「まだチュートリアル途中ですし? 残りの25%ぶんですね、その辺りは。」
────チュートリアルの残り25%、めっちゃ大事なのでは?
そう思いつつ、俺はドックへ走った。
量子テレポーテーション【りょうし─】
なんか凄い通信手段。観測と状態確定で云々。すごい(ド文系並感)
詳しいこと知ってる人がいたら教えて!! wikiより易しく(難題)