提督が鎮守府に着任···あれ?   作:征嵐

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 筆休め。···さ、サボりじゃねぇし。キリがいいだけだし。ほんとほんと。


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 北連兵士ヨシフの記憶

 

 

 「おい、聞いたか。クレムリンが──」

 「あぁ、なんでもセイレーンの野郎が──」

 「赤の広場が文字通り──」

 

 北連、極東方面軍第一対装師団。一個歩兵連隊と二個特殊歩兵大隊で構成された対セイレーン用部隊が、シベリア鉄道でモスクワへ向かっていた。

 

 貨物車両を改装した、建前上の居住性が確保された鉄の棺桶。十以上のそれが連なり、最大速度で首都へと走る。その三車両目に、おれたち第二対物中隊が押し込まれていた。

 

 普段の訓練やパレードなら、何処を向いても汗臭い同僚しかいないこの空間は、愚痴と喧嘩で埋め尽くされる。だが、流石に今日は違った。

 

 一部の情報通──何故か一級情報統制を掻い潜っている──が数人、仲のいい奴に知っていることを教えてやる。すると周りが聞き耳を立てて静まり返り、その空気を察知して、他のことをやってた奴も動作を止める。必然、車両の四分の一くらいの人間が、"秘匿情報"を知り得る訳だ。あとは、分かるな?

 

 そんな訳で、おれ達は全員がモスクワの状況を知り、その上で地獄へ突っ走ってる訳だ。クソ。

 

 「──モスクワが見えたぞ!! クソったれ!!」

 

 出口辺りで銃の番をしていた部下が、厚ぼったい窓を覗き込んで叫ぶ。ここで窓に殺到しても見えないことは周知なので、他の窓に近い奴らだけが恩恵を享受し、おれ達はそいつらの情報を待つ。幾度となく繰り返した訓練の──やってる時は「首都攻められたらおれ等もう負けなんじゃねぇの?」とか思ってたが──賜物といえるか?

 

 「つか、おい。我らが首都に"クソ"はねぇだろ。」

 

 おれの前に座ってた同僚が、苦笑混じりにからかう。

 

 返事は立てられた中指だった。

 

 「あぁ? クソ、なんだってんだおい···」

 

 窓にかじりついたままの部下に苛立ったのか、同僚が席を立ち──

 

 「うぉ、危ねぇ!?」

 

 急停車した列車の慣性に引かれてたたらを踏んだ。

 

 「中隊長!!」

 「わぁってるよ!! 黙ってろ!! こちら三号車、状況を──」

 

 ちょっと良い席に座ってた上官に、無線連絡を乞う。このまま降りて散開していいのか、このまま待つべきか。モスクワが見えているとはいえ、徒歩と列車では進軍速度が段違いだ。鋼の車両は、いざというとき盾にもできる。

 というか、一個師団がぞろぞろ歩いて敵戦闘領域に行けるわけがない。死ぬ。シンプルに死ぬ。

 

 「──線路が破断してるらしい。即座の修繕は無理だそうだ。」

 

 おいおいおい不味いですよ···? この流れだと、まず間違いなく何個中隊かは出撃浸透する羽目になる。願わくは──

 

 「我々第三中隊は直ちに出撃。まず斥候を出し、経路を確保したのち浸透。以後は別命あるまで待機。」

 「クソ」

 「マジかよ」

 「ざけんな」

 

 口々に罵倒を呟く。当然中隊長にも聞こえているだろうが、彼も心中は同じだろう。

 

 対セイレーン部隊では、割りと見る光景だ。だが──

 

 「中隊長!! 質問よろしいでしょうか!!」

 「許可しよう。」

 「はっ。その、当該領域に核兵器が使用されたようなのですが···」

 

 ホントに突っ込むの? 生身で? 正気? つか対放射線防護は? 電磁パルス域に入ったら無線使えないけど、別命とやらはどうやって下るの?

 

 いろんな意味を持つ質問だった。だが、それは窓からモスクワを見ていた者しか知り得ない情報で、それなりに核兵器使用後の都市や空について見識が無ければ看破できない情報でもある。そこそこ良い理系大卒の彼だけが、その情報に辿り着いた──辿り着いてしまったのだろう。

 

 中隊長の反応は、眉を寄せて首を傾げるという疑問の露呈だった。

 

 「核兵器だと? セイレーンがそんなものを使ったという情報は入っていないが···一応、聞いてみよう。おい、無線を」

 

 従卒に無線をかけさせ、司令部へと繋ぐ。全員が中隊長の一挙動を見守る中、静寂にノイズ混じりの音声──司令部の偉い人の声が響く。

 

 『その情報は君のセキュリティクリアランスには開示されていない。以後の通信は許可されない、直ちに命令を遂行しろ。通信終了。』

 

 ────全員が心を一にした。

 

 すなわち。

 

 

 

 「死に晒せクソったれ!!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 とはいえ、命令は命令だ。

 

 おれ達は渋々、こうして放射能汚染に侵された首都へ、てくてくとぼとぼ、徒歩でトホホと浸透した。

 

 「···ほぼクレーターじゃねぇか。」

 「なるべく喋るな。息も最小限にしとけ。」

 「それで死期が遠のくのか?」

 「さぁ? けどこれは斥候任務だろ?」

 「人体実験の間違いじゃねぇのか?」

 「かもな。モルモットとして死ぬか、命令違反の反逆者として死ぬかだ。」

 

 後者の方が楽に死ねそうだなと思ったが、口には出さない。

 

 「──はぁ」

 

 ため息をついて、予定通りのルートを通る。あらかじめ狙撃班と測量班が観測して決めた、瓦礫が崩れる危険性の少ないルートだ。

 

 「クソったれ···あ? っ!?」

 「っ···敵か?」

 

 先頭を行く同僚が急停止し、AKを構えた。

 

 訓練通り、六人班の全員が即座に意識を戦闘マシンのそれに切り替え、布陣を組み、照準する。

 

 「···女?」

 

 10人以上の女が、集まって何事か会話していた。

 

 「目標(セイレーン)か?」

 「核のクレーターに残ってるんだ。人間じゃねぇわな。」

 「撃つか?」

 「···いや、制圧しよう。」

 

 足音を忍ばせて、集団に近付く。総数は18人、こちらの三倍だが、全員が非武装の女だ。

 

 取った。

 

 そう思った瞬間に、全員が示し合わせたようにこちらを振り向く。

 

 「っ動くな!!」

 「両手を上げろ!!」

 

 freeze!! と、万国共通の静止をする。

 

 一番手前の女──いや、少女というべきか? そいつはまだ子供だった。

 

 少年兵。学習能力と適応力がピークの時期に戦闘と殺人のノウハウを叩き込まれたキルマシーンは、時におれたち正規兵にも並ぶ。警戒が足りなかった。背筋が凍るが、あちらは空手でこちらはフル武装。勝てる。既に取っている。

 

 「おい、両手を──」

 

 そこで、おれ達全員が気付いた。

 

 女の姿が、透けている? いや、光の粒子となって消えていく。

 

 「幽霊···!?」

 

 呟いた瞬間だった。雷鳴が轟く。

 

 核兵器という超級の熱破壊兵器を使ったあとは、雷や豪雨をもたらす大規模な積乱雲が生じる。

 

 そんな知識を思い出して。

 

 

 地面と水平に走った雷撃が、肉体を焼き払い魂を刈り取った。

 

 

 

 

 北連の上空を、幾条もの光が裂いていく。

 

 西はサンクトペテルブルクから、東はベーリング海峡まで。北は北極海から、南はウラジオストクまで。

 

 地図に虫食いができるほどの破壊が、一夜で北連の全域を蹂躙した。下手人は新興の国連加盟国家群、ヴィシア聖座──その背後には、正式な国家では無いにしろ、数回の北連による核攻撃を受けても損害を出さなかった、最強の武装集団、『アンノウン』が存在する。

 

 彼らは、矛を向けた北連を決して許さなかった。

 

 その北連を抑えきれなかった国連も、見限っていた。

 

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