提督が鎮守府に着任···あれ?   作:征嵐

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 やめろよ、絶対「シリアス引きました」とか「ヴィクトリアス鰤無し完凸シリアス1鰤完凸ー」とか「所詮シリアスも引けん敗北者じゃけぇ···」とか言うんじゃねぇぞ?


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 臭気。

 

 肉の焼ける香ばしい匂いを、何十倍もおぞましくした腐臭だ。国連大会議室という戦場とは程遠い場所で漂うには、あまりに非人道的すぎる。

 

 原因は、三億ボルトもの超高電圧──落雷。コンセントなどとは比べ物にならない電流と電圧が、ひとりの男を消し炭へと変えた。···いや、それは、もはや消し炭ですら無かった。

 

 だって、炭とは普通黒い色をして、乾燥しているはずだ。

 

 ()()は、違った。

 

 赤。青。緑。黄。紫。白。黒。藍。茶。金。鋼。橙。

 

 色鉛筆も驚きのカラフルさで、半透明のぶよぶよとしたマーブルスライム状で、そして。

 

 「ぅ···ぁぁ·······」

 

 ()()は、生きていた。

 

 

 北連の紋章が刻まれた椅子で、どこにあるのか分からない発声器官から呻き声を漏らすスライム。並み居る各国の代表たちは、一様に絶句してそれを見つめている。

 

 苦しみを訴えるゲル状生物に慈悲の一撃を加えることもなく。

 

 下手人に非難と恐怖の視線を向けることもなく。

 

 ただ、呆然と。目前に現れた──いや、目前で姿を変えた、変わり果てたカーディナル·グレイを見つめていた。

 

 「な、んだ。これは。」

 

 そう声を発したのは、いち早く正気に戻ったユニオン代表だった。

 

 「何って、そりゃ···ショゴス? これが話題の転スラですか?」

 

 そう応じ、横に目配せする。俺の意を酌んで、控えていたエルドリッジがまた雷撃を加えた。

 

 「aaaaaaaaaaaa!?」

 

 スライムを熱すると、水分が飛んでカピカピの残骸が残る。

 

 普通は、そうだ。熱を加えると、当然、温度が上がる。

 

 その、はずだ。

 

 「a···aaa········」

 

 一部を()()()()()()スライムが、苦痛に身を捩る。

 

 おぞましい光景だが、それはロイヤル代表──ミスター·コネリーを現実に引き戻すのに充分なショックを与えた。

 

 「な、んだ。これは。」

 

 ユニオン代表と同じ言葉を漏らし、次いで俺の方を見る。口は震えて声を発しないが、その目は明確に「何故」と問うていた。

 

 「何故ってそりゃ···敵の首魁だし。殺すでしょ普通。まだ死んでないけど。」

 

 エルドリッジとは反対側に視線を遣る。

 

 ベルファストが恭しく差し出したトレイに乗った小瓶を、割らないように慎重に取り上げる。

 

 「というか、心臓も脳も無いから多分死なないけど。」

 

 正確には全身が心臓で全身が脳。

 

 ついでに感覚器官も兼ね備えてる優れモノだ。落雷はさぞかし痛かろう。俺は即刻失神したから覚えてないけど、多分痛いはず。痛いよね?

 

 「痛くなくても、これから痛くなると思うけどな。」

 

 手のひらサイズの小瓶から、粘性のある液体をスライムに掛ける。慎重に、慎重に。絶対に自分に掛からないように。

 

 「よ、よし···セーフ···」

 

 スライムの体が液体を十分に吸収したタイミングで、もう一度雷撃を加える。

 

 もう叫び声は上がらなかった。

 

 だが死んではいないはずだ。ただ、痛みに溺れているだけだろう。

 

 「殺したのか···?」

 

 鉄血代表が、恐る恐る聞く。首を振って、俺はまだ持ったままだった小瓶を示した。

 

 「それは?」

 

 重桜代表が興味深そうに──横で蠢いている肉のゼリーから目を逸らすように問う。

 

 「クスリですよ。刺激作用とか興奮作用とか諸々を組み合わせて出来た、その名も『感度が3000倍になるクスリ』!!」

 

 ものっそい白けた視線が女性陣──重桜、東煌、ヴィシア、アイリスの代表たちから向けられた。

 

 「いやいやいや、そんなスライムに欲情とかしてないからね?」

 「ご主人様、そういうことではないかと。」

 

 呆れ顔でベルが言うと、『お疲れ様』みたいな表情が向けられた。

 

 ──いやいやいや違うからね? そんな趣味はないからね?

 

 「まぁ、それはそれとして。エルドリッジ。」

 「ん···」

 

 何度目かの雷撃が落ち、スライムに直撃する。

 

 「うへぇ、気色わる」

 

 スライムから、カーディナル·グレイの顔が浮かびあがっていた。あまりのグロテスクさに、咄嗟に拳銃を抜いていた。グリップにセーフティのある、ガバメントである。安全第一。···フォーティーファイブ振り回して何が『安全』なのかは突っ込むな。

 

 「やぁ、お久しぶりですね。」

 

 にこやかに言って、一発。

 

 反動抑制も兼ねたサプレッサー越しの銃声。

 

 スライムの中ほどまで突き進んだ弾丸が、形状を留めたまま止まった。

 

 「────!!」

 

 絶叫だった。

 

 スライムが苦痛を紛らわそうと、力の限りに叫んでいた。正直クソ煩いのでもう一発。今度は口に銃口を突っ込んでぶっ放す。

 

 ショックも、失血も、内臓損傷も。どんな死因も許されない。少なくとも俺かエルドリッジが許すまでは。

 

 「お久しぶりですね、って言っただけじゃん···。 挨拶くらい返そうぜ、人間ならさ。」

 

 人間かどうか怪しいけど。一発。

 

 マガジンに12発、薬室の1発で合計13発。今3発撃ったから···まだまだ遊べるドン!!

 

 「もう一回遊べるドン!!」

 

 ドン、に合わせてサプレッサー越しの銃声を聞かせてやる。

 

 「てい、やぁ、ふん、そいそい、はぁっ、そりゃぁ!」

 

 銃撃。銃撃。銃撃。銃撃銃撃。銃撃。銃撃。

 

 「······何やってるんだろう俺。」

 

 沈静化した。

 

 「その辺にしておけ、アンノウン。ここは会議場であって拷問部屋ではない。もしこれ以上続けると言うなら──」

 「続けると言うなら、何だ。鉄血。」

 

 ドスを利かせた声に、銃口を向けて答える。だが流石に撃つ訳にはいかない。もっと言えば、この先のパフォーマンスを考えなければ銃口を向けた時点で俺の負けなのだが。

 

 「良いのか、私を──」

 「愚かなことだ。」

 

 鉄血代表が何を言おうとしたのか。それは分からない。

 

 台詞が回るより早く動いたリシュリューが、俺の腕を捻り上げて極め、銃を叩き落としていた。

 

 「痛い痛い痛い!?」

 

 あ、あれ? リシュリューさん? ちょっと? メキメキ言ってますよ? ちょっと!?

 

 青白い顔でじっとりと汗をかいていると、リシュリューが動いた瞬間から砲口を向け続けていたベルファストが、なんと武器を下ろした。射線上に俺が居るから···だろうか。

 

 「賢明だな、ベルファスト。···国家代表諸卿に提案がある。聞くか?」

 「まず俺を離せバカ、腕が取れる!!」

 

 叫ぶが、リシュリューはそれを無視して、困惑顔の国家代表たちを見据えている。

 

 「私は──いや、我々自由アイリスは、現行の国家群連合による協力体制の無力さを深刻に受け止めている。その理由が、そこのスライム···失礼、北連や、この短気な指揮官のような非協調的な国家に対して武力制裁を行えないこと。そして、セイレーンに対しての軍事同盟という名目の割に、統一武力を持っていない統治的国際政府としての面しか持たないことだ。」

 

 顔を見合せたり、側近と何事か話したりする国家代表たち。

 

 俺はとりあえず

 

 「取り敢えず放してもらっていいですかね···」

 

 と言っておいた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 「で、よ。今後どうなると思う?」

 

 ひとまず全陣営が持ち帰って検討、という形で終わった会合。俺たちは基地に戻り、第二回専属艦会議withリシュリューを開いていた。

 

 前回の反省点を踏まえて、学園エリアの教室ひとつを使っている。ベルといい大鳳といいグラーフといい、見目麗しい大人の女性が小さな机に付いているのはなかなかにシュールな光景だった。

 

 「はい。」

 「はい、グラーフ·ツェッペリンさん。」

 「まぁ順当に、『アンノウン』の暴走を抑えるための条項を盛り込んだ憲章が採択され、ここを仮想敵とした軍事同盟が成立するだろうな。」

 「俺たちを内側に取り込んでか?」

 

 ──ちと不味いか?

 

 「そうだ。その方が御し易い。」

 「···なるほど。それに国際政府軍に一定の人材派遣を強いれば、単純に俺の持つ戦力を奪えるか。」

 「洗脳は二次大戦中から研究されてきた技術ですから、もう実用段階でもおかしくありませんし、ね。」

 

 ──なるほど? じゃあなんでリシュリューはこっちが不利になるような話を持ち出したんだ?

 

 「電磁波や外科手法による洗脳は艦船には通用しない。開頭しようにも、メスも通らないからな。薬物的洗脳も言うに及ばんな。」

 「いや、それでもスキャンやら何やらで情報を取られて複製されると不味い。諜報面だと、俺たちはクソ雑魚だしな。」

 「明石による情報網の構築は──」

 「いっそ全員滅ぼして──」

 「戦争──」

 

 不穏な方に向かい始めた議論を、ベルファストが手を叩いて止める。

 

 「今日はひとまず、この辺りにしておきましょう。ご主人様、夕食のメニュー何かお望みのものはございますか?」

 「ん、何でもいいよ。肉がいいかな。」

 

 何でもいいんじゃないのかと言われそうだが、こうして最低ラインだけ決めて丸投げした方が作りやすい···らしい。ニューカッスルが前に言ってた。

 

 「畏まりました。出来上がり次第、お部屋へお持ち致しましょうか?」

 「いや、呼んでくれ。食堂で食べるよ。」

 

 厨房へ向かうベルと同じタイミングで教室を出る。これから哨戒任務に向かう者も居れば、何人かで連れ立って広場や商店街へ向かう者もいた。

 

 「···で、なんでついて来てんの?」

 「秘書艦ですので。」

 

 私室へ向かう道すがら、三歩ほど離れて着いてきていた大鳳に問う。軽く身の危険を感じ、私室は『協定』により立ち入り禁止だと言うと不満そうに寮へ戻って行ったが。

 

 「いやに素直だったな···逆に怖い、が?」

 

 ──慣れ親しんだ私室で、初体験ではない違和感が俺を襲った。

 

 

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