もきゅもきゅとスターゲイジーパイを食みながら、何とはなしに周りを見る。
食堂に居たほぼ全ての艦船と目が合った。・・・なんか変かな?
「・・・お前らさ、さっきからナニ見てるんだ? 食べにくいじゃないか。」
「指揮官の食べているソレが気になるんだよ。全く、こういうところで予想を超えてくるな。」
ちょうど食べ終わったのか、トレーを持って後ろを通っていた江風がため息交じりに言う。
なんでや、王家グルメはみんな通った道やろ。主に寮舎レベリングで。
「ねぇ指揮官、もしかして酔ってるの・・・?」
「サンディエゴ、それはどういう意味だ。俺が紅茶で酔うように見えるのか?」
「い、いや、そうじゃなくてだな・・・」
引き攣った顔のサンディエゴに変わり、エンタープライズが皿に乗ったスターゲイジーパイを示す。
「王家グルメが、どうかしたのか? ・・・あぁ、なるほど。」
そういうことね。完全に理解した。(完全に理解した)
「おーい、ベルファスト。エンタープライズとサンディエゴにも同じ」
◇
気が付くともう朝で、俺はベッドの上だった。
なんだか首の後ろが痛いのだが、寝違えてしまったのだろうか。
首の後ろをさすりつつ食堂に向かう。その途中、最短ルートである中庭を突っ切ったとき、嫌なものが目に入った。
「・・・なんだあれ」
噴水の横にぽつりと置かれた、黒いスーツケース。
艦船の誰かが持ち込んだ私物────な訳もなく。かと言って、基地のど真ん中に侵入しての不法投棄ってこともまぁ無さそうだし。
・・・サイズは小ぶりで、膝くらいまでの本体と、腰くらいまでに伸びているハンドル。まるで誰かがそこに置き忘れたようだ。不自然極まりない。
サリンか? 小型の核か? 俺の知らないナンカスゴイ兵器か?
生物兵器や化学兵器という線は、艦船に対して全く意味を持たないことから除外できる・・・か? 狙いが俺だったら?
「・・・困ったときのベル頼み、と行きたいところではあるが。」
万が一小型の核とかだったら目も当てられない。もしそれでベルに傷でも付けば今度こそ首を括る所存である。まあ多分首どころか全身炭化するけど。
「傷ついても心が痛まない奴なぁ・・・俺とかか? いや物理的に痛いじゃんそれ・・・」
と言いつつ、じりじりとスーツケースに近づく。いつでも伏せられるように半身を切るのも忘れない。まぁ核でも生物兵器でも伏せるとか意味ないけど。
「やだなぁ・・・痛いのも苦しいのもやだなぁ・・・」
「MOVE!」
「はい?」
どこからか叫び声がしたと思った瞬間だった。
いきなり背後から手が伸び、口元を押さえられる。手袋から漂う柔軟剤の匂いと手のサイズ的に・・・シェフィールドか?
「気持ちの悪いお顔をしていないで、早く地面に這いつくばってくださいませ、ゴミムシ様。」
「むぐむぐ」
言葉よりは優しく地面に伏せさせられると、彼女はそのまま上に覆い被さった。
「shoot!」
言葉が聞こえた瞬間だった。
中庭の両端、俺たちを挟む格好で、数人────いや、十数人の艦船が姿を見せた。
「シェフィ、これ────」
「後でご説明致します。まずは離脱を・・・いえ、安全の確保を。」
「はい?」
ドン、とか。バン、とか。
そんな生易しい擬音語では到底表現できない爆音が、俺の疑問符に掛かるように鳴り響いた。
「MOVE!」
「RELOADING!」
「COVERME!」
「BRAKE!」
「MOVE!」
「ONEDOWN!」
両サイドから聞こえる掛け声と、発砲音────いや、砲声。
銃声なんぞとは比べるべくもない振動が鼓膜を打ち、脳を震わせる。
「なんなんだシェフィ、何が起こってる!」
「────!!」
断続的な砲声にかき消され、ゼロ距離の言葉すら通じない。
「シェフィーrぐえっ」
襟首を掴んで持ち上げられる。猫のように四肢を丸めて無抵抗を示すが、勿論下ろしてもらえなかった。しばらくそのまま移動して、砲声が和らぐ辺りで止まった。
「指揮官、あんなところで、一体何をしていたんだ?」
「プーさん! 助かった、いまどういう状況なんだ?」
「誰がプーさんか。全く、演習に迷い込んできたと思えば・・・」
ぬん? 演習?
「・・・あぁ、そういえば、君は私たちの訓練を見たことがなかったな。」
「訓練・・・というと、対人戦闘か?」
「対艦船戦闘だ。 ・・・この場合の艦船とは、言うまでもなく我々と同じ存在の事だよ。」
「だろうな。・・・じゃあ、あのスーツケースは? 何かのオブジェクトか?」
確保用か、破壊用か。核兵器が持ち込まれた・・・みたいな想定なのだろうか。
そう、完全に気を抜いて考えていたが、生憎と返ってきた答えは首を傾げるというジェスチャーだった。
「スーツケース?」
「え? ・・・トランクケース、って言った方がいいか?」
一応、薄い望みをかけてみる。
「なに、それは。そんな趣向は無かったはずよ。」
「・・・シェフィールド?」
「はい。今回の訓練で、そのような小物は用意しておりません。」
じゃあなんなんだよ、アレ。万が一爆弾だったら、あんな砲弾飛び交うトコに置いとけないぞ。
「・・・あれか。指揮官はここに。私が見てこよう。」
遠目にスーツケースを発見したらしいプリンスオブウェールズが近づいていく。
防御スキルも回避スキルも持っていなかったはずだが、核爆弾だったらどうするのか。アホか。
腕を掴んで制止すると、プーさんは微笑した。
「なに。馬鹿正直に近づいて行って開ける訳じゃない。」
「・・・どうする気だ?」
「こう・・・」
ジャキ。と、金属同士の擦過する音を上げて、プリンスオブウェールズの艤装、14インチ砲が回転する。
なるほど、吹き飛ばす気か。確かに、核爆弾が設計通りに威力を発揮するには凄まじく精密な起爆が要求される。外側から圧力を受けて内部が変形なり破損なりすれば、もうただのゴミだ。
・・・ただし、猛毒のゴミだが。
「待て待て待って! 基地を放射能汚染で廃墟にする気か!? というか、核じゃなくて毒ガスとかだったらどうするんだ!」
「? ・・・あぁ、そういえば君は、その手の攻撃に耐性が無いのだったな。」
爽やかに笑ったプーさんが、そっと俺の頬に手を添える。
「
「空気清浄機か何か!? プラズマク〇スターか!? ぴちょんくんか!?」
「冗談だ。大人しくイラストリアスでも呼んで────っと、丁度いいところに。」
一通りの演習が終わったのか、参加していた艦船たちがこちらへやって来ていた。生憎とイラストリアスの姿はないが、プリンツが居た。
「なに? どうしたの?」
「あぁ、あのスーツケースなんだが・・・」
それで察したのか、彼女は黙って『破られぬ盾』を展開すると、俺の隣に来た。
「ガスマスク役は任せなさい。」
「そのジョークはさっき聞いた。」
「ジョークじゃないわよ?」
プリンツとイチャつゲフンゲフン戯れていると、シェフィールドがサーマルゴーグルと簡易スキャナを持ってきた。流石MI6。なんでもあるな、うまい飯以外。
「・・・爆発物ではありませんね。何かのオブジェクトと・・・装飾品、でしょうか?」
「・・・中の空気に仕込みがある可能性は?」
「ないでしょうね。あのタイプのスーツケースですと、気密性はほぼゼロです。改造が施された形跡もありません。」
・・・安全そう、か?
いやでも、ねぇ? 何かのオブジェクトってなんだよ。どんな形とか、その手の形容がないってなんなの? 不定形だったりするの? 名状しがたいの?
それに装飾品って何。指輪か? 首飾りか? サークレットか? 嫌な予感しかしねぇなぁ・・・あいつ干渉しないって言ってたけどなぁ・・・
「オーケィ。待ってくれプーさん。俺が開ける。」
シェフィールドは機械越しだから何ともないだけかもしれない。直に見たら発狂するようなやべーのだったら、或いは触ったらアウトだったりしたらアレなので、一応俺が行く。発狂耐性? いいえ、鎮圧の容易さです。
「・・・?」
黒いスーツケース、そのジッパーを開けると、中に入っていたのは、本当に何の変哲もないただの装飾品────ピンク色のカチューシャと、同色の箱。白抜きで『R』と書かれたそれには蓋がなく、空の内面が見て取れた。
どうやら本当に危険はなさそうだ。そう安堵して立ち上がると、唐突に甲高い叫び声がした。
「あー!! それ私の!! 私のアレ!! ぴょこぴょこ!!」