「・・・どちら様ですか?」
戦利品を持って立ち上がった俺を引き留めた、ちょっと怒ったような声。
声の主を確認するより早く、シェフィールドが動く。棘のある声で誰何しながら、拳銃サイズの艤装を向けて俺の後ろに滑り込む。ちょうど庇われる立ち位置だが、身長差があるから襲撃者は見える。
「んん? あなたは・・・しぇ・・・しぇふぃー・・・?」
「・・・。」
シェフィのことを知っている? ・・・いや、シェフィ自身の反応から見て、知己という可能性は無い。なら一方的に知っているだけ、か?
侵入者ちゃん(仮)をまじまじと見つめてみる。・・・なんだろう、どこかで見た気がするのだが・・・思い出せない。
軽く染めているのか、明るい色の髪。碧色の瞳。美少女と言って差し支えない容姿・・・というか、艦船たちに交じっていても不自然ではない、異常なほど整った造形だ。端的に言うとAPP18。人間じゃなさそう。
・・・いや、じゃあこの既視感はなんだって話だ。
年齢的に・・・大学で見たとかか? いや、このレベルの美少女だぞ? 流石に忘れんだろ・・・。
「って、そんなことより! それ返してくださいよ!」
「それ・・・って、コレか?」
ピンク色のカチューシャを示すと、彼女は「ふんすっ」って感じに頷いた。
別に危険なアイテムって感じもないし、それは別に構わないが・・・流石に近づくのはちょっと怖い。かと言ってシェフィールドを近付けるのもなんか嫌。では。
「ほれ。」
「投げるな! 私の本体ですよーもっと丁寧に扱ってよー。」
放物線を描いて飛んだカチューシャを、彼女は両手で受け止めた。ぶつぶつ文句を言いつつそれを装着し──え?
「・・・あ! ん!? んん!?」
既視感!! 圧倒的な既視感!! こう、喉元まで出かかってるんだよ名前・・・えーっと・・・・・・
「え、なんかいきなり叫び出した・・・変人さん?」
「誰がだ。・・・クソ思い出せん。誰でしたっけ?」
「・・・お知合いですか、ご主人様?」
違う・・・と、思う。いや、どうなんだろう。この前の発狂で記憶飛んだとかじゃなかろうな。
「ふふふ・・・良くぞ聞いてくれました。・・・はいどうも! バーチャルユーチューバーのキズナアイです!」
・・・え、なにこの人。いきなりテンション爆上げしだした・・・狂人さん?
『お前じゃい!』
うるせぇスッ込んでろ!!
・・・あ、いや待て。キズナアイ? どっかで聞いたことがあるような・・・バーチャルユーチューバー? なんかそういや転生前にちょっと流行ってたな。シロちゃんしか追ってなかったから詳しくないが。
「ん? あれ? あれれのれ? もしかしてご存じない・・・?」
おそるおそる、といった体で尋ねられても。知らんものは知らん。
「そ、そうですか・・・そっかー・・・」
「それより、アンタ・・・貴女も、あのクソ野郎に?」
「クソ野郎・・・? いやー、気が付いたらここにいた・・・よねぇ?」
「俺に聞かれても困るが。・・・シェフィ、銃を下ろすんだ。警戒は解かなくていい。」
あのクソ野郎による転生だろうが、リゼロスタイルの突発的転生だろうが、起こった事象に変わりはない。
・・・つまりこれは、アレか。
コラボという奴か。
『ぴんぽんぴんぽーん! 大正解ー!』
うるせぇ殺すぞ。聞きたいことは一つだけだ。こいつは味方か、それとも敵か?
『え、なにその脳筋思考。こわ・・・まぁいいや。その子は味方だよ。』
ほんとぉ?
『信じないなら聞かなきゃよかったのに・・・まぁいいや、今回の更新では』
更新とか言い出したよこいつ。前はメンテとかしてたけど。
『・・・今回の更新では、キズナアイコラボが開催されました。はい、いえーい!』
いえーい! どうせならシロちゃんが良かったが。親分のことそんな詳しくないんだよなぁ? 戦えるん?
『そりゃ勿論。彼女には艦船としてけんげ───参加して貰っているからね。』
いま顕現って言わなかった? 何者? 邪神?
『噛んだだけだよ。気にしないで。』
テレパシーで噛むってなんだよ。
『文句の多い・・・山猫に食べられちゃえばいいのに。』
食われる側はどちらかと言えばお前なんじゃねぇの。・・・まぁいい。この子も艦船レベルの戦力ってことで良いんだな?
『あぁ。そういう理解で構わないよ。』
ふむ。
「シェフィールド、エンタープライズとフッドを呼んで来い。」
「・・・ご主人様? いえ、かしこまりました。」
「キズナアイ・・・さん。貴女は戦えるのか?」
今まで黙っていたプーさんが、思いついたように尋ねる。時間稼ぎか、本物の興味か。そこはまぁ大した問題ではない。
「えぇ、それは勿論! これでもバイオハザードとかサイコブレイクとかで鍛えてますから! ・・・ところで、あなたが指揮官さんですよね?」
「・・・あぁ。・・・もう二歩下がってくれるか?」
「失礼か! ・・・あ、はい、サガリマース。」
フッドとエンタープライズ。この基地の最高戦力たちが到着し次第ぶち殺そう。自陣のど真ん中に素性の分からん奴を置いておきたくはないし、何より。
あのクソ野郎は『その子は味方』だと言った。その子『は』だ。どうせ多重人格かなんかでもう一人のキズナアイは残虐非道人外外道邪知暴虐その他云々なキルマシーンなんだ。俺は詳しいんだ。
『いや、あの・・・』
なんだ。またぴんぽんぴんぽーん! とでも言いに来たか。
『いや、あのすみません、ホントにその子味方です、はい・・・』
嘘つけ絶対敵だゾ。
『違うもん・・・ほんとに味方だもん・・・』
・・・ほんとぉ?
『ほんと。ほんとにほんと。』
圧倒的信憑性。この言葉を信じられる奴はたぶん頭のネジが何本か抜けてる。
『お前じゃい!』
は?
「指揮官、どうするの?」
「味方にしても敵にしても、素性の知れない奴を・・・ん?」
左腕を占拠していたはずのプリンツの声が、何故か正面から聞こえて困惑する。
確かに左腕から伝わる体温と柔らかさはそのままなのに、だ。
「指揮官、下がって。プーさん?」
「オイゲン、その呼び方はやめて頂戴。・・・分かっているわ。」
プリンツが腕を離し、庇うように前に出る。二人は艤装を展開し、砲をキズナアイに向ける。
慌てたように両手を挙げた彼女の背後から、一人の少女が飛び出してきた。
「まぁ待ちなさい、わたし。」
「退きなさい、撃つわよ。・・・わたし。」
鋼鉄色の軍服を纏い、海風に銀髪を揺らしながら、その砲を油断なく照準するプリンツ。
対するは、純白のドレスを纏い、同色のヴェールを靡かせる、プリンツ。
「あ、プリンちゃん! はいかわいい!」
確かにかわいい。