提督が鎮守府に着任···あれ?   作:征嵐

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 もっと軽い話の予定だったんだが?


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 海軍食堂。どういうわけか無尽蔵の食料を生み出すその施設で、俺とプリンツはカレーを食べていた。ちなみに俺のドリンクは水で、プリンツはビール。まだお昼だというのに。

 

 「なぁプリンツ。」

 「何かしら?」

 「俺のことどう思ってる?」

 「好きよ? ···どうしたの、急に?」

 

 忠誠心とかクーデターの確率とかを測ろうとしてました。とは言えず。と、言うか、そう真正面から言われて平静を保つことなんて出来ず。

 

 「い、いや、別に···?」

 「変な指揮官ね。」

 

 どもった挙げ句、「なんだこいつ」という目を向けられる羽目になった。

 

 幸いにして、プリンツは拘泥することもなく、追加でデザートを注文し──へいへいへーい。

 

 「おい、プリンツ。カレーとビールは奢ると言ったが、デザートまでは約束してないぞ。」

 「?」

 

 いやいや、そんな「なに言ってんの? おまえ。」みたいな目で首を傾げられても困るし。財布の中身と食堂のメニューの値段を鑑みるに、金欠とまでは言わずとも、別に裕福な訳でもない俺に、昼食後のデザートまで奢ってやる予算はない。と、いうか。

 

 「資材とかどうしよう···燃料もだし、弾薬はどうなってるんだ···?」

 

 『艦これ』とは違い、『アズールレーン』には弾薬の概念がない。いや、基地で扱う要素としては存在しない。アズールレーンにおいて、弾薬とは戦闘マップ上でのみ存在する概念だし、尽きた所で戦闘不能になる訳でもない。ただ火力が落ちるだけだ。だが、その世界が現実のものとなった今、その法則が当てはまるとは考えにくい。

 

 「あー···ロンギヌス欲しかったなぁ···。」

 

 轟沈、つまりキャラクターのロスト──否、現実と化したこの世界において、死を意味するであろうその要素の存在が確認されていないことも、俺の胃を痛ませる。

 

 「まさか実験する訳にもいかないし···あー、あぁー!!」

 

 叫んでどうなる訳でもないが、取り敢えず、なんとなく叫んでみる。それに引かれた訳では無いだろうが、食堂の扉が開き、ベルファストが入ってきた。心なしか、その顔を青ざめさせている。いつも飄々とした──と言うには上品で、面白そうな──というには優雅な笑みを浮かべている彼女が、だ。

 

 「ベルファスト? どうした?」

 「ご主人様、周囲の探索に出ていた部隊より通達が。『2隻の軽巡洋艦クラス船舶を含む小型艦隊と接敵』と。」

 「···。」

 

 言葉を切ったベルファストに、無言で続きを促す。彼女のキャラクター性とレベルから鑑みて、軽巡洋艦クラス程度ならば何の問題も──お?

 

 いや、待て。最悪だ。俺はアホか? 何故、何故──()()()()()()()()()()()()()()!? 空母系の艦載機を含む艤装のチェックをしないまま、オ●ロと同じようにスキルや武装の類いが引き継がれていると思い込んでいた。そうだ、俺に幸運(笑)を寄越し、この世界に飛ばしたのは()だぞ? この基地にいるキャラ達が、全員ただの美少女になっているかも知れないだろうが!! 或いは、危惧した通り、本当に「その世界の敵は君たちのン十倍も強いよ!! 頑張ってね!! ヌルゲーじゃなくて良かったね、ラッキーだね!!」というクソ仕様かもしれないというのに。テンプレ通りに転生したからと言っても、テンプレ通りに無双出来るとは限らない。いや、()ならむしろ満面の嘲笑でやりかねない。

 

 「クソ···。」

 

 ベルファストが口を開くより早く呟く。当然、彼女にもプリンツにも聞こえただろうが、ベルファストはそれを完全にスルーして言葉を紡いだ。

 

 「『敵旗艦はセイレーンと思われる。』との事です。また、偵察部隊は回避を優先している為、敵火砲の威力は不明。敢えて被弾し、相手の火力を測ったほうが良いかと具申がありました。どうなさいますか?」

 「セイレーンだと!?」

 

 叫ぶ。いや、叫びと言うより悲鳴に近い音を出し、椅子から立ち上がる。セイレーンと言えば『アズールレーン』におけるイベントやストーリー後半の敵キャラで、超火力の弾幕やアホみたいな強ホーミングの魚雷を撃ってくる。HPバーの本数も多く、かなり厄介な相手だ。だが、彼女の言葉を聞くに、艤装はしっかりと機能しているようだ。──が、それ以上に聞き逃せない言葉があった。

 

 「回避を優先って···一発も被弾してないのか?」

 「はい。」

 

 ──えぇ···?(困惑) 『アズールレーン』において、敵の弾幕を回避する時には、プレイヤースキルよりもキャラクターの性能が物を言う。たとえプレイヤーが超反応の持ち主でも、キャラクターの移動スピードが遅ければ被弾するし、逆にプレイヤーが一切の操作をしなくても、回避値が高ければ被弾はしない。弾幕が触れたように見えていても、敵命中率とこちらの回避率を参照したロールで勝てば、つまり、()()()()()()絶対に当たらない。

 

 「これは···まさか?」

 

 バトル中は、意外なほどに確率参照が多い。こちらの攻撃の命中率、クリティカル率、回避率、スキル発動確率エトセトラ。その確率を『超弩級の幸運』とやらで100%に持ち上げられれば···たとえ相手が怪物であろうと、回避率がゼロパーセントでない限り死なず、命中率がゼロパーセントでない限り勝てる。

 

 「でも。」

 

 流石に楽観的すぎる。なんせこの幸運()は()の(ry

 

 「なら、最大限準備をしておくか。ベルファスト、回避を優先した前衛艦隊と、火力重視の後衛艦隊を編成。出撃して偵察部隊のバックアップを。偵察部隊には反撃を許可する。ただし、被弾実験は許可できない。」

 「畏まりました。直ちに。」

 

 表情を引き締め、執務室へ戻ろうとするその刹那、背後から凄まじいプレッシャーを感じて振り返る。

 

 「あ、ごめん、プリンツ···。」

 「別に、気にしてないわ。」

 

 回避優先、という条件だと自分があぶれてしまうのが気にくわないのだろう。怜悧な相貌には、色濃い不満が浮かんでいた。

 

 「また海軍カレー奢ってやるから、機嫌直してくれ。」

 「···今度はデザートも付けて貰うわよ。」

 「おーけー。分かった。前向きに検討して善処しよう。」

 

 頭に手を置いてそう言うと、一転して瞳に上機嫌な輝きを灯したプリンツが椅子から立ち上がる。

 

 「執務室に戻るんでしょう? 私が払っておくから、先に戻ってて。」

 「···お前が持ってるの、俺の財布だからな。」

 「奢ってくれるんでしょう?」

 

 ──なんか違くね?

 

 

 

 

 執務室のデスクに座り、ベルファストとバックアップメンバーの最終調整をする。このiP●dに似た端末で編成メンバーを指名し、出撃させるのだという。ちなみに、衛星とリンクでもしているのか、戦闘エリアを俯瞰で見ることも出来る優れモノだが、委託扱いで出撃している偵察部隊の様子は分からない。融通の効かない···と愚痴っても仕方がない。

 

 「ベルファスト。この二人は切り札だ。バックアップメンバーから外して、基地の防衛に当たらせてくれ。」

 「この二人ですね? 畏まりました。」

 「じゃあ──任せた。」

 「はい。行って参ります、ご主人様。」

 

 火力·回避率ともに優れ、バランスの良いスキルを持つベルファストは、バックアップメンバーの前衛艦隊旗艦だ。確実にクーデターを起こさないであろう結婚済みキャラが減るのは精神衛生上あまりよろしくないから──。

 

 「なるべく早く帰ってきてくれ、ベルファスト。」

 「···御意に。」

 

 優雅に腰を折ると、ベルファストは部屋を出ていった。

 

 

 




 次回は戦闘(予定)
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