提督が鎮守府に着任···あれ?   作:征嵐

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 武装勢力(自己紹介)


武装勢力

 「あっれェ~?」

 「どうしたの、指揮官?」

 

 執務室。出撃してしまったベルファストの代わりとして秘書官になった愛宕と一緒に戦闘区域のモニターを覗き込み、声を漏らす。ベルファストたちバックアップが到着した段階で、当該区域には一隻の船も見当たらなかった。いや、厳密には、()()()()()()()()()()一隻も見当たらなかった。

 

 「いや···偵察部隊の戦力ってそこまで強く無かったよな?」

 

 耐久重視の前衛艦隊に、長距離索敵を主軸とした装備。後衛艦隊は全員空母。攻撃部隊としての活躍はあまり期待できない編成だが···予想に反して、彼女たちだけで敵を──セイレーンを含む敵を悉く殲滅してのけたらしい。

 

 「ベルファスト、損害を報告してくれ。」

 「はい、ご主人様。少々お待ちください。」

 

 端末越しにベルファストに尋ね、愛宕と目を合わせる。二人が二人とも、拍子の抜けた瞳をしていた。

 

 「ご主人様、当方損害はゼロ──失礼しました。回避に徹しておりましたので、燃料の消費が著しいですが、敵性船舶による損害はゼロでございます。」

 「一撃も被弾しなかったんだな?」

 「はい。セイレーンを含む敵船舶の装甲も薄く、一撃の下に葬れたと。」

 

 こっわ。

 

 「分かった。じゃあ帰って来て──どうした?」

 

 愛宕に肩を叩かれ、端末から顔を上げる。通信中に伝えなければいけないほどに緊急の用事だと思ったからだ。

 

 「指揮官。来客よ。」

 「──は?」

 

 そして、その考えは正しかった。

 

 「基地正門に武装集団が居るわ。装備が統一されているから、正規軍じゃないかしら?」

 

 

 

 

 執務室の窓から、基地を囲うように動き出した武装勢力の様子を伺う。俺は双眼鏡で、愛宕は肉眼で。細められた彼女の両目は、肉食獣のごとき苛烈さと、鋼のごとき冷たさを孕んでいた。

 

 「サブマシンガンと···グレネードか。あとは···おぉぅ、擲弾兵がいる。通信兵とスナイパー···あ、目が合った。」

 

 言った瞬間に愛宕に頭を抑えられ、窓から顔を隠す。正規軍の狙撃手ともなれば、今の一瞬で俺を殺せたはずだから、きっとまだ火器統制が為されているのだろう。一個中隊レベルの人員を動員しておきながら悠長なことだ。サーマルスキャンでもすれば、この基地にいるのは男が一人と沢山の少女ばかりだと分かるだろうに。

 

 「って言うか愛宕。お前も体隠せよ。」

 「あら、どうして?」

 

 俺の頭を抑えたまま、自分の体を窓に晒す愛宕に警告すれば、本気の問いが返ってきた。

 

 「ねぇ指揮官。私たちは船──それも軍艦なのよ? 狙撃銃程度の銃弾じゃ死なないわ。私たちを殺したければ、魚雷を当てるとか、数十発の砲弾を直撃させるか、或いは空爆でもしなきゃ。」

 「なんだそのエイヴィヒカイト。チートかよ。」

 

 え、じゃあ、何? あの集団が雪崩れてきた時に危ないの、俺だけ···?

 

 と、絶望していた時だった。数回のハウリングの後、拡声器のひび割れた音が響いてきた。

 

 『当施設を不当に占拠するセイレーンへ告ぐ。人質を解放し投降せよ。繰り返す、人質を解放しろ!』

 「···え?」

 「はい?」

 

 愛宕と一緒に困惑の声を漏らす。おそらく、寮舎やドックでも同じような声が上がっているだろう。まずセイレーンって誰の事だよと。次いで、誰が人質を取って不当占拠してるんだよと。

 

 『我々は国連所属の対セイレーン部隊である! こちらは既に貴様らの占拠するこの施設を包囲している! 10分以内に人質が解放されない場合、我々は貴様らを殲滅する!!』

 「待て待て待てぇい。」

 

 執務室で叫んだ所で聞こえていないだろうが、叫ばずにはいられない。確かにベルファストからの報告を鑑みれば、この世界のセイレーンはそこまで強くない。が、生身の人間が相手できるものなのか? ──いや、あの武装勢力···国連の対セイレーン部隊の一人一人が、アズールレーンのキャラクター並みかそれ以上の化け物の可能性もある。武器はこちらのキャラに通じないが、肉弾戦が滅法強いとか···。

 

 「と、とりあえず行って交渉してくる。」

 「待って、指揮官。」

 

 立ち上がった瞬間、愛宕に手を引いて止められる。愛宕は小さく窓の外を指差すと、どこか諦めの混じった微笑を浮かべた。

 

 「え、なに···。」

 

 呟いた瞬間、銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 「あら?」

 「ん···?」

 

 バックアップから外された二人──基地司令官より「切り札」と称されたキャラクター『フッド』と『エンタープライズ』は、命令に忠実に従っていた。つまり、基地を守っていた。彼女たちは速やかに基地を包囲する武装集団を(昏倒させて一ヵ所に)纏め、敬愛する指揮官の下に報告に行こうとしていた。そこへ拡声器の声が響き──苦笑を交わす。

 

 「フッド、お前の砲撃で纏めて焼き払えないか?」

 「生憎と、私も貴女と同じで加減が得意ではありませんの。指揮官様も困惑なされていますでしょうし、情報の得られない鏖殺は避けた方がよろしいのでは?」

 「それもそうか。」

 

 そのまま声の響いてきた方へ歩いていくと、拡声器の横に立つ男が拳銃を、それを囲む形で兵士たちがサブマシンガンを向けてくる。誰何は英語で──英国訛りのある英語で為された。エンタープライズが苦笑し、フッドが微笑する。答えたのはフッドだ。

 

 「私たちはセイレーンではありませんわ。どうか武器を下ろして頂けませんか?」

 「···人質は男と聞いていたモノでね。他にも居たとは知らなかったんだ。失礼した。」

 「人質というのは、指揮官のことか?」

 

 銃を下ろした男と兵士たちにエンタープライズが問う。男は怪訝そうに問い返した。

 

 「指揮官?」

 「私たちの指揮官だ。」

 「ちょっと、エンタープライズさん。」

 

 フッドが咎める声を上げるが、もう遅い。

 

 「何者なんだ、お前たちは!」

 

 一斉に銃口が上がり、照準が二人へ合わせられる。

 

 「資料とは随分違う見てくれだが···お前ら、セイレーンなのか!?」

 

 さっき違うと言ったにも関わらず、答えの出ている質問をする男にフッドが笑う。ただ、この状況下でパニックになるのは仕方がないとも言える。むしろ冷静に「じゃあお前らは、セイレーンと敵対している新勢力なのか?」と真実を言い当てられでもしたら逆に警戒する。

 

 「落ち着いてください、皆様方。」

 「なぁ、フッド。指揮官を呼んできた方が早かったんじゃないか?」

 「執務の邪魔をするのは良くないと、貴女も同意したでしょう? それに、この仕事は私たちに与えられたもの。途中で上官に投げる訳にもいきませんわ。」

 

 狭量なやつめ、とでも言いたげにエンタープライズが肩を竦める。フッドが微笑を絶やさないのが逆に警戒を呼んでいるのだろう兵士たちが、それぞれの銃のトリガーに指を掛ける。

 

 「あの人質は···いや、あの建物にいる男が、お前たちの指揮官だというのか?」

 「えぇ、その通りですわ。」

 

 フッドが頷くと、男も頷きを返し──肩に着けた無線のスイッチを入れた。

 

 「火器統制解除。人質の男が奴らの指揮官だった!」

 

 フッドが目を見張り、エンタープライズが目を細める。二人が艤装を展開するより早く、銃声が鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 「──っ。」

 

 腰から力が抜け、執務室の床にへたり込む。目の前で銃弾を止めたのは、愛宕の白くて細い指の二本だった。

 

 「大丈夫? 指揮官。もう、だから顔を出しちゃ駄目って言ったでしょう?」

 「···。」

 

 こくこくと無言で頷く。まさか銃弾の速度に反応するとは思わなかったし、止められるとも思わなかった。が、これで一つはっきりした。完全にオーバー●ードですわコレ。周りはクソ雑魚で何故か自分の勢力が敵視される奴ですわ。あー、つら。

 

 壁際に寄り、今度はひっそり顔を出す。瞬間、顔のすぐ側の窓枠が吹き飛んだ。

 

 「うわぁ!?」

 

 完全に殺す気ですやん!? なんで!? 人質だと思ってたんじゃないの!?

 

 連続した銃声が響く。バースト射撃特有のそれは、長い間──と言っても数秒だが──続き、やがてフルオートのそれに変わった。銃声、連続した銃声。グレネードの炸裂音すら混じり、戦場である事を主張する音楽に耳が慣れ始めたころ、ついに弾薬が尽きたのか、ぴったりと音が止んだ。

 

 「···終わった?」

 「終わるわね。指揮官、フッドから連絡よ。」

 「···繋いでくれ。」

 

 

 

 

 

 

 「撃て撃て撃てェ!!」

 

 男が拳銃を、兵士たちがサブマシンガンの三点射をフッドとエンタープライズに浴びせる。新種のセイレーンに、その指揮官。デッドオアアライヴ(生死問わず)どころかデッドオアデッド(必ず殺せ)級の、人類の敵だ。人類から征海権を奪ったセイレーンが陸にまで進出してきただけで一大事だというのに、前線指揮官まで居ては、人類の逃げ場は空しか無くなるではないか。

 

 故に、絶対に殺す。人類のために。

 

 「駄目です、効いていません!」

 「頭を狙え!」

 「フルオート射撃だ!」

 「グレネード!!」

 「カバーしてくれ!!」

 

 訓練通りのパフォーマンスを発揮し、全弾をぶちまけていく。セイレーン相手に手加減など、自殺行為に他ならない。直径5.56ミリの金属が人型をした化け物を穿ち、血を噴かせ、地面に縫い付ける。そう、なるはずなのだ。

 

 男は知らない。セイレーン相手に、通常の弾丸なぞ役に立たないことを。目の前の相手は、セイレーンを一捻りに屠れるモノだということを。前者は、男のセキュリティクリアランス上開示されていない情報であるが故に。後者は、その存在が、ついさっきこの世界に生まれ落ちたが故に。

 

 「フッド、指揮官に連絡を入れてくれるか? 艦載機発艦準備完了、敵対勢力を殲滅するか否か、と。」

 「分かりましたわ。」

 

 己の敬愛する指揮官を殺されそうになった二人は、静かに怒り狂っていた。証左として、艤装は顕現し、照準が合わされ、爆撃機を含む艦載機が発艦しようとしていた。

 

 「指揮官様、挨拶もせず本題に入る無礼をどうか──」

 『別に構わない。どうした?』

 「はい。敵武装勢力殲滅の許可を頂きたく──」

 『···偉そうな奴と、適当に何人か残してくれ。』

 「御意に、指揮官様。···エンタープライズさん、数人は残してください。」

 「了解した。」

 

 ──蹂躙があった。

 

 

 

 

 

 

 「うわぁ···。」

 

 なんだ、今の。エンタープライズが発艦したのは戦闘機だけ、フッドに至っては今の空砲だよな···。あれか、爆音による鼓膜への攻撃か。まぁなんにせよ、戦闘機の弾幕と空気を揺らす爆音で、兵士は悉く昏倒していた。

 

 「オーケーグーグル。捕虜の扱い方。」

 

 端末に声を掛けると、意外にも反応し、検索結果を表示してくれた。ありがてぇ···。

 

 

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