幻想郷を一方通行に   作:ポスター

60 / 62

『幻想郷を一方通行(いっぽうつうこう)に』
第四章。純黒に生きる侵略者・最終話。

【終末特異点】

※誤字脱字などのミスが必ずあると思います。
それをご了承のうえ読んでいただけると幸いです。
しかし、そういったミスが多いのをご不快に思う方にはブラウザバックをオススメします。


16話

 

大気の流れは時が経つにつれて激しくなっていく。

そんな中、箒に跨り懸命に前へ進み空を飛ぶ白と黒の魔女・霧雨魔理沙が居た。そして彼女の後ろに横向きで箒に座っているのは紅白の巫女・博麗霊夢。二人はスキマ妖怪・八雲紫からの緊急集合に応じて指示された場所に向かっている途中だった。

 

魔理沙「…………お、おい霊夢。前を見てみろよ」

 

霊夢「じょ、冗談でしょ?アレって………」

 

そこには元々緑豊かに生い茂る森があった。

しかし二人の少女の目に映った光景は一つの森をすべて飲み込む巨大な真っ黒い竜巻……。

きっとあの黒い竜巻のせいで大気の流れが異常なまでに激しくなってしまっていたのだろう。

 

黒い竜巻からはまだ離れた場所を飛行する箒に乗る二人。

遠くからだがそれでも至近距離で眺めているのかと誤認してしまうくらいハッキリと巨大な黒い竜巻は目で確認できていた。

それから、だ。魔理沙と霊夢は強風に煽られながらも八雲紫に指示された場所付近まで到着する。

地面に目を向けてみると八雲紫と八雲藍、橙。それに西行寺幽々子や魂魄妖夢の姿まで発見した。

 

魔理沙「あっ!霊夢待て!!____」

 

生き返ったばかりでまだ体は本調子でなく、それを知って箒に乗せて運んでくれた親友からの静止する声を無視して博麗霊夢は座っていた箒から飛び降り八雲紫の居る場所へ着地すると、だった。

 

霊夢「こんの腹黒妖怪ーッ!!アンタが送ってきたメールには確かこう書かれてたわね『学園都市から来た敵が幻想郷に出現した。力を結集させて直ちにそれを撃退する』って!!アンタのメールに書かれていた敵ってやつを今しがたこの目で確認した。あの黒くてアホみたいに巨大な竜巻の中に居るやつが今回の異変で倒すべき最後の敵なんでしょうね。外側からじゃ中の様子は見えなかった。けどねわかってる、わかってんのよ!!あの中に居るのは一方通行(アクセラレータ)だってね!!」

 

紫「違うわ霊夢。あの中に居るのは我々の幻想郷の平穏を脅かす心の無い殺しと破壊しか出来ない恐ろしい“バケモノ”よ」

 

霊夢「………ふざけて言ったなら一発殴るだけで許してやるわ。でも冗談じゃなく本気で一方通行(アクセラレータ)を“バケモノ”と言ったのなら私はアンタを絶対に許さないから」

 

紫「熱くならないの霊夢、こういう時こそ冷静になりなさい」

 

霊夢「御生憎様。今の私は(すこぶ)る冷静だっつうの」

 

紫「霊夢」

 

霊夢「なによ?クソったれ妖怪」

 

出会って早々一気にその場の雰囲気は最悪になった。

 

鋭い目つきで霊夢は八雲紫を睨みつける。

まるでその目は憎き敵を睨むようだった。

 

魔理沙「落ち着けって霊夢。まずは話を聞こうぜ?どうしてああなったかとか、どうせ物知りな紫のことだから原因とか分かってるんだろ」

 

霊夢「話を聞いてどうするの魔理沙?こいつらは一方通行(アクセラレータ)を殺すつもりなのよ。危険な存在だって言って……排除すべき幻想郷の敵だって言って……。今まで何度も一方通行(アクセラレータ)に私達の幻想郷は救われてるというのにその恩義も無視して殺すつもりなのよこいつらは!!」

 

そして。

紅白の巫女は隣に箒を持って着地した白と黒の魔女からスキマ妖怪達に目を向けると更に険悪な顔になった。

 

霊夢「さっきから黙り決め込んでるアンタ達も紫と同意見ってわけ。絶望のどん底まで沈みこれっぽっちも希望が見えてこない滅びかけていた幻想郷を救ってくれたのは、私達の知るかつての幻想郷に戻してくれたのは誰?一方通行(アクセラレータ)でしょ!?一方通行(アクセラレータ)が居なかったら学園都市になに一つ抵抗できず私たちも幻想郷も消滅していた!!それなのによくアンタ達はあいつに敵意殺意を向けられるわね。以前より分かり合えてる気がした、心の距離は近付いたと思っていた。けどそれはこっちの勘違いだったみたい。やっぱり私達はどうやったって分かり合えないのよ。だってアンタ達は人間じゃない。どうしてアンタ達から出てくる案は“殺す”しかないの?命を奪わず“止めよう”って考えられないの?殺す以外の方法を模索しようとなんでしない!?心の無いバケモノはどっちよ、私から見ればアンタ達の方がよっぽど心の無いバケモノだァッ!!」

 

妖夢「お(つら)いでしょうがそれは霊夢さんだけじゃありません。みんな(つら)いんです。止められるなら止めたいと思ってます、しかしそういう次元の問題じゃなくなってしまっているんですよ霊夢さん。あの“バケモノ”はもう殺すしかない。今を、そしてこれからの幻想郷の未来を考えるのなら………」

 

霊夢「アンタ達と一緒にするなァ妖夢!!幻想郷の未来の為だなんだのって御託を並べてあいつを殺すことを正当化しようとしてるけど結局はアンタ達はどうせ我が身が一番可愛いだけなんだよ!!一方通行(アクセラレータ)は違った。あいつが私達の中で一番人間だった。あいつには他者への思いやりがあった、人間らしい感情が誰よりもあったわ。一方通行(アクセラレータ)はバケモノを演じていただけなの。他と比べて特別な力があったせいでそうするしかなかった。いいえ、それ以外の振る舞い方が分からなかったのよ。わたしは一方通行(アクセラレータ)がどれほど暗くて怖い闇の中で生きてきたのか知らない。どんな地獄を見てきたのかも。でもわかってることもある。あいつは自分の力をいつも恐れていた。もしも自分の力で誰かを意図せず傷付けてしまったらって。一方通行(アクセラレータ)の正体は一撃で如何なる敵も倒す恐ろしいバケモノでもなく、どんな攻撃も跳ね返す最強の超能力者でもない。一方通行(アクセラレータ)は誰よりも優しい“人間”。アンタ達だってそれに気付いていたはずよ!?それなのに!!____」

 

魔理沙「____教えてくれ紫。本当に一方通行(アクセラレータ)を殺すしか解決策はないのか?どういう経緯(けいい)であいつが暴走してしまったのかこの目で見てないが多分、あれはあいつの意思でなったんじゃないと私は思ってるんだ。きっと一方通行(アクセラレータ)が持つ強大過ぎる力が自分自身でも制御できなくなってしまい暴走してしまった。でも現在自我を失っている一方通行(アクセラレータ)を正気に戻すことさえできれば暴走は止められるんじゃないのか?」

 

紫達と霊夢の間に立ち魔理沙は質問する。

声色や態度から見ても白と黒の魔女は冷静だった。

 

紫「そうね魔理沙。あの“バケモノ”を正気に戻すことができたなら暴走は止まり異変は無事解決される。でもね、それができないから私はあなた達に協力を仰いだのよ?幽々子と妖夢は白玉楼(はくぎょくろう)で、霊夢と魔理沙は魔界の神が人間の里に攻撃を仕掛けた時に見たことがあるはず、あの“バケモノ”の暴走を。藍と橙、あなた達は暴走は見てないにしろ月で共に行動してあの“バケモノ”の力を間近で見て間近で感じた。それぞれ一度はあの“バケモノ”へ恐怖心を抱いた覚えがあるんじゃない?もし仮に戦ったとして勝てる勝てないって相手じゃない。そんな恐ろしい“バケモノ”が幻想郷で自我を失い暴走している。言っておくわ、前の暴走と今回の暴走の危険度は桁違いよ。離れた場所からでも肌で感じ取れるでしょ?この芯にまで刻まれる死の恐怖。あの“バケモノ”は生かしておけない、一刻も早く息の根を止めなければ幻想郷どころか全世界が消滅する」

 

魔理沙「………説明ありがとう紫。一方通行(アクセラレータ)がどれだけ危険な存在かってのが分かったよ。お前の言ってることは全てが正しいんだと思う。今の一方通行(アクセラレータ)を正気に戻すことができれば暴走は止まるが正気に戻す方法がない。というよりは私達に一方通行(アクセラレータ)を殺さないように加減して戦えるような余裕なんてものが無いってことだろ?加減なんて考えず全力で、殺す気でやるしかないんだ。でもごめん……私は無理だ。あいつが全世界を敵に回す恐怖のバケモノになってしまったとしても私は一方通行(アクセラレータ)に殺意も敵意も向けられない。これは特別一方通行(アクセラレータ)にだけってわけじゃあないんだぜ?お前達だってそうだ。私は私が大切だと思っている“仲間”に殺意を乗せた本気の魔法を打つことなんてできない。例え自分が大切にしている“仲間”に殺意を乗せた光る刃を我が身に突き立てられたとしてもだ」

 

霊夢「わかった?紫、これが人間の考え方よ。私達は命を軽視しない。命とはどこまでも尊いものなの。大切な人が恐ろしいバケモノに変貌してしまったからといって殺すなんて情の欠片もない決断はできない。わたし達人間にあるのは“助けたい”という気持ちだけ。助けようとした結果もしもそれでこの身に一生消えない傷を負う結果になってしまっても大切な人が死んでしまうよりは遥かに良い」

 

覚悟は決まった。

この幻想郷で最も危険な場所に飛び込む。

例え我が身が傷つこうとも、未だ経験していない痛みに襲われる結果になろうとも“助ける”。いいや“助けたい”。

幻想郷最強の超能力者が暴走しているあの地帯に飛び込むという行為は銃弾砲弾が飛び交う戦地の中を何も持たず裸で歩くようなもの。

生還できる可能性はゼロに等しいだろう。

それでも。そうだとしても、だ。

助ける。助けてみせる!!

これまで自分を含め多くの幻想郷の人々を救ってきたヒーローを。

 

博霊の巫女・博麗霊夢。白と黒の魔女・霧雨魔理沙。

二人の少女は紫達の横を通り過ぎる。

 

向かう場所はあの真っ黒で大きい竜巻。

その中できっと苦しんでいるであろう一方通行(ヒーロー)を助けに行くのだ。

 

「好き勝手に言ってくれちゃって_____」

 

小さく笑いながらポツリと呟いたのは大妖怪・八雲紫だった。

 

紫「___誰が心のないバケモノだ無知で生意気な小娘(クソガキ)が。私だってね……、私だって辛いのよ!!でもなってしまった!!一方通行(アクセラレータ)が“特異点”から“終末特異点”に覚醒しないよう裏で行動していたわ必死にね。そう…やった、やってたのよ必死に!!この優秀な頭脳を存分に駆使し、クソの役にも立たないくだらないプライドも捨て利用できるものは余すことなく利用し、持てるものすべてを使い己の全存在を賭けて!!けど悔しいことに学園都市統括理事長アレイスター=クロウリーは私より一枚上手だった。こうなることも全部やつの思惑通り___」

 

そして、そして。八雲紫は頭を乱暴に搔き毟り、荒げた声で溜めていたもの全て吐き出した。

 

吐き出してしまったのだ………。

 

 

紫「___そもそもあなたが一方通行(アクセラレータ)に呪いなんてかけなければこんなことには……ッ!!」

 

 

大きな声で発せられたその言葉。

八雲紫は自分がなにを言ってしまったのか気付く。

 

これまでずっと隠していた事実……。

 

もしも知られてしまえば全員が不幸になる真実……。

 

束の間の静寂。その後、振り返り博麗の巫女は、、、

 

霊夢「呪いをかけた……?私が、一方通行(アクセラレータ)に……?」

 

紫「あ……、ああっ!!あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァァァァァァァァーッ!!??違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!」

 

一瞬で八雲紫は崩れ地面で蹲り小さくなっていた。

幻想郷の賢者や大妖怪とまで呼ばれている八雲紫にあるまじき醜態。

 

その体以上の大きな存在感を放ち口元で扇子を開きその奥で不敵な笑み作る姿を見ればどんなに頭の悪いやつでも八雲紫という大妖怪がただ者ではないと察知できる。

 

余程の愚か者か、それか命を自ら捨てようとする大バカ野郎ではないかぎり彼女にケンカを売ろうとはしない。

もしもあの八雲紫と敵対してしまえばどうなるか幻想郷の大概の者は知っている。

 

が。遠ざけられ、嫌悪され畏怖されているあの大妖怪様が地面で身体を丸めている。

なんて弱々しく、なんてみっともない姿なのだろうか。

彼女の姿を見ただけでただ者ではないと思わせる風格はどこかへ消えていた。

 

霊夢「答えなさい紫!!“アンタ”が、いいや“アンタ達”がずっとなにかを隠していたのはとっくに気付いていたわ。でも人の秘密を探ろうなんて悪趣味なことはしたくなかったし、このままでも良いのかもって思っていた。でも私が関わってることなら教えて、アンタの口から直接教えてちょうだい!!」

 

紫「………………………………、」

 

まるで幼子。八雲紫の今の姿を見るとその一言に尽きる。

両手で頭を抱えて全身を震わせ酷く怯える姿はまるで親に叱られた子供のよう。

 

「もういいのよ紫。楽になっていいの。あなたは頑張った____」

 

ポン…と身体を震わせる大妖怪の近くで屈むと彼女の背中に手を置き優しい声をかけたのは八雲紫の数少ない友人である西行寺幽々子だった……。

 

幽々子「___もうひとりで苦しむ必要はないわ。あなたが考えている以上に幻想郷の皆は強い、強く成長したわ。紫、きっとあなたがこれまで隠し続けていたことを語れば深く傷つく者も現れるでしょう。でもそれで心が挫けてしまい終わるなんてことはない。それでもこの子達は立ち上がるわ。信じましょう紫。皆を、そしてあなたが長い長い年月守ってきたこの幻想郷を」

 

紫「…………幽々子___」

 

この世に知らなくていいことはたくさんある。

知らなければ幸せに暮らせる。しかし知ってしまえば今後一生不幸な日々に……。

 

だったら知らなければいい。

誰かを傷付けてしまう真実があるのならばずっと自分の中で隠し続けることが最善だと八雲紫は考えていた。

 

別に好んで人を傷つけたいなど思っていない。

『幻想郷の嫌われ者』そんな肩書きがあっても、だ。

 

紫「___でも……、だけど………」

 

スキマ妖怪の彼女は周囲を見渡す。

そして、自分を囲む少女らの顔を見た。

 

紫「……元を辿れば悪いのは全部わたし、原因を作ったのは私なの。すべては私が一方通行(アクセラレータ)と接触してしまったから、あの時わたしが一方通行(アクセラレータ)に出会わなければこんな最悪は起こらなかった……」

 

全員に聞かせる。

八雲紫は決意した。

 

大妖怪の彼女は誰の手も借りることなく立ち上がるとスマートフォンを手に持つ、そして画面を操作して幻想郷でスマートフォンを所有している全員に通話を繋げた。

 

なんで?なぜ?どうして?どうやって?原因は?

そういった疑問を頭によぎったことがあったと思うが、しつこく言及なんてせずこれまで幻想郷を守るため協力してくれた者達すべてに真実を語る時が来たのだ。

 

紫「学園都市から送り込まれた猟犬部隊(ハウンドドッグ)の連中に霊夢が拐われた日、一方通行(アクセラレータ)は単体で学園都市に乗り込みやつらから霊夢を幻想郷に連れ戻すこと成功した。そして誘拐事件から数日経ち霊夢の退院祝いで開かれた宴会の場に居た者は既に知ってるだろうけど過去に一度、一方通行(アクセラレータ)が幻想入りする前にまだ彼が幼い頃に私は一方通行(アクセラレータ)と会ったことがある。だけどそのせいで学園都市の統括理事長アレイスター=クロウリーに幻想郷の存在が知られてしまった。しかしその後、私はもっと事態が最悪な方向に傾くことしたの。一方通行(アクセラレータ)と会話はしない。顔を合わすこともしない。けど一方通行(アクセラレータ)を遠くからでいいから見ていたい。そんな権利を得るためだけに私は知る限りの幻想郷で生まれた技術や知識をアレイスターに嘘偽りなどせずに提供した。提供してしまったの……。その結果、学園都市は凄まじい速度で科学が発達していった。多分、霊夢のクローンから生成された幻想郷への人造の鍵はそのせいで出来てしまったんだと思う……。いくら学園都市の科学技術が発達してるとしてもあれは高性能過ぎた。学園都市の科学技術と幻想郷独自の技術を組み合わせることでようやく作れるような物よあの銀の腕輪はね____」

 

大妖怪の彼女は自覚していた。

幻想郷を最悪に導いたのは自分自身なんだと。

 

無から始まった戦争ではなかった。

“きっかけ”というのはしっかりあったのだ。

 

嗚呼、どれだけ自分を責めたことか……。

どれだけ自傷行為に走ったことか……。

どれだけ悪夢に魘されたことか……。

 

毎日、八雲紫は責任に押し潰されていたのだ。

 

 

もしもこの命ひとつで物事が治まるとしたら喜んでこの心臓を捧げられる。

 

自分のせいで誰かが不幸になってしまう。

最悪、望んでもないのに死を迎えることに……。

 

そんなのは見たくない。そんなのは耐えられない。

 

紫「ごめんなさい……、ごめんなさい……。何千、何万回謝ったって許されないことをした。皆を危険な目に遭わせてしまった……。私が余計なことをしなければ、今頃みんなは命を奪われる不安なんて抱くこともなく安全な生活が送れたはずなのにそれを全部この私ひとりでぶち壊してしまった……」

 

霊夢「………それで。アンタは言ったわね?私が一方通行(アクセラレータ)に呪いをかけたって。その呪いってやつはどんな呪いなの?」

 

腕を組み左目は閉じていたが開いている右目で八雲紫を見て霊夢は質問する。

 

紫「……霊夢、一方通行(アクセラレータ)を幻想郷に呼んだ時に使用した魔法を覚えてる?」

 

霊夢「忘れるわけないでしょう。あの時のことは全部、鮮明に思い出せるわ。もしも今すぐここであの時に見たこと感じたことを文章にしてみろって言われてもそりゃあもう筆が乗りに乗りまくるでしょうね」

 

紫「あなたが絶望の淵で藻掻く術を見つけ使った魔法を作ったのは、そしてあの魔法書を書いたのは私よ」

 

霊夢「どうして?どうしてあんな本を書いたの?そして何故あの本を博麗神社に置いていたの?」

 

紫「あの子に……、子供ながら憎悪に塗りたくられた冷たい目をしていた一方通行(アクセラレータ)に幻想郷に来て欲しかったの。そして伝えたかった。“バケモノ”はあなただけじゃないって。あの世界では一方通行(アクセラレータ)の力は他と比べてずば抜けていた。でもこの幻想郷では彼のように反則レベルの力を有する者は多くはないけど居るには居るでしょ?自分と同レベルの力を有する者が遠ざけられることなく普通に暮らしている。だったら自分もそうしていいんだと一方通行(アクセラレータ)に思ってほしかった。けどそれは叶わなかったわ。もしも普通に幻想入りしていれば彼は幻想郷最強になることはなかったでしょう。なんなら私たちの中で弱い方の枠に入っていたでしょうね。じゃあ、なぜあれ程の大きな力を有することになってしまったのか?それが霊夢、あなたがかけてしまった呪い。“願い”という呪いが原因なの」

 

霊夢「憶測なんだけどもしかして一方通行(アクセラレータ)を幻想郷に呼ぶ時に使用した“魔法”が“呪い”に転じてしまったの?わたし魔法については初心者だし、あの時は無我夢中で魔法を発動してしまったからぶっちゃけ発動はできたにはできたけど魔法というものがどういうものか分かってないのよね」

 

魔理沙「霊夢、魔法ってのは時にその魔法を作った本人や魔法を発動させた本人でもわからない効果を生む時がある、不思議なことにな。魔法を歴史は長いが未だに解明されてない部分が多々あるんだぜ」

 

霊夢「そう。じゃあやっぱりあの時の魔法が“呪い”に……」

 

紫「それは違うわ。私が生み出した魔法は私の能力を限りなく本物に複製したもの。けど私の能力はあなた達も知ってる通り結構特殊でね、本物に近い能力の複製を作るにはどうしても魔法という一つの世界だけじゃ足りなかった。それを知った私は他の世界を吸収して魔法の可能性を拡大させることによってまだこの世に誕生してない様々な術を取り入れた全く新しい魔法を作った。そして作った魔法に付与した効果が特定の人物を強制的に幻想入りさせるというもの。その特別の人物ってのはもう説明しなくてもわかってるわよね?例えどんなに間違った方法であの魔法を使用しても“呪い”に転じる可能性はゼロ。これは自信を持って断言できる。一方通行(アクセラレータ)にかかっている呪いに関係あるとしたらあなたよ霊夢」

 

霊夢「……わ、たし………?」

 

紫「膨大な世界を見渡してもこの世でただひとり、あなたにしかあの“呪い”はかけることができない。あなただけが持つ特別がなければ……ね」

 

妖夢「霊夢さんだけが持つ特別……“博麗の巫女”ですね?」

 

紫「正解よ妖夢。そう、博麗の巫女である霊夢にしかかけられない“呪い”が存在する」

 

霊夢「待って待って、博麗の巫女にそんな力があるなんてわたし知らないんだけど!?」

 

紫「そりゃそうでしょ。だってわたしがそうさせたんだもの。博麗の巫女の歴史から消去したのよ、あってはならない博麗の巫女の“黒歴史”をね」

 

霊夢「なんなのよ、博麗の巫女の“黒歴史”って……」

 

そして……、大妖怪は語り始める。

 

これは現代の博麗の巫女である霊夢からすれば遠い遠い昔。

博麗の巫女の黒歴史を作るきっかけとなった七代目博麗の巫女の“少女”の過ちの物語。

 

現在、博麗の巫女である博麗霊夢が『七代目博麗の巫女の名前は?』と聞いたが八雲紫は『あの子の名は口に出せない』と首を横に振った。

もしも彼女の名を口にしてしまうと大妖怪が苦労して博麗の巫女の歴史から、そして幻想郷の歴史からも消した七代目博麗の巫女の痕跡や記憶が復活してしまうかもしれないからだと八雲紫は次に言う。

 

七代目博麗の巫女。彼女はとても真面目で尚且つ頑張り屋だった。

博麗の巫女としての役目を愚痴一つ吐くことなく毎日全うしていた。

 

が、しかし。ある日ことだ。彼女は“あるもの”を見て憧れの感情を抱いてしまう………。

 

七代目博麗の巫女の少女はなにを見て憧れたのか?それは人里の中を歩いている時に“どこにでも居るような普通の女の子”を見てだった。

 

七代目博麗の巫女はどこにでも居るような普通の少女らと自分を見比べたのだ。

 

あの子達は別に特殊な力を使ったり武器を持ったりして血の見える危険な戦いなんてしない。

あの子達はどんなに世界が大変なことになっても誰かが助けてくれる。

 

普通の女の子とは誰かの“ヒロイン”。

 

しかしだ。『じゃあ私はどうなんだろう?』と七代目博麗の巫女は考えた。

七代目博麗の巫女の彼女には特別な力がある。人間であるくせに妖怪達すら圧倒する特別な力が。

異変解決をするため血飛沫が舞う戦いをこれから何度もしなくてはならないのだろう。彼女は博麗の巫女だから。

 

そして、七代目博麗の巫女の彼女は次にこんなこと考える。『もしも私が危機的状況に陥ったらかっこよく私の前に現れて笑顔で私を助けてくれる“ヒーロー”は居るのかな?』と。

 

……………そんなものは居ない。

博麗の巫女であり続けるかぎり彼女は“ヒロイン”になれない。

博麗の巫女は幻想郷の平和を守る“ヒーロー”なのだから。

 

この世に“ヒーロー”を助ける“ヒーロー”なんて存在しない。

 

その答えが出た瞬間だった……。

七代目博麗の巫女の彼女の中で今までの真面目で頑張り屋だった自分がガラスのように砕けてしまう。

 

そして……。そして……。

それから重い足で七代目博麗の巫女の彼女は自宅の博麗神社に帰宅すると部屋に閉じこもってしまった。

 

『どうして私は博麗の巫女にならなくちゃいけなかったの?』

『どうして私はあの子達のような普通の女の子として生きれないの!?』

それは誰に向けられた問いじゃなかった。

だからその問いに答えられる者は()らず、彼女の中から出てくる問いが消化されることなく増えていくばかりに……。

 

『どこにでも居る普通の女の子』

それに七代目博麗の巫女は布団の中で丸くなりながらとても強い憧れを抱いた。

そしてその『憧れ』は『妬み』になり『嫉妬』を超越して最終的にドス黒い『憎悪』となってしまった。

 

七代目博麗の巫女の少女の心の中で色んな感情がぐちゃぐちゃに混ざる。

そして、博麗の巫女に新たな力が生まれた。

 

七代目博麗の巫女の彼女は布団に潜りながら願った。自分が『どこにでも居る普通の女の子』になるため自分の代わりとなってくれる人が出てくることを。

すると博麗の巫女の力がそれに(こた)えたのだ。

 

博麗の巫女は幻想郷に貼られた二つの結界の一つ、博麗大結界を操ることが可能であるため幻想郷から人を出すことだってできるのだ。もちろんその逆も可。

 

そう、博麗の巫女の力は七代目博麗の巫女の想い(こた)え幻想郷とは全く無縁の人を強制的に幻想入りさせたのだ。

しかし、七代目博麗の巫女の彼女の願いは自分の代わりとなる人の出現。

なんと驚くことに強制的に幻想入りさせられたなんの特徴もなく臆病なひとりの青年の中に神という大きな存在も凌駕するとてつもない力が生まれていた。

しかもしかも、だ。性格も変わっていたのだ。

以前までは人一倍臆病だったのに幻想入りしてからはとても勇敢になっていた。

そして、困っている人が居たら誰でも笑顔で助け異変が発生すれば即座に異変解決に向かう。

彼のその姿は正しく幻想郷の“ヒーロー”。

 

強くて勇敢で、そして優しい青年の出現で幻想郷には異変解決や妖怪退治に向かう博麗の巫女は不必要となった。

 

しかし七代目博麗の巫女がやってしまったことはその程度でのものではなかった。

 

幻想入りしてからそんな日も経たずに幻想郷のヒーローになった青年。

彼は気づいていなかった、(おのれ)がどんな存在になってしまったか……。

 

彼は自分でも気付かない内に七代目博麗の巫女の少女に捧げられたのだ幻想郷に“生贄”として。

 

そして。まるで自らの意思を持つかのような幻想郷は(おのれ)を守れるように絶大な力を強制的に七代目博麗の巫女に幻想入りさせられた彼に与えた。

 

これが博麗の巫女の黒歴史の全貌。

 

幻想郷に全く無関係な人間に幻想郷を護るという使命を身勝手な理由で押し付けて平凡で普通の人生を送れたら幻想郷とは無縁だったはずの人間を幻想郷の守護者にさせた。

 

幻想郷の守護者となってしまった者はもう二度と幻想郷から出ることは不可能。

そしてその身、その命尽きるまで幻想郷を守らなくてはならないのだ。

が、幻想郷の守護者となった者は幻想郷から与えられた莫大な力を収められる器として“神”となってしまう。

 

つまり、だ。幻想郷の守護者は死ぬまで幻想郷を守らなくてはならないのだが神になってしまったため、神は寿命がなく老いで死ねないので誰かに殺されるまで永遠に幻想郷を守り続けなければならないのだ。

 

 

 

霊夢「……そんな、そんなことって………」

 

紫「____私が自身に課した役目は幻想郷のバランスを保つこと。もしも幻想郷のバランスを崩す存在が出現すれば瞬時に実力行使で排除する。排除っていう単語だけで想像できるでしょ?わたしがどんなことをしたか……」

 

どれだけ非道で惨忍だと言われようと誰かがやらなければいけなかったのだ。

あのまま放置すれば七代目博麗の巫女は時間が経過していくごとに徐々に腐っていき活力のみならず博麗の巫女の力まで失い幻想郷に貼られている博麗大結界も消失してしまう。

もしも博麗大結界が消えようものなら幻想郷にどれだけの被害が広がっていたことか……。

 

霊夢「____ねえ紫、アンタの話の中で気になっていたことがあるんだけどさ、アンタの話じゃまるで博麗の巫女は幻想郷を守るのが役目みたいな感じだったけど博麗の巫女の役目は博麗大結界の管理だけよ?妖怪退治や異変解決は博麗神社に納められるお賽銭だけじゃ生計が立てられないから仕方なくやってるだけなんだけど?」

 

一呼吸置いたら、だった。霊夢は取り乱す様子も見せず八雲紫に質問を投げる。

すると、である。

 

大妖怪は、、、

 

紫「霊夢。質問を質問で返すようで申し訳ないけれど、じゃあどうして過去、博麗の巫女を受け継いだ者達が妖怪退治や異変解決で受け取った報酬で生計を立ていたか詳しく調べたことはある?」

 

霊夢「えっ……?」

 

紫「疑問に思わなかった?違和感のようなものはなかった?どうして代々博麗の巫女は妖怪退治や異変解決で貰える報酬で生計を立てていたかって。神社なら神社らしくお守りや厄除けの御札とか人里で売ればそれで最低限必要な生活費は稼げるのに」

 

霊夢「確かに……、言われてみればどうして……?」

 

紫「言ってなかったけど私、初代の博麗の巫女とは結構親しかったの。昔、初代の博麗の巫女が博麗神社のお賽銭だけじゃ生活できないって嘆いていたからわたしが助言してあげたのよ『妖怪退治や異変解決で生活費を稼いでみたら』ってね。そしたら初代から代々博麗の巫女は妖怪退治や異変解決で生計を立てるようになった。それは私にとって好都合だったわ。私だけじゃこの幻想郷という大きな世界のバランスを保つのは難しい、だから私のような人物があと一人くらい欲しかったの」

 

霊夢「……っていうことは初代から今の代になっても博麗の巫女が妖怪退治や異変解決をしてその報酬のお金で生計を立てるようになっているのはアンタの企み通りってこと?」

 

紫「そうよ。私を恨む?博麗の巫女を自分から異変解決に向かわせるように仕向けたのは、博麗の巫女から普通に生きれる可能性を奪ったのは私よ。それにもう一つ恨む理由はあるでしょ?私はあなたの祖先も殺害している___」

 

七代目博麗の巫女。彼女と彼女が幻想入りさせた青年。この二人は八雲紫の手で亡き者とされた。

仕方なかった。そうするしか幻想郷の危機を回避する方法はなかったと言い訳はしようとすればできるが大妖怪は言い訳などしなかった。

 

幻想郷のバランスを保つため、まずは幻想郷のヒーローとなった青年の寝込みを殺意を持って襲った。

卑怯だがその方法でしか幻想郷のヒーローとなった青年を殺すことはできない。

真っ向から戦いを挑めば絶対に敗けると八雲紫は分かっていたのだ。

 

そして、そして、だ。

青年を永眠させると次の標的(ターゲット)は七代目博麗の巫女の少女。

しかし直ぐに殺害するわけにはいかなかった。

次の博麗の巫女が誕生するまで待たなくてはならなかったのだ。もしも直ぐに殺害してしまえばそのまま博麗の巫女は幻想郷から消えてしまうことになる。

だから八雲紫は自身の能力を駆使して七代目博麗の巫女が抱いた普通への憧れやすべての幻想郷の住人から幻想郷のヒーローとなった青年の記憶を消し、彼が残した痕跡も消し去ると七代目博麗の巫女が想い人を見つけ、そしてその想い人と結婚し子供を授かるまで待った。

 

そして七代目博麗の巫女“だった”者とその夫の間で生まれた少女が育ち“八代目”として博麗の巫女の力を受け継ぐと八雲紫は動いた。

七代目博麗の巫女“だった”者の夫と七代目博麗の巫女“だった”者の娘から母の記憶を消す。

幻想郷全体からも七代目博麗の巫女“だった”者の記憶も痕跡も消した。

 

これで博麗の巫女の黒歴史は完全に消え去った。

しかし残ったもの。八雲紫でも完全に消せなかったものがあった。

 

それが代々受け継いできた博麗の巫女の力に目覚めた新たな能力。

見ず知らずの誰かを強制的に幻想入りさせ、幻想郷の守護者にさせる力。

 

巫女が持つべきではない『願い』という名の“呪い”。

 

紫「___幻想郷の未来を考えてやったことに後悔はしていない。でも分かってるわ、私は許されないことをした。幻想郷の未来のためあの殺しは必要なことだったけれど殺しは殺し。罪を償わなくてはならない。霊夢、あなたには私を裁く資格がある。今まで溜まっていた私に対する恨みも込めて気が済むまで殴りたければ殴ればいい。私を好きにしていいわ。辱めたり、苦痛に苛まれた時間を永久に味わわせることだってしてもいい。でもお願い、それは一方通行(アクセラレータ)の暴走を止めてからにしてほしい」

 

霊夢「はぁ?私はアンタを恨む気なんてないけど?だって遠い過去のことでしょ?正直クソほどどうでもいいんだけど」

 

紫「……本気で言ってるの?」

 

霊夢「私の顔を見て嘘を言ってるように見える?」

 

…………冗談や嘘を言ってるようには見えなかった。

博麗霊夢は過去のことだと、通り過ぎた昔の話なんてそんなのはどうでもいいと吐き捨てた。

それもそうだろう。彼女が見てるのは“今”なのだから。

 

霊夢「博麗の巫女の黒歴史、それは分かったわ。そして私がなにをしてしまったのかもね。でも博麗の巫女に目覚めてしまった“呪い”という力はどうすれば発動するの?」

 

紫「“願い”という名の呪い。その発動条件はとにかく願うこと。しかもそれは強くね。霊夢、あなたは一方通行(アクセラレータ)を幻想入りさせた時に強く願ったでしょ?絶望しかない幻想郷を救うヒーローの出現を」

 

霊夢「………願ったわ、暗闇の未来しかない私達を希望の光で照らしてくれるヒーローが現れてくれることをね。でも七代目の巫女のように全部預けて自分は(らく)したいとか、博麗の巫女であることを辞めたいとか思ってなかったわ」

 

紫「言ったでしょ?発動条件はとにかく強く願うことだって」

 

霊夢「…………チッ、自分の力だってのに言うことを聞かないってのは腹が立つわね」

 

大きな溜め息を吐くと霊夢は、、、

 

霊夢「で?まだ答えてもらってなかったけどどうしてアンタが作った魔法が記された本を私の家に置いていたの?ってか、あの本の内容はなに?これは言い訳とか責任から(のが)れるためじゃないんだけど私がどうしてヒーローの出現を強く願ったかというとアンタが書いたという本に『世界を救うヒーローの呼び出し方』とか書いてあったからなんだけど」

 

紫「アレが私の手元にあったら我慢できず使いそうだったからあなたの家に無断で置かせてもらったの。一方通行(アクセラレータ)の意思を無視して幻想入りさせるなんてしたくなかった……。そしてどうしてあの本の内容はあんな風にしたかというと霊夢、あなたが絶対に興味を示さなさそうにしたかったからよ。けど、まさかそれが(あだ)となってしまうとは思わなかったけどね」

 

霊夢「ふーん。それにしても意外ね、アンタがそこまで個人に入れ込むなんて。しかも相手は異なる世界の住人だってのに」

 

紫「そう?妖怪といえど私もひとりの女、人並みに恋だってするわ」

 

…………………………????????????

 

八雲紫のその一言。それを聞いた少女らは長時間混乱して停止する。

が、しかし。その後である。

 

『えええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッ!!??』

その場に居る者、そして八雲紫が手に持つスマートフォンからも多くの者の驚きの声が聞こえた。

 

霊夢「うっっそマジ!?アンタが!?紫が!?」

 

紫「うん。驚かれるとは思っていたけどそこまで驚かれるとこっちも驚くんだけど。ちょっとみんなリアクションが大袈裟(おおげさ)過ぎない?」

 

霊夢「いや。いやいや、いやいやいやいやいやいや!?アンタはあの八雲紫でしょうが!?今まで他人にこれっぽっちも興味を示すような態度とってなかったじゃないアンタは!!色恋沙汰とは全く無縁なやつとか思うに決まってるでしょ!?しかもまさかまさか相手は一方通行(アクセラレータ)!?そんなの知ったら誰だってこのくらいの反応して当然じゃない!!??」

 

魔理沙「まっ、驚いて当然か。私も紫の気持ちに気づいたときは驚きを隠せなかったぜ。でもこの幻想郷で紫の本当の気持ちに気づいてるやつは私しか居ないと思っていたんだがな、みんな驚いているなか落ち着いた様子だった幽々子もどうやら気づいていたらしいな紫の本当の気持ちを」

 

幽々子「まぁね♪これは口に出して言わせてもらうけど魔理沙、あなたより私の方が紫のことを多く知ってるわ。紫がどんなに工夫して隠し事しようが私なら容易く見抜ける。なぜそういうことができるかというとそれだけ紫とは長い付き合いがあるから。魔理沙は私と同じことできる?できないでしょ?それはまだあなたは紫の付き合いが浅いから。紫の友人であることは認めてあげてやってもいいけど紫の親友ポジションは私のものだからね?」

 

魔理沙「あぁ……うん。いいよいいよ要らないよ紫の親友ポジションとか。だからそんな怖い目を私に向けないでくれ。妖夢同様お前のようなやつからそういう目を向けられるとこの後マジに殺しにくるかもしれないって不安で夜も眠れなくなっちゃうだろ」

 

妖夢や八雲紫の式神達も驚いてるなか、幽々子と魔理沙だけはいつもと変わらぬ振る舞いだった。

そして。霧雨魔理沙は殺意剥き出しの光のない目つきで幽々子に睨まれちょっと怯えた様子を見せていたが八雲紫に視線を向け大妖怪の彼女に質問する。

 

魔理沙「そうだ。私からも一方通行(アクセラレータ)にかけられた呪いについて質問いいか?あいつが今回最後に幻想郷に送り込まれた刺客のところに一方通行(アクセラレータ)が向かった後、紫の代わりに私があいつのあとを追おうとしたんだが博麗神社全体に強力な結界がはられていて一方通行(アクセラレータ)を追うことができなかったんだがアレも“呪い”の効果の一つじゃないのか?“呪い”の真意が呪いをかけた対象に絶大な力と不死を付与させ幻想郷を永遠に護らせるというものならば幻想郷の守護者以外は戦う必要はないからな」

 

紫「ええそうよ。よくそれに気づいたわね」

 

魔理沙「もう一つの質問だぜ。一方通行(アクセラレータ)は“呪い”の影響で幻想郷から出れないとお前は言明していたのにあいつはどうして幻想郷から出れたんだ?一方通行(アクセラレータ)のやつ普通に学園都市に行ったり月に行ったりしてたぞ?」

 

紫「本当なら“呪い”を受けた者は幻想郷から一歩も外に出れない。けど彼には『ベクトル操作』という能力があった。一方通行(アクセラレータ)は『ベクトル操作』という能力を使い呪いにも存在していたベクトルを操作することで幻想郷から外に出れないという呪いの効果を一時的に消すことに成功した。それで一方通行(アクセラレータ)は幻想郷から僅かな時間ではあるが外に出れたのよ」

 

魔理沙「なあ、もうなんでもあいつには『ベクトル操作』があるからで説明を済ませようしてないか……?」

 

紫「実際そうなんだからしょうがないでしょ?」

 

魔理沙「えーっと。まぁ……分かったよ。でもここでまた一つの疑問ができちまったぜ?『ベクトル操作』で呪いにも存在していたベクトルを操れたんなら呪いそのものを自分の中から消すことだってできたんじゃないか?」

 

紫「……できたでしょうね。彼は私から見ても天才。この世で天才と呼ばれている者達全員を遥かに凌駕するほどのね。呪いなんて解こうと思えば解けた。けど解く必要がなかったのよ。一方通行(アクセラレータ)は『このまま呪われたままでもイイ』って考えていたから………」

 

霊夢「……………どういことよ」

 

驚きのあまり情報が頭に入ってこないっていうのにそっちで勝手に話をしやがってとか言ってやろうとしたのだが、博麗霊夢から出た言葉は違った。

 

八雲紫は一度、霊夢の顔を見るとゆっくりと目を閉じると深く息を吸う。

そして吸った息を静かに吐いてから、、、

 

紫「まだ一方通行(アクセラレータ)のことであなた達に話してなかったことを思い出したわ。一方通行(アクセラレータ)は“幻想郷の守護者”でありながらも“特異点”でもあった。“特異点”っていうのは意図せずともこの世のありとあらゆる物事の中心となってしまう人間であり、目の前で困ってる人や助けを求める人を必ず救う者。そして不思議と数多の人を引き寄せる力を持っている。“特異点”とは即ち主人公(ヒーロー)。だから一方通行(アクセラレータ)の周りで頻繁に問題事が発生していたり色々な事件に彼は巻き込まれたりしていたの。“幻想郷の守護者”となってしまった者も“特異点”と同じ特徴が出てくる。いくら一方通行(アクセラレータ)が“特異点”という存在だとしても彼の周りに異常なまでに人が集まってたり色んなことに巻き込まれたりしていたから、もしかしたら“幻想郷の守護者”と“特異点”の特徴が重複して倍以上の効果を生み出していたかもしれないわね。一方通行(アクセラレータ)にもしもこのことを教えたら『面倒事がひっきり無しにきやがるから迷惑でしかねェ』っていつもの調子で吐き捨てるように言うでしょう。一方通行(アクセラレータ)にすべてを話したわけじゃない、けど前に『あなたは人ではなくなってしまった』と私の口から伝えたことがあったわ。でも本当の意味で人間じゃなくなってしまったことについて困っている様子はなかった。学園都市の能力者達の頂点に君臨していた時からバケモノや怪物って散々言われてたし、あの世界で彼を人間扱いしてくれる人がゼロじゃなかったとはいえ一方通行(アクセラレータ)を人間として、そして子供として見ていた人間なんてあの街では片手で数えられるくらいしか居なかったからね___」

 

ここで大妖怪の彼女は身を焦がすほど愛している白髪で華奢な体をしている最強の白い彼の姿を思い浮かべる。

すると、だ。

自然と口角が上がってしまう。

ここまでだ。ここまで八雲紫は一方通行(アクセラレータ)に恋をしている。愛しているのだ。

 

間もなく幻想郷は漆黒に塗り潰される。世界は終わるというのに、だ。彼の姿を想像するだけで大妖怪の彼女はとっても幸せな気持ちになっていた。

『愛』というものにはとても大きな力を秘めている。

もしかしたら世界を平和に救う力は『勇気』でもなく『覚悟』でもなく『愛』から生まれる力なのかもしれない………。

 

 

紫「___一方通行(アクセラレータ)を見ていると時々思うことがある。なぜ、どうして、って。なぜ幼少期の頃からあんな残酷な事を経験してるのにどうしてあんなにも優しいのかってね。何もかも恨み全部を拒絶するどこまでも恐ろしい本物のバケモノになっていたって不思議じゃない。もしもそうなってしまっても一方通行(アクセラレータ)の過去を知れば誰も彼に対して『なんでそんな生き方しかできなかった』なんて言えないでしょう。でも一方通行(アクセラレータ)は本物のバケモノにはならなかった。あなた達が気付いていたように彼は自身をバケモノと罵りながらバケモノを演じてただけ。誰も自分の力で傷つけたくないから自ら他者と距離を取るようにした。彼は自ら孤独になることを選択した。今後の人生、永遠に孤独と戦うことを決意したの。優しい、優しいわ。ああなんて優しいのかしら……。『幻想郷を守りたい』『私達を守りたい』強いその意思が一方通行(アクセラレータ)の中にずっとあったのは“幻想郷の守護者”だからじゃない、まして“特異点”だからでもない。彼が他の誰よりも優しいから。呪われてようと呪われてなくても変わらない。今まで一方通行(アクセラレータ)は呪いの影響で幻想郷を、私達を守っていたんじゃない。彼は彼の中にある強くそしてどこまでも純粋な意思のもと行動してきた。戦っていた。幻想郷を、私達を、守っていたの………」

 

八雲紫の瞳からはポロポロと涙が流れていた。

黙って聞いていた彼女達は知っていた。

声に出して説明されなくても一方通行(アクセラレータ)の思いを。

彼の度が過ぎる程の優しさを。

 

霊夢「特異点……、人を引き寄せる特殊な存在。だったら私が、私達があいつと出会えたのは一方通行(アクセラレータ)が特異点だったから?私達は目に見えない力で導かれるように集められただけ。じゃあわたしの、わたしの、一方通行(アクセラレータ)に抱いているこの気持ちも……あいつが特異点だから?私のこの想いは特異点の性質で捻じ曲げられた偽物なの……?」

 

紫「違う。違うわ霊夢。あなたや皆の一方通行(アクセラレータ)を想う気持ちは本物よ。なにかしらの力でそういう気持ちにさせられたなんてことはない」

 

霊夢「………………………………」

 

涙を手で拭いながら八雲紫は答える。

 

………博麗霊夢は黙ったまま。

ただ口を結び俯いていた。

 

紫「……他に質問は?まだ聞きたいことがあるなら遠慮なく聞きなさい。この八雲紫が他者からの質問を素直に答えてくれる機会なんて今後もう二度とこないかもしれないし」

 

『幻想郷という世界は消えてしまえば次なんてものはないけどね……』と、大妖怪の彼女は心の中でそう呟いた。

 

魔理沙「……ない、みたいだな。さーて、じゃあ長い話も終わったことだし世話の焼けるあのバカタレを正気に戻してやろうぜ」

 

しかし……。

誰も動こうとはしなかった。

それを見て霧雨魔理沙は舌打ちをした後に、

 

魔理沙「あー、そうだよ。皆の思ってる通りだよ。私達は私達の意思で一方通行(アクセラレータ)のもとに集まったんじゃない。あいつが人を引き寄せる『特異点』っていう特別な存在で、その特性で集められただけだった。だけど私達の気持ちは『特異点』の特性で捻じ曲げられたものじゃない。私は紫の言ってることは本当だと思うぜ。ってか、あいつが恐ろしいバケモノになってしまった姿を見てお前らはなにも感じてないなんてことはないはずだ。『助けてやりたい』『救ってやりたい』『一方通行(アクセラレータ)を元の姿に戻してやりたい』って思ったはずだぜ?うじうじしてないで信じろよ自分自身を!!自分の気持ちを!!自分の気持ちを疑うことがやめれないというのなら一方通行(アクセラレータ)を正気に戻してやってからまた改めて自分の気持ちが本物だったか偽物だったかを判断すればいい。まあ……私はお前らが一方通行(アクセラレータ)と一緒に居る時の顔を見て一発で分かっていたけどな。好きたんだろ?大好きなんだろ一方通行(アクセラレータ)のことがッ!!」

 

霊夢「……べ、別に嫌いじゃないし好きではあるけどアンタの言ってるような意味での好きってわけじゃないし………」

 

魔理沙「はあ……霊夢、お前さっきスッゲー恋する乙女な顔して紫に自分の気持ちは本物か偽物かって聞いていたのにその発言は無理があるぜ?つーか、わたしが知る中でお前が一方通行(アクセラレータ)の前で一番乙女の顔してたぞ?」

 

霊夢「誰が恋する乙女よ!!アンタの方があいつの前で恋する乙女してたじゃない!!」

 

魔理沙「そりゃあそうだろ。だって私はあいつのこと好きだし。そして当然その好きってのはLIKEという意味じゃなくLOVEという意味だぜ?」

 

霊夢「あのさー、アンタそういうキャラだったっけ?なんかどいつもこいつもキャラが急変するし、しかも今日は多くの出来事があったから余計混乱するんだけど………」

 

ポツリと小さく霊夢が呟くとそこから博麗の巫女と白と黒の魔女は普段の調子に戻っていた。

それを黙って見ていた者達は、、、

 

幽々子「……こんな時だからこそ素直になるってのも大事、ってね。魔理沙はそう言いたいんじゃない?どう妖夢?あなたも少しは自分に素直になっていいのよ」

 

妖夢「…………はい」

 

そう言われると、だ。

力強く刀の(つか)を握り、

 

妖夢「私は一方通行(アクセラレータ)さんともっとお話をしてみたいです。あの人のことをもっと知りたい、だから生きていてほしい、可能ならこの幻想郷で……。もしも幽々子様からお許しをいただけるなら私は一方通行(アクセラレータ)さんを殺すのでなく正気に戻させる方を選びたい……、です」

 

幽々子「うん、わかった。じゃあそうしましょうか♪」

 

そして、西行寺幽々子は微笑みながら妖夢の頭を撫でたのだった。

 

藍「………紫様の望みは私の望み。紫様が本当は一方通行(アクセラレータ)さんを殺すのではなく正気に戻し暴走を止めるほうを望むのであらば私は紫様の望みを叶えるべくあの方を正気に戻し暴走を止めるほうを選択するだけ。でも私も紫様と気持ちは同じだった。私も一方通行(アクセラレータ)さんを殺したくない、死んでほしくない。橙、おまえはどうだ?」

 

橙「私も皆さんと同じですよ藍様。私も皆さん同じ気持ちです」

 

藍「そっか………」

 

そして、そして。各々気持ちの整理はついた。

すると……、だ。

 

紫「___貴女達、絶望にも屈しない勇気を持ちなさい。でなければ命はないわ。さあ、覚悟の決まった者から私のあとに続け。持てる力全てを使いこのクソったれな現実をひっくり返し返すわよ!!そして戻すのよ、極悪人のせいでバケモノになってしまった一方通行(アクセラレータ)を!!私達のヒーローを!!私達の"希望"を!!』」

 

魔理沙「よっしゃー!!じゃあ助けに行くかーっ!!みんなの大好きな一方通行(アクセラレータ)をッッ!!」

 

霊夢「魔理沙アンタ本当に黙っててくんないッ!?」

 

妖夢「すごいですね。紫様のお言葉で皆々更に身に力が入りあんなに重たく張り詰めた空気になったのに魔理沙さんはたった一瞬で全部ぶっ壊せるんですから」

 

幽々子「いいんじゃない?私はこっち雰囲気の方が好きだな♪今日で魔理沙のことすっごく気に入っちゃったわ♪いつか家に招待しようかしら♪」

 

妖夢「えぇ〜……、わたし嫌ですよあんなのが白玉楼に来るなんて」

 

魔理沙「オイコラ妖夢ゥッ!!私のこと“あんなの”って言ったな“あんなの“って!やっぱりおまえ私のことスゲー嫌いだろ!?」

 

霊夢「ちょっと考えなくても分かることでしょ?魔理沙の日頃の行いを知れば誰だってアンタを家に入れるのを嫌うに決まってるじゃない」

 

橙「なんたって魔理沙さんは無礼千万の悪名高き盗人ですからね♪」

 

魔理沙「おぉい!!言い過ぎ言い過ぎィッ!!もしかしてお前らの中で私にだったらなに言っていいみたいな風潮になってないか!?言っとくがそんなことないからな!?キツイ言葉を何度も投げられたら私だって拗ねちゃうからな!!あーあーもういっそこのこと今拗ねちゃおっかな!!拗ねちゃおっかなー!!いいのかなぁ私拗ねたらめちゃくちゃ面倒くさいぞー!?」

 

藍「………………ゆ、紫様」

 

紫「チッ、戯れはそこまで。心の準備ができたやつからさっさと私に続いて一方通行(アクセラレータ)を正気に戻しに向かうわよくそったれどもー」

 

『ずっと真面目モードだった私がバカみたい……』と頭の中では落胆しながら心の内で呟くと八雲紫は手に持っていたスマートフォンの通話を切り電源も切るとスキマを開きその中にスマートフォンを入れた。

 

そしてその後、少女たちは立ち向かう。

 

勝つためじゃなく、殺すためでもない。

 

白い最強の怪物を助けるため………、

 

一人で苦しんでいるヒーローを救うために………。

 

 

自身の身を顧みることなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………………………………………」

 

目を開くとまず最初に見えたのは亀裂の入った天井だった。

次に白髪で赤い瞳を持つ最強の超能力者は首を左右に振り辺りを見回す。

すると分かった、自分がどこに運ばれ寝かされていたのかを。

 

この建物には何度も来たことはある。

 

そこは、、、

 

「___永遠亭か……」

 

永遠亭。迷いの竹林の中にある永琳たちの住処であり、重い病にかかってしまった者や重症を負った者が最後の頼りにしている場所だ。

 

そこに“一週間前”に運ばれたのが現在、永遠亭の病室に置かれているベッドの上で寝ている最強の超能力者・一方通行(アクセラレータ)だった。

 

一方通行「……あン?」

 

上体を起こす時に首に違和感があった。

一方通行(アクセラレータ)は違和感がなんなのか確かめるべく自身の首を手で触れてみると冷たくて硬い感触がした。

 

一方通行(こいつは………、そうか……)

 

自分の首に鋼で作られた黒いチョーカーが着けられていることに気付く。

そして着けられた“その意味”も。

 

一方通行「………チッ」

 

左腕にはチューブか繋がれていてチューブの先になにがあるかと目をやるとそこには透明な袋に透明な液体が入ってある。

それは学園都市でも見たことがあるもの。点滴だ。

 

「目覚めたのね一方通行(アクセラレータ)。気分はどう?」

 

その病室にはドアが無く、通路から室内は丸見え。

永遠亭の主。“隻腕”の彼女はドアの代わりに壁をコンコンと二回ノックする。

 

一方通行「…………………………」

 

永琳「あら、まだ目覚めたばかりで寝惚けてるかしら?」

 

一方通行「……バカが。自業自得だっつの。逃げりゃあ良かったのに自ら爆心地に突っ込むような真似しやがって」

 

永琳「“あの時”の記憶はあるみたいね……」

 

八意永琳は完全に左腕を失っていた。

どうしてあらゆる病やあらゆる傷を治療してきた薬師である彼女が大事は左腕を失う結果になってしまったのか……。

それは最強の白い彼の暴走を止めようとしたから。

しかし幻想郷のあらゆる実力者の力を結集させ一方通行(アクセラレータ)の暴走を止めようとしたができたのは可能な限り幻想郷のダメージを減らすこと、そして自分の身を守ることだった。

 

どこまでも黒い翼を大きく広げ暴走する白い怪物を止めようと向かった時は少女らの瞳に覚悟の光があった。

でも……、それは一瞬で消えることになる。

 

永琳「……あの戦いはとても苦しかった。いいや、あれを戦いと言うのかも怪しいわ。あまりにも事態は一方的で、あの場に居た者達は恐怖で身を震わせるか悲鳴を上げるしかできなかった。でもあなたがひとりで苦しんでいたから私達はあなたを苦しみから開放させたくてやった。私達の理想の結末とはだいぶ違う最悪の結末になってしまったけどきっと誰も後悔はしていないと思う。絶対の終末に抗った結果、代償としてあなたの暴走を止めようとした者は体のどこかを欠損してしまったけど……それもみんなそのくらいの負傷は覚悟していたわ」

 

一方通行「チッ。どォして幻想郷のやつらはどいつもこいつもバカばっかなンだ」

 

すると、だ。

一方通行(アクセラレータ)は腕に刺さっているチューブの先端にある針を乱暴に引き抜いた。

 

永琳「どこに行くの?」

 

一方通行「答えなくちゃいけねェのか?外出くらい自由にさせろよ。別に俺ァどこも怪我してねェンだ、安静になンかする必要はねェだろ」

 

永琳「そうね一方通行(アクセラレータ)。あなたはこの永遠亭に“無傷”で運ばれた。けどあの日、相当なダメージを負ったのは分かってるわ。ここに運ばれてから一応あなたがどこか怪我とか異常がないか体を調べたら深手(ふかで)を負った痕跡を発見した。傷はあなたの力で治したのも知ってる。でも外に出るのはオススメできないわ」

 

一方通行「俺がなにをしたかこの目で見てェンだ……」

 

永琳「そう……。分かったわ」

 

そう言うと、だ。永琳はあるところに指をさす。

 

永琳「そこに杖があるでしょ?使いなさい今のあなたには必要なものよ」

 

一方通行「………あァ」

 

ベッドの頭の方に立てかけてあったにシンプルなデザインの木製の杖を握ると床にあった靴を履き一方通行(アクセラレータ)はその杖をついて病室から出る。

 

永琳「ボロボロでしょ?こんな有り様だからここが屋内か屋外か分かんなくなりつつあるわ」

 

一方通行「………………………………」

 

廊下に出てみれば廊下の壁には亀裂が入っていたり人ひとりが余裕で通れるくらいの大きな穴があったりした。

 

そして。その大きな穴から外に出る。

 

一方通行「これが迷いの竹林_____」

 

永琳「______“だった”ところよ。こんなんじゃ迷う人なんて誰も居ない。妹紅ちゃんやてゐのような案内人はもう不要になっちゃったわ」

 

深い霧が無けれは竹もない。

緑の植物が全く生えていない死んだ大地。

 

それが一方通行(アクセラレータ)の真っ赤な瞳に映った光景。

 

永琳「もうじき幻想郷は崩壊するでしょう。いいやこれは崩壊した後って言った方が正解かしら」

 

一方通行「ここ以外もこンな感じなのか?」

 

永琳「運良く自然や建物が残ってるところあるって話では聞いたけど、せいぜい残ってる自然ってのは今にも倒れそうな木とか枯れた草だけ。建物だってちょっと小突けば崩れそうなものばがりよ、あなたがさっき居た永遠亭のようなね」

 

幻想郷全域がどんよりとした空気。

空は黒い雲しかないのだが、不思議と物が見えるくらいの光は確保できていた。

 

一方通行「………そォか。そォだよなァ。これだけのことォすりゃあ当然だよなァ。オマエがそンな目で俺を見るのも頷けるぜ、なァ永琳」

 

永琳「ッ」

 

一方通行「俺が初めて幻想郷に来た時はそりゃあ酷い有り様だったが、これはあの時の幻想郷より酷い。あれはオマエ達全員が暴れた結果だったがこれは俺がたった一人でやったことだ。怯えるよな、怖ェよな。“こンなモン”をつけるくらい」

 

一方通行は指先で自身の首に巻かれている黒い鋼のチョーカーを突く。

すると、、、

 

永琳「それに……触らないで」

 

一方通行「ハッ」

 

八意永琳は隠し持っていた拳銃の銃口を一方通行(アクセラレータ)に向ける。

薬師の彼女が持っている拳銃はかつて学園都市から送り込まれた猟犬部隊(ハウンドドッグ)の隊員が幻想郷に持ち込んだものだ。

 

永琳「もう気が済んだなら早くベッドに戻りなさい一方通行(アクセラレータ)

 

一方通行「そして……また睡眠薬を大量に俺の体内に注入して長時間眠らせるつもりか?」

 

永琳「………どうして。あなたはもうベクトル操作も模倣能力も使えないはずなのに、どうして分かったの……?」

 

一方通行「どうやら“オマエ達”は俺の能力を完全に封じることはできなかったみたいだな。ベクトル操作はまだ使えるぜ?ま、と言ってもレベル1程度の少量の力だがな。それでも自分の体のベクトルを解析するくらいはできる。俺は学園都市に居た時は狂ったやつらの実験動物をやっていた。体の隅々を調べられたりくっだらねェ実験に付き合わされ薬を何度も何度も打たれた。そのおかげか薬物の成分とか詳しくなっちまってな。で、俺の体の中に強力な睡眠作用のある成分あったことがわかった___」

 

永琳が拳銃を下ろすことはなかった。

銃口を一方通行(アクセラレータ)に向けたまま動かない。

そして隻腕の薬師の彼女が銃でどこを狙っているか?

彼の白い頭だ。

頭を銃で撃てば人は殺せる。

もしも運良く生きていたとしても白い怪物の能力は演算して発動しているため、脳にダメージを負えば超能力は失われるだろう。

 

一方通行「___だがベクトル操作がまだ使えるといっても銃弾を反射できるほどの力はないぜ?頭、脳を撃ち抜けば確実に俺を殺せるぞ」

 

永琳「どこの誰かは知らないけど幻想郷をめちゃくちゃにした原因であるあなたを殺せばこの生き地獄から開放されるって答えを導き出した者がいたらしい。もしそれが本当ならば私は___」

 

一方通行「___俺をその銃で殺すか?弁解する余地なンて俺にはねェ、俺が引き起こした惨劇の結果をこの目で見た後じゃな。あァそォだ。そォだよ。幻想郷をここまでぶっ壊したのは俺、学園都市に7人しか存在しない超能力者(レベル5)の第一位、外来人の一方通行(アクセラレータ)だ。オマエ達は幻想郷で生きている者として自分たちの世界を壊滅させた俺に復讐する資格がある。やれよ、復讐してやりたいって考えが少しでもあるなら思いっきり恨みと憎悪を込めて殺せ。後味が悪くならないよう全力でな」

 

怖い。怖い怖い怖い怖い。

アレからずっと頭の中にずっとある光景があった。

一点の光もない黒い翼の一撃は天地を裂く威力。

轟音の中から聞こえるのは知り合いの悲鳴。

砂煙が激しいなか誰かの大量の血が飛び散る。

 

八意永琳の中ではあの時からずっと覚めない悪夢が続いていた。

 

一方通行「___って言ってみたが見ろよ永琳。かつて最強だった俺様が恐怖で震えてやがる。最強の力を失えばこのざまだ。今までだったら銃を向けられようと平気で笑っていたってのに心臓の音はバカにうるせェし手足はガタガタ震えてやがる。オマエ達が俺をこうさせた。超能力だってそいつを構成しているものの一部、つまり俺はオマエらに超能力という俺という存在を構成していた一部を奪われたンだ。許せねェ、許せねェよな。許せるかよクソったれがァァ!!確かにオマエらは平穏な日常を奪われた。そしてオマエ達から平穏な日常を奪ったのはこの俺だ。でも失ったのはオマエらだけじゃねェ、俺は失ったンだ超能力をな。オマエらに奪われた!!今まで散々救ってきてやったのによォ!!」

 

パァン!!

乾いた音。その音の正体は銃声だった。

 

一方通行「…………………………」

 

永琳「……はぁ……はぁ………はぁ……はぁ……」

 

息遣いは荒く、震えた手で撃ったからかずっと狙っていた頭部には外してしまった。

 

しかし、、、

 

一方通行「チッ、痛てェな」

 

白い彼の頬を銃弾は掠めていた。

一方通行(アクセラレータ)は銃弾が掠めた頬を手で触れて、そして触れた手のひらを見てみるとそこには血が付着していた。

 

彼の左頬には横に一線の傷ができていて、そこから血が重力の向きに従い地面に垂れていく。

 

永琳「もう一度言うわ。これは警告よ。私に従い大人しくベッドに戻りなさい。もしも従わないのなら次はあなたの脚を撃ち抜くわ」

 

一方通行「戻れば殺されるかもしれねェってのに誰が従うンだァ?オマエらは既に知ってるだろォが俺ァ敵に容赦しねェ。そいつを()ると決めたら徹底的に()る。そして俺が考える敵ってやつは俺に対して恨みを抱いていたり、敵意や殺意を持ってるやつだ。これは俺だけじゃねェ誰でも一緒だろ。なァ永琳、俺がなにを言いたいか分かるよな?」

 

永琳「私達はあなたの敵になった………」

 

一方通行「あァそうだ。これまで何度もオマエ達を助けてやった。なのにオマエらはその恩もなかったことにして杖を使わなきゃ歩けないくらい体を不自由にしただけじゃ飽き足らずこの俺様の首にクソなモンを付け俺から『最強』を奪った。で、次は俺の命を奪おうとしている。そンなやつを仲間とは呼べねェだろ」

 

そして。一方通行(アクセラレータ)は永琳に背を向けると不器用に杖をつきながら前に歩いていく。

 

一方通行「撃ちたきゃどこでも好きに撃てよ。一回は見逃してやったが、次はねェ。次撃てば俺はオマエを殺す」

 

以前のような幻想郷最強の力はない。

今の一方通行(アクセラレータ)の姿はとても弱々しく見えた。

 

『最強“だった”彼をそこまで弱らせたのは私たちだ……』と、八意永琳は自分たちがなにをしたのか改めて思い知ることになる。

 

しょうがない。仕方がない。こうするしかなかった。他の選択の余地がなかった。

そんな言い訳をしたところで意味がないのは知っている。

 

永琳はずっと拳銃を握り構えていた。

ずっと拳銃で一方通行(アクセラレータ)を狙っていたのだ。

 

が。が、である。

 

気が付けば薬師の彼女の前から一方通行(アクセラレータ)の姿は完全に消えていた…………。

 

永琳(これまで私は人間、そして妖怪らと比べてもそれはそれは長過ぎる生涯のなかで数えきれないほどの命を救ってきた。そのことは誇りに思ってるし誰かの命を救うたび私は誰かの命を救うことが私の役目であり幸せだと気づいてた____)

 

八意永琳の震える手から拳銃が地面に落ちる。

そして薬師の彼女は自分の手から落ちた拳銃を憎悪を込めて睨みつけた。

 

永琳(____こんなもの……、こんなもの私は大嫌い。相手に向かって発砲するだけで簡単に命を奪う邪悪な道具がこの世にあっていいはずがない)

 

しかし永琳はその拳銃を広い自分の着ている服の中に忍ばせる。

すると、である。永琳は永遠亭に向かって歩き出した。

 

 

永琳「…………わたしたちは、どこで道を間違えてしまったの」

 

 

風に流すかのように、、、

 

 

悲しい目をして永琳は呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『最終記録』

 

今回の学園都市と幻想郷の闘争で一方通行(アクセラレータ)と幻想郷の少女らはそれぞれ大きなものを失う。

 

学園都市の闇を体現したかのような暗部という存在。

ただの闇とは言えないほどより真っ暗な闇。それは純粋な黒だった。

 

光なんてものが少しもない純黒の世界にしか居場所を持たぬ者達が幻想郷に来て起こった異変。

それは平和を夢見た者にとっては最悪な形で幕を閉じる。

 

 

 

「どこに行っちゃったんだよ………、一方通行(アクセラレータ)

 

 

一方通行(アクセラレータ)が姿を消して一週間ほど経過した。

終末特異点が降臨したがなんとかまだ存在している幻想郷には絶望と混乱、そして狂気が充満していた……。

 

そんな幻想郷で生きている“隻眼”の白と黒の魔女が瓦礫の山の中から発見したのはかつて自分が学園都市の暗部が幻想郷に来た時の出来事などを記録していたノート。

彼女はそれを手に取り最後のページを読みながら残った左目から涙を流していた。

 

あの時のことを思い出すと左足の義足の付け根部分が痛む。

 

皆は心が折れてしまった。

また皆が再び立ち上がることは……もう無理かもしれない。

 

誰もが未来を諦めた世界で“隻眼”の白と黒の魔女は立ち向かっていた。

 

____最悪の絶望に“たったひとりで”。

 

 

 

 

第四章・【純黒に生きる侵略者】___完。

 

 

 

 

 








次章予告。

超能力には制限という縛りをかけられた。
満足に力を使うことができなくなった一方通行(アクセラレータ)は彼女たちの前から姿を消した。

現在の幻想郷には最強のヒーローは居ない……。

しかし、アレイスター=クロウリーは手を緩めることは決してしなかった。

最終計画『幻想殺し(イマジンブレイカー)』が動き出す。

『終わりにしよう。これまで続いた幻想郷と学園都市の戦争を』

次章・最終章【幻想郷は一方通行(いっぽうつうこう)


博麗神社の巫女・博麗霊夢
「アンタは、いや“オマエ”は私がブチ殺すッ!!学園都市統括理事長・アレイスター=クロウリーッッ!!!!」

“隻眼”の白と黒の魔女・霧雨魔理沙
「今まで散々やってくれたなアレイスター!!私達でお前をぶっ倒してやるぜ!!」

大妖怪・八雲紫
「終わりにしましょうアレイスター。あなたの幻想はこの八雲紫が粉々に打ち砕いてやるわ」

右手に『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を宿す、どこにでもいる普通の高校生“だった”少年・上条当麻
「テメェの幸せ(幻想)を俺のこの不幸(右手)でブチ殺す!!」

幻想郷最強の超能力者・一方通行(アクセラレータ)
「あばよオマエら。オマエらとは今日でお別れだ。オマエ達と一緒に過ごした幻想郷の日々は……悪くなかったぜ」





















と、その前に第四章と最終章の間で起きた一つの物語。

番外の章【闇を穿つ天使】

学園都市・超能力者(レベル5)第二位の垣根帝督 
(なんだこの変なガキ……?)

風紀委員(ジャッジメント)として活動もしている頭に花飾りをつけた女子中学生・初春飾利
「……天使、さま……?」


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。