「…やはり、あんな数では戦力評価にすらならないか」
守護者もどきと呼ばれる少年が四、五十程の魔獣を一瞬で殺めた状況を上から見ている存在がいた。
長くしなやかな緑色の髪をたなびかせ、一見すると美男子にも美少女にも見ることの出来る。整ってかつ中性的な顔立ちの人物だ。
けれど、その綺麗な顔には邪悪と呼ぶに相応しい表情が浮かんでいる。それはさながら悪魔のような表情だ。
「…少なくとも、本気ではなさそうだ」
先程の攻撃は、最低でも50程の魔獣をほぼ同時に即死させる事の出来る物だった。宝具を展開しているのか、それとも固有スキルの一種なのか。
彼の態度からはまだ余力が充分に感じられる。どうやら予想以上に使える駒のようだ。
『まぁ、俺の事は魔獣の一匹とでも思ってくれれば良い。それなりに働きはするさ』
彼の放った一言が、頭の中で反芻される。…一魔獣と扱うには、些か贅沢すぎる戦力だろう。
「さて、今日はこのくらいで良いだろう。…手を抜くようなら、その時は処理すれば良いだけのこと」
なぜ彼が人類に牙を向いているのかは理解していない。それに、する必要もない。
少なくとも、彼が今のところ裏切る事は無いだろう。彼の目には、人間のそれが持つべき光が存在していなかった。となると、厳密に言えば彼は…。
「正しい意味では、人間では無いのかも知らないね」
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『初めまして!私は◾︎◾︎◾︎!これからよろしくね‼︎』
『…私は◾︎◾︎。足だけは引っ張らないで』
ある景色が浮かぶ。夜の更けた冬◾︎◾︎橋の前で、輝く星空を背景に二人の少女に自己紹介された時。人懐っこい笑みを浮かべる少女に、冷たいながらも、しっかりと自己紹介してくれた少女。
そうだ。これは、俺の、運命の分岐点だ。
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俺は10歳で家を継ぐ事になった、ある種特殊な魔術師だった。けれど、理由はとてもあっけないものだ。
父親が魔術の行使を失敗して植物人間になったのだ。植物人間というのは文字通り、身体中が植物に犯されてしまったのだ。我が家系は植物と生物への研究を重ねる、東洋ではそこそこ有名な魔術師の一家であったのだが、父はある研究の際に事故を起こし、そのまま眼を覚ますことのない存在になった。母はそんな様子の父に呆れ、資産の半分を持って家から逃げた。まぁ、当然といえば当然だが。
そんな様子で消えていく肉親達だが、生憎自身に悲しむという感情は湧いてこなかった。我ながら薄情な奴だ。元々父は研究以外に興味を示しておらず、母は俺の事をバケモノのような目で見ていたからだ。
俺はある程度の代償を払うことにより、時計塔の庇護を求めた。ある程度の対価は必要だったが、それでも後ろ盾が欲しかったのだ。父から引き継いだ魔術の研究自体はとても楽しかった。植物や動物などの知識や見解を深めていくにつれて、俺はどんどん魔術の神秘に魅入られていった。
そんな俺でも地元の学校には通っていたが、特に浮いてはいなかった。逆に勉強などを教えていた、いわゆる『学級委員長』的存在だった。
そんな俺に転機が訪れたのは、12歳の時だった。
既に魔術師としての才能を開花させつつあった俺は、冠位である『ロード・エル◾︎ロ◾︎二世』からク◾︎ス◾︎◾︎ドを調査している二人を補佐(監視)せよとの依頼があった。
当時の俺は彼に恩義があった事と、新しい場所に興味があったことからこれを受ける事にした。
そうして俺は諸々の準備を整え、万全の状態で◾︎◾︎にやってきた。
現地には既に宝石科の遠◾︎◾︎とル◾︎◾︎アの両名が待ち構えていたのだが、俺はまずその二人の説得に手間取った。この二人は欠け値無しの良い人なので、俺が子供であった事から関与に非協力的だったのだ。
『貴方の協力は不要よ。こっちはこっちで何とかして見せる』
『◾︎坂◾︎の言うとおりですわ。部外者は引っ込んでなさい』
拒否を貫く二人に、それでもなんとか協力の依頼を取り付けることに成功した俺は、目的のものを回収する作戦を手伝う事になった。
諸々の過程を省いた結果をいうのであれば、俺はそこで運命と出会ったのだ。◾︎◾︎◾︎と◾︎◾︎という、掛け替えのない存在−−−−−−−
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「………最悪だ」
今日は、かなり鮮明な夢を見た。俺に良く似た少年の、ちょっと劇的な物語だ。彼ほど劇的な人生が送れれば、きっと退屈とは無縁の生活になるのだろう。少しだけ、羨ましいと思う。
けれど、彼の運命を変えたであろう二人の顔はモザイクでもかけられた様に不鮮明だった。あの二人は、一体誰なのだろうか?
「…まぁ、どうでも良い事だけどな」
ゆっくりと瞼を開き視界に光をいれる。すると、少し朦朧としていた意識が段々と覚醒する。何度か目を擦ると、植物によって編まれた椅子から立ち上がる。
少年の視界には一面に咲き誇る花々や草木の広場。そしてこれらを覆うように多種多様な形の木々が覆っている。
その広間には椅子があるのみで、生活感はまるでない。おおよほ町1つ分ほどの空間には一部の例外を除き、一切の建築物は存在しない。その有り様は、まるでお伽話の天国の様だ。
もっとも、大小様々な魔獣がいなければ。の話ではあるが。
その空間は魔獣が一定数徘徊しており、花畑見たさに一般人が観光しに進入しようものなら即座に食い殺されるだろう。
そんなある種殺伐とした空間にいる少年は、紛う事なきこの場所の主人なのだろう。
「また夢か…」
『昨日より起床時間が5分23秒程遅いですね。お疲れなんじゃないですかぁ?』
「…黙っていろ、『ステッキ風情』が」
どこからか小馬鹿にした様な声が響く。言葉の内容からは少年を労わる内容のものなのだが、この馬鹿にした様な言い草が全てを台無しにしている。
少年は多少億劫になりながらも、声のした方を向く。そこには、多種多様の草花で編まれた『祭壇』があった。
十字架を模したのであろう『祭壇』の真ん中には『二つのステッキ』が縛られている。一つは赤色、二つ目は青色と。まるで漫画やアニメで女の子が変身する時に使われるようなファンタジー要素満点なものだ。
『えぇ〜?けど、実際顔色悪いですよ?ここはひとつ、じっくり休養を取るというのは…』
「お生憎様、まだ潰さなきゃいけない補給路がいくつもあるんだよ。まだ休むわけにはいかないな」
赤い方とはうって変わり、どこか落ち着いた印象を聞いたものに与える声が響く。どうやら、青い方も喋り始めたらしい。
『駄目ですよ姉さん。彼は自ら社畜に堕ちた身、働かなければ自我を維持できないのでしょう』
「…酷い言い草だな。そんなに痛い目に遭いたいのか?」
少年は手元に『バレットM82』出現させ、片手で祭壇に向ける。勿論、セーフティなんて物は掛かっていない。けれど、彼にステッキ達を害する気はない。何故ならば…。
『またまたぁ、誰のお陰でそんな潤沢な魔力で戦えていると思っているんですか?』
『その通りです。貴方が我々に危害を加えられる筈がありません』
その言葉を聞くと、少年は黙って『バレットM82』を降ろす。すると、それを別の方向に向ける。
「なら、アレは撃って良いのか?」
少年が銃を向けた先には、例外の二つ目である『檻』がある。棘の張り巡らされた薔薇によって編まれたそれには、二人の可愛らしい女の子がベットに眠らされている。
一人は白い髪に白い肌。どこか西洋人形に似た面持ちの瞳を閉じた美少女。
もう一人は、白い肌に黒い髪。こちらも瞳を閉じているが精巧な人形の様な美少女。
この二人は並んでベットに繋がれている。腕には点滴のような植物の管が刺さっており、それらが彼女らの命を繋ぎ止めるのと同時に意識を奪っている事が伺える。
少年がその様な行動に出ると、赤い方のステッキが声色を変えて少年に無い口を開く。
『『イリヤ』さんと『美遊』さんの二人に手を出さない。我々は、その契約の元に貴方に魔力を供給している筈ですが?』
声色を変えた赤いステッキに、黙り込む青いステッキを見ると少年は『バレットM82』を手元から消失させ、口を開く。
「それで良い。あんた達は黙って魔力を供給すれば良い。俺が、人理を燃やすまでの間な」
『…本当に、覚えてないのですか?』
少年の残酷な一言に、青のステッキは口を開く。その一言には悲痛に濡れている。けれど、少年はさも当然の様に、そんな想いを踏みにじる。
「あぁ、覚えていない。お前達の事なんて、『イリヤ』の事も、『美遊』の事も、何一つ覚えていない」
少年はそれだけ言い残すと、身を翻してその場を後にする。ステッキ達は、ただその様子を見ることしか出来なかった。
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『どう思いますか、姉さん。彼の様子は?』
『正常、とは言い難いですね。通常の彼なら、私たちは兎も角イリヤさん達に銃を向ける筈がありません』
少年がその場を去った後。宝石翁によって生み出された最高の魔術礼装の『カレイドステッキ』である二人が話し始める。その様子からは、少し動揺が感じ取れる。
『…けど、狂戦士の様に理性が無いわけじゃない。むしろ、やり方は彼そのものです』
『そうですね。けれど、彼の行動理念が読めません』
二人が動揺しているのは、少年生前を知っているからこそ起こるものである。彼らの知る中で彼は、私達とイリヤ達を拘束。あまつさえ『人理を焼却』するとまで言っているのだ。
『『守護者』となった彼に、何かあったのですね』
『記憶が摩耗しきるほどの出来事なんて、想像もつきませんが』
二人で様々な憶測を立てては消していく。何もしないよりはマシだと考えているが故の行動だ。
そんな事をしていると『カレイドルビー』が思い出した様に口を開く。
『…あれ?そう言えば、彼は私達が魔力を生み出すという事を知っていましたね』
『…たしかに、そうですね。でなければ、会敵して早々に串刺しにされていた筈です』
『けれど、彼はそれをしなかった。私達から魔力を吸い取る技術も持っていた。なのに…』
『イリヤさんや美優さん、それに私達に関するエピソードの記憶が一切無い』
『もしかすると、彼は…』
そんな風に会話を続けていると、突如『カレイドルビー』はうだぁぁぁ‼︎と奇声を発生させ、妹である『カレイドサファイア』を驚かす
『突然どうしたんですか姉さん!とうとう頭でもおかしくなってしまったんですか?』
『私はこんな真面目に推理するキャラじゃ無いんですよ‼︎こういうのは遠坂さんとかの仕事の筈‼︎なんで私がこんな目に…』
一度愚痴を開くと、咳を切った様に愚痴が飛び出てくる
『大体!彼がこの特異点にいなければこんな厄介な事にならなかったんですよ‼︎なんなんですかあの攻撃、生前一度も使ってなかったじゃ無いですか‼︎反則ですよあんなの‼︎イリヤさんや美優さん、果てはクロエさんまで勝手に置いて行って守護者になったかと思えば敵として登場とか、どんな確率ですか⁉︎イリヤさん達をその気にさせといて今度は敵とか闇落ち系主人公ですか‼︎今時流行りませんからそんなの!楽しそうに笑ってたじゃ無いですか、大丈夫だって‼︎なのにすぐ闇堕ちとか、即堕ち2コマですか‼︎早く元に戻らないと美優さんまたダークサイドに堕ちますからね‼︎そもそも…』
『ね、姉さん。少し落ち着いてください。たしかに彼は度し難い程に不器用な馬鹿ですけど。少し言い過ぎです』
『…私、なんだかんだ彼の事買ってたんですけどねぇ…』
あらかた愚痴を言い終えると、『カレイドルビー』は静かに口を開く。その言い方からは、寂しさが溢れている。けれどそれも一瞬、すぐに調子を戻す。
『まぁ、私の予想が正しければ必ず目を覚ますでしょう。サファイアちゃんは今まで通り、魔力の中に昔のイメージを夢として送り込んでください』
『わかりました。…後は『クロエ』さんの事が心配ですね』
『彼女の事ですから、きっと大丈夫でしょう。信じて待ちましょう』
二つのステッキは未来に期待を寄せる。あの頃の様に、皆んなが笑っていた時を夢見て。