人理を燃やす、その日の為に   作:あーけろん

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彼女の闘争

舗装されていない切り立った山を『カルデア大使館』の面々と一人の幼女が歩く。その全員の服装はそれぞれだが、山を登るのに適した服装でない事は確かである。

 

 

肌にぴったり合ったタイツの様な服装、黒のローブ、褐色幼女に限っては服の面積が小さすぎて寒そうである。一番まともそうな服装なのはマスターと不審者くらいだろう

 

 

「ふーん。じゃあ、貴方たちはこの山に住む女神様の協力を得るために来た、って訳ね」

 

 

「協力っていうか、懐柔っていうか…」

 

「懐柔って、どんな女神よそれ…」

 

 

そんな彼らだが、特に疲れた様子もなく山を登って行く。それどころか、話をする余裕すら持っている。それも、一人を除けば全員が人智を超えた存在である『英霊』であるからだろうか

 

 

「所で『クロエ』ちゃんはなんであの魔獣達に襲われてたの?」

 

「なんでって…。まぁ、色々あったのよ」

 

 

 

話題は大使館の話から、新たに加わった『クロエ』への話題に切り替わる。あの植物に侵された魔獣に関する情報を集めたいのだろう、ほかの英霊達も会話には参加しないが耳はしっかり傾けている

 

 

「あの魔獣について、何か知ってる?」

 

「…知ってるわよ。あれは、私の知り合いの使い魔だからね」

 

「知り合い?それって…」

 

 

 

立香から魔獣について聞かれると、クロエは少し俯きながら『知り合いの使い魔』といった。その口調は悲痛に濡れており、聞かれたく無い話題であることは明白だった

 

 

 

立香は少し気の毒に思いながらも、詳しく話を聞こうとするがそれが叶う事は無かった。何故なら、『ガァン‼︎』という凄まじいほどの爆音が山に響いたからである

 

 

「っ‼︎マスター!」

 

「おやおや。これは…彼か」

 

 

 

全ての英霊は立香を守る様に円陣を組み、辺りを警戒する。そんな中マーリンは杖を構えながらある一点を見つめている

 

 

「ドクター!何処から⁉︎」

 

 

『魔力反応はそこから2100mほど先の小丘!魔力からみてこの前の人で間違いない‼︎』

 

 

「と言う事は、この振動は宝具ですか!」

 

 

 

マシュが盾を構えてマスターを守る様に立ち、辺りを警戒する。先の攻撃が宝具とするならば、連発は出来ない。その隙に戦闘状態に移行する筈だったのだが…

 

それは、ドクターの叫びによって遮られた

 

 

『恐らくね。だから次の攻撃まで…っ‼︎まさか⁉︎』

 

 

 

世界を裂く爆音が再び山に響く。此方を狙っていないのか、こっちに被害はないが山の表面を凄まじい勢いで削り取っていく

 

 

「そんな!宝具を連続(・・)で使うなんて⁉︎」

 

『立香ちゃん!今すぐ山を降りるんだ!そこは危険すぎる‼︎』

 

「けど…‼︎」

 

 

既に3発目の宝具が山に叩き込まれ、山の全容はもはや見る影もない。このまま山に残れば山が崩れる可能性も出てくる。けれど、ここで下山した場合女神イシュタルに助力を得る事は出来ない

 

マスターはそんな判断を迫られる中。一人の少女は静かに弓を構え、告げる

 

 

「大丈夫」

 

 

「…クロエちゃん?」

 

 

クロエは弓を出現させ、それを小丘にいる少年に向ける。その目には複雑な感情が織り混ざっているが、狙いを違えはしない。

 

 

「山を登って、立香。彼奴は、私が食い止める」

 

 

『無茶だ!相手は宝具を連発してくる化け物だ!君一人でなんて…』

 

 

「それくらい、どうって事無いわ。…行って‼︎カルデアのマスター‼︎」

 

 

クロエは弓を持ったまま叫ぶ。その声には、覚悟が込められている。そして、そんな英霊の姿を立香は今まで何度も見てきた。だがら彼女がこう答えるのは、必然なのだろう

 

 

 

「…わかった。必ず戻るから‼︎」

 

 

「くれぐれも、無理はしないで下さい!」

 

 

 

カルデアのマスターとその英霊達はまだ震える山を全速力で駆け上がっていく。その様子を見たクロエは、静かに開戦の合図を告げる

 

 

同調、開始(トレース・オン)

 

 

 

手元に魔力が収束していき、次第に形を成していく。3秒ほどで出来たそれは、剣で出来た矢であった。彼女の使う、贋作の贋作の刀剣

 

 

「…私は絶対にイリヤと美遊を助け出す!そしてあんたをぶん殴る‼︎」

 

 

贋作の刀剣を静かに弓に番え、引き絞る。狙いはただ一点。イリヤと美遊を監禁し、人理を焼却する事を望んでいる。彼女達のの守護者であった人物

 

 

「覚悟しなさい、『宗谷』‼︎私が目を覚まさせてあげるから‼︎」

 

 

放たれた矢は閃光を伴って進む。その真っ直ぐな光は、彼女の信念を物語っていた

 

 

 

______________________

 

 

 

 

 

 

 

「っ!山を登るのか、この状況で⁉︎」

 

 

孤高を歌え、戦火の栄冠(ホウセンカ)』を連発する事によって、山の大部分を削り取る事には成功した。削られた山は不規則な形に歪められ、地盤は既にボロボロだろう

 

 

そんな状況なら登山を辞めて下山するはず。そこを魔獣達で包囲しつつ殲滅するのが計画だったが…

 

 

「流石、最後のマスターは度胸が違うってことか…」

 

 

今から本人達を狙った所で『花の魔術師(マーリン)』とあの英霊もどきがいる限り決定打を与えることは出来ない。つまり、もうこちらから手出しする事は出来ないという事だ

 

 

 

「だが、目的は果たせそうだ」

 

 

俺の正面には、褐色の幼女が弓を構えている。その瞳には、こちらへの複雑な感情が織り混ざっていると見える

 

 

 

−−−−だから、あんたは一人で突っ走らないの‼︎

 

 

 

「っ⁉︎」

 

 

 

そんな彼女の姿を見ていると、頭の中に嫌なイメージが浮かぶ。どこか靄のかかった、見えそうで見えない風景

 

怒りながらも此方を心配している、悪戯好きで可愛らしい少女

 

 

 

「…違う。俺は、あんな奴の事なんて知らない」

 

 

頭の中に再生された不確かな物を押さえつける。心を落ち着けるために、スコープから目を離して瞳を閉じる

 

 

瞳を開けた時には、いつもの自分だった。守護者紛いの、人理を焼却するための舞台装置の自分

 

 

 

此方に向かってくる矢を狙いもつけずに撃ち抜き、矢を地面に叩き落とす。その後、標準を彼女に向け何発もの凶弾を射出する

 

 

彼女は此方の玉を出現させた二刀の剣で切り落とす。どうやら、遠距離では効果が無さそうだ。なら、手駒を使うまでの事

 

 

「全魔獣に通達。作戦を変更、隠蔽から強襲へと変更しろ。対象は幼女では無く、山の山頂へと向かう魔術師だ。連中を足止めしろ」

 

 

此方の命令に従い、数々の魔獣達が姿を現わす。絶命したはずの魔獣は、植物によって少年の命令に絶対服従を示す屍兵へと姿を変えていた

 

 

『バレットM82』に弾を装填すると、小丘から飛び出す。飛び出しながらも牽制として少女を攻撃し、足を止める

 

魔獣達はその隙を塗って崩れた山肌を物凄い勢いで駆け上がっていく

 

 

 

「行かせない‼︎」

 

 

少女は武器を即座に弓に切り替え、魔獣達を迎撃しようとする。だが、それを許すほど甘ちゃんでは無い

 

 

「そうは問屋がおろさねぇぞ、褐色幼女」

 

 

魔獣達の進行上に位置する少女の足元に魔力で強化した弾を贈る。それらの弾は地面を抉り、辺りに土埃を巻き上げる。その僅かな隙を突き、彼女の正面には立つ

 

 

後方の憂いは、ここで断つ

 

 

「ここで消えろ、正体不明(イレギュラー)‼︎」

 

 

 

 

 

____________________

 

 

 

 

 

『立香ちゃん!後方から大量の魔獣が接近中‼︎このままじゃ追いつかれる!』

 

 

「魔獣が⁉︎そんなの何処にも反応なんて…」

 

 

 

エビフ山を駆け上がっている最中、ロマンから最悪と言って良い情報が届いた。後方を魔獣たちが追って来ているそうだ。少し振り向いて後方を確認すると、そこには横一列で走る軍隊の姿がある

 

 

 

「おそらく、あの魔獣達には普通のスキャンでは意味が無い。なぜなら、彼らは既に死んでいる(・・・・・)からね」

 

 

「どういう事ですか、マーリン」

 

 

「後ろの魔獣達を見てごらん」

 

 

 

後方の魔獣達に再び目を向け、今度は注意深く見る。すると、マーリンの言っている意味がよくわかった

 

 

彼らの殆どは、身体の一部が致命的なまでに欠損しているのだ

 

 

顔の半分が抉れていたり、胴体に拳大の穴が幾つも空いていたりなど。酷いものでは顔すらない魔獣達もいる。彼らは正しく死体なのだろう

 

 

たが、その欠損部位に張り巡らされている植物達がそれらの死体を動かしているのだ。それはさしずめ、ゾンビのように

 

 

「あの魔獣達は彼の命令によって動く、言わば機械だ。動力が無ければ只の死体なのだから、通常のスキャンに反応するはずが無い」

 

 

「…酷い」

 

 

彼らは利用されているのだ。人間たちを襲っている魔獣達だが、死んでその死体を利用されるなど酷いにも程がある

 

 

『魔獣の群れと接触まであと30秒!何か対策を考えないと‼︎』

 

 

「こんな状況で対策なんて…!」

 

 

 

魔獣達は今も主人の命令に従い走り続けている。このままでは頂上に着く前に追いつかれる、そうなれば無事では済まない

 

 

「マーリン!何かない⁉︎」

 

 

「無茶をいいなさる。僕はしがない魔術師だよ、肉体労働なんて無理さ‼︎」

 

 

『接敵まで後10秒!そろそろ会敵する、全員戦闘準備を‼︎」

 

 

 

ロマンの叫びにも似た声で、英霊の全員は足を止めて後方を向き武器を構える。半円を組み、魔獣の襲撃に備える

 

 

「やれやれ。走った後に戦闘とは…これは応えるなぁ」

 

 

「…来ます‼︎」

 

突如、まばゆい閃光が視界をてらす。

 

先頭を走って来た魔獣の群が大使館に襲いかかる瞬間、空から眩い光が差す。その光は徐々に大きくなり、最後には極光となって正面の魔獣の群を一掃して行く

 

 

「これって…」

 

 

「あー、もう!なんなのよ急に⁉︎のんびり昼寝しようと思ったら爆発音がして、様子を見に来たら山はズタボロ。醜い魔獣の死体までいるじゃない⁉︎どうなってるのよ本当に‼︎」

 

 

 

空からどこかヒステリック混じりの叫びが響く。その響きの元凶は次第に近くなっていき、その存在は私たちの前に現れた。

 

 

「女神イシュタル⁉︎」

 

「あれ?あんた、あの時のマスターじゃない。奇遇ね、こんな所で」

 

「いかにも偶然を装って来ました…!これが女神の白々しさですね…」

 

 

その存在は、美の結晶とも言うべきものだった。モデル体型のすらっとした身体、長く美しい髪はツインテールで纏められ、瞳孔はルビーのように赤く輝いてる

 

 

これこそが私たちの交渉相手。金星の女神『イシュタル』である

 

 

 

「イシュタルさん!お願いがあります‼︎」

 

「嫌よ。…っていつもなら言うんだけどね」

 

 

 

そう言ってイシュタルは山の全容を見渡す。そこにかつての荘厳はどこにも無く、もはやこの山を見てもなんの感動も浮かばないだろう

 

 

「私、今結構怒ってるのよ。私の住処を滅茶苦茶にして、挙句の果てに『あんなもの(・・・・・)』までけしかけて来て」

 

 

イシュタルは山肌にまだ残っている動く死体を睥睨する。その視線には憐憫の感情、そして、それらを作り出した者への猛烈な憤怒が込められている

 

 

「いいわ、貴方達に協力してあげる。ただし、条件があるわ」

 

 

「条件?宝石ですか?」

 

 

「それは後で貰うけど、それでも無いわ」

 

 

 

一度話す言葉を止め、イシュタルは瞳孔を赤から黄金のものへ変える。そして再び開かれた言葉は、いかにも女神らしい言葉だった

 

 

 

「こんな事をしでかした奴をぶっ倒すのに協力しなさい。女神を侮辱した事、後悔させてやるんだから!」

 

 

 

 

 

______________________

 

 

 

 

「やぁ‼︎」

 

 

 

右から来る黒剣を、身体を捻って避ける。数秒前までいた場所に剣が振り抜かれ、空気を切り裂く。切れ味は相当のものだ

 

 

「ちっ、らぁ‼︎」

 

 

避けた後は持ち前の身軽さで素早く距離を取り、連撃を避ける。距離を取りながら『向日葵』の種をばら撒いて砲台として行く

 

 

花を咲かせた『向日葵』からは魔力砲がとめどなく射出されて行くが、彼女はそれらを悉く斬り伏せて最後には『向日葵』を根本から切り裂いて行く

 

 

「なら、コレならどうだ?」

 

 

腰のベルトにストックされている手榴弾を手に取る。それは、普通の外見とは全く異なる手榴弾だった

 

本来手榴弾に必ずあるはずの安全ピンが取り付けられておらず、その部分には宝石のように光る植物の種が取り付けられている

 

 

 

「『起動せよ(オープン)』」

 

 

一節の詠唱を唱えると、それを彼女目掛けて投擲する。放たれた手榴弾は綺麗な弧を描き、空中で眩く爆発する。その爆発半径は凡そ15m

 

通常の手榴弾のような爆発では無く、魔力による空間破壊が行われているので『対魔力』持ちの英霊にも効果を持つ魔術礼装だ

 

 

だが、直撃すれば。の話なのだが

 

 

「が、はぁ」

 

 

右胸を強烈な衝撃が襲う。肺の空気は強制的に吐き出され、空中に放り出される。目まぐるしく変わる景色を見ながら、自分が吹き飛ばされた事を悟る

 

 

ある程度転がった所で体制を立て直し、彼女に向き直る。その彼女だが、特に損傷している様子もない

 

 

 

「…驚いたな。アレを避けるのか」

 

 

「まぁね。一度経験してるから、わかったのよ」

 

 

 

一度経験している(・・・・・・・・)?…駄目だ、考えるな。私情を捨てろ、思考を燃やせ。俺は装置であればいいのだから

 

 

 

「…近距離戦に強いアーチャーとか、反則だろ」

 

「あら、もう降参?随分打たれ弱いのね」

 

「いや?生憎、降参する気は無いな」

 

 

 

砂埃を払いながら立ち上がる。彼女はまだ武器をこちらに向けていおり、何か奇妙な事をすれば即座に斬りかかって来るだろう。

 

ポケットに仕込んであるナイフを取り出し、逆手に構える。右手に『G17』を展開し、彼女を牽制する。

 

こんな所で諦めるくらいなら、ここまで戦ってきていない‼︎

 

 

「こいよ、褐色。ぶっ殺してやる」

 

「…そう。なら、お望み通り殺してあげる」

 

「…は。やってみろよ‼︎‼︎」

 

 

 

戦いの第二幕が上がる。戦闘の幕は、まだ上がったばかりだ。




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