ARMORED CORE VERDICT DAY ユーラヌスの人形たち 作:D-delta
とりあえずアルバについて書いた過去編でございます。
アルバの作ったUNAC――ユーラヌス5のテストを終え、彼ら四人はこの街にはもう用はなくなった。
サリアの大型ヘリが『カクタス』を輸送し、街から離れて行った。無論、その際にはサリアとアルバが大型ヘリに乗り、プリンとピリエは『カクタス』に乗り込んでいた。
『カクタス』を輸送中の大型ヘリは汚れた空を飛び続ける。
「僕のUNAC……君は絶対に僕を裏切らない、絶対に僕を見捨てない」
そう呟いて、アルバはふと昔の頃を思い出す。それはアルバが六歳の頃の記憶。思い出と言えるほど思い出したいものでなく、逆に忘れていたい記憶。それほど嫌な記憶だ。
アルバもプリンと同じく、悲しい過去を持つ人間の一人だった。
※※
「パパ、ママ、お腹空いた……」
アルバの小さな声がジープの中で一つ。ジープの運転席と助手席に座っているアルバの両親は、そんなアルバの声など気にせず前だけを見ていた。
アルバはジープの後部座席に横になって、お腹を鳴らしていた。アルバは空腹そうにうずくまる。
「お腹……」
アルバの声が弱まる。しかし前に座っている両親はアルバのことなど気にせず、ひたすらにジープを走らせていた。ジープから見える景色は辺り一面砂漠しか見えない。
今はどこを走っているんだろうか? と、空腹に耐える一方で頭の片隅にそういう疑問を抱いた。
「眩しい」
砂漠の上で照りつける太陽の光りがアルバの視界を眩しくする。アルバは手で眩しい光りを遮り、両親の後ろ姿を見つめた。父親は運転に集中し、母親はフロントガラス越しに外を見つめていた。
アルバはドアガラスから外の景色を眺める。代わり映えのしない砂漠がアルバの目に映る。
「……」
空腹でなにも考えることが出来なくなってきたアルバは茫然と砂漠の景色を見つめた。
ジープの車体が度々揺れる。その度にアルバは眠気に誘われ、太陽が地平線の向こう側に落ちようとしている時には眠気に負けて眠っていた。その眠りにつこうとした間、アルバの耳に誰かがなにかを食べている音が聞こえていた。
アルバの両親は隠し持っていた食糧を食べていたのだ。そのことも知らず、アルバは眠っている。
「んぅ……」
しばらくしてアルバはゆっくり目を覚ました。窓の外は真っ暗だが、車内のライトのおかげで身の周りはハッキリ見えるようになっていた。そのまま走り続けて揺れるジープの中、アルバは身を起こして後部座席に座った。
「起きたのか」
「あら、ようやく起きたの。起きるまで待っていたのよ?」
両親の優しげな声がアルバの耳に入った。アルバは安心した気持ちになり、身振り手振りでご飯を求めた。しかし両親はなにも言わず、ただ黙っていた。その黙り込み様は暗いなにかを隠すような素振りだ。
アルバは疑問しか抱けなかった。それでもひたすらに両親の愛の詰まったご飯を待ち続けた。
「あなたは選ばれたの」
「そ、そうだ。選ばれたんだ」
沈黙から一転、両親は突然話し始める。
選ばれた? と心中で思ったアルバは首を傾げた。なにに選ばれたのかを、アルバは思い出そうとする。しかし思い当たることはなに一つない。
「あなたはね、選ばれたのよ」
そう言われ続けて数分後、ジープの動きが止まった。アルバはいまいちなにに選ばれたのか分からず、首を傾げることと両親の言うことを聞くことしか出来なかった。
アルバの父親がジープのドアを開けると、暗い外に出た。それに続いて母親もドアを開けて、暗い外へと出る。
「……?」
アルバは不安が増す感覚を覚えながら両親の動きを見ていた。そして外に出た両親は後部座席のドアを開け、アルバを優しくジープから出した。
一層暗い外に出されたアルバは両親の顔を見た。両親の表情はアルバが知っているいつも通りの笑顔だった。
「こっちにおいで」
「行くよ、アルバ」
手招きする父親。名前を呼ぶ母親。アルバはただただ両親に付いて行く。砂漠の上を歩いて数分、両親が歩くのを止めて懐中電灯を点けた。懐中電灯が照らした先には、鉄塊たちがごろごろと転がっていた。AC、機動兵器、一般兵器、その鉄塊たちは見るからに全て兵器だった。
「ねぇ、これって……」とアルバは父親の服を引っ張る。原型を保ってない不気味な鉄塊に対して怖がっていたのだ。
「大丈夫、ただの鉄塊だよ。ほらこっち」
「アルバ君、こっちにおいで?」
「……?」
父親に背中を押され、母親は鉄塊と化したACのコックピット内にアルバを誘った。
両親たちに押されるアルバは押されるがままにACのコックピットに入った。なにも分からないままアルバがコックピットの座席に納まると、父親は「全部騙してごめんな、さようなら」と、母親は「ごめんなさい、でも全部私たちの生活のためなの」と言葉を放った。言葉では謝っているが、両親の声質と表情はどこか解放されたようなものを持っていた。
アルバは訳が分からず「え……」と呆気に取られた声を出した。瞬間、アルバの視界は暗闇に包まれた。アルバの両親が鉄塊と化したACのコックピットハッチを閉めたのだ。
「パパ! ママ!」
暗闇の中に閉じ込められたアルバはコックピット内で必死に開けようともがいた。しかし子供故に開け方も開けるほどの力もなく、コックピットハッチが開くことはなかった。
捨てられた。
虚しい感情が湧き上がる感覚を覚えたアルバは、なにもしないでコックピットの座席に座り込んだ。
どうにも出来ない状況。諦め。空腹。お腹の鳴る音。湧き上がる虚しい感情。捨てられたという事実。
それから何日も経った。
「死にたい……」
そう言った時だ。突然コックピットが開き、眩しい太陽の光りがアルバを照らした。アルバは手で眩しい光りを遮って、前を見た。すぐ目の前に人が二人。一人はアルバより年上の少年、そしてもう一人は顔にしわがある年配の女性だった。
年配の女性はアルバを哀れむように見つめている。年配の女性のすぐ横から少年が飛び出し、アルバに手を差し伸べた。
「引き上げるから手を掴んで」
「う、うん」
アルバは少年の手によってACから引き上げられた。アルバの目に前に堂々と立っている少年はニッコリと笑みを見せた。アルバはその笑顔がどうにも信頼出来ず、目の前に立っている少年から目を逸らした。
「ふーん、俺の名前はプリン=ハップだ。よろしくな」
これがプリンとサリアとの出会いだった。
※※
あの出会いから六年の月日が経った。この時点でアルバは十二歳だ。
六年間ずっとアルバはプリンと共にサリアの下で整備担当として働いていた。今ではすっかりプリンとサリアと打ち解けている。ただし、最も信頼していたのはなにも言わないACだった。
〝絶対に僕を裏切らず、見捨てず、守ってくれる存在〟
アルバはACをそういう存在だと信じていた。そしてその信頼は裏切られることがなかった。
そうやってアルバはUNACを手に入れた。自分だけの最強を作り上げるため、日々フォーミュラブレインのことに関して勉強を続けた。
「これ、これだよ!」
日々の積み重ねと閃きとでUNACに掛けるアルバの信頼は愛へと変わり、形を作った。
ユーラヌス1。それが最初に出来たUNACだ。そのUNACを元でにサリアから離れて傭兵団『ユーラヌス』を作った。
自分が作ったユーラヌス1のおかげで全てが上手くいった。アルバの愛は更に厚くなった。
それからもユーラヌス1は順調に事をこなしていった。しかもユーラヌスは数を増やしていく。
アルバの愛はもう人に向けられず、機械だけに向いた。
平気で残酷なことが出来る人間なんか絶滅しようがどうでも良い。与えられた役割を果たすという純粋な気持ちで動いている機械の方がよっぽど愛するのに向いている。そういう気持ちでアルバは生きていた。
※※
アルバは顔を上げて大型ヘリのキャノピー越しの景色を見つめた。どこまでも続きそうな砂漠と目を眩ませるほど輝く太陽がアルバの目に映る。
ピリエのことがふと頭の片隅に湧いて出た。
「なんで助けたんだろう……」と声に出て、助けた時の気持ちを振り返る。
「僕と似ていた?」
かつての自分と助けた際のピリエの様子を比べる。絶望。諦め。空虚な雰囲気。そうなっている理由は違えど出せば出すほど状態と雰囲気が似ていた。
「だから助けたんだ、僕」と独り呟いた。
「僕は……」
端末の画面に反射した自分の顔を見て、大型ヘリの揺れに身を任せた。
「僕は人間を愛さない」
そう言って、ふと思い出した記憶を閉じた。
この過去編を踏まえて次が最終話でございます。