ARMORED CORE VERDICT DAY ユーラヌスの人形たち 作:D-delta
高く昇った太陽は真上から第18支部防衛基地を照らす。
現在の時刻は昼。
アルバたちが基地内で機体の調整をしているのを余所にシリウス兵たちは着実にヴェニデの本拠地を叩く準備をしていた。
比較的損壊の少ない状態で手に入れた基地の外壁や設備を直していき、既に補給基地として機能しつつなるようになってきている。
シリウスのACとUNACは補給と修理が終わり、いつでも出撃出来る状態だ。
後は出撃指示が出るだけである。
「あのババァとガキはどうする?」
「あんな奴ら放っておけ」
簡易ブリーフィングルーム内で不機嫌そうな表情を浮かべたシリウスの女部隊長とそれを見てニヤニヤと笑っている後方部隊の若い男指揮官はヴェニデ本拠地攻略作戦のことに関して話している最中だった。
「さてと、俺と長く作戦を共にしてきた女部隊長さん――いや……ルーデル=アイゼン部隊長さんはヴェニデの本拠地をどう攻略する?」
「簡単だ。戦術と物量で押し切る」
「シンプルだねー。まぁそれでいいさ、シンプルならば余計なことを考えなくていい」
言い終えると指揮官は自前のコーヒーを口に含み、その苦くコクのある味を深く味わった。
そのコーヒーの苦いコクのある香りを嗅いで、不機嫌な表情から打って変わってニッコリと笑みを浮かべていた。
「俺のコーヒーと武器は人を笑顔にするためにある。ルーデルも飲め」
「お言葉に甘えてそうする」
マグカップを用意した指揮官はコーヒーポットからコーヒーを出してカップの中に淹れていき、それをルーデルに渡した。
ルーデルはあまり見せたことのない微笑みでコーヒーを受け取り、舌を火傷しないようにゆっくりと少しずつ飲んだ。
「お味はどうだ?」
「相変わらず程よく苦い」
指揮官とルーデルは共に笑顔を浮かべながらコーヒーを飲み交わした。
そして腕時計のアラームが鳴り始める。作戦開始の合図だ。
ルーデルは溜め息を吐いてコーヒーを置き、男指揮官の顔を見て「行ってくる。ここは任せた」と言い残して簡易ブリーフィングルームから出て行った。
「絶対に死ぬなよ」
簡易ブリーフィングルームに一人残された男指揮官はコーヒーを飲みながらボソリと呟いた。
※※
辺り一面に砂漠が広がっている。
その砂漠の中にはかつてあった建物が埋まっており、埋まった建物はこの砂漠一帯が元は街であったことを教えてくれる。
そしてその荒れ果てた街の末路である砂漠に黒い影が上を通り過ぎる。
黒い影の数は三十を軽く超えている。
「全機に告ぐ。これから我々はヴェニデの本拠地を叩く、こちらのACは有人機を含めて三十機以上だ。この数と我々の優れた戦術ならば、あの実力が高い優秀なヴェニデさえひれ伏すだろう。全機、気合を入れて行くぞ!!」
ルーデルの気合の
士気は高くなっていき、大型ヘリの集団の中にいる兵士とアーキテクトの気分が高揚していく。その気分の高揚こそが戦いに出る者の決して恐れない強さに繋がる。
それをルーデルは知っており、敢えて気合を籠った言葉を出した。
「後少しでヴェニデの本拠地……派手に攻略してやるぞ」
ルーデルは気分の高揚を押さえ切れず、複座で地図を広げて現在位置とヴェニデの本拠地の位置を確認する。
「後十km。そろそろか……!」
距離が近付くごとにニヤニヤが止まらなくなり、気分は更に高揚していく。
そしてルーデルの頭の中ではシリウスの放ったUNACとACがヴェニデの本拠地を焼いていくビジョンが映し出されていた。
自信に満ち溢れてきたルーデルは撤退や後退などの文字が頭から消え、勝つことだけが頭に入ってきた。
≪見えてきました! ヴェニデの本拠地です≫
シリウス兵の一人の報告を耳にしたルーデルは地図から目を離して、正面を見た。
遠くに見えてきたのは他の基地より数倍大きい基地。圧巻とも言えるほど巨大な基地であり、基地に設置された砲台の数も数倍多い。
ルーデルは内心「流石本拠地だ」と呟き、複座に掛けてあった双眼鏡で覗いた。
双眼鏡からマジマジと本拠地を見つめ、砲台の数、格納庫の数など基地の様子と構造を的確に把握していく。
「砲台が合計で百以上、格納庫の数は約三十だ。本拠地故に敵の数は圧倒的に多いが、我々には三十機以上のACがいる。それを信じて戦えば絶対に勝利は訪れる」
ルーデルは衣服に備え付けられた無線機をONにし、味方に把握した情報を伝えた。
それを聞いたシリウス兵たちは無線機越しに≪了解≫とその旨を伝えていく。
シリウスの部隊とヴェニデの本拠地との距離が縮まり、ゼロ距離まで残り六km。流石にここまで近付くとサイレンが鳴り響き始めた。
サイレンをきっかけに本拠地の砲台から次々と轟音が響いた。
その数秒後、ルーデルの搭乗した大型ヘリのすぐ真横を砲弾が飛んで行った。
「各員、ここで撃墜されるなよ!」
≪了解!≫
大型ヘリたちはそれぞれ回避行動を取り、飛んでくる砲弾を避けていく。
しかし回避するにも限界はあり、スナイパーキャノン型の砲台が砲弾を回避したばかりの大型ヘリを狙って轟音を立てた。
砲弾は見事大型ヘリを貫通。エンジン部をやられた大型ヘリは態勢を保てなくなり、吊り下げたUNACを切り離して地面に激突した。爆風と破壊音が響き、バラバラになった大型ヘリからは噴煙が上がった。無論搭乗者は爆発と衝突に巻き込まれて、大型ヘリと同じくバラバラになっている。
≪味方が一機やられました!≫
「ちっ!」
ルーデルは撃墜された味方機を双眼鏡で確認する。幸いUNACは無事なようであるが、そのすぐ数秒後に飛んできた砲弾がUNACを蜂の巣にした。
双眼鏡で覗くのをやめたルーデルは「大切な戦力が減ったか」と舌打ちをしながら呟き、まだ生きている味方と本拠地を見つめる。
砲弾の弾幕は凄まじくなるが、回避に気を向けている間にいつの間にか本拠地の上空に到達していた。
既に本拠地の上空にいることに気付いたルーデルはすかさず各機に投下を指示し、ACとUNACたちを基地内に投下させた。
「先ほどのお返しだ。たっぷり受け取れ、ヴェニデの野郎共」
ルーデルの言ったことが現実になっていくが如く、起動を開始した軽量二脚型のUNACとそれぞれカスタマイズされた有人機のACは大型ヘリたちを苦しめた砲台を次々と破壊。砲台を破壊され、慌てて展開している一般兵器たちは投下されたUNACと有人機のACの場所へと向かって行く。
「敵の一般兵器が動き出した。注意されたし」
≪こちらエコー1、了解≫
ルーデルは本拠地の上空から戦場の監視役になり、上空から地上の様子を各員に伝えた。
聞き入れたエコー1は向かってくる戦車の集団に自身の乗機である中量二脚型の持つ三千発以上のあるガトリングを乱射。放たれた弾丸は鼓膜を破る勢いの轟音と共に戦車の装甲に当たっていく。戦車の装甲はACと比較してそこまでないが、ガトリングの弾丸を弾き返すほどはあり、弾丸を次々と弾いていった。
≪なるほど、ちゃんと作られている戦車だな。ならばこれはどうだ≫
エコー1はKE型のハイスピードミサイルを発射。
飛んでいくミサイルは砲弾を放ちつつ一番前を前進する戦車に直撃。爆音を立てて、砲塔部は宙に吹き飛んだ。
そのままエコー1はガトリングとハイスピードミサイルによる猛攻撃を続け、前進し続ける戦車たちを丸焦げにした。
≪こちらエコー1、戦車を排除した。次へ向かう≫
「了解、エコー1。次の目標に向かってくれ」
向かってくる戦車の集団を撃破したエコー1は次の目標へと向かう。
ルーデルは上空から戦場を監視し、次に目に付いたのはUNACの戦っている姿だ。
UNACは防御型を相手に取っており、その数はUNACが四機、防御型が二十二機だ。数では圧倒的に不利だが、性能は圧倒的にUNACの方が勝っていた。そしてUNAC側は固まって交戦しているため、防御型を容易く撃破していった。
敵ACはまだ出てきていないが本拠地の攻略は着実に進んでいる。
ルーデルはそう確信していた。
「敵の格納庫が開いた。いよいよ敵ACのおでましだぞ!」
≪了解!≫
本拠地の格納庫が開き、ACのシルエットを確認したルーデルは急ぎ情報共有を行った。
格納庫から敵ACが飛び出した。
数はたったの一機。中量二脚型のACだが、その機体は量産的なものではなく、かなりカスタムされていた。
かのブルーマグノリアの使用していた頭部とコアを有し、CEに耐性を持つ初期型の腕部、標準的な中量二脚、武装はライフルとヒートマシンガン、ハンガーユニットに対戦車弾を詰め込んだパイルバンカーと丸のこのような形をしたレーザーブレードを搭載している。
そして禍々しいまでの赤いカラーと『エル・ヴェニデ』と英語表記で書かれた赤いエンブレムを施されている。
「『エル・ヴェニデ』だと……奴は親衛隊か! 全機気を付けろ、格納庫から出てきたのは親衛隊様の機体だ!」
≪親衛隊か……!≫
緊張が走る。
ヴェニデの親衛隊『エル・ヴェニデ』はただでさえ強者が多いヴェニデから更に強者を選び抜かれた存在であり、敵にしてみれば恐ろしい存在だ。その力は一騎当千とも言われれば、たった一機で戦局を変えるとも言われている。
それほど恐ろしい存在が彼らの前に現れた。
≪こちらエコー1! 親衛隊のACと接触、交戦を開始する!≫
エコー1が親衛隊のACと交戦を開始。
しかし、交戦を開始したのもつかの間。親衛隊のACは人の目に追いつかないぐらいの超機動でエコー1と距離を詰め、コアにブーストチャージをくらわした。吹き飛んだエコー1は攻撃する隙を与えられず、親衛隊のACの肩部に搭載されたCE小型ミサイルとライフル、ヒートマシンガンによる一斉射撃によって十秒とかからずに爆散した。
「エコー1ロスト……化け物め! UNACによる数押しで行け!」
≪了解しました。UNACに標的指示を行います≫
上空からUNACの様子を見ているアーキテクトはUNACの標的を親衛隊のACに向けさせる指示を行い、UNACたちは親衛隊のACへと前進した。
親衛隊のACもUNACたちへと前進する。しかしそのスピードは恐ろしいものであり、他の機体より異常にスピードが出ていた。まるで人間ではない者が操縦しているように見える。
≪U1、敵AC発見。中量二脚≫
UNACが親衛隊のACと交戦を開始。
UNACたちは親衛隊のACと交戦を開始したと同時に攻撃をハンドガンとパルスマシンガンによる一斉攻撃を開始した。それも四機同時による一斉射撃だ。一斉射撃は弾幕を形成していき、親衛隊のACに弾幕が殺到した。
しかし、親衛隊のACはそれを全て避けた。無論、弾の一つ一つを避けた訳ではない。あり得ないスピードで弾幕の射線から逃げたのだ。
「嘘だろ……いくら親衛隊でもあの攻撃を避けられるはずがない。そもそもあのACに人間は乗っているのか?」
ルーデルは上空から親衛隊の動きをマジマジと監視していた。その動きは明らかに人間のものではない。いくら操縦センスが良くても通常のACより二倍以上速いなど出来るはずがないのだ。
「新手のAI機か、はたまた例の『強化兵士』という奴か」
『強化兵士』。別名『強化人間』。ヴェニデが人工的に作り上げた最強の兵士。改造手術により、臓器や骨格などを人工的なものに変えることによって兵士単体の戦闘力を飛躍的に上げることが出来るのだ。
しかしこの『強化兵士』にする改造手術は実験段階のもので、適応性に優れた子供しか実験に使われていない上にここ最近の調査で発見した『強化兵士』に関する施設は全て放棄されていた。
「まさか、実験は中止されてないのか」
上空から監視を続けるルーデルは『強化兵士』の報告書と施設調査の時を思い出しながら親衛隊のACに目を凝らし、『強化兵士』が乗っていることを疑った。
ルーデルも『強化兵士』の調査を行った者の一人だ。やっと見つけたという思いと敵として出会ってしまったという恐怖心がこみ上げていた。
「施設が放棄されても実験は続けられる。場所とそれを支える科学者があれば可能なことだ。他の関連施設をダミーとして扱い、本拠地を施設の代わりとしてそこで実験していたとはな。なるほど、通りで見つけられなかった訳だ」
ルーデルは一人納得した状態で親衛隊のACを見つめた。
親衛隊のACは既にUNACの一個小隊を全滅させている。しかも親衛隊のACの装甲には弾痕が一切ない。一回も被弾していない証拠である。
「勝てる訳がないんだ……相手はただの人間じゃないんだから」
ルーデルは諦めた様子で上空から監視していた。もはや撤退を決意してしまいたいくらいにルーデルは諦めていた。
そんなルーデルの気持ちを余所にまた一個小隊のUNACが親衛隊のACに近付く。
親衛隊のACはUNACの行動パターンを読めるようになってきたのか、その異常なスピードをフルに活かし、UNACの照準が届かない上を取った。
そこから一方的な攻撃が始まる。ライフルとヒートマシンガン、CE小型ミサイルによる一斉攻撃がUNACたちに降り注ぐ。
「これが本物の一騎当千を相手にする気持ちなのか……」
UNACは次々と大破していき、親衛隊のACは次の獲物を求めてブースターを吹かした。
一瞬ルーデルの脳裏にあのACの弾薬を尽かせれば勝てるのではないか? と過った。
それに賭けようとしたが、それは自分が預かっている部隊を危険に晒すことだと思いとどまった。
「くそっ、ここまで順調に進んでおきながら撤退とは……仕方なしか」
ルーデルは悔しい気持ちをいっぱいにして無線機で「ここは撤退する、これ以上戦力を無駄に消費する訳にはいかない」と伝えた。
無線機から次々≪了解≫と告げられ、UNACも有人機のACも撤退を開始した。
撤退する場合のために指定された座標へと味方が向かって行く。
ルーデルは味方が指定座標に移動するまで上空から監視を続けた。
親衛隊のACは撤退するUNACと有人機のACを追わず、ただ見ていた。
「去る者は追わず……か」
親衛隊のACはただ立ち尽くし、撤退するシリウスのACたちを見つめている。
その様子にルーデルはホッとしていた。背を見せている今を追撃されたら確実に全滅させられるからだ。
≪こちらエコー3、目標地点に着いた。回収を頼む≫
無線機越しから聞こえてきたエコー3の声を最後にルーデルの乗った大型ヘリはヴェニデの本拠地から離れた。
「必ずこの借りは返してやる。次は勝つ」
去り際にルーデルは呟き、再攻撃の案を練り始めた。
※※
「さぁてと、僕たちはどうする?」
「しばらくここで待っていようぜ。シリウスの女部隊長さんからまた依頼が来るかもしれないしよ」
「そう簡単に来るのかねー」
ユーラヌス1の修理をし終えたアルバ、プリン、サリアは指揮車両の作戦室で水を飲みながらシリウスからの指示が来るまで待っていた。
既に第18支部防衛基地はシリウスのものであり、アルバたちは勝手に基地に常駐していることになる。そういうことも踏まえてシリウスから追い出されるか依頼が来るのを待っていた。
そしてシリウスからなにも指示がないまま三時間が経った。
退屈していた三人の耳に大型ヘリの特徴的なうるさいローター音が入ってきた。
「帰って来たな」
「ようやくだね」
「遅かったじゃないのさ」
アルバとプリンは指揮車両の扉を開けて、外へ出たサリアは作戦室のイスに座ったまま外の様子を覗いた。
三人の目に映ったのはシリウスの大型ヘリが着陸する姿だ。
しかしその大型ヘリたちには弾痕の跡やなにかをぶつけたような傷が無数に付いていた。
中には中破したACを運んでいる大型ヘリの姿もあった。
「凄い傷……」
「随分と派手にやられてきたな」
アルバとプリンは戻ってきた大型ヘリやACを見つめ、呟いていた。
部隊が戻ってきて基地内は騒がしくなり、被弾した大型ヘリの補修やACの修理のためにシリウスの兵士たちはアルバとプリンの周りを走っていった。
「忙しそうだね」
「ここにいたら邪魔だし、車両に戻るか」
アルバとプリンは忙しい現場から去るように指揮車両に戻ろうと足を進める。
戻ろうとした時、遅れて戻ってきた一機の大型ヘリが指揮車両の近くに止まった。操縦席と複座のハッチが開き、中からヘリパイロットとルーデルが降りてきた。
アルバとプリンは察したようにルーデルの方に向いた。
ルーデルも察したようにアルバとプリンの方に歩き、面と面を向かって口を開いた。
「頼みたい依頼がある。貴様たちならやってくれるだろう?」
「あぁ、喜んでやるよ」
「そのために僕たちはずっとここで待っていたんだから!」
待っていましたと言わんばかりにアルバは笑顔になり、プリンは微笑んだ。
ルーデルは握手を二人に求め、二人は握手を受け入れ、握手を交わした。
アルバとプリンは新しい依頼を引き受けた。