ARMORED CORE VERDICT DAY ユーラヌスの人形たち 作:D-delta
理由としてはそれが主な要素じゃないからです。一部描写としては入っているんですけどね……(・ω・;)
本拠地はヴェニデの色からシリウスの色に塗り替えられた。
その色替えはシリウスが本拠地を奪った明確な証拠である。
シリウスのUNACは基地の辺りを偵察し、本拠地にもう戦力が残っていないか確認している。
変わってシリウス兵たちは基地に残った敵を排除、又は捕虜にしていた。
その一方で大型ヘリから降りてきたアルバとプリンは自分たちのボロボロになった機体を確認していた。
「依頼を完了したはいいけど……これじゃあな」
「そうだね。これだけ壊れていると、新しい機体が必要になるよ。AIを制御するためのフォーミュラブレインも壊れちゃっているし」
アルバはユーラヌスたちのフォーミュラブレインを取り出した。損傷具合は酷く、修復不可能なほど破損していた。おまけにデータ回収の際に必要な接続端子も熱で溶けてデータを吸い出せなくなっていた。
ユーラヌスたちのフォーミュラブレインを諦めたアルバは、ユーラヌスたちのフォーミュラブレインを地面に捨てた。
プリンも諦めた顔で損傷の酷いフォーミュラブレインが捨てられる瞬間をただ見ていた。
「アルバ、あの女部隊長さんに報酬としてUNACを頼んでみるよ。それでまた新しく始めよう」
「うん。頼んだよ、プリン」
「あぁ、任せてくれ!」
そう意気込んでプリンは早速ルーデルのところへと急いだ。
アルバは急ぐプリンの後ろを付いて行く。しかしその顔は下を向いており、先ほど目の合った少女のことが気になっていた。
「あの女の子が、『強化兵士』」と、目の合った少女を思い出しながらボソリと呟いた。
※※
バシンッと音が部屋中に響いた。
部屋はコンクリートの壁で固く閉ざされており、照明はたった一個のみ。その上部屋の照明はそこまで明るくない。照らす範囲は照明の真下だけであり、丁度真下には傷だらけの少女が座っている。照明はその座っている少女だけを照らした。
まさしく尋問部屋だ。
ルーデルは自害した研究者の代わりに『強化兵士』である少女を尋問していた。
「お前の名前はなんだ、言え」
ルーデルは照明の光りが届かない暗闇から座っている少女にキツイ口調で質問を投げかけた。
少女は金髪のショートヘアーを微かに揺らしながら口を開かず、虚ろな目を下に向けたままにして黙っていた。
その黙りっぱなしな様子にルーデルは怒りをこみ上げさせていた。
「お前の名前はなんだ! お前は〝何番目〟なんだ!? 言え!!」
ルーデルの怒気を孕んだ声に少女は微かに反応したようで、ボソボソと口を開いた。
「〝三番目〟……私より後の人はたぶんみんな適性試験で死んでる」
少女は視線を左右に行き来させながら弱ったような声で話した。
その声でもお構いなしで、ルーデルは立て続けに質問を続ける。
「お前はこの基地でなにをしていた?」
「練習……」
「なんの練習だ!」
怒気を孕んだルーデルの声が部屋中に響く。
少女は怒気を孕んだ声に大した反応をせず、顔を
情報を中々引き出せないことにイライラしているルーデルは少女の顔を掴み上げ、迫力のある表情で少女と目を合わせた。
「敵に勝つ、練習……」
「それ以外は!」
「ずっと練習だけしてた……」
ルーデルは少女の顔から手を離す。
少女は再度顔を俯かせ、虚ろな目を暗い床に向けた。
「またここに来る。その時に全部吐かなければお前を殺す」
ルーデルは拳銃の安全装置を解除、拳銃の銃口を少女の頭に向けた。
しかし少女は死に怯える様子を見せなかった。怯えるどころか少女は拳銃から弾丸を求めるように銃口を見つめた。
「殺して……まだ人でいたいの」
「全部吐いた後でお前を殺してやろう……ではまた後で」
ルーデルは拳銃の安全装置を作動させ、ホルスターに収めた。
少女の死を求める姿に困惑しながらルーデルは尋問部屋から出た。
「可哀そうな存在だ、あの若さで死を求めるなんて」
ボソリと呟き、ドア越しにいる少女を心配したルーデルは尋問部屋から離れるように廊下を歩いた。
※※
空が暗くなっていく。
太陽は沈み、代わりに月と何光年も離れた星々が現れる。
夜が訪れたのだ。
アルバとプリンは今回の報酬の件で簡易的なブリーフィングルームに訪れていた。
「あれれ?」
「いないな、どこに行ったのかな?」
二人がブリーフィングルームに訪れたのは良いもののルーデルの姿が見えなかった。
アルバはひょこっとブリーフィングルームの入り口から顔を出して、一度外を確認した。アルバの目に見えるのは辺りで作業をしているシリウス兵やアーキテクトたちだけだ。
「まさか、逃げちゃった?」
「逃げたら俺が必ず探しだしてやるさ」
アルバの言ったことにプリンは自信を持って返した。
アルバは顔を引っ込める。
二人は仕方ない、といった様子でルーデルが来るのを待った。
待って二十分後。ようやくブリーフィングルームにルーデルがやって来た。
「あ、来た来た」
「逃げたかと思ったが、安心したぜ」
二人のそんな言い様にルーデルは溜め息を漏らし、手に持った袋をブリーフィングルームの中心にあるテーブルの上に置いた。
「逃げる訳がないだろう、私はシリウスの貴公子と呼ばれているのだ。しっかり仕事をこなした者に報酬を渡さないほど愚かではない」
「それを聞いて尚更安心したぜ」
「ふ、さて今回の報酬はこれだ。納得してくれるか?」
ルーデルは袋を開き、中身をアルバとプリンに見せた。
中身は通貨として扱える札束が平均量あった。
二人はその札束の量に不満を持った。どう考えても戦果に見合った報酬じゃないのだ。戦果に見合った報酬ならばその袋が満杯になるくらい札束が入っている。不満を持って当たり前のことだ。
「え……これだけ?」
「悪いが、納得出来ないな」
「ではどうすれば納得してもらえるのだ?」
ルーデルは提示した報酬に納得しない二人に
アルバは考えるように黙ってしまうが、プリンはすぐに口を開いた。
「追加としてそちらのUNACを譲ってほしい。それなら納得出来る」
プリンは早速報酬としてUNACを譲るよう、尋ねた。報酬が小さいのだから譲ってくれるだろうとプリンは思っていた。
ルーデルは目を細めて厳しい表情を作り出し、『ユーラヌス』に戦力がないことをいいことに「駄目だ」と返答した。
その返答にどうにも納得出来ないプリンは報酬の話を続けた。
「俺たちはそちらが依頼してきた基地攻略にかなり貢献したんだ。その貢献を
プリンの挑発的な話をルーデルはただ黙って聞いた。
そしてルーデルは厳しい表情のまま「あれは我々の大事な戦力だ。貴様たちに渡すほど数は余っていない」とプリンに言い放った。
「なぜだ? 俺たちはそちらの戦力の消耗も防いでやったんだぞ?」
「それでもだ。我々は組織として動いている、私個人の意見では貴様たちにUNACを譲ることは出来ない」
必死に説得するが、ルーデルの頑固とした対応にプリンは黙り込んだ。
いくら話しても無駄だと分かったプリンは報酬の入った袋を握り絞め、ブリーフィングルームから出て行った。
アルバは反射的にプリンに付いて行こうとしたが、ふと目の合った少女のことを思い出して立ち止った。
「ねぇ、女部隊長さん。あの女の子はどこにいるの?」
「あの少女は我々の戦力にする予定だ。お前のようなガキ傭兵に答えるはずないだろう」
「……分かった」
ルーデルの言い方にカチンと来るものはあるもののアルバは冷静になって、ブリーフィングルームから出た。
ブリーフィングルームの外ではプリンが待っており、プリンはアルバの頭を撫でた。
「ん……急になに?」
「よく大人相手にがんばって交渉したな、よしよし」
「ふ、ふふん! 僕だってやれば出来るもん!」
アルバの表情は自然と笑顔になり、ブリーフィングルームで見せていた堅い表情はなくなっていた。
十分にアルバを撫でたプリンは基地の通信設備に向かった。
今はUNACも大型ヘリもない状況であり、移動手段がない。そのためにサリアおばあちゃんに通信で連絡を取り、迎えに来てもらおうとプリンは考えていた。
「おばあちゃんに迎えに来てもらわないとな、通信設備を借りよう」
「そうだね」
アルバは先に歩くプリンの後ろを付いて行き、数分歩いて通信設備に着いた。
二人は通信設備の扉をノックする。
通信設備の入り口からドタドタとなにか急いでいるような音を出し、すぐに扉が開いた。扉から出てきたのはなにか慌てているシリウス兵だ。
「どうした!? って、ガキ傭兵共か」
「悪かったな、シリウス関係者じゃなくて」
「いや、今はお前らの方が俺にとって都合が良い」
「どうしてだ?」
訊いたプリンに、シリウス兵は机に置かれているゲーム機に親指を差した。
机に置かれているゲーム機を見たプリンは「なるほど」と納得して、なぜ慌てていたかを理解した。
「つまりサボって遊んでいたと」
「おいまて、俺はサボってないぞ。効率よく楽しみながら警備を続けていたんだ」
「あの女部隊長さん相手にその言い訳は通じなさそうだな。まぁそれは置いといて通信設備を借りて良いか?」
「敵対勢力に連絡を取らないと約束をしてくれるなら」
プリンは「敵になんて連絡取らないよ」と、苦笑交じりに言った。
その言葉を信じるようにシリウス兵は「なら、使って良い」と言って、プリンに通信機器を貸した。
「ありがとう」
「おう、どういたまして」
軽く応答した後、プリンは早速通信機器の周波数をサリアおばあちゃんがいつも使っている周波数に合わせた。口にマイクを近づけて、サリアおばあちゃんに話しかけた。
返事がなかったが、しばらく返事が返ってきた。
「はいよ、どちらさまで?」
「ようやく伝わったか。ババァ、迎えに来てくれ」
「おや、プリンかい。迎いに行ってやるよ。位置情報を寄越しな」
サリアおばあちゃんの指示する声が聞こえてくると、プリンは端末から位置情報を飛ばした。
そこから数分、サリアおばあちゃんから返事が返ってきた。
「位置を確認した。着くのは今から三時間後だ、それまでそこでのんびりしてな」
「了解、ババァ。通信終了」
プリンは通信機器の周波数を元に戻し、通信機器から離れた。
シリウス兵はそれを見計らったように通信機器近くにあるイスに腰掛けた。
「終わったか?」
「あぁ、終わった」
「お前らに通信機器を貸したこと、俺がここでゲームしていたこと、全部内緒だからな?」
「分かっている。言わないよ」
軽い約束事をして、プリンとアルバは通信設備を後にした。
二人はしばらく基地を見学した。
格納庫に、大型ヘリ、基地内は二人の目に見慣れたものばかりだ。
「なんか退屈だね」
「規模は違うけど他の基地と同じだな。さてどうしたものか、なんか珍しいものはないかな?」
「そういえば……あの女の子はどこにいるんだろう?」
アルバはふと女の子を思い出す。あの圧倒的な強さを持っているACのパイロットとは思えない見た目となにかに絶望しているような虚ろな目がアルバの記憶に印象的に残っており、会って話しをしてみたいという興味が強まっていた。
そんなアルバの気持ちに察してプリンは「会いに行くか?」とアルバに声を掛けた。
「でも、どこにいるか分かる?」
「おおよそは分かるよ。大事なものを隠すのは地下と相場が決まっているからな」
納得したようにアルバは相づちを打った。
二人は早速地下に続く道を探しに向かう。
しばらく歩いていると、自動小銃を持ったシリウス兵が警備している格納庫が二人の目に入ってきた。
「アルバ、ここで待っていろ」と言ったプリンは丁度陰になっている場所にアルバを待たせて格納庫に歩いて行き、シリウス兵の一人に話しかけた。
「この格納庫にはなにがあるんだ?」
「悪いが答えることは出来ない」
シリウス兵は警戒するように眉間にしわを寄せて、プリンの質問を易々と受け流した。
受け流されようとプリンは諦めず、立て続けに尋ねた。
「そんなこと言わないで教えてくれよ、な?」
「しつこいと殺すぞ」
その言葉と共にシリウス兵が持つ自動小銃の安全装置が解除される音が鳴った。いわゆる警告だ。
プリンは察して三度目は尋ねず、一度アルバが待っている場所まで戻った。
プリンの口がアルバに近付く。プリンはそのままこそこそと話し始めた。
「たぶんだが、あの格納庫が怪しい。警備の兵士は絶対通してくれないだろうな。だから俺に作戦がある。やってくれるか?」
「分かった。その作戦を早く聞かせて」
アルバの返事を聞いたプリンはこそこそと話しを続けた。
しばらくして二人は行動に移った。
プリンは建物の陰から格納庫で警備をしているシリウス兵たちを監視、アルバはこそこそと陰を移動して格納庫に近付いた。
警備をしているシリウス兵の目がアルバに向こうとする瞬間、プリンは建物の陰から手を出してアルバに合図を送った。合図を受け取ったアルバはすぐに身を隠し、やり過ごす。
「異常なし」
シリウス兵はそう言ってアルバが身を隠しいている場所から目を離した。
それを見計らってプリンはもう一度合図を送る。合図を見たアルバは格納庫に慎重に近付き、格納庫の配電盤のある場所に辿り着けた。
ポケットから工具を取り出したアルバは配電盤の
「おい、なんだ?」
配電盤をいじった影響で格納庫の扉が勝手に開き始める。そのことにシリウス兵たちは慌てて格納庫内の警備を強めた。
それは見計らってプリンは隠し持っていた9mm拳銃を発砲した。
急な発砲音に反応したシリウス兵たちは数人を発砲音のした場所にまで駆り出す。数人のシリウス兵が近付いてくるのを確認したプリンは隠れていた場所を離れた。
「上手くいってる、でも見つからないようにしないと」
アルバは隙を見つけて格納庫内に入り、すぐに付近の物陰に隠れた。
シリウス兵はアルバが格納庫内に入ったことに気付かずに、手動で格納庫の扉を閉めた。
格納庫の閉まる音がアルバの耳に入ってくると、物陰から顔を出して周りを確認する。辺りには誰もいない。そう分かるとアルバは物陰から出て、格納庫の探索を始めた。
「地下に繋がる場所はどこかなー? って、うわぁ……」
格納庫の探索を始めてすぐに目に入ってきたのは、ユーラヌスたちと激戦を繰り広げた少女のACだ。しかしそのACはボロボロになったままの状態でハンガーに固定されていた。
「修理してないなんてこの子が可哀そう……」
ボロボロになったままのACを見て修理したい気持ちが強まったアルバは手持ちの工具を取り出す。
作戦はプリンを囮に使い、その間にアルバが少女に会うという作戦だった。が、少女が乗っていたACの修理は作戦の内には入っていない。
「僕が今修理してあげるから、待っててね」
アルバは手持ちの工具で出来る限りの修理を始めた。手持ちの工具で出来る修理では、コックピット周りの修理しか出来ず、それでも修理を開始した。
アルバの気持ちは少しでも直してやりたいというのでいっぱいだった。
「ここをこうして、と」
アルバの修理は手短なものだ。コックピットの壊れた電子機器の配線を直し、コックピット周りの軽い装甲を繋ぎとめる。そしてジェネレーターの損傷具合を確認し、出来る限りの範囲の修理でどうにか十分稼働出来るところまで修理出来た。ただし、その損傷具合から稼働出来るのはほんの数分だけだ。
「これで少しは良くなったかな? なんか普通のACには付いていないものもあったけど」
疑問に残ることはあるものの、とりあえずアルバはニッコリとACに対して笑みを向けた。機械であるACはなにも言わず、ただハンガーに固定されている。感謝の言葉もない。それでもアルバはニコニコと笑みを向けた。
そしてアッと声を上げて本来の目的を思い出し、地下への入り口を探した。
「んー、ん?」
ACが固定されているハンガーの近くに地下への入り口らしきマンホールがあり、それをアルバは凝視した。疑いが確信に変わると、アルバはすぐにそのマンホールをなんとか開いた。開くと、下が見えないほどの暗闇が広がっていた。
「うわーこれは見えない……ま、まぁはしごもあるし、怖くない怖くない」
アルバははしごを使って地下へと降りる。しかしアルバの手は暗闇の怖さでプルプルと震えており、はしごで降りるのは困難だった。が、怖いながらもなんとか降り切った。
「ふー! ふー! お化けなんていないさ、お化けなんて嘘さー!」
声を大きくして歌い、怖さを和らげる。だが、そこで水滴が落ちる音が響いた。
「ひぃ!!」
たった一滴の落ちる音を境にしてアルバが抑えていた暗闇への恐怖感が一層増し、怖いが故に一気に走り出した。
ドタバタと走り続ける。あまりの恐怖感にシリウス兵に見つかってはいけないなど忘れてしまい、とにかく光りがある場所まで走り続けた。
走り続けていると、やっと恐怖感を和らげてくれる光りのある場所に辿り着いた。アルバはそこで息を切らし、膝に手を付いた。
「ここ、はぁはぁ、どこだろう?」
息を切らしながら辺りを見渡すと扉が一つあった。
アルバはその扉に向かい、ドアノブに手を掛ける。そしてゆっくり開いた。
扉の先にある室内は薄暗く、イスに座っている人影がある。
「そこにいるの、誰?」
アルバが人影に話しかける。
人影はなにも返事を返さず、俯いている。
「怖いけど、行ってみよう」
アルバは恐る恐る室内に足を踏み入れる。
ゆっくり人影に近付くと、金髪がアルバの目にハッキリ入ってきた。目が合ったあの少女だと確認出来たのだ。
「あ、あの僕、アルバ=ユーラヌスって言うの。えーと、よろしくね」
アルバの自己紹介に反応して、少女は顔を上げた。そして目と目があった。
片方は子犬のような幼い目。もう片方は絶望を抱えた光りのない虚ろな目。
アルバは少女の目の前にしゃがんだ。少女はアルバと目を合わせ続ける。
「なんでここに子供が?」
少女は不思議そうに言う。
アルバはニッコリと笑みを少女に向ける。その笑みに対して少女は頭を傾げた。
「僕はえーと、お姉ちゃん? に会いに来たの」
「なんで、私なんかと……」
「だってお姉ちゃんは強いのに辛そうにしているんだもん」
「辛くなんかない、痛くもないの」
アルバはその言葉に対して「嘘」と言う。
少女は嘘だと認めるように小さく頷いた。
中々会話が弾まず、アルバはふと良からぬことを思い付いた。
「……ね、ねぇ、ここから出てみる?」
少女を連れて行く。それがアルバの思い付いたことだ。
しかしそれはシリウスから最高戦力になるかもしれない人物を奪い取ることを意味している。
アルバはそういう意味にもなるとは知らない。
「出れるの?」
少女の目に少し光りが戻り、その目はアルバの顔を見つめた。
「うん!」と後先考えずにアルバの口から先に言葉が出た。
少女はイスから立ち上がる。
アルバより身長が高く、すらりとしたスレンダーな身体をした少女はアルバを見下ろした。
「こっちに来て」
そう言ってアルバは少女を連れ出し、暗闇が広がる道を戻る。
しかし暗闇に対する恐怖感は取れず、子犬のようにビクビクと震えた。そんなアルバの様子に、少女はアルバの手を掴んだ。
「え?」
「私が付いているから大丈夫よ」
少女の顔に優しそうな表情が表れる。
アルバはその表情を見て落ち着いていき、少女の手を握った。
そのままアルバははしごの場所まで戻り、はしごを上った。少女はアルバの後ろを付いて行く。
「誰も格納庫にいないよね」
アルバは顔だけ出して周りを確認。シリウス兵がいないと分かると、はしごを上り切った。
少女もアルバに続いてはしごを上り切った。
「私の機体……」
「あ、一応僕が直しておいたよ。ほんの一部だけど」
アルバは苦笑交じりに話すが、少女は笑うことなく真剣な顔で「直さないで……私はもう化け物になりたくない」と話した。
「せっかく直したのに……」とアルバは残念そうに顔を俯けた。
「貴様ら! なぜそこにいる!」
アルバと少女ではない男の声が格納庫中に響き渡った。
アルバが声のした方向に目を向けると、そこにはプリンを捕まえているシリウス兵たちが銃口をアルバと少女に向けている姿があった。
「プリン!!」
「逃げるのに失敗しちまったぜ……」
プリンは舌を切った影響で口から血を流しながら苦し紛れに笑って言った。
そんな二人を余所にシリウス兵は手に持った自動小銃の銃口はアルバに向け、発砲した。発砲音が響く。
「!!!」
「アルバ……!」
放たれた弾丸がアルバの右肩を貫く。微量の肉片と血がアルバの肩から吹き飛び、肉片は床を血で汚しながら転がり、血は壁にこびり付いた。
弾丸を放たれて一瞬の出来事。
アルバは焼けるような痛みを右肩に感じながらなんとか耐えた。
「アルバ、逃げ――」
プリンの声がかき消されるようにもう一度発砲音が響く。
放たれた弾丸はアルバの頬を掠った。頬からは少量の血が流れる。
また発砲音が響く。放たれた弾丸は真っ直ぐアルバの心臓目掛けて飛んでいく。
三度目の正直。これでアルバは死ぬ。
普通なら死は免れないだろう。
だが、アルバは死を免れた。
「……」
アルバの心臓目掛けて飛んで行った弾丸は少女の手の中にあった。
少女は手を開き、手で止めた弾丸を床に落とした。
シリウス兵は目を見開いて驚愕していた。
「化け物め!」
自動小銃の銃口が一斉に少女に向けられた。
今の少女の目は虚ろな目などしていない。その目には光りが宿り、誰かを守るという使命によって輝いていた。
「俺を救ってくれた大切な友を救うためならば、この命捨ててやるぞ……か」
そう呟きながら少女はポケットの中に入っている、とある剣豪が乗っていたACの音声データが入ったボイスレコーダーを強く握り絞める。
強い決意と誰かを救うという心が宿った少女は負傷したアルバを抱え、7mほどもある大ジャンプを繰り出してボロボロのACに乗り込んだ。抱えている人間がまだ子供とはいえ、その動きは人間ではない。
「
少女はアルバを抱えながらコックピットシートから突き出ている神経接続用のプラグに少女自身の背中にあるプラグ接続口を繋いだ。
少女の頭に機体情報、FCS、機体の各パーツの情報が一気に流れ込む。
「うっ……! 行くわよ、
少女は咄嗟にACの名前を決めて、操縦桿を前に倒した。
カクタスは前進を始める。当然前にいるシリウス兵は踏まれまいとACの移動ルートから逃げた。
それを良いことに少女は手足を動かすように器用な操作でプリンを拾い上げ、窮屈なコックピット内に入れた。
少女にとって必要な人間が入ったことにより、コックピットハッチは閉まった。
「一気に加速するわ、二人共舌を噛まないでね?」
「え!?」
「おいおいおい、あのヤバいスピードで加速するのか!? それはいくらなんでも――!」
プリンが言い終わる前に少女はフットペダルを踏んで、パイロットを殺すつもりでいる加速性能を持つブースターによって一気に加速を始める。
そのスピードは音速を超えそうな勢いを持っている。
他人の目から見たらそのスピードは化け物クラスだ。しかし中のパイロットに掛る負担も化け物クラスである。少女は平然とその負担を耐えていたが、アルバとプリンは気を失いそうになっていた。
「もうここになんかいたくない、ここから逃げるよ」
「しょ、しょうだね……」
「だ、だったら、ババァのヘリと合流した方が……それならかなりの距離まで逃げられるはずだ」
アルバとプリンは異常なほどに掛る負担に耐えながら話した。
プリンの言ったことが気になった少女は「どのヘリ?」と訊いた。
プリンはすかさず「この基地に向かって単独で飛んでくる大型ヘリだ」と答えた。
「よし、それなら一気に加速。オーバードブースト起動!」
少女の声に反応したカクタスはコアに隠された内臓ブースターの姿を現せる。これでブースターの数は外部と内臓で計八つになった。
「なにそのブースター!?」
「え、まだ加速すんの!? これ以上加速したら俺たちバターになっちまうぞ――!!!」
またもプリンが言い終わる前に機体が一気に加速を始める。その加速は計八つによる爆発的で凄まじい加速だ。
加速によるスピードは簡単に音速を超えた。
その加速によってあっという間に本拠地内を駆けた。通信設備を数秒も掛からず通り過ぎ、シリウスの大型ヘリたちが止まっている場所をたった数秒で通り抜ける。
そして本拠地から離れた。
「基地から離れた。後は合流だけ!」
「も、もう、僕ダメ」
「ゲロ吐きそうだぜ……」
アルバは遂に気を失い、プリンは吐き気を催すも吐くのを我慢した。二人がそういう状況に対して少女は平然としている。
カクタスは音速を超える加速を続け、遠くから単独で来る大型ヘリの下で加速を停止。コックピットハッチを開ける。コックピット内からはなんとか加速に耐えてみせたプリンが出てきた。
「これは大変なことになるな……ババァに怒られそうだ」
そう言って困り果てたプリンはカクタスの近くに着陸してくるサリアおばあちゃんの大型ヘリを眺めていた。
久しぶりに長くなってしまいました。