ARMORED CORE VERDICT DAY ユーラヌスの人形たち   作:D-delta

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記録8

 シリウスのものと成り果てたヴェニデの本拠地は『強化兵士』と二人の傭兵によって起こされた騒ぎで総員出撃の警報が鳴らされていた。

 出撃を待っていた大型ヘリはその特徴的でうるさいローター音を響かせながら上昇を始める。それも一機や二機だけではなく、数十機の大型ヘリが飛び立っていた。

 大型ヘリの内半分はACを輸送し、もう半分はオートキャノン等の重装備を施されている。

 シリウス兵は逃げた『強化兵士』を追い始める。

 

 

※※

 

 

「アルちゃん!」と大型ヘリを着陸させたサリアは肩に負傷して気絶しているアルバをコックピットからすぐに出し、自身の大型ヘリに移した。そのままサリアは複座に置いてある応急キットを取り出して応急処置をアルバに施した。

 すぐに応急処置したため、幸い出血を抑えられた。これで出血多量によっての影響を回避出来る。

 

「ババァ……アルバは、大丈夫か?」

 

 プリンが言いながらコックピットから出てくる。

 サリアは「なにがあったんだい!!」と言いたげなほど眉間にしわを寄せてプリンに迫った。

 サリアのその様子にプリンは察したように顔を俯かせながら口を開いた。

 

「アルバが選んだことだ。そこにいる女の子を責めないでやってくれ」

「それでアタシに納得しろと言うのかい?」

「……納得してくれないとアルバがそこの女の子を連れ出した意味がなくなる」

「連れ出した?」

 

 状況を知らないサリアは眉間にしわを寄せたまま、コックピットの中を覗き込むように見た。そこにはサリアの知らない少女が座っており、少女はサリアを見上げていた。

 サリアは視線をプリンに戻す。

 

「この娘をかい?」

「そうだ。この女の子はヴェニデの本拠地のエースパイロットみたいなものだ。で、シリウスの頼みで俺たち『ユーラヌス』はこの女の子に勝った、ようやくな。シリウスの連中だけだったら本拠地攻略なんて無理だったろうよ」

「この娘がそんなに凄いのかい?」

 

 プリンは溜め息を吐き、端末を取り出した。そのまま端末を操作して、作戦ファイルを早送りでサリアに見せつけた。そして異常なスピードでユーラヌスたちと戦う機体に指差した。

 

「この機体を操作していたのがこの女の子だ。でもアルバは、そんな危険な相手にも関わらずこうやって連れ出したんだ。それも自分の意思でだ」

「…………」

 

 サリアは黙り込み、プリンの話しを聞き続けた。

 コックピットにずっと座り込んでいる少女は二人を見上げている。

 

「後、この女の子は悪い奴じゃない。もしも悪い奴なら俺たちは本拠地に置いていかれているか殺されているぜ」

「そうかい、あんたの言うことは分かったよ。ところで、娘さんは行く当てはあるのかい?」

 

 サリアはコックピットから見上げている少女に問いかける。少女は首を横に振って行く当てがないことを示した。

 

「ないみたいだな」

 

 少女が首を横に振っているのを見ていたプリンが苦笑して言うと、サリアは「はぁ……」と溜め息を吐いた。

 

「これでまた家族が増えるねぇ」

「良いじゃないか、増えるのは悪いことじゃないだろう?」

「アタシは食糧が人数分足りるか不安だよ……」

 

 あ、という声を出したプリンは食糧の問題をすっかり忘れていた。

 プリンの無計画さにサリアは呆れてまた溜め息を吐いた。

 そんな二人の様子を見つめている少女は頭を傾げている。

 

「あー、そうだ……」

 

 プリンが面倒くさそうに思い出す。

 サリアは「まだなにかあるのかい?」とでも言いそうな表情でプリンを見つめた。

 頭を片手で抱え始めたプリンは「実は俺たち、この女の子を連れ出したせいでシリウスから追いかけられているんだ……今すぐにここから離脱しよう」とサリアに話した。当然のことながら「はぁ!?」とサリアから返ってきた。が、しょうがなくといった様子で大型ヘリの操縦席に戻っていき、大型ヘリを起動させた。

 

「そのACはアタシの大型ヘリで輸送するからプリンはその娘さんと一緒にACに乗っていな。複座はアルちゃんの席で埋まっているからね」

 

 プリンに向かって大声で言うと、サリアは操縦桿を握って一度高度を上げた。一定の高度まで上げると少女の乗るACの頭上に高度を徐々に下げて行き、少女の乗るACを固定ハンガーに固定。そのまま高度を上げて空に滞空する。

 

「ちょっと狭くなるけど我慢してくれよ、お嬢様」

 

 ACのコックピットハッチを閉め、狭いコックピットの中で二人きりになったプリンはふざけた調子で言うと少女はそれに乗るように眩しい笑顔で「あなたは私の執事なのだから構わないわよ……なーんて」と言った。

 プリンは少女の意外な反応に戸惑いを隠せず、黙り込んでしまった。その様子を見て少女はクスクスと笑った。

 

「あー、えっと、お嬢様の名前は?」

「ピリエ。ピリエ=ローゼンサードよ。よく覚えておきなさい、執事さん」

「はい、ピリエお嬢様!」

 

 すっかりピリエの流れになっており、プリンは完全に乗せられていた。

 そして「あ……今のは違うからな? そのあれだ、その場のノリだよ」とプリンが苦笑して言う。その様子にピリエはクスクスと笑いが止まらなかった。

 

「あなたたちに会えて良かった」

 

 心からの最高の笑顔でピリエは言った。

 プリンも釣られて笑顔になり、グッと親指を立てた。

 大型ヘリは彼らを乗せて飛んでいく。遠くに見える地平線にまで飛んでいく。

 

 

※※

 

 

 また別の大地。太陽が沈み、闇が辺りを暗くする。

 夜が訪れたのだ。

 その闇の中に一つ大きな光りがあった。

 なにをかも破壊する力。遥か昔に作られた天使。

 

「味方も敵もいない」

 

 天使は月明かりが薄暗く照らす大地の上を滑るように移動していく。どこかへ向かっていて、どこへも向かっていない。

 放浪しているかのように天使は大きな光りを放ちながら移動していく。

 

「俺たちはどうやって人を救えば良い?」

 

 天使は一度立ち止まり、空に答えを求めた。無論答えなど帰ってこない。空は既に死んでいるのだ。

 全ては天使を作った人間がしたことである。

 コジマ粒子という素材を発見し、アサルトセルという名の檻で自らを閉じ込め、神の力と呼ぶに相応しい兵器たちを作り上げた。

 

「キャロリン。俺たちのやっていることに意味はあるのか?」

 

 天使は違う天使に問いかける。しかし返事は帰ってこない。プログラムは疑問を持たない。

ただ自分の役目を果たしていくだけだ。

 だから返事を返さない。疑問も持たない。

 

「……やはり戦いの中でしか人の可能性はない。なら俺のやり方で見つけよう」

 

 天使は地を蹴り、高く飛んだ。大きな光りは天使の推進力となって爆発的な速度を実現させた。

 天使は飛んでいく。

 次の戦場を目指して、次の黒い鳥に会うために。

 

 

※※

 

 

 大型ヘリの特徴的なうるさいローター音が空に響き渡る。

 音は一つだけ。サリアの操縦する大型ヘリのローター音だ。

『ユーラヌス』は強化兵士であるピリエ=ローゼンサードを連れ出してしまったせいでシリウスの追手から逃げていた。

 そんな中、プリンとピリエはコックピット内で話していた。

 

「プリン」

「なんだ?」

「アルバとあのおばあちゃんとはどういう関係なの?」

「うーん、ババァとは親子みたいな関係だ。アルバは……弟みたいな関係かな?」

 

 プリンは頭を傾げてピリエの質問に答える。曖昧な答え方に疑問を持ったピリエは続けて口を開いた。

 

「みたいな、ってどういうことなの?」

「あー、それは……」

「?」

「話すと少し長くなるけど、良いかな?」

「うん」

 

 ピリエはこくりと頷き、プリンの長い話しを聞く姿勢を取った。

 ピリエの聞く姿勢を見たプリンの口が開く。

 

「俺は孤児だったんだ。俺の両親も周りの大人もAC乗りでさ、ある高額で簡単な依頼を受けてからずっと帰ってこなくて……」

 

 プリンは思い出していた。安全で緑のある自分の住んでいた土地を、毎日が楽しかった子供の時の思い出を。

 そして思い出す。穴だらけの両親が乗っていたAC。コックピット内部に飛び散った血。グチャグチャの肉片に変わり果てた親の姿。

 

「で、ある日両親と周りの大人が乗っていたACはボロボロになって帰ってきた。俺は喜んだよ、〝やっと親が帰ってきたんだ!〟ってな。でもコックピットを開けたら違った。コックピットに入っていたのは親の肉と血だけだった……原型なんてもんはなかった」

 

 プリンは顔を俯かせた。いままで一緒に楽しい思い出を作ってきた両親を失ったという心の傷を抑えつつ、残酷な事実を記憶から引っ張りだして話し続けた。

 

「両親をただの肉になって帰ってきてからからずっと俺は、家の中で閉じこもっていた。けどすぐに出て行くハメになったよ。見たことのない光りを放つ不明機のせいだな。あの翼を広げたえらく細見の天使みたいな奴は今でも記憶に残っている」

 

 プリンは翼を広げた天使のような不明機を包むオレンジ色の強い光りを鮮明に思い出していた。それほど不明機の強烈な印象が残っており、プリンの記憶から離れなかった。

もちろん不明機がしたこともプリンの記憶に鮮明に残っていた。

 

「その天使みたい奴は武装した俺たちの土地に強い光りを放って一瞬で焼いて行ったんだ。それから当てのない俺は目的地も分からないまま歩いて偶然ババァと出会った。で、俺は〝別にいい〟って言ったんだけどババァは俺の親の代わりになったのさ」

 

 最後だけ自嘲気味にプリンは話した。ピリエの表情はプリンの自嘲に合わせず、真面目な表情になっていた。

 服の擦れる音がかすかに響く。

 ピリエはプリンを抱きしめた。

 

「急になにを……」

「……辛かったんだよね、きっと」

 

 プリンは強がっているように首を横に振り、離れようとした。しかしピリエはプリンが強がっていることに察しており、離そうとはしなかった。

 

「ごめん、本当にありがとう」

「良いよ……いつでもまたハグしてあげる」

 

 温かくて優しげな微笑みがプリンに向けられる。プリンはその微笑みに甘えて両手をピリエの背中に回し、ぎゅっと抱きしめた。

 服同士が擦れる音が響く。

 コックピット内のいる二人は抱き合い、プリンはピリエの胸元に顔を埋め、ピリエはプリンの頭を優しく撫でた。

 

「…………」

「……私は、他人にこうしたかった」

 

 プリンの目から雫が落ちた。雫はピリエの太ももに落ち、その一点を濡らした。ピリエはそれを気にすることなく抱きしめ続ける。

 ピリエの温かさはプリンの冷えた心を温めた。アルバでも冷えた心を温めることが出来なかったのをピリエはやってみせた。

 

「私は……『強化兵士』なんてなりたくなかった。誰かを殺すために生まれてきたんじゃない。私は人間として誰かと一緒に生きるだけで良かった……だから今こうして誰かを抱きしめているのだけでも幸せなの」

「それは本音で言ってる?」

「ええ、間違いなく本音」

「優し過ぎる、バカじゃないのか……」

 

 涙が止まったプリンは冷静に述べる。ピリエは「兵器でしかない人間よりは優し過ぎるバカの方がずっとマシ」と、微笑みながら答えた。

 ピリエの答えたことを聞いたプリンは、人間ではなくなった人間の気持ちが少し分かった気がしていた。

 

≪燃料が底を尽きそうだわ、近くの街に降りるよ!≫

 

 二人きりの時間に割り込むようにサリアからの通信が入った。その直後、サリアは燃料補給のために急な旋回を取り、その影響で二人きりのコックピット内に衝撃が走った。

 

「全く、荒い運転だな。そろそろボケ始めてきたのかもな」

「もしもおばあちゃんがボケたら、プリンが運転しなきゃだね」

「そうだな」

 

 自身の操縦の下手くそさを思い出しながらプリンは微苦笑した。続いてピリエも「ふふ」と笑う。

 大型ヘリは月明かりに照らされ、街へと向かう。自分たちの遥か上空に天使が飛んでいることも知らずに。

 

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