異世界に冒険を求めるのは間違っているだろうか   作:ヘヴン

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プロローグ

日本のX県に住んでいる秋山(あきやま)銀司(ギンジ)

将来、シルバーアクセサリーの職人になることを夢見る高校生だ。

 

そんな彼は夏休みを利用し、泊りがけでシルバーアクセサリーを作る為に8年前に亡くなった祖父母の自宅へとやって来た。

彼の祖父は亡くなる前まで、田舎で日用品や刀を作る鍛冶師をしており、自宅の隣には工房がある。

 

彼は祖父が祖母を追いかけるように亡くなった翌年から、祖父の家と工房を掃除する為と両親に言って、シルバーアクセサリーの道具と材料を持ち込んでは、練習をしているのだ。

勿論、使わせてもらっているお礼として家と工房を帰る一日前に掃除を行っている。

 

「さ~て、今日は何を作ろうかな……」

 

両親から預けられた鍵で工房に入った銀司はシルバーアクセサリーを設計する為の机に座る。

 

「今日はチェーンに挑戦するか……鎖は最近じゃ全く見ないトーテムポールにでもしよう。

名前と設定は……」

 

画用紙に定規を取り出し、自分の持つイメージと設定を書き込む。

勿論、設定なんか本来は書き込む必要はない。

ただ、彼自身が中二病であり、特殊能力的な設定を盛り込むと制作する時のモチベーションが上昇し、イメージをより明確化する為の儀式のようなものだ。

 

「発動すると、地面から大きなトーテムポールが……」

 

ブツブツと独り言を呟きながら、漫画家や小説家に登場するような設定を呟きながら書き込む青年。

正直、とても怪しい。

 

忙しなく動いていた鉛筆が止まった事で設計が終わると、道具の手入れと準備に取り掛かる。

 

「ん?」

 

道具が置いてある道具を取り出していくと彫金する為の金属バーが一本足りない事に気づく。

 

「やべ…もしかして、前にしまう時に落としたか?」

 

作業が出来なくなる可能性が脳裏によぎったギンジは慌てて膝を折り、棚の下に手を伸ばす。

右へ左へ動かす事で埃が舞うが、道具の為に我慢して手探りで探し続ける。

 

すると棒のような感触を指先に感じたギンジは、それを引っ掴んで、棚の下から取り出した。

 

「よし!見つけ……あれ?」

 

道具を発見し、安堵しながら埃まみれの手を見て止まるギンジ。

なんと、彼が道具だと引っ掴んでいたのはお目当ての金属バーと一本の古い鍵だったのだ。

 

「ホコリまみれでバッチイな……。」

 

頭部はハートの形をして南京錠などの施錠目的ではなく、アンティークとして楽しむ為の鍵にも見える。

死んだ祖父の物だろうか?

 

ギンジはホコリまみれの鍵を作業場まで持っていき、鍵についているホコリをエアーで勢いよく吹き飛ばす。

吹き飛ばすと、ハートの中心にホコリで隠れていた文字が姿を現した。

 

《地下金庫の鍵》

 

ハートの中心にはそう書かれていた。

地下金庫は彼の祖父が遺書や通帳などの財産を保管する以外で使用していた金庫である。

幼いころのギンジが工房を探検していた時に地下で見つけた金庫。

生前の祖父の話では彼の思い出の品が入っているらしい。

 

「職人で成功した爺さんの思い出の品……。

もしかして、勉強する時に使った技術書が入っているかもしれない」

 

若い頃、鍛冶師の世界に彗星の如く現れ、名を轟かせた祖父。

祖父が作り出した刀剣は今でも美術品として高い価値を持ち、美術館に保管されている物も少なくはない。

そんな祖父の思い出の中に技術書があれば、自分のシルバーアクセサリーも……。

 

偶然に見つけた地下金庫の鍵に淡い期待を抱いたギンジは、速足で地下へと続く階段を下りた。

 

 

――――。

 

 

階段を下りて地下室に入ったギンジは、電気を点けて一番奥の金庫へと突き進む。

右と左の壁には段ボールが詰まれており、部屋の一番奥に目的の金庫が鎮座していた。

そして、金庫の扉には南京錠が付けられている。

 

金庫の前にやって来たギンジはまるで宝を前にしたトレジャーハンターの様にワクワクしていた。

彼は、胸の高鳴りとニヤニヤ顔を抑える事なく、南京錠にカギを差し込んで開錠する。

開錠された事で南京錠が外れた。

 

彼は役目を終えた南京錠を金庫の上に乗せ、重い鉄の扉を開ける。

重い鉄の扉が開かれ、中身が電球の光によって姿を現した。

 

出てきたのは南京錠の鍵によく似たデザインの鍵一本と二冊の本。

それ以外には何もない。

 

思い出の品という割には数が少ないと思いながら、銀司は二冊の本を取り出す。

二冊とも表紙には何も書かれていない為、一冊ずつ中身を確かめる事にしたギンジ。

好きなファンタジー小説を読む、様に本を開く。

しかし……。

 

「なんだ…これ?」

 

パラパラと本をめくるが書かれているのは日本語でも英語でもない別の言語。

技術漏洩を防ぐ為に祖父が書いた暗号か?

 

「うわ!?」

 

突然、本から手を離すギンジ。

なんと、驚くべきことに文字が動き始めたのだ。

 

「な、なんだよ…これ」

 

グニャグニャと変形する文字に恐れ(おのの)ギンジ。

そして、さらなる恐怖がギンジに襲いかかる。

 

『アビリティの引継ぎを始める』

 

なんと、文字が祖父の顔に変わり、生前と変わらぬ同じ声で口を動かしながらしゃべり始めたのだ。

 

『移植者が血縁である事を確認。

アビリティ《鍛冶》および《神秘》の移植を開始する』

 

遠慮なしに喋り続ける本から逃げ出そうとするギンジ。

しかし、彼の意識は本から放たれる目に見えない何かによって奪われ、闇に沈んだ。

 

………。

 

 

意識が覚醒した時、彼がはじめに思ったのは冷たいだ。

突っ伏すように床に横たわっていた体を起こし、周りを見渡す。

深い眠りに落ちていたのか、若干頭がフワフワしているが、視界は良好だった。

 

「地下室…だよな」

 

そこは、子供の頃から見慣れた祖父の工房の地下室。

辺りは誰もおらず、天上に吊るされた電球の明かりが周りを照らしている。

 

「そういえば!って、この本…何も書いてないな」

 

意識を失う前にみた恐ろしい本の事を思い出すも、床で開かれていた本には動く文字もなければ祖父の顔もない真っ白なページが視界に映る。

 

「文字が…消えている」

 

ギンジは恐る恐る床に落ちている本を手に取ってパラパラとページをめくる。

だが、中身には開いていたページ同様に何も書かれていなかった。

 

意識を失う前、確かにギンジは喋り出す謎の本に恐怖した。

しかし、今の彼はこの状況にワクワクしている。

 

まるで、心の奥底で封印していた物が僅かに漏れだすような感覚だ。

 

ギンジは不意に、もう一冊の本を見る。

この本も先ほどの本と同様に表紙には何も書かれていない。

もしかしたら、また同じ様な物なのかもしれない。

怖い思いをするかも知れない……。

 

だが、銀司の手は彼の好奇心とワクワクによって、ゆっくりともう一冊の本に伸ばされる。

本を手に取り、細心の注意をはらって本を開く。

 

すると……。

 

「…日記か?」

 

本の内容は先ほどの物とは違って、中身が日本語で書かれている。

内容にはその日の出来事が書かれてあることから日記である事がわかる。

 

「《俺》って使っているから…爺ちゃんの日記か?」

 

文字が達筆すぎて、読みずらい文字がいくつもある彼の祖父が残したと思われる日記。

しかし、そんな事は気にならなかった。

彼は三日に一回のペースで書かれている一つの単語……。

 

 

《異世界》である。

 

 

―――――。

 

 

金庫を開けたギンジは、祖父の残したと思われる物語の様な日記の内容に嵌まっていた。

 

物語の舞台となる世界はモンスターが生まれるダンジョンがあり、自分が知っている様な神々が地上に降臨している世界。

 

人々は富と名声を手に入れる為、神々の眷属(ファミリア)となり恩恵を与えられる事で冒険者となり、仲間たちと共にダンジョンへと向かう。

 

当然、ダンジョンには希望だけではなく、絶望も蔓延っている。

 

しかし、冒険者たちは仲間達の絆と自分たちの力を合わせ、己の夢の為に突き進む。

 

彼の祖父はそんな世界で鍛冶師兼冒険者としての生活を三日置きに送っていたのだ。

 

この日記には輝かしい夢だけではなく、冒険者達やサポーターと呼ばれる人々の悲しい現実も記されていて中々に面白く、ギンジの心を捉えて離さない。

地下室で日記を最後まで読み切ったギンジは最後のページで止まった。

 

最後のページには祖父が書き記した異世界に残してある遺産に関する記述と異世界につながる扉と鍵について書かれていた。

ギンジはゴクリと喉を鳴らし、金庫の中に仕舞われている鍵を手に取った。

鍵の持ち手のハートの中心には《異世界の扉》と掘られている。

 

そして、金庫から離れたギンジは右の壁際に積まれた段ボールを左へと一つ一つ、ゆっくりと移動させる。

 

「……あった」

 

ギンジは見つけた。

 

南京錠で鍵が掛けられた異世界への扉を……。

 

何故、祖父の家にこんなものがあるのか?

 

誰が、こんなものを作ったのか?

 

様々な疑問はあれど、ギンジは平和な日本では味わえない冒険へのスタートラインを見つけた。

 

 

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