異世界に冒険を求めるのは間違っているだろうか 作:ヘヴン
都会から離れた田舎の片隅にある鍛冶師だった祖父の家へ、シルバーアクセサリーの練習にやって来たギンジ。
彼は、祖父の工房で偶然見つけた地下金庫の鍵を発見してから、幼いころに夢見ていた冒険の準備を進めていた。
――――。
「ガーディアン
《リングアーマー》」
祖父から受け継いだアビリティを利用して林の中に作った手作りの訓練場に出現する人型の姿をした銀色の甲冑。
自然に溢れ、人目がない森の中で……。
人型甲冑はラジオ体操を開始した。
勿論、そのように操作しているのは祖父の遺産である特別な魔法を封印された本によって祖父のアビリティを引き継いだギンジだ。
彼は、異世界で祖父の様な冒険譚を繰り広げる為の準備として、祖父の日記で異世界を研究し自分の武器となる
作るのはギンジの妄想の世界にしか存在しなかった、特殊能力を持つアクセサリーだ。
その形状は、リングやペンダント、ブレスレットなど多岐にわたり、様々な能力を有している。
能力を持つ武器に変化する物。
氷・植物・電気などの自然を操り、身体能力を向上させる物。
空間を移動し、別空間を作って次元を超えたりする物
聖なる力でケガや病気を癒し、呪いを解く物
敵に《呪い》を掛ける事の出来る物
そして今、一心不乱にカシャンカシャンと音を立てながらラジオ体操をしている人型甲冑のように守護者となる魔人や魔獣を呼び出すことの出来る物。
ギンジはこれらを総称して
「最後のARMも確認できたし……そろそろ行くか」
ラジオ体操を終えた人型甲冑《リングアーマー》の動作確認を終えたギンジは《リングアーマー》を指輪に戻して歩き出す。
高校を卒業した彼は、通信制の大学に進学。
パソコンと自分の荷物を持って、祖父の家で一人暮らしをしている。
勿論、すべては異世界で冒険する為の布石だ。
祖父の家に帰り、荷物をまとめたギンジは地下室にある異世界の扉へと赴く。
扉の前に立った彼は、ポケットから鍵をを取り出して南京錠に差し込む。
「よし!行くぞ!!」
南京錠を外し、ドアノブを回して勢いよく扉を開けるギンジ。
扉を開けると視線に飛び込んできたのは何もない闇と悪臭が流れ込んでくる。
ギンジは口と鼻を手で抑えながら、装備していたリュックサックから懐中電灯を取り出し、カチリと懐中電灯の電源を入れた。
目の前の闇を懐中電灯の光で照らすとそこは埃のたまった汚い石造りの部屋だった。
あるのは上につながる階段のみ。
「ここが、爺さんが使っていた拠点の地下室か……」
転移する場所が場所なだけに色々と残念な気持ちになるギンジ。
もし、転移場所を日記で調べていなかったらあまりの汚さに回れ右をしていたかもしれない。
ゆっくりと扉を潜り、部屋へと入っていくギンジ。
彼は扉を閉め、慎重に上に向かう階段へと歩みより、上に何か居るかもしれないと警戒しながら上っていく。
階段を十段ほど登ると目の前に鋼鉄で出来た扉が懐中電灯の光によって照らし出される。
「本当にダイヤル式だ……用心深いのはいい事だと思うけど、異世界って感じがまるでないな」
ノブの上に設置された四つのダイヤル式のカギを照らしながら溜息を吐くギンジ。
彼は日記に書かれていた通りに四桁の数字を右から左に向かって順番に合わせていく。
最後のダイヤルを合わせるとカチリという音が鳴った。
どうやら、無事に開錠が出来たようだ。
ギンジはノブを回し、扉を開ける。
鋼鉄の扉を難なく開けたギンジ。
「これが…爺さんの店か……」
目の前には刀剣などの商品を飾っていただろう埃まみれの鍵付きのガラスケース。
そして、会計を行うであろうカウンター。
天井には魔石の力で店内を明るく照らすと書かれていた照明らしき魔道具が設置されている。
祖父の日記によると、この店はダンジョンのある街、《オラリオ》にある。
いつでも商売や冒険にも出かけらて人通りの多い、北東のメインストリートに建設されている。
立地もいいようで、窓から光が差し込み店内を明るく照らしていた。
地下一階から地上二階まである、この一軒家は異世界初心者であるギンジにとっては最高の拠点である。
ギンジはこれからの自分の生活を妄想しながら懐中電灯の光を消し、リュックサックにしまう。
ここが今日から彼の生活を支える城となる。
「さて!まずは掃除だな!!」
気合を入れたギンジはポケットの中から一本のチェーンを取り出す。
そのチェーンはフックがある部分に猫の頭、鎖の先っぽには鈴のデザインがされている。
「ガーディアンARM!《メリロ》!!」
ギンジの言葉と共にチェーンがギンジの手から消失すると同時に、彼の目の前に一人の女性が現れる。
ストレートに下ろされ、サラサラとした長い黒髪。
スタイルはまさにボン!キュ!ボン!!の言葉にふさわしい凹凸とした体であり、その肉体を包み込む服は首元に大きな鈴が付いたクラシックなメイド服。
そして何より、彼女の頭部と臀部には猫耳と尻尾が生えていた。
アキバで彼女が現れたなら、男達は彼女を崇拝し、手持ちのスマホでカメラを連射していたであろう。
「あら?今日はいつもの自宅ではないのですね?
お引越しでもされたのですか?」
「違うよ。
ここは前に話していた異世界で、爺さんが遺してくれた店だ」
メリロは店の中をキョロキョロと見渡しながら自分の頬に人差し指を当てて、ギンジに質問する。
そんなあざとい仕草に可愛いと感じながら簡単に説明するギンジ。
「あらあら、それは良かったですねギンジ様!!」
「ああ、ありがとうメリロ。
それでさっそくなんだけど……」
「はい!分かっていますよ!!
私はご主人様であるギンジ様の生活をサポートするメイドです。
全ての埃を駆逐して見せますよ!!」
ふんす!っと両手を握りしめると同時に脇を引き締めたメリロはさっそく掃除に取り掛かる。
何もない空間から掃除道具を取り出し、素早い動きで埃を除去していく。
彼女は戦闘能力が皆無である変わりに炊事洗濯大工工事などの生活サポート能力を極めたガーディアン。
彼女が居れば仕事に専念し、充実した日常を送る事が出来るだろう。
ただし、純情な童貞チェリーボーイに彼女を与えれば献身的な彼女と他の女性と比べてしまい、その人生を独身のままで終えてしまうだろう。
ある意味では生まれる可能性があった子孫たちの存在を抹消し、ダメ人間を製造する恐ろしい兵器なのかもしれない。
みるみる綺麗になっていく店内を眺めながら、その考えに至ったギンジは彼女に類似する執事やメイド型のガーディアンARMの販売と生産中止を心に決めた。
――――。
「それでは、これで失礼致します」
「おう、ご苦労さん」
すっかり綺麗となった部屋の中心でギンジにペコリと頭を下げたメリロにギンジが労いの言葉を送ると、彼女は元のチェーンへと姿を変えてギンジの手元に戻る。
「さて、これからヘファイストス・ファミリアに向かうか……」
ヘファイストス・ファミリア。
彼の祖父の日記によれば、祖父が所属していたファミリアであり、世界的に有名な武器ブランドらしい。
かつての祖父の様に商売で成功し、冒険でも成功する事を夢見るギンジにとっては祖父と同じファミリアに所属する事が一種のゲン担ぎの様なものであり、入信を決めていた。
ギンジはこれより同じ北東のメインストリートにあるヘファイストス・ファミリアのホームへと向かう。