異世界に冒険を求めるのは間違っているだろうか 作:ヘヴン
北東のメインストーリートにある二階建ての真新しい看板が設置された古いお店。
『MAR
「いってきます」
「ああ、気を付けて行ってくるんだよ!
お店は僕に任せておいてくれ!!」
男は安い革鎧に身を包んだ軽装の姿をしたギンジとメリロとお揃いのメイド服に身を包む少女はニートから店の店員にジョブチェンジしたヘスティアだった。
二人が出会った翌日からヘスティア・ファミリアが誕生し、ダンジョンを運営管理する『ギルド』に登録されてから一週間が経過した。
この一週間、ギンジとヘスティアは今後の方針とギンジの祖父から引き継いだアビリティに関する情報秘匿の話し合い。
および、日本で受けるパソコン授業とヘスティアに商品であるARMに関する授業に時間を費やされ、ギンジは冒険者としてダンジョンに向かう事が出来なかった。
だが、本日。
ついにギンジは冒険者としてダンジョンへ、ニートから店の店員となり本日が初仕事である主神ヘスティアに見送られながら待望の冒険に向かったのだ。
―――――。
ワクワクしているギンジの心を体現するように軽い足取りで、全てのメインストリートが合流する中央広場にやって来た。
彼はここでダンジョンのある摩天楼施設《バベル》へと入り、地下へと降りていく。
「講習で聞いたけど、本当に照明がない状態でダンジョン内は明るいんだな……」
ダンジョン内に入ると壁や床が薄い青色の壁が発光しており、視界は良好。
ギンジはポケットに忍ばせていたペンライトを使う事なくダンジョンを降りていく。
一階層…二階層と過ぎていくが敵であるモンスターが未だに発見できていない。
ギンジは足を止める事なく四階層まで突き進む。
彼が四階層の奥まで辿り着くと周囲の地面からビキッ!と幾つもの破砕音が鳴り響く。
ギンジが音に警戒するように周囲を見渡すと、ダンジョン床から少し長い爪と緑色の肌が特徴の腕が生えていた。
モンスターの母体であるダンジョンの力によって、モンスターが誕生した瞬間だった。
誕生したばかりのモンスターは地上に這い出て、その姿をギンジに晒す。
「ギャギャ!」
「ギャーー!」
「ギャギャギャギャ!!」
出てきたのは頭部に角とトンガリ耳を生やし、下半身には大事な部分を隠す為なのだろうか?
茶色い剛毛に覆われた醜悪なモンスターが鋭い牙と爪を使って、ギンジを威嚇を始めた。
低級モンスターと言えど、レベル1の駆け出し冒険者にとっては油断すればそれなりのケガをする危険なモンスターだ。
しかし……。
「おお!!ゴブリンだ!!本物だ!!」
先ほどの警戒は何処へやら、ギンジは生まれて初めてその目に焼き付ける事となったモンスターに瞳を輝かせていた。
もし、彼がスマホを所持していたら目の前のゴブリンに向けてカメラを連射していただろう。
実に緊張感のかけらもない男である。
「ようやくダンジョンに来たって感じ…うお!?あぶね!?」
「ギャー!!」
「ギャギャッギャー!」
「ギャギャギャ!」
この、
ダンジョン史上、最も弱くて取り出せる魔石も雀の涙ほど。
駆け出し以外の冒険者達には道端の石を蹴り飛ばすように排除される悲しい存在である。
しかし、そんな最弱な彼らの中にあるモンスターとしてのちっぽけなプライドに火が付いたのだ。
彼等は本気を出した。
どのゴブリン達よりも憤怒し、目の前のふざけた
だが……ゴブリンたちの短い脚では走って逃げるギンジには追い付けることもなく……。
「エレクトリック…アイ!!」
ゴブリン達から距離を離したギンジから放たれる雷によって、彼等は一瞬で灰となって消えた。
本来なら魔石を遺したり、《牙》などのドロップアイテムを遺して消える。
どうやら、ギンジの両手の人差し指に嵌められたARM《エレクトリックアイ》によって放たれた雷の威力が強すぎて、魔石を炭化させてしまったらしい。
ギンジは雷によって焦げた地面と《エレクトリックアイ》の威力に満足しながらさらに階層を降りていく。
階段を降りると壁の色が青から緑に変わり、ダンジョンの構造も分かれ道などが増え、構造の複雑化が見られる。
ギンジはここから、右手の薬指に嵌められた空間転移のARM《アンダータ》に現在地を記録し、先に進む。
アンダータは自身が赴き、《アンダータ》に記録させた場所に必要な魔力を支払う事で多人数でも移動させるARM。
ギンジがダンジョンの情報を日記で読んだ時に思いついたRPGのセーブやロードなどを再現したアイテムだ。
勿論、死んだらそこで終わりなのであるから、身に危険を感じたら逃亡する為に使う緊急脱出装置と考えた方が、しっくりとくるかもしれない。
故に、彼は他の冒険者たちに比べて大きなアドバンテージを得た状態で冒険が出来るのだ。
―――。
「ギャ!!」
一瞬で焼却されたゴブリン達と同じように独特な声と共に振るわれるゴブリンの鋭い爪。
敵意の籠ったゴブリンの攻撃にギンジは拳で答えた。
「ギャベェ!?」
ギンジのカウンダーを顔面に叩き込まれたダンジョン最弱のモンスターであるゴブリンはゴキィ!と言う危険な音を鳴らして後方へとぶっ飛ぶ。
空を飛んだゴブリンはダンジョンの壁に衝突する事で停止。
ゴブリンはあり得ない方向に首を曲げており、事切れていた。
壁に張り付いたあまりにもグロテスクな光景に気分を悪くしたギンジだったが、灰と小さな魔石に変わった事を確認すると魔石を拾う。
そして、チラリと離れた場所に居る冒険者達の
ギンジがダンジョンに来た目的は冒険だけではない。
自分の制作したARMを冒険者達に宣伝する為だ。
ダンジョンで活躍して冒険を楽しみ、店に訪れる客を確保する。
それが、ギンジの目的だった。
しかし……。
「見た事のない小僧だが……中々の怪力だな。
もしかしてレベル2か?」
「ちっ!見せつけやがって。
きっと、いつまでもレベル1の俺達を見下してやがるんだ」
「おい、さっさと行こうぜ。
見せたがりのレベル2様を喜ばせるだけだ」
去って行く深いな声色で会話する冒険者PTの背中にガッカリしながら肩を落とすギンジ。
これで15人目。
ギンジは新米冒険者達にARMをPRする為に様々なARMを使用してモンスター達と派手な演出を意識しながら戦っていた。
ある時は風のネイチャーARMでゴブリンを細切れに……。
また、ある時はスコップに変化する
またまた、ある時は意思のない低級のガーディアン《リングアーマー》にプロレス技をゴブリンに掛けさせ、猪〇ボンバイエ。
ゴブリンの関節という間接が破壊された。
そして、今回は身体能力向上型のネイチャーARMを使用して、ゴブリンを殴り殺したのだ。
しかし、ギンジが想像していた冒険者達の反応は違った。
誰も彼もARMの存在を信じなかったのだ。
風のネイチャーARMを使用すれば…。
『アイツの魔法すげぇな…レベル幾つだ?』
『あの威力はレベル2以上だろう。
こんな上層で見せつけやがって』
衝撃はを作るスコップのARM《バトルスコップ》を使用すれば…。
『あの衝撃波は…スキルか?』
『もしくは魔法だろう。
俺達みたいなスキルも魔法も何もないレベル1を見下してるんだぜ』
やけくそになって、《リングアーマー》を使用した時は……。
『魔法で召喚した鎧を使って、ゴブリンの関節という間接を外してやがる……。』
『闇派閥の人間か?
狂っている……まさに、悪魔の所業だ。』
と、こんな感じで今まで見かけた冒険者達に全て逃げられてしまったのだ。
小さいとはいえ、魔石は大収穫であったが、ARMの宣伝に大失敗したギンジであった。