ハイスクールD×D ~Pagan Gods from the Old Testament~ 作:カイバル峠
今回は少々猟奇的なシーンがございます。
それではどうぞ。
蠢く影
―――――――はぐれ悪魔祓いの襲撃と同時刻――――――――――
「ゴギャアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
ベキッ
「ギュヴァアア!!」
スシュッ
「ゴヴァアアアアアアアアッ!!!」
グシャッ
町の外れに位置する廃工場。
闇夜に木霊す、凡そこの世のものとは思えぬ無数のおぞましき叫び。
それと共に聞こえてくる何かが潰れ、砕け、爆ぜ、そして崩れ落ちる音。
廃墟に群がるは無数の異形たち。
一言に異形と言えどその姿形は千差万別。
獣や人の姿をした者や植物のような姿をした者、或いはそれらを組み合わせたような姿をしたものなど、実にバリエーションに溢れていた。
大きさも人間大から全長数メートルにも及ぶ巨大なものまでおり、体格の面でもまた一貫性が無かった。
しかしたった二つだけ、この場にいる異形達にはある共通する点があった。
一つは異形の全てが体に杭のようなものが打ち込まれていること。
そしてもう一つは……
「London Bridge is falling down♪」
暗闇に閉ざされた廃工場に響く、透き通った高く美しい声音。
その声が奏でるは殺意と狂気に満ち溢れ、血に飢えた獣達が蔓延るこの場所にはあまりに似つかわしくない、戯れる子供が歌う童謡。
そして異形達の間で悠然と歩を進める一人の少女。
金と純銅とを絶妙な比率で混ぜ合わせたかのような色合いの、腰まで伸びた髪。
白磁も処女雪も霞んで見えるほどに白くきめ細やかな肌。
長い睫が縁取る、夕暮れの空を思わせる切れ長の紫苑の瞳。
細く高い鼻梁。
瑞々しく潤った赤い唇。
すらりと伸びた、均整の取れた長い手足に豊かな胸、抱きしめれば折れてしまいそうなほどに引き締まった腰のスレンダーな体躯は身体の黄金比を体現し、最早美しいという言葉で表現するのも億劫になるほどに整った顔立ちも相まって、現在過去未来、工芸の神でさえも再現することを断念せざるを得ないであろう美の極限がそこにはあった。
しかし髪、顔、服と、少女は全身至る所が赤く染まり、その手に握られた、同じく赤く染まった鉄塊のようなものが、少女が歩くたびに下に擦れてカラカラと音を立てる。
異形達の視線は皆例外なくこの少女に注がれていた。
誰の目から見てもこのような異形の巣にいるには相応しくない見目麗しき少女。
しかも少女は全身を赤いモノで濡らしている。
この光景を目にすれば恐らく誰しもがこの比類なく美しき少女が無数の異形に食い荒らされ、見るも無残な姿へと変わり果てる結末を思い浮かべ、目を背けることだろう。
しかし群がる異形達は皆恐れ慄いていた―――――――他でもないこの少女に。
「グゥオオオオオオオオッ!!!」
「falling down♪」
ゴシャッ
「ヴォオオオオオオオオオオオッッ!!」
「falling down♪」
ザシュッ
恐怖しつつも己が破壊衝動に任せて少女に襲い掛かる異形達。
一方で相も変わらず場違いな歌を紡ぎ続ける少女。
少女は口を開くたびに手に握った獲物を薙ぎ、幾体もの異形が断末魔の叫びを上げる間もなく原型を留めぬ肉塊へと変貌する。
血の雨が降り注ぎ、少女の髪、肌、服を更に赤く濡らす。
幾度も幾度も、先程からその繰り返し。
異形がひしめいていたはずの少女らの周りの風景はいつしかグロテスクなオブジェが林立する死屍累々たるものへと変わり、生けるモノは刻一刻とその数を減らし、この空間を彩る悪趣味な装飾品へと変わり果てる。
「グ、グヴォアアアアアアアアアアアアアッッ!!!!」
有象無象の異形達の中でも一際巨大な体躯と存在感、そして抜きんでた力を誇っていた異形が己を鼓舞するかの如く雄叫びを上げ、渾身の力を籠めて少女を粉砕せんと躍りかかる。
異形達も本能では悟っていた。
目の前の少女は恐ろしく危険であると。
しかし力と引き換えに知性も理性も奪われた異形達には正常な判断など到底できはしない。
つまりは初めから彼らには退くという選択肢は無く、ただただ己の破壊衝動のままに暴れ回るよりなかった。
「London Bridge is falling down♪」
対する少女は眉一つ動かさずに手にした獲物を振るう。
そして
「……My fair lady」
「グ、ガ……」
それが異業の最後の一言だった。
彼女が最後に言った一言。
それが合図と言わんばかりに異形の体は幾千にも幾万にも切り刻まれ、赤黒い血肉の雨が辺り一面に降り注ぐ。
「さて、と……」
最後の異形が斃れたのを見届けると彼女は別の方向に視線を向ける。
「残りはあなた一人だけだよ?」
少女は満面の笑みを浮かべる。
しかし明らかにその目には狂気の色が浮かんでおり、更に先程から浴びに浴び続けた異形の血に塗れていたことでその笑みはより一層妖しいものとなっていた。
「バ、バカな……こんなことが……!!」
彼女の視線の先、そこにいたのは一人の男で、その背からは3対6枚もの鴉を思わせる黒い翼が生えていた。
「こ、ここにいたはぐれ共はいずれも上級悪魔と同等、いやそれ以上にまで力を引き上げた
男はただでさえ驚愕に見開いていた目を更に大きく見開く。
今の今まで、自分から数十メートル離れた位置にいた筈の彼女の声が突如自分の背後から聞こえてきたのだ。
男は自身の頬を冷や汗が伝うのを感じた。
男は堕天使と呼ばれる種族であり、その中でも上級の部類に属していた。
それなのに声を聴くまでこの少女の接近に全く気付くことができなかった。
それに加え、先程の戦い、否、既に戦いと呼べるものではなかったが、数十体はいたであろう上級悪魔相当の力を持つはずの異形、
おまけに返り血で汚れてはいるものの、全く消耗した様子を見せていない。
それらを総合して得られる答えは一つ、彼女と戦っても勝算は限りなくゼロに近い。
また逃げることも不可能だろう。
そう判断した男は大人しく降参の印として両手を上に上げる。
「た、頼む。言う通りにするから見逃してくれ。」
男が懇願する様子を見て少女はしばし考える素振りを見せると答える。
「う~ん、そうだね……じゃあ質問に答えてくれたら考えてあげる。そのかわり」
少女は一旦切ると男の背中、丁度翼の付け根辺りに手を添える。
「下手な嘘でも吐こうものなら……あなたのこの自慢の翼、引き千切るからね?」
そう言うと少女は口元を三日月形に歪める。
「っ!」
少女の言葉に男は硬直する。
彼ら堕天使など有翼の種族にとって翼は骨格があり、血肉が通った肉体の一部。
それを千切られるということは人間でいえば四肢をもがれることに等しい。
何より翼の枚数は彼らにとっては力の象徴、一種のステータスだ。
翼をもがれることは種族内における優位性を失うことに他ならない。
「……分かった。言う通りにする。それで、質問てのは何だ?」
男は少女の機嫌を損ねぬよう、慎重に応答する。
「それじゃあまず一つ目。ここにいた
「あ、ああ、ここにいた奴らか……あいつらはいわゆる失敗作ってヤツでさ、ここで一時保管した後処分される予定だった。」
「ふうん……」
少女はそれだけ言うと
ブチィッッ
「が、ぐあああああああっ?!!」
堕天使の翼を引き千切った。
それも根元から、周囲の肉をごっそり抉り取るように。
「今、嘘吐いたわよね……?最近この辺りに出没してる
少女は手に握った黒い翼を投げ捨てると、痛みにのたうち回る男を踏みつけて続ける。
「まだ拷も、ううん、質問は終わってないよ?ということで次の質問ね。あなたはこの町に潜伏している他の堕天使について何か知ってる?中級一人に下級が三人、だけどそのうち一人は行方知れずみたいだけどね。」
男は痛みに耐えながらもなんとか言葉を紡ぐ。
「はあ、はあ……あ、あいつらか、確か総督から神器所有者と思しき人間の監視、または抹殺を命じられていたはずだ。」
「他には?」
「そ、それは……」
男の反応を見て、少女は顔に表情を浮かべず、無言のまま別の翼に手をかける。
「ま、待て、待ってくれ!!答える、答えるから、な?」
「……なら最初からそうして。」
少女は背筋も凍るような冷たい声音で言い放ち、一先ず翼からは手を放す。
「そ、そいつらは
男がそこまで話すと少女はどこか納得したような表情を見せる。
「なるほど、やはりね。それとどちらかというとこれが一番聞きたいことなんだけど……あなた、あの
「いや、連中を創り出した奴が本当は誰なのか、詳しいことは俺も知らない……ただいつも俺達に指示を出していたのは一人の女だ。いつもフード被っているから顔をみたことは無いし正体までは分からない……」
男が話し終えるのを聞くと少女は短くそう、と呟いて息を吐く。
「ところで」
少女は一旦区切ると手に握っていた血塗れの物体を男に見せながら言う。
「これ、ココに来る途中で拾ったスコップなんだけどさ。まあ、そうは見えないよね?さっきアイツら解すのに使ったせいですっかりグチャグチャになってもう原型留めて無いし。」
見れば確かに、先端にいけばいくほどに変形しており、本来の形を想像するのは難しいが、その反対側、末端側にはなるほど、確かにスコップの取手が確認できた。
すると先端の本来スプーン状の形をしているはずの刃はスクリュー型にさえ見えるほどまでに変形してしまっているということか。
「でも凄いよね~、スコップって第一次世界大戦の時には白兵戦、取り分け塹壕戦で極めて有効な打突武器として機能したんだって。ただ穴掘るだけじゃなくて武器にも使えるって、これ発明した人は天才だね。」
さっきまでの殺伐とした雰囲気とは打って変わって明るく、親しげな調子で話す少女。
しかし男には何故ここでそのような話をするのか、皆目見当もつかなかった。
先程のはぐれ悪魔を葬った時に歌っていた明らかに場違いな調子の歌といい、男には彼女の意図が全く掴めない。
「ど、どうして今そんなことを……?」
男は分かりかねてつい尋ねる。
男の言葉に少女は一瞬きょとんとした表情になる。
「どうしてって」
しかしそれも一瞬、少女の顔には再び笑みが戻る。
「こうするためだよ?」
ザンッッ
「ごはっ……!!」
男は盛大に吐血する。
男の体は上半身と下半身は真っ二つに分断され、断面からも夥しい量の血が溢れ出し、新たな血の池を作り出す。
「……ど、う……して……?話し……たの……に……」
横たわる男の目からは次第に生気が失われていく。
その様子を人形のような無表情な様子で見届けた少女は一つ溜息を吐く。
「……馬鹿ね。あなたは超えてはいけない一線を越えてしまった。この仮初の均衡を崩すのならそれ相応の覚悟はして当然でしょ?組織に戻ったところでどの道処刑は免れないし、あなたが加担した連中も失敗したあなたを無罪放免になんてすると思う?いえ、それ以前にあなたみたいな末端なんて切り捨てるでしょうね。それに」
少女の目つきが鋭さを増し、心なしか周囲の温度が急激に下がったようにさえ感じられた。
「あなたはあの
少女が語り終える前に男は既に息絶えていた。
その時、彼女の手にしていたスコップがパキンという音と共に中ほどから折れる。
「う~ん、取り敢えず原子結合をより強固にして原子間の結合部分を狙って振ってたけどやっぱりただのスコップじゃこれが限界かぁ~。まあでも
少女は折れたスコップを見てそう呟くと積み重なったはぐれ悪魔達のなれの果てに目を遣る。
「さて、目的のものだけ回収して帰ろっと。そろそろお兄ちゃん達の方も終わった頃だし。」
少女は踵を返す。
夜更けに、命ある者が彼女以外に消え去った廃工場の中で彼女の足音は不気味なほどによく響いていた。
そして
「London Bridge is falling down♪」
再び、来た時と同じ調子で歌を口ずさむのであった。
パンッ
乾いた音が室内に響き渡る。
「何度言ったら分かるの?駄目なものは駄目よ。あのシスターの救出は認められないわ。」
音の発生源はイッセーの頬。
話を纏めるとこうだ。
俺達がはぐれの始末に赴いている間にイッセーはいつも通り依頼主の下に向かったらしいが、その時運悪くはぐれ悪魔祓いと鉢合わせしてしまったらしく、何度も光の武器による攻撃を受けたという。
応急処置はしたものの、予想以上にダメージが大きく、完治までにかなりの時間を要すると思われたことから学校を休むよう言われたらしい。
そしてその時件のシスターと再会したそうだがまたしても堕天使と遭遇し、イッセーを庇ったシスターはそのまま連れ去られたんだとか。
しかも去り際に堕天使がそのシスターを使って何らかの儀式を行うと漏らしたらしく、それでイッセーがシスターの救出をグレモリーに進言したらああなった。
……ていうかお前、学校休んで何してるんだよ。
それじゃ休んだ意味無いだろ。
グレモリーの命令でもあるんだし大人しく自宅療養してろよ……
しかし例の堕天使共がいると思しき教会は既に天界側から打ち捨てられて久しいものなんだが……
以前のイッセーとのやり取りを見る限りグレモリーがそれを把握していたとは思えない。
もし把握していたのなら事前に手を打っておくこともできたハズ。
それにイッセーが殺されるまで堕天使が入り込んでいたことに気付いていたのかどうかすら怪しい。
領主を自称するならそこのところの把握はキッチリしておいてもらいたいものだがな。
既に被害者が出てしまっているわけだし。
とはいえ、今回の場合で言えば向こうに明確な意図がある以上表向き動いているのは末端だとしてももっと厄介な連中が隠蔽工作を働いている可能性は無きにしも非ず、いや、恐らくそうなのだろう。
故に一概にグレモリー側の認識不足のせいとは言い切れないが……
いずれにせよこれが明確な挑発行為である以上迂闊に動くのは得策ではない。
事実グレモリーが危惧しているのはそこ、すなわちここで連中に介入して悪魔と堕天使の間で戦争が再発することだ。
恐らく先方にも悪魔側が介入したが最後、必ず開戦の口実をでっち上げるだけの用意があると見て間違いない。
だが同時にここには
コイツのことだ、閉じ込められでもしない限り何としてでもそのシスターを助けに行こうとするだろう。
確かにその心意気は嫌いじゃないし、寧ろ好感を覚えると言ってもいい。
実際世の中には何だかんだと理由を付けて結局己の保身しか考えていない偽善者が腐るほどいる。
だが同時に一時の感情に身を任せた結果それ以上の惨劇を招くことも確実。
するとその時、姫島がグレモリーに何か耳打ちするのが目に入った。
「急用ができたわ。私と朱乃は少し外出してきます。」
……!
……なるほど、向こうからお出ましという訳か。
「部長!まだ話は終わって「イッセー」っ」
呼び止めようとしたイッセーの言に割り込む形でグレモリーが宥めるように言う。
「あなたは
「チェスの性質……」
「そう、“プロモーション”。敵陣地の最奥まで駒を進めた時、『兵士』の駒はプロモーションによって『王』を除く全ての駒の性質に変化することが出来るの。勿論プロモーションするには主である私が敵陣地と認めた場所である必要があるわ。例えば教会とかね。」
「それと神器は所有者の想いに呼応して動き、そしてその力は想いの強さに比例して強くなるわ。それから最後に一つ、『兵士』でも『王』は取れるわ。チェスの基本よ。それは『悪魔の駒』でも変わらないの。でもいいこと?仮にプロモーションを使ったとしても駒一つ分で勝てる程堕天使は甘くはないわ。」
そこまで言うとグレモリー達は転移していった。
なんだかんだで行かせる気なんじゃないか。
……無論俺達にも同行させるという前提でだろうが。
一方、当のイッセーはというと……まあ、グレモリーの真意は分かってはいないみたいだが当然行く気のようだな。
すると扉の方に向かっていくイッセーを木場が呼び止めた。
「行くのかい?」
「ああ。止めたって無駄だからな。」
いつもと変わらない調子で声を掛ける木場に対して棘のある声音で返すイッセー。
「殺されるよ?」
「……たとえ死んでもアーシアだけは逃がす。」
「良い覚悟だ、と言いたいところだけれど……やっぱり無謀だ。」
「うるせえイケメン!!だったらどうすりゃ「僕も行くよ。」っ?!」
木場は怒鳴るイッセーに対して帯刀して同行の旨を告げる。
「でもお前……っていうか傷は大丈夫なのかよ?!光の剣で斬られたんだろ?!」
「部長はプロモーションを使っても、って仰ってたけど、あれは部長が教会を敵陣地と認めたってことさ。同時に僕らにキミをフォローしろという指示でもあるけどね。どうしても行かせないつもりなら閉じ込めてでも止めるよ思うよ?それに怪我といっても咄嗟に身を捩ったおかげで浅い傷で済んだし、キミと比べると体内に注ぎ込まれた光力もずっと少ない。もっとも、まだ本調子とは言えないけどね。」
木場に説明されて漸く気付いたようだった。
「……私も行きます。」
「なっ、子猫ちゃん?!」
「……二人だけでは不安です。特に祐斗先輩は病み上がりですし。」
搭城も二人に続く。
「感動した!俺は今、猛烈に感動しているよ、子猫ちゃん!」
彼女の同行を聞いたイッセーは喜びを爆発させる。
「あ、あれ?僕も一緒に行くんだけど……?」
自分との反応の差に引き攣った笑みを浮かべる木場。
……ドンマイだ。
だがこの流れだと俺も参加は確定か。
「……分かった、俺も行こう。」
「崇哉?!」
「どうせグレモリーは元からそのつもりだったんだろうさ。でなければ病み上がりを抱えたお前達三人だけで教会行きを許可するはずがない。この前のはぐれ悪魔の時のようなことも有り得るからな。それに、悪魔でない俺がいた方が後々言い訳も効くと考えたんだろう。」
「よし、それじゃ、四人でいっちょ救出作戦といきますか。待ってろ、アーシア!!」
そしてイッセーは改めてシスター救出を宣言するのだった。
ただ一つだけ、懸念すべき点がある。
グレモリー達は知っているのだろうか?
奴らは本当は
来月の中旬に少々用事がありまして、その準備の為に次回更新まで暫く時間が空いてしまうやもしれませんが、これからもどうぞよろしくお願い致します。
また、感想・ご指摘等ございましたらお願い致します。