ハイスクールD×D ~Pagan Gods from the Old Testament~   作:カイバル峠

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今回は今までで一番血が流れる…かな?

それではどうぞ。


終幕

終幕

 

 

 

「……私の為に泣いてくれる……もう、何も……」

 

アーシアが俺の頬に添えた手はとても冷たかった。

 

祭儀場を出てから、俺の呼び声も虚しく彼女の体温は下がる一方だった。

 

考えたくない、認めたくない……!!

 

でも――それはアーシアに残された時間が残りあと僅かであることを示していた……。

 

「……ありがとう」

 

!!

 

嘘……だろ……?

 

アーシアの手が崩れ落ちる。

 

 

 

 

 

 

―――アーシアは死んだ。

 

 

 

 

 

 

 

瞳を閉じた彼女の顔はとても綺麗だった。

 

俺は冷たくなったアーシアを抱きかかえて叫ぶ。

 

「なあ、神様!!いるんだろう?!この子を連れて行かないでくれよ!!頼む!頼みます!!」

 

何でだよ?!

 

どうしてアーシアが死ななきゃいけないんだよ?!

 

悪魔でも治してくれるほど優しい子だってのに!!

 

アーシアは何も悪いことなんてしていないのに!!

 

ただ……友達が欲しかっただけなのにッ……!!

 

「俺が悪魔だから駄目なんスか?!この子の友達が悪魔だからナシなんスか?!!」

 

 

 

 

「悪魔が教会で懺悔?」

 

 

 

 

!!

 

この声は……ッ!

 

しかし俺が後ろを振り向くより早く、しなるような音が耳に入る。

 

そして

 

 

「ぐ、あああああああっ?!!」

 

 

バシッという音と共に背に走る激痛。

 

まるで身が焼き切られるような凄まじい痛み。

 

余りの痛みで一瞬、意識が飛びかけた。

 

以前体に風穴を開けられた時とは比べ物にならないほど痛ぇ……!!

 

でもこの痛み、間違いない。

 

堕天使の光だ……!!

 

声のした方を見ると、そこには光の鞭のようなものを手にしたレイナーレが嘲るような笑みを浮かべ、ゴミを見るような視線を俺に向けて立っていた。

 

「流石に真っ二つは無理だったわね。それにしても相変わらず無駄に頑丈な体だわ。この鞭は改造されたはぐれ悪魔、その中でも上級クラスを躾ける為の道具で光力も下級悪魔くらいなら一撃で即死、最低でも致命傷は避けられないハズなんだけれどもね……本当に気に食わないガキね。」

 

「ぐ、があ……くっ……おぉ……」

 

「ウフフ、どう?痛い?苦しい?泣きたい?そうよねえ、ただでさえ光はあなたたち悪魔にとっては触れるだけで身を焦がす猛毒なんですもの。正直未だに消滅しない方が不思議なくらいよ。でもまだ駄目よ?まだ死なせてあげない。これから至高の堕天使として偉大なるアザゼル様とシェムハザ様のお力になるこの私の経歴に泥を塗ってくれたあなたにはたっぷりと苦しんでから死んでもらうわ!!」

 

い、痛ぇ……!!

 

レイナーレはさっき鞭が当たったところ――――肉が焼かれ、爛れ落ちた部分をグリグリと踏み躙る。

 

ちくしょう……

 

もう意識を保つのも限界だ……

 

嘲笑しながら俺を足蹴にするレイナーレはふと、徐に左腕の二の腕に着いた切り傷を見せると右手を翳す。

 

すると淡い緑色の光が発生し、みるみるうちに傷が治っていった。

 

だがそれ以上に俺はその光に目を奪われた。

 

朦朧とする意識の中、あの優しい緑色の光だけは鮮明に思い出せた。

 

忘れるわけがない、あれは…

 

コイツがアーシアから奪った神器……ッ!!

 

「ホラ見て、ここへ来る途中あの『騎士』の子にやられたの。まったく……仕留め損ねたフリードの奴には後でキツいお仕置きをしてやらないといけないわね。それはそうと、素敵でしょ?どんな傷であってもこうして治してしまう。神の加護を失った私達堕天使にとってこれは素晴らしい贈り物だわ。フフフ、アーシアには本当に感謝しないといけないわね、って、もう死んじゃったみたいね。アハハハ、残念だったわね!でも命と引き換えに至高の存在である私にその力を献上したんだから寧ろ名誉なことかしら?あなたもその子の友達だっていうなら喜んであげたらどう?彼女の名誉ある死をね!!」

 

コイツ……!

 

俺ばかりじゃなく自分が我欲の為に殺したアーシアまで貶すのかッ!!

 

なあ、神様。

 

教えてくれよ。

 

どうして……

 

 

 

 

どうしてこんな奴の為にアーシアが死ななきゃならないんだよ!!!

 

 

 

 

――――想いなさい、神器は持ち主の想いに応えて動き出すの。――――

 

 

「……返せよ」

 

「?」

 

一瞬、脳裏をよぎった部長の言葉。

 

 

「アーシアを返せよおぉぉッ!!」

 

 

『Dragon Booster!!』

 

 

俺の左手の籠手が眩い光を放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――フフフ、ようやくか。

 

 

――――――とうとう目覚めたのね?

 

 

――――――ああ。そういうわけで、ちょいと手伝ってくれるか?

 

 

 

 

見渡す限りの赤。

 

燃え盛る煉獄の世界。

 

……いたいた。

 

紅蓮の業火の中佇む小山のような巨影。

 

そして巨体が徐に身動ぎし、首を擡げる。

 

『ほう、これは随分珍しい客が来たもんだな……』

 

声を発したのは圧倒的な存在感を放つ巨大な赤い龍。

 

「久しいな、『赤い龍』(ウェルシュドラゴン・ドライグ)。」

 

嘗て二天龍と呼ばれた最強のドラゴンの片割れ。

 

巨大な緑の瞳が俺を見据える。

 

『今回の宿主の周りからはやたらと妙な気配を感じると思ったらまさかお前だったとはな……アッカドの雷神アダド……いや、フェニキアの主神バアル・ハダドと呼ぶべきか?』

 

「ククク、嬉しいね。まだその名を覚えていてくれている奴がこんなに近くにいるとは。取り敢えずは覚醒おめでとうと言っておこう。」

 

『フン、何がめでたいものか。今回の宿主には未だに俺の声さえ届いていないんだからな。寧ろ覚醒自体が遅すぎるくらいだ。それに』

 

ドライグの表情が険しくなる。

 

『こっちの気も知らずによくもそんなことが言えたものだな。できるものならお前()とは会いたくはなかったくらいだ……お前達のような“龍殺しの神”が持つ龍殺しの因子は俺達ドラゴンにとってはサマエルの毒と変わら……ッ?!!って、おい待て!!言ってる側から龍殺しの因子を解放するな!!頼む!頼みます!!悪寒と震えが止まらん!!』

 

全身から冷や汗を吹き出すドライグ。

 

このままだと赤い顔が青くなりそうだが……それはそれで面白そうだ。

 

「いやなに、あのくたばった神に折檻された毒蛇小僧のと一緒にされたんで少々イラッときてな……ああ、別に他意は無いよ?」

 

『今思い切り何かありそうな顔してたよな?!まったく、消滅したらどうしてくれるつもりなんだ……まあいい。それより何故今頃お前が出てきた?俺が知り得る限り俺や白いのより大分前に封印されたとも滅ぼされたとも聞いていたんだが?』

 

「生きていたと言えば生きていたよ。まあ尤も、しばらくの間聖書の神にアナトやアスタルテ共々封じられていたがな……人柱としてね。」

 

『なるほど、お前達を含めた古の神々を人柱にしたとなるとどうやらあの話は本当らしいな……“アレ”だろう?』

 

「……その通りだ。俺達が封印された理由の内で最たるものがそれだ。封印コード名『大いなるバビロン』、またの名を『バビロンの大淫婦』。まったく、あの神も惜しいことをしたものだな。折角邪魔者を一気に排除したのに結局その後の三大勢力戦争で死んでいるのだから……いや、あの大戦の直後にその邪魔者が目覚めてしまった以上骨折り損か?」

 

『ハハハハ!やはりそうか、どうりであの大戦以降聖書の神の気配が感じられないわけだ。だがそれよりどうやって俺の精神世界に入り込んできた?神器の中でなく俺の魂の中に入って来た時にはさすがに驚いたぞ。』

 

「少々アスタルテに手伝ってもらった。こういうのはアイツの方が得意だからな。」

 

『ほう……まさかとは思ったがアスタルテ……『天の女王』まで目覚めていたか。となれば他の連中もか……』

 

ドライグは目を細める。

 

『それで、目的は何だ?態々こんなところまで来たからには世間話をしに来たわけでもあるまい。』

 

「察しが良くて助かるよ。実は少々頼みがあってな。」

 

『頼み?』

 

ドライグは目を細めた。

 

『ほう?まさかお前ほどの神がこの俺に頼み事とは……クククク、面白い!!白いのにも自慢できそうだ。それで、頼みとは何だ?』

 

「なに、ほんの些細な事さ。実は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから言ったでしょう?一の力が二になったところで私には勝てやしないってね!!」

 

 

「ハァハァ、ぐッ……!!」

 

イッセーは身を裂くような痛みに耐えながらヨロヨロと立ち上がる。

 

もう何度目になるだろうか。

 

イッセーはレイナーレに報わんと突進するがそのたびに華麗に宙を舞って躱され、その際に彼女が振るう光の鞭を浴びて全身至る所が焼け爛れ、既に文字道理の満身創痍、風前の灯火の状態だった。

 

悪魔に転生して間もなく、戦闘経験も皆無に等しい彼がこのような状態になって尚意識を保てているのは最早奇跡に等しい。

 

方やレイナーレは全くの無傷であり、更に悪魔にとって猛毒である自身の光力に加えて光の鞭という凶悪な武器で武装し、かつアーシアから抜き取った『聖女の微笑』で傷を負っても即座に回復できるという正に万全の体勢。

 

どちらに分があるかは火を見るより明らかだった。

 

「あら、まだ立ち上がるの?それ以上立ち上がっても苦しみが長引くだけよ?そろそろ諦めたらどうかしら?」

 

そんなイッセーをレイナーレは嘲笑う。

今この場で彼の生殺与奪の決定権を彼女が握っていることは間違いない。

傍目に見ても既にイッセーは戦える状態ではないし、何より彼が守ろうと誓った少女は既にこの世にいない。

それは百歩譲って彼が目の前の堕天使を斃せたとしても決して覆ることのない厳然たる事実。

 

だからこそ許せなかった。

 

目の前の女を。

 

そして自分自身を。

 

 

「神様……じゃ駄目か、やっぱり悪魔だから魔王かな……?」

 

 

「?」

 

唐突に理解不能な言葉を呟きだすイッセーにレイナーレは怪訝な顔をする。

 

「いるよなきっと、魔王……一応俺も悪魔なんでお願い、聞いてもらえますかね?」

 

「何をブツブツ言っているのかしら?余りの痛さにコワれちゃった?」

 

「お願いします……他には何も要らないですから……コイツを一発ぶん殴らせて下さい!!」

 

イッセーの背から歪な蝙蝠のような翼が飛び出す。

 

 

 

『Explosion!!』

 

 

 

左手の籠手が突如機械音を発し、そして見たことのない形へと変形する。

 

同時に力強い緑色の輝きに包まれ、彼の体内に力が湧き出す。

 

「ッ?!嘘?何よコレ……?」

 

力は尚も高まり、遂にはイッセーの体より波動となって外界に溢れ始め、大気を揺らした。

 

「この波動は中級……いえ、それ以上?!ありえないわ!!その神器はただの『龍の手』(トゥワイス・クリティカル)のハズでしょ?!まして光を緩和する能力を持たないのに何度も光を浴びて既に全身ズタズタなハズよ?!一体どこからこんな力が……」

 

突然のイッセーの力の増大を感じ取ったレイナーレは狼狽する。

今やその顔からは先程までの余裕が完全に消えていた。

既に下級悪魔なら死んでいてもおかしくない程の光のダメージを与えた筈だ。

 

それなのに。

 

――――目の前の下級悪魔(イッセー)から湧き出す力は自分を超える程に高まっていたのだから。

 

「ああ、痛ぇよ……正直少しでも気を抜けば今にも意識が飛んで行っちまいそうだ。でも」

 

振るえる足で一歩、また一歩と自身に近付き、拳を放たんとするイッセーの姿を見てレイナーレは思わず後ずさる。

奥の手といえる武器まで持ち出して、どれだけ痛めつけても尚立ち上がり、あろうことか更なる力を以て自身に肉薄せんとする彼の姿に恐怖を覚えたのだ。

 

「お、おのれェェッッ!!!」

 

レイナーレは鞭を振り降ろす。

 

しかし力を増し、変形した籠手の前には通用せず、弾かれてこれまでのようにイッセーの肌を焦がすことは叶わなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「それ以上にテメェがムカつくんだよォォ!!!!!」

 

 

 

 

 

イッセーから溢れ出すオーラの量が増す。

 

「い、いやっ!!」

 

最早これまでの自分の圧倒的な優位が崩れ去ったことを本能的に悟ったレイナーレはイッセーに背を向けて黒い翼を広げて逃走を図る。

 

「逃がすか馬鹿ッ!!」

 

イッセーはとても満身創痍とは思えぬ速度で仮にも飛翔する堕天使に詰め寄りその細腕を掴む。

 

そしてその反対の手には眩いばかりの緑色に輝く赤い籠手が。

 

「わ、私は至高の……」

 

振り向いてイッセーを見るレイナーレの瞳は完全に恐怖一色に染まり切っていた。

 

 

 

 

 

 

「ブッ飛べ!!クソ天使!!!!」

 

 

 

 

 

「いやあああああああああッ!!!」

 

イッセーの拳はレイナーレの頬に吸い込まれる。

 

響き渡る破砕音。

 

ステンドグラスを突き破り、レイナーレは教会の外まで飛ばされる。

 

そして地面に落下すると同時に一度痙攣を起こすとそのまま動かなくなった。

 

「ハァハァ……ザマぁ見ろってんだ。」

 

憎き堕天使に一矢報いたイッセーもまた、度重なる疲労と光のダメージ、それを圧して動いた反動とで限界を迎えていた。

 

「お疲れ。まさか一人で堕天使を倒しちゃうなんてね。」

 

しかし、倒れ込む寸前で彼を支える者がいた。

 

「遅ぇよ、イケメン王子……」

 

『騎士』、木場祐斗。

 

「キミの邪魔をするなと部長に――ッ?!!」

 

突如、木場の表情が強張る。

 

床に現れる魔法陣。

 

そこから現れたのは

 

 

 

 

「グヴォアアアアアアアアアッ!!!!」

 

 

 

 

 

「なあ木場、あれって……」

 

「くっ、さっきのはぐれ……!!このタイミングで出てくるなんて!!」

 

二人の頬を汗が伝う。

 

新たに現れたのは先程木場達が地下祭儀場にて見失った方のはぐれ悪魔であった。

 

以前見たのと同様改造を施された個体であることは明白だった。

 

手負いのイッセーを抱えた今の状態では勿論、万全のコンディションでさえ苦戦を強いられるほどの相手の登場は正に運が悪いとしか言い表しようがなかった。

 

はぐれ悪魔は二人の姿を認めると腕を振り上げ、二人を目がけて振り下ろす。

 

「ぐっ……!」

 

木場はすんでのところでイッセーを抱えて飛び退くが、すぐ横をはぐれ悪魔の剛腕が通り過ぎた際に感じた風圧からは紛れもなく恐ろしい破壊力を秘めていていることがひしひしと感じられ、その証拠に先程まで二人が立っていた場所は大きく陥没していた。

 

 

「グゥオオオオオオオオッ!!!!」

 

 

 

「「!!」」

 

距離を取った二人に対してはぐれ悪魔は最早轟音とさえいえる咆哮を上げ、発生した音波により教会の窓という窓は無残にも粉砕し、その破片が雪のように舞い散った。

当然の如く二人ともそんな光景に目を遣る余裕もなく、あまりの音量に耳を塞いでその場に蹲るばかりだった。

 

「しまった!!」

 

しかしその一瞬の隙を突いてはぐれ悪魔は肉薄し、再び木場とイッセーを叩き潰さんとその剛腕が大気を穿ち迫る。

 

木場は呻く。

 

あの拳のリーチと彼我の距離からして今更回避しても間に合わない。

ならばせめて少しでもダメージを軽減すべき、と、正直気休めにしかならないとは知りつつも自身の神器、『魔剣創造』を発動して剣を作り出し、イッセーを庇うようにして目の前で交差する。

 

「木場ッ!!」

 

イッセーは叫ぶ。

 

 

 

 

 

「油断大敵、だな。」

 

 

 

 

その時だった。

 

丁度木場とイッセーの後方、はぐれ悪魔に対して斜め45度の角度で、大気を劈く轟音と共に極太の緋色の雷が駆け抜け、はぐれ悪魔の巨体を包み込む。

一瞬の出来事にはぐれ悪魔は断末魔を上げることも叶わずその姿を消した。

そして二人もまた、突然の出来事に状況が呑み込めないまま後方を振り返る。

 

「崇哉……」

 

「有馬君……」

 

「よおイッセー、何とか決着は付けられたようだな。」

 

二人の前に現れたのは先程地下祭儀場で別れた筈の有馬崇哉。

あれだけの数の神父と改造されたはぐれ悪魔を一人で相手取ったというのに掠り傷どころか服に汚れ一つ見当たらず、そればかりか大質量の攻撃ではぐれ悪魔を滅して少しも消耗した様子を見せない辺り、その並外れた力量には改めて驚嘆せざるを得なかった。

 

「ハハッ、お前も遅かったじゃないかよ。」

 

「まぁそう言うな。九割方お前達の主に絡まれていちゃもん付けられたのが原因なんだからな……そうだろう、リアス・グレモリー。」

 

 

 

「……」

 

 

崇哉が後方を振り向くとそこにはイッセーと木場の主にしてグレモリー家次期当主、上級悪魔のリアス・グレモリーと『女王』、姫島朱乃の姿が。

しかしリアスの顔は些か不機嫌な表情で彩られており、睨むような視線を彼に向けていた。

 

「っ!部長!!どうしてここへ?」

 

イッセーが呼び掛けると彼女は崇哉から視線を外すとイッセーに向き直る。

 

「さっき言った用事が済んだからここの地下へジャンプしてきたのよ。そしたらそこの彼が全て消し去った後だったわ。まあそれから色々あったのだけれど……」

 

「おい、崇哉、お前部長たちに何かしたのかよ?!」

 

「人聞きの悪いことを言うな。言っただろう、寧ろ被害者は俺の方だ。それも相手が相手なら殺されても文句は言えないほどの事をな。」

 

崇哉は問い詰めるイッセーの矛先を躱すとリアスを横目で見遣る。

するとリアスはきまり悪そうにプイッと視線を背けた。

 

そんな気まずい空気が流れる中、教会入口の扉が開き、入って来る人物がいた。

 

「部長、持って来ました。」

 

『戦車』、塔城子猫。

 

彼女はつい先程イッセーが殴り飛ばした堕天使、レイナーレを引き摺って来ており、リアスの前まで来ると乱雑に放り出した。

 

「朱乃。」

 

「はい、部長。」

 

主の命を受け、朱乃は未だ失神したまま目を覚まさぬレイナーレの頭上に氷水を創り出すとそのまま一気にレイナーレの頭に浴びせかける。

 

「っ?!ゴホ、ゴホッ……」

 

突如として冷水を浴びせかけられたことでレイナーレは目を覚まし、その際多少気管にも入り込んだのか、むせ返る。

 

そして顔を上げ、目の前にリアスの姿を確認すると忌々しそうに睨みつけた。

 

「御機嫌よう、堕天使レイナーレ。私はリアス・グレモリー、グレモリー家の次期当主よ。短い間でしょうけどどうぞお見知りおきを。」

 

「っ、グレモリー一族の娘かッ……」

 

不敵に笑み、自身を見下ろすリアスをレイナーレはただ悔し気に唇を噛み締めて睨みつける他になす術がなかった。

しかし、途端にレイナーレの表情が一変、先程イッセーに向けていたのと同じような、嘲るような笑み絵を浮かべる。

 

「してやったり、と思っているんでしょうけど残念だったわね。今回の計画は我らが偉大なる総督閣下の命。もうじき増援が「来ないわよ。」っ?!」

 

「だって、あなたたちの今回行った作戦は厳密には総督命令ではないんですもの。おそらく他の誰かが総督アザゼルに作戦内容を偽って認可させたんでしょう。よくよく考えてみれば戦争嫌いのアザゼルが如何に珍しいからといって回復系神器所有者一人を確保するためにこんなリスクの大きなやり方をするはずがないものね。そしてあなたたちはまんまとそれに乗せられ結果として堕天使全体の意向に反する行動を取った。フフフ、きっと今頃堕天使の上層部も慌てていることでしょうね。無論あなたたちに命令を下した者だってあなたたちのような末端ならいくら切り捨てても問題ないでしょうから当然助けに来ることなんてないわ。ついでに言っておくとあなたのお友達ももうこの世にはいないから助けを待っても無駄よ。」

 

「う、嘘よ!!」

 

リアスがポケットより二枚の黒い羽根を取り出してレイナーレの眼前に落とすとレイナーレの顔が驚愕に染まる。

 

「同族なら分かるわよね。この羽は尋ねてきてくれたあなたのお友達、カワラーナとミッテルトのモノよ。」

 

自身の眼前を舞う二枚の黒羽を目にしたレイナーレの驚きに見開かれていた目がやがて怒りに染まる。

 

「おのれっ、グレモリー家の娘が、よくもッ……!!」

 

「悪いけど、彼女達を殺したのは私じゃないわ。あなたたちのペットのはぐれ悪魔よ?非常に不本意なことだけれどもね。それにここは私の管轄よ?私の意にそぐわぬ行いをした者にはそれ相応の報いを受けてもらうのは当然のことよ。」

 

「っ……!」

 

レイナーレは押し黙る。

雲の上の存在にも等しい総督の寵愛を勝ち取れると信じて危険を冒してきたのに裏切られ、そして最後の頼みの綱である同族の救援の望みも絶たれた彼女の心を覆ったのは深い絶望だった。

そんなレイナーレを尻目にリアスはイッセーの方を振り返る。

 

「イッセー、その神器は……」

 

「ああ、コレですか。いつの間にか形が変わってて……」

 

「赤い龍……そう、そういうことなのね。」

 

リアスはイッセーの左手の籠手に今まで見たことのない龍の紋章が現れているのを確認し、納得したように呟く。

 

「堕天使レイナーレ、この子、兵藤一誠の神器はただの『龍の手』ではないわ。持ち主の力を10秒ごとに倍加させ、極めれば一時的に神や魔王すら超えられる神器の中でもレア中のレア、『神滅具』(ロンギヌス)の一つ――――『赤龍帝の籠手』(ブーステッド・ギア)よ。あなたでも名前くらいは聞いたことがあるでしょう?あの赤い龍の紋章が何よりもの証拠よ。」

 

「『赤龍帝の籠手』?!一時的にとはいえ神や魔王をも凌ぐ力を得られるという忌まわしき『神滅具』の一つ……それがこんな子供に?!」

 

レイナーレは項垂れる。

やはり兵藤一誠は危険因子。

となれば完全にあの時殺し損ねた自分の失敗。

そして今、悪魔になった彼に止めを刺すこともままならなかった以上、最早失敗などという言葉では表しきれないほどの、取り返しのつかない大失態だ。

おまけに多勢に無勢、もう彼女にはイッセーに止めを刺してこの場を離脱するだけの力も気力も残されていなかった。

 

「でもその神器には力を倍加するまでに時間がかかるという弱点もあるわ。今回は偶々相手が調子に乗っていたから勝てたようなものよ。戦闘中に倍加を待ってくれるような敵はそうそういないのだから。」

 

リアスはイッセーに釘を刺す。

一方で、自身にとんでもないものが宿っていると知らされた直後に釘を刺されたイッセーは何やら複雑な様子をしていた。

 

「さてと……そろそろ消えてもらうわよ?堕天使さん。」

 

リアスが冷淡な声音で告げるとレイナーレはビクッと大きく体を震わせ、顔を上げる。

その顔からは既に先程までの傲慢な面影は欠片もなく、今や完全に死の恐怖と絶望に染まり切っていた。

 

「あら?今更死ぬのが怖いというのかしら?どうせあなたのような使い捨ての末端は首謀者に関する大した情報も持っていないでしょうから生かしておく意味もないし、堕天使の上層部も悪魔と戦争をするくらいならあなたを戦犯として処理する方を選ぶのは明白。このまま『神の子を見張る者』(グリゴリ)に戻ったところであなたに待っているのは極刑よ?」

 

リアスがそこまで言い切るとレイナーレの震えが止まった。

すると今まで恐怖と絶望のあまり半ば放心状態だった彼女にいくらか落ち着きが戻ったようにさえ見えた。

 

「……そうね、私はここで終りのようね。なら最後に一つだけ良いかしら?」

 

「……何かしら?」

 

不意に冷静な対応をしてくるレイナーレにリアスは怪訝な顔つきになる。

 

「遺言よ。それくらいはいいでしょう?あなたは今すぐにでも私を殺せるんだから。」

 

リアスは警戒する。

まだ何か隠し玉があるのか、と。

今までの遣り取りは演技、そしてその遺言とやらはその為の時間稼ぎなのではないかとの考えが脳裏をよぎる。

しかしどれだけ感覚を研ぎ澄ませてみても何か仕掛けのようなモノの気配は感じられない。

それは自身のすぐそばにいる朱乃もまた同じようで、そして不本意ながらも崇哉たちの方に視線を向けても何かを感じた様子は見せていなかった。

 

「……いいわ。ただし少しでも妙な真似をしたらその場で消し飛ばしてあげるから、そのつもりで。」

 

「フフフ、感謝するわ、グレモリーのお嬢さん。……ねぇイッセー君?」

 

「?!」

 

唐突に呼ばれたイッセーは体を強張らせる。

 

「自分を散々に見下してた相手がこうして醜く地に這い蹲る姿を見るのはどう?嬉しい?快感?」

 

「……」

 

イッセーは言葉が出なかった。

死を目前にしたこの状況で不敵な笑みを浮かべてかくも冷静に振る舞うレイナーレの姿からは全く意図が読めず、先程自身を散々にいたぶっていた時よりも遥かに恐ろしく感じられたのだ。

そして奇しくも、それは傍から見れば圧倒的な優位に立っている筈のリアスもまた同様であった。

 

「当然よね。私はあなたを騙し討ちにて更に自分の欲の為にアーシアから神器を奪い、そして彼女を殺し嘲笑った……そんな憎い相手が今こうして自分とお仲間の前で無様に死に晒そうとしているなんてさぞかし爽快でしょうね。”ザマぁ見ろこの薄汚い雌ガラスが”とでも思っているんでしょう?死んだと思ったら名門グレモリーの次期当主だなんていう御立派でエリートな主様に拾ってもらって色々良い思いをしている上にあんなブロンドの彼女まで作って……おまけにこんな風に私に仕返しまで出来たんですもの。アハハハ、本当に良い御身分よね。」

 

イッセーの心情は複雑だった。

確かに目の前の相手は殺したいほどに憎かった。

しかし同時に初めての恋人でもあった。

それも全ては自分を抹殺するための演技であり、それを思いでとして美化するのも馬鹿馬鹿しいことだというのは百も承知だが、心情としてはそう簡単に割り切れるものではなかったのだ。

 

一方のリアス達はレイナーレの思惑を図りかねていた。

何が狙いなのか。

死を悟っての諦観ゆえなのか。

或いはこちらの精神的動揺を狙っているのか、それとも同情を誘って命乞いでもするつもりなのか。

このタイミングでこんなことを言い出す理由は……

 

グレモリー眷属の面々が訝しみ、思考に没頭する中、不意にレイナーレが視界から消える。

 

「「?!」」

 

「アハハハッ、やっぱり悪魔はつくづく詰めが甘いわねッ!!」

 

グレモリー眷属の一同が気付いた時にはレイナーレは既にイッセーの頭上にいた――――光の槍を手にして。

 

「イッセー!!」

 

リアスの悲痛な叫びが木霊す。

敵の狙いはこれだったのかと歯噛みするも、今の手負いのイッセーでは避けることもままならないし、既にイッセーとレイナーレの距離があそこまで縮まっている以上慌てて迎撃態勢を取るリアスも朱乃も、木場でさえも間に合わない。

 

「さようなら。」

 

光が肉を、その更に奥の臓物を穿つ音と共に血飛沫が舞い散る。

 

レイナーレの槍が貫いたモノ、それは――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴフッ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――彼女自身の心臓だった。

 

 

光の槍が消失すると、寸分違わず心臓に穿たれた風穴よりスプリンクラーのように血の雨が降り注ぎ、真下にいたイッセーを濡らした。

 

自ら生命の中枢を破壊したレイナーレは撃ち落とされた鳥の如く、そのまま力なく地に墜ちる。

 

イッセーも、リアスも、その他眷属達も、皆余りの衝撃に声が出なかった。

 

「お前…どう、して……」

 

イッセーは呆気にとられながらも地に臥す堕天使に向かって絞り出すような声で問いかける。

 

「あなた……どういうつもり?」

 

同じく我に返ったリアスも尋ねる。

その声には詰問の意図よりも困惑の意味合いの方が強かった。

 

「はぁはぁ、ゴフッ……わ、私は、し、至高の、堕天使……!…はぁはぁ…あ、悪魔に殺される、くらいなら、自ら死を、選んだまでよ……ウフフ……良かっ、たわね…グレモリーの、お嬢さん……態々、手を、下す、手間が省けて…ゴフッ……」

 

「っ。」

 

口から吐血し、息も絶え絶えに、しかし皮肉気に応えるレイナーレ。

しかしその目は未だに怪しい輝きを失っておらず、更に口の端を吊り上げ嗤っていた。

その顔はどこか勝ち誇ったようにすら見えた。

そして彼女はイッセーを見据えた。

 

「イッセー君……」

 

「っ……何だよ?」

 

レイナーレはもうすぐ命尽きる者のそれとは思えぬほど妖艶な笑みを浮かべる。

 

「最後…に…元カノの、よしみで…教えてあげる……こちらに、足を…踏み入れた…からには…こうした、争いは…避けられないわ……まして、『赤龍帝の籠手』を宿す…あなたにはね……はぁはぁ…それに、その女は悪魔……アーシアが…追放された原因と…同じ…悪魔よ……あなたを、助けたのだって…ゴフッ…あなたに…神器が…あったから……自分が…のし上がる…ためよ……何を…言われて…飼い馴らされたのかは…知らないけれど…あなたは…その女にとって…道具程度の…価値しか…ない……いずれ…嫌でも…思い知る…時が…来る…わ……所詮…上級…悪魔にとって…下僕…なんて…家畜や…奴隷と…同等…だって……ウフフ、残念…だ…わ……あな…た…が…真実…を…知って…絶望…する…様を…見…届ける…こと…が…でき…ない…の…は……」

 

レイナーレはこと切れた。

 

 

 

 

 

イッセーの心に深い傷を残して……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へ~、そんなことがあったのかにゃ。ダーりんも大変だにゃん。」

 

黒い髪に金の瞳の女性が感慨深げに呟く。

 

誰の目から見ても十分に美人と言える容姿をしているが、艶やかな髪の間からのぞく猫耳と、着崩した着物の裾から伸びる先端が二股に分かれた尻尾が彼女が人外の存在であることを証明していた。

 

「元より覚悟の上さ。悪魔共と関わるのが面倒なことくらい。まあ、アナト(アイツ)があの場にいなかったことが幸いか。でなけりゃ今頃悪魔の殲滅戦が始まってた。」

 

彼女の問いに答えたのは緋銀ともいえる髪に日輪のような金色の瞳をした青年。

一分の欠点すら存在しない、余りに完璧過ぎるほどの美貌に薄く笑みを浮かべていた。

その彼が遠い昔、かの”聖書の神”と最も熾烈な争いを繰り広げた、忘れ去られて久しい太古の神々の一柱であることを知る者は極々僅かだ。

 

「それで、そのシスターはどうなったの?」

 

「リアス・グレモリーが転生させたよ。『僧侶』(ビショップ)の駒でね。」

 

「……そう……」

 

彼の返答に彼女は一瞬身を強張らせる。

『僧侶』という言葉は彼女にとっては思い出したくもない、忌まわしい記憶に纏わるモノでしかなかったからだ。

 

「……余計なことまで言ってしまったか?」

 

「ううん、いいの。もう気にしてない。それどころかあなたたちにはどれだけ感謝してもし足りないくらいだもの。私を忌まわしい記憶しかない悪魔という生き物から本来のあり方へと戻してくれたことも含めて、ね。」

 

「それを気にする必要はないさ。元々悪魔共が生み出したあの『悪魔の駒』自体が生命の理を冒涜するシロモノだ。種族としての真理、理を書き換えるだけでは飽き足らず死者の霊魂さえも強引に輪廻の輪から現世に引き摺り出して再び元の肉体に縛り付け転生させる、正に悪魔の所業だ。そもそも種の存続が危うくなったのも自分達が勝手に始めた戦争の所為だと言うに、純血種を守る為他の種族を兵隊に仕立て上げるあたり、つくづく業の深い連中だよ、まったく。」

 

古の神は嘲笑する。

貴族の使命(ノブレス・オブリージュ)を忘れ、享楽に耽り、醜く肥え太る以外に能の無い上級悪魔達。

彼からすればそんな悪魔達の生き残りを掛けた足掻きは滑稽以外の何者でもなかった。

 

「そういえば……あの子、元気かにゃ?」

 

「ああ、問題ないよ。まあ、少々無愛想なのが玉に瑕だが。」

 

「あはは……」

 

彼女は苦笑する。

 

「でも良かったにゃ。元気そうで……あ、もうこんな時間、そろそろ行かないと。」

 

彼女は立ち上がると転移魔法陣を展開する。

 

「もう行くのか?」

 

「うん、連中は遅れるとうるさいからにゃ~。」

 

カラカラと笑う彼女だがその顔はどこか名残惜しそうな面持ちであった。

 

「そうか、苦労をかけるな……」

 

「気にしなくていいにゃ。私にできることなんてこれくらいなんだし。それじゃ、行って来るにゃ、ご主人様♪」

 

「ああ。では頼んだよ……黒歌。」

 

 

 

 

 




ふう、ようやっと一章終わりました。

ダラダラとした展開でまこと申し訳ありませんでした。

ライザー編どうしよう……

蹂躙かオリジナルか……

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